[ 三妖神物語 第三話 女神乱舞 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke

エピローグ 一難去ってまた一難?

「・・・・とまあ、そう言うわけだ」
 あれから竜一のアパートに無事に帰り着いた5人組はそのまま竜一の部屋にいた。
 ・・・・正確にはミューズ達が作った異空間のリビングルームに。
 竜一はミューズに命じて、あの島を再生させた。
 島に生息していた動植物を元の島に戻してやらなければならない、そのままにしておくのはあまりに無情だったからだ。
 研究所だけは再生させなかった。ただ、精霊達のこともあったので、研究所の建築材料や薬品などの物質を全て、地下資源という形で地下深くに埋めていた。
 力の暴発と島の消滅は、因果律にかなりの負担となっていた、それらを取り除き、島を再生し、その島に住んでいた全ての動植物を元の状態に戻す。
 人間には不可能なことも、ミューズにとっては大した事ではない。ただ、最大の問題は、その一部始終を康夫が目撃していたという事だろう。

 その後、アパートに帰り着いた竜一は、康夫に全てを話した。
 竜一の非常識さえ超越してしまっている話に、康夫は驚く素振りも見せず頷いていた。
 まあ、島を消したり元に戻したりと、尋常ではない現象を目の当たりにしては、信じざるを得ないのだろう。
 そして、竜一の話が全て終わった時、彼は開口一番、こうのたまった。
「竜一・・・・頼む! メイル様を譲ってくれ!!」

 ちゅどおおおおんん!!

「な・・・・なんだあぁぁ」
 康夫の突然の爆弾発言に思いっきりこけた竜一が、やっとの事で体勢を立て直すと、康夫は土下座して、床に額をこすり付けた。
「頼む! メイル様を俺にくれ! 惚れた!!」
「惚れたって・・・・お前・・・・」
「あの鍛え上げられながらも、無駄な筋肉が一切無いしなやかな理想の肉体!
 究極のパワー! あの黄金の翼!! そしてあの黄金の瞳!!
 何もかも美しい!!
 なにより、初めて出会った俺より強い奴!! おまけにもろに俺の好みだ!
 惚れちまったんだよう!」
 握り拳を振り回して、力一杯力説する。
 声はとにかく、でたらめな破壊力を誇る拳を振り回されているので、竜一はほとんど逃げ腰だったりする。
「お・・・・お前は自分より強い奴に惚れるのか?」
「おう!」
 照れることなく言い切る康夫。
「それって普通、格闘娘の台詞じゃねえの?」
「・・・・そうか?」
 首を傾げるが、すぐに竜一に詰め寄ってきた。逃げながら言う竜一。
「それじゃ、一生恋人なんかできねえぞ・・・・」
「だから! 今まで恋人が出来なかったんだ!!」
 詰め寄る康夫、じりじりと追い込まれる竜一。
「第一、メイルは人間じゃないし、不老不死だぞ」
「愛さえ有れば! 歳の差も種族の差も問題じゃない!!」
 きっぱりはっきり言いきる康夫。ここまではっきり言いきれるその根性はいっそ見上げた物である。
「ミューズやシリスもお前より強いと思うが・・・・」
「ああ、それは純粋に好みの問題だ!」
 竜一の突っ込みも何のその、恋に燃える康夫をとどめることは出来ない。
「たのむううううぅぅ、メイル様を俺にくれえええ!!」
「メイルは物じゃない!! 惚れたなら、自分で口説け!!」
「それは・・・・彼女がOKしたら良いと言うことか?」
 いきなり顔を近くに寄せられて、竜一はついに壁にまで追い込まれながら頷いた。
「あ・・・・ああ」
「おおお! さすが、我が親友!!」
 がっしりと竜一の両手を握りしめると、康夫はものすごい勢いでメイルに向きなおった。
「メイル様! 俺とつきあって下さい!!」
 メイルの瞳を見据えて、力強く言い切った康夫に、メイルは、はっきりきっぱり簡潔に答えた。
「断る」

 ひゅうううぅぅぅぅぅ・・・・

 風が吹いた・・・・
 まるで、季節が冬に逆行したかのように、康夫の心に木枯らしが吹き荒れる・・・・
「あ・・・・あのぅ・・・・せ・・・・せめて・・・・考えるとか・・・・少しつきあってからとか・・・・
 その・・・・再考の余地は有りませんか?」
「全く無いな」
 涙声で尋ねる康夫に、同情の”ど”の字も見せずにメイルは間髪入れずに答えた。
「ぞ・・・・ぞんなああぁぁ・・・・」
「あたいが仕えるお方は盟主だけだ、それ以外のいかなる存在もあたいを支配することはできない。あきらめろ」
「いや・・・・その・・・・支配がどーとかじゃなくって・・・・」
 疲れた顔で呟く康夫。
「むりむり、頑固と意固地が服着て歩いてるようなもんだからねえ、メイルは」
 ミューズが茶々を入れるが、二人は聞いていない。
「そこを何とか!」
「ならん」
 力説する康夫、冷ややかに返すメイル。
「・・・・いいわよ・・・・どーせ私なんか・・・・」
 無視されたミューズは猫の姿に戻ると、壁に爪を立てていじけてしまった。
 そんなミューズに竜一が声をかける。
「いじけるのは良いが、壁に傷を付けるなよ!」
「マ・・・・マスターまでぇ・・・・」
 そう言いつつも、律儀に爪を引っ込めるミューズであった。
「どうしても、恋人にしてはいただけませんか!」
「くどい」
 がっくりと肩を落とし、深い深いため息を付いた後、康夫は顔を上げた。
「そこまで言い切られては仕方がありません。この沢田康夫、男らしくすっぱりとあきらめます」
「分かってくれたか。なかなか男らしい」
 今時珍しく、引き際をわきまえたいい男だ。メイルは感心したが、その結論は少しばかり早かった。
「恋人はあきらめます、ですから・・・・俺の師匠になって下さい!!
 師匠おおぉぉ!!」
「どうしてそうなる!」
 これにはさしものメイルも声を荒げたのだった。

「この騒ぎ・・・・何時終わるんだ・・・・」
 あきれた面もちで、三者三様の狂態を竜一が見ていると、シリスがお茶を持ってきた。
「御主人様、色々あってお疲れでしょう? お茶が入りましたよ」
「お、さんきゅー」
 シリスが渡してくれたカップには、美しい光沢を放つ琥珀色の香り高い液体がなみなみとつがれていた。
 テーブルの上にはお茶菓子までしっかりと用意されている。
 勿論、全員分のお茶も用意されていた。
「あれだけ騒げば喉も乾くでしょうし、すぐに収まりますわ」
 完全に達観して微笑むシリスを見て、竜一は苦笑した。
「そうだな、放っておくか」
 どうせ、気にしても疲れるだけだ。
 ミューズ達の魔力によって作られた、異世界にあるこの部屋の中では、どんな大きな音を立てても外には絶対に漏れない。
 隣室(?)の住人達には迷惑にならないはずである。
 終わるまで、放っておくのが一番だと、竜一も結論した。
 彼の目の前では、いじける黒猫と、わめき散らす男と、その男にうんざりしている美女がいた。

 今日も平和(?)に時が積み重ねられてゆく。
 香り高い液体を楽しみながら、竜一は、この平和な日々が出来るだけ長く続いて
 くれることを、祈らずにはいられなかった。

 完

1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / < 13 > / 14 / 15

書架へ戻る