[ 三妖神物語 第三話 女神乱舞 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke

プロローグ 歴史を作る者達

 そこは神の家。
 荘厳な時の流れの中、天使達の息吹さえ聞こえてきそうな静謐の中にたたずむ影。
 それは、神の代理人。
 地上におけるただ一人の神の意志の代行者。彼等の教典はそう教える。
 そして、世界の8割を実質的に支配する人物。
 初老の域に達した彼。彼の元に、一人の若い男が訪れた。
「法王様。例の事件についての報告書が届けられましたが・・・・」
 法王と呼ばれた人物は、静かに頷き彼の報告を促す。
「読み上げなさい」
 緊張した面もちで、男は頷き用意したレポートを取り出す。
「申し訳有りません、情報を集めるためにあらゆる努力を惜しみませんでしたが、結局分かったことはわずかなもので・・・・」
 恐縮しきった態度で、男は報告書に書かれている事項を読み上げる。

1、”御使いの騎士”の現状について。
  御使いの騎士はその能力を完全に喪失。
  精神面においても多大な障害がみられ、従来の任務はおろか一般社会での生活さえ絶望的である。
  女性を見ると、皆一様に錯乱状態となり、正常な精神を維持できなくなる。
2、”御使いの騎士”を再起不能に追い込んだ存在について。
  御使いの騎士の精神的なダメージが大きく、詳細を知ることは不可能。
  しかし、かろうじて得られた情報は以下の通り。
  御使いの騎士にダメージを追わせた者は三名。全て美しい女性であるらしい。
  金髪の長身の女、銀髪の女、黒髪の女。
  瞳の色も、髪の色と同じである事。
 以上、得られた情報はこれだけである。
 より詳しい情報を得ようとすると、皆一様に錯乱状態に陥り、正常な会話が成立しない。
 極度の恐怖と、精神的・肉体的苦痛によるものと思われる。
3、女達は、ターゲットと密接な関係があるらしい。
  しかし、それ以上の事は一切不明である。

 その報告を聞き終えて、法王は溜息をついた。
「殆ど、何も分からないと同じだな」
「申し訳有りません。唯一の目撃者である彼等が全く当てにならず・・・・」
 恐縮しきって男は頭を下げた。
「責めるつもりは無い。楽にしなさい」
「ありがとうございます」
 法王の気遣いに男は深々と頭を下げる。
「愚痴を言うわけではないが・・・・これでは何の役にも立たぬな。対策を立てるにしても、もう少し情報がなければ・・・・」
 瞑目していた法王は何かをひらめいたらしく、すぐに顔を上げた。
「・・・・あの戦争業者に、この情報を売りなさい」
「あの・・・・ハイエナ共にですか?」
「そうだ、彼等は聖騎士団を凌ぐ”兵器”を作ろうと、愚行を重ねていると聞く。
 聖騎士団の切り札であった御使いの騎士を倒した者が居ると聞けば、直ぐにも飛びつくだろう」
「確かに、おっしゃられる通りとは思いますが・・・・、万が一にもその”魔女”に接触して味方に付かれようものなら、我々にとって最悪の状況となるのでは・・・・」
 男にもっともな疑問を法王は穏やかに解消した。
「その心配なら無用だろう。彼等の手に負えるような相手では無いはずだ。
 彼等には尊い犠牲となってもらおう。”魔女”の力を測るための・・・・」
 冷酷な法王の決断が下され、その情報はすぐさまその組織に流れていった。

 そして、世界が再び動き出す。
 世界は、今だに畏怖を思い出せぬようだ。
 だが、人々はいずれ思い知るであろう。
 この世に人の技ではかなわぬ存在があることを・・・・

< 1 > / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13 / 14 / 15

書架へ戻る