このお話は先の三作品
「ガールズ・トーク」
「心を占めるもの」
「歩速の選択」
の目線違いのお話になります。
先の三作は野明側からを中心にした目線になっていてこちらは 遊馬側を中心にみた形になります。
teraさまから パウダールームにいた間、座敷はどうなっていたのか興味があります、というお言葉を戴きそれならば、と思って書きはじめたのですが・・・
思ったより大変でした。
あったんですよ、最初は描写が。
ただ本文全体が長かったので割愛したんですけど。
単独で紹介できるほどのネタでもなかったので少し広げてみようとしたら、最初に書いてしまった話の展開と時間軸に結構縛られるので思った以上に苦労しました(^^;
よく一つのお話を視点をかえて書かれる方がいらっしゃいますがそれって凄いことなんだな、と痛感(T∇T)
辻褄を合わせるために文章と展開が自分でも不自然かなぁと思うところも多々ありますが・・・
そこは初心者ということで大目に見てくださいね(^^;
こんなんでいかがでしょう?(笑)
以下本文です
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Irreplaceable
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今日は 朝から定期健診だ。
今回は人間ドックを含むので 昨夜から食事も制限され、夕方まで病院に缶詰。
いつもなら 野明と一緒にぶらぶらしているのだが今日は一日別行動。
付き合っているわけではないので それが普通といえばそうなのだが一緒にいる時間が長い分いないと何となく物足りなさを感じる。病院 特にこういう検査の時はとかく待ち時間が長いのだ。病院内ゆえに携帯電話で暇をつぶすことも出来ず かといって指定されている待合所を離れるわけにも行かない。
お仕着せの検査着は糊が効き過ぎてお世辞にも肌触りがいいとは言えないものでこんなものを着て一日過ごすのは結構苦痛だった。
『あいつがいたら少しは気がまぎれるだろうに』そう思うとますます退屈に拍車がかかり思わず はぁーっと大きく息を吐いた。
「篠原、彼女がいないと退屈か?」一緒に健診に来ていた小池が頬杖をつきながら訊いた。
「ばぁか、んなことねぇよ。第一 彼女って誰だよ?」同じように頬杖をつきながら訊き返す。
「誰って・・・泉さん。いつも一緒だろ?」
「パートナーだからな、付き合ってるわけじゃない」言いながら思い切り伸びをすると間接がコキコキと子気味のいい音を立る。
小池は意外そうな顔をして、「そうなのか?」と訊いた。
「当たり前だろ? 公務でコンビ組んでるだぜ。休みが同じってだけだよ。」
「そうかぁ?」それだけの理由でそれこそ公務でも顔を突き合せなければならない相手と休日まで一緒に居たがるものなのかと思ったが小池は突っ込むのをやめた。
「そ。職場が同じだから変な気を使わなくていいしな。」
「同じだと気を使うんじゃなくて?」
「非常召集とか 緊急出動が多いからさ。今週だって準待機だけどいつ待機命令がでるか解らないし。そういう時 気が楽だろ?」
「そういうもんかねぇ?」
「そういうもんだよ」
そう言って壁の時計を確認するともう3時を回っていた。
「あーあ やっぱ一日潰れちゃったなぁ」遊馬は心底つまらなそうに言うと肩を落として溜息をついた。
結局 全ての検査を終え、病院を出たときには6時を回っていた。
「すっかり遅くなっちゃったなぁ」と言いなら小池は携帯の電源をいれた。
遊馬も肩を回してこりをほぐすと携帯の電源を入れ留守電とメールの着信を確認した。
予め健診で一日潰れそうだと伝えてあったこともあって野明から連絡が入った様子は無かった。
聊か残念に思い携帯を閉じると一瞬 野明に電話を掛けようかと思ったが時間が遅い。
今から呼び出したところで寮の門限を考えるとゆっくり食事が出来るわけも無かったし、大体 野明が寮にいるとしたらもう食事の時間に差し掛かる頃だ。今更 引っ張り出すのには無理があるだろう。遊馬は携帯をポケットに仕舞うとカタカタとメールを返信している小池に視線を移した。
一通り返信が終わると小池は遊馬に声を掛けた。
「篠原、飯どうする?」
今から帰っても寮の食事には間に合わない。外で食べるか買って帰るかということになる。
「小池は?」
「武田が新宿で飲んでるからこないかってさ、篠原もいこうぜ」
「俺も?」
「どうせ寮に帰っても飯無いだろ、コンビニで買うなら居酒屋の方がうまいぜ」
「・・・確かにな」
「じゃ きまりな、詳しい場所聞く」
そういうと小池は武田に電話を掛けた。
新宿駅を出て10分ほど歩くと目的の店に到着した。
日本庭園風の内装で個室に区切られた客席を持つ小奇麗な店舗。
入り口で予約名を確認している小池を見て遊馬は訝しむ。
男だけで飲むには小洒落た雰囲気。
予約名を確認したということはたまたまここに来たわけではなく席を確保してあったということだ。
遊馬は他に誰が来ているのかと訊かなかったことを悔やんだ。
1人できて予約は取らないだろう、ということは同行者がいるのだ。
案内する店員の後ろを歩いていくと奥まったところにあるひときわ広い個室の前に着く。
「小池、他にだれがいるんだ?」 不機嫌さが入った声で問う。
「武田と寮の同期が二人来てる。あとは・・・武田の知り合いの女性が4人かな・・・」
最後の方は小声になってばつの悪そうな顔をする。
「合コンだなんて聞いてないぜ? 俺がそういうの嫌いだって知ってるよな?!」空腹感も手伝って気が短くなっている。
小池は「言ったらこなかっただろ?」と拗ねたような顔をみせた。
「当たり前だ。俺は帰るからな。」と踵を返しかけた時、店員が開けていた障子から武田が顔をだした。
遊馬の顔を見るとにっと笑って、悪びれた様子を見せることなく「そこで騒ぐと迷惑だからさ、とにかく入れよ」と手招きをした。
遊馬は低い声で「小池、後で覚えてろよ」といって一睨みすると不貞腐れたような顔で座敷に入った。
中に入って部屋をぐるっと見回すと予想外の人物と目が合った。
「・・・野明?」思わず名前を呼んだ。
呼ばれた野明は上ずった声で返事をしたが動揺して顔が引き攣っていた。
綺麗に化粧を施しふわふわした如何にも『女の子』という薄紫のアンサンブルを着てサワーのグラスを両手で抱えている。
自分と出歩く時こんな格好をしてきたことは無い。化粧っ気も無いラフなスタイルに足もともスニーカー。酒だって日本酒をコップでグイグイ飲み干すような女なのに。
合コンに行く時にはこうして気合をいれてお洒落してしおらしくするわけだ。
そう思うと妙に面白くない気分になったが、ここで野明に噛み付いても仕方がない。冷静になろう、と大きく息を吐いた。
目線を外して俯いた野明から 目を逸らすと武田たちの近くに座る。
変に緊張した雰囲気を察した武田が場の雰囲気を抑えるように乾杯の音頭をとった。
野明を見ると相変わらずグラスを両手で抱え すっかりしょげた様子で俯き加減にちびちびとサワーを飲み続けていた。
野明とは付き合ってるわけじゃない。その野明がどんな格好をして休日に何をしようがどこに行こうが自分が口を出すことじゃない。
そう思って遊馬は黙って飲み食いに集中することにした。
それでも着飾った野明が視界に入ると何故か裏切られたような気分になって仕方が無かった。
暫くすると野明が鞄を引き寄せ隣の女性に何か話しかけているのが目に入った。
気遣わしげな視線を向ける女性に軽く首を振り、そっと障子を開ける。
『帰るつもりだ』と思った瞬間 急いで席を立ち野明の肩を掴んだ。
驚いて振り返った野明の髪から甘い香りが漂ってきて鼻腔を擽る。
「何だよ、帰るのか?」野明の瞳が揺れるのを見て言葉を継ぐ。「俺が来たからか?」
野明は俯いて視線を合わせない。
「違う、遊馬が来たからじゃないよ」
「じゃ、なんだよ」
思わず口調がきつくなる。
「遊馬の所為じゃない。でも遊馬 怒ってるでしょう?先刻だって黙って向こうに行っちゃうし。」
目線を合わせない野明に少し苛立つ。自分に野明の行動を縛る権利は無いのだから文句を言う筋でないことはわかっていたが 黙って帰ろうとするのは気に入らなかった。
「あ? あー・あれはさ・・お前の所為ってばかりじゃないし、ちょっと気が立ってたから・・・て・・・おい、泣くなよ?」
話していると 突然野明がぼろぼろと涙を零し始めた。驚いた遊馬は思わずその顔を覗き込んだ。俯いたまま泣いている野明をみていると、イライラしていたことがなんだか馬鹿らしくなって思わず溜息が出た。
「当たって 悪かったよ」そう言って髪を撫でてやると野明が嬉しそうに目を閉じた。無防備なヤツだなぁと思う。
「あんまり泣くと化粧落ちるぞ」というと「うん、そうだね」と顔を上げ少し笑った。取り敢えず席に戻るよう促すと素直についてきたが、いつもらしからぬしおらしい態度に何となく落ち着かなかった。
泣いてすっかり化粧が落ちたことに気付いた隣席の女性に連れられて化粧直しに出て行くのを見送ると身体からどっと力が抜けた。
取り敢えずその場に座り込む。
甘い香りのする髪と、化粧を施した顔、ふわふわした洋服。あんな野明は見たことが無かった。
右手で顔を覆って溜息をつく。
「馬鹿野明。なんだよ、あれ・・・あんな格好で合コンとかでてんじゃねぇよ」
面白くない気分だった。
「俺と出かける時にはしてきたこと無いくせに。」声に出したつもりは無かった。
しかし ふと我に返ると部屋にいた人間全員が目を丸くしてこちらを見ていた。
「え・・・なに・・?!」思わず問いかける。
全員が お互いに目を見交わしてまた視線を戻す。
ヒヤリと背中に冷たい汗が流れた。
気まずい沈黙のあと にぃーと笑いながら武田が口を開いた。
「つまり 篠原はここに彼女が居たのが気に入らなかったわけか?」
聴かれていたことに気づき顔に朱がのぼる。
「え、いや 別にそういうわけじゃ・・・」慌てて否定しようとしたがもう遅かった。
「自分以外の為におめかしして来たのが気に入らなかったんだ?」人の悪い笑みを浮かべて皆が次々と話しかける。
「いや・・・あの・・・だからさ・・・」
「普段の野明ってノーメークだもんね、格好もラフだし。それは篠原君ショックだったわよねぇ」
こうなるともう だれも遊馬の話など聴いてくれない。
少なからず落ち込んでいたところにほぼ正鵠を射られた格好になったため反論に力が入らない。
「泉さんが浮気すると思ったとか?」
「だからさ・・・そんなじゃないんだって。大体 俺と野明は付き合ってないの!」
思わず声を荒げると皆一斉に呆れたような顔を向けた。
「本当に?・・・・うそでしょ? 休みの度に二人で出かけてるじゃない?」
「それでも。本当に何もないのっ。男として見られてないんだから手の出しようが・・・」
言ってしまってから あっと思ったが取り返しはつかない。
男性陣はにやにやと笑い 女性陣は微かに頬を染めてクスクス笑いながらこちらを見ている。
「そうだったんだ?」
「野明 鈍感だからねぇ」
「てっきり付き合ってると思ったのに 意外だったな~」
「けど こういうところに参加するのは気に入らなくて文句つけるわけだ」
「彼女じゃなくても?」
「だから やきもちなんだろう? 泉さんも苦労するよなぁ。付き合う前からこれじゃ・・・」
「安心しろって、誰も泉さんにコナかけたりしてないさ。篠原の大事な『パートナー』だもんなぁ?」武田がにやにやと笑い 女性陣も 「いいなぁ『パートナー』だって~」といいながら きゃぁきゃぁ盛り上がる。
遊馬は 仏頂面をして胡坐を掻くと「なんでこうなるんだよ」と頭を抱えた。
野明たちは戻ってくると 座敷の様子が一変していることに驚いて「どうしたのよ?」と問いかけたが みんなニヤニヤ笑って遊馬を見るだけで何も答えないし遊馬自身も「なんでもねぇよ」と答えるだけだった。
野明が遊馬の隣に座りながら目の前の女性二人に話を振ったのをみて相手を一睨みするが、相手は肩を震わせ「話しちゃ駄目だって」と言って笑い、緑が小池と武田に目を向けると 笑いを堪えきれなくなった二人が大声で笑い出してしまった。
次いで他の奴らも笑い出し、目の前の女性二人はけらけらと笑いながら 「篠原君って 可愛いわ~」とか「がんばれ~」と言いつつ人の頭をぽんぽん叩いた。
遊馬はばつが悪くて仕方なく、遂には「勘弁してくれよ」と言いながら机に突っ伏した。
そのまま暫く凹んでいると野明が顔を覗き込んできた。
化粧は綺麗に直されていて大きな瞳を瞬かせ「遊馬ぁ?」と声を掛ける。
髪がサラサラと揺れ甘い香りが鼻腔を擽る。
この数分の間に気力と体力を根こそぎ失ったような気がして机に顎を乗せたままこっちを覗き込む顔を眺め「なんだよ」と応じる。
「どうしたのさ?」と聞く声に こいつ睫長かったんだなぁと、関係の無いことを考えた。
きょとんとした顔をして能天気に顔を近づける野明に「・・・・お前が悪いんだからな」と言うと ふいっとを反対を向いた。
「私?ね 私何かした?」野明が慌てたように声を掛ける。
俺の居ない所にそんな格好で出歩くから、見たことの無い顔を見せるから、落ち着かなくて仕方が無い。そんなことを認めたくないのでそのままそっぽをむいて黙っていた。
部屋の奥で武田と小池が緑になにか説明していたようだがもう どうでもよくなってそのまま放っておいた。
暫くそうしていると武田が唐突に「この話題はここまで!」と宣言して事情を知りえなかった野明が不満の声を上げたが、野明以外の全員がひとしきり笑った後にそれを了承した。
その後、先の件には触れないまま飲み会がいっそ和やかといってもいい雰囲気で進行したのだがここで生まれた変な連帯感は弱みを握る連中がつるんでいる、という感じがして遊馬は心中穏やかでなかった。
野明も服装や化粧の所為なのか、それとも別の要因があるのか図りかねるところではあったが、いつもと違い大人しい態度でサワーをコクリコクリと口に運んでいる。
時折 ちらりと遊馬の顔を見て安心したように前を向く。
その様子は先刻までの落ち着かない気分を凪ぐには十分なものだった。
ふいに野明が腰を浮かせ机の真ん中に置かれたビールのピッチャーに手を伸ばすと横から手を伸ばした武田が、「女の子は重いものを持たない」と言って野明を制した。
野明が少し戸惑い気味に頬を朱くしながら笑うのをみて 『そんな顔 みせてんじゃねぇよ』と思わず眉根を寄せる。
それに気付いた小池が遊馬の反応を面白がるように口を開きそれに皆が乗った。
「泉さんって 可愛いですよね~、そういうところ。」
「確かにね、野明って女の子扱いされるのに慣れてないから弱いのよね、こういう扱いに」
「新鮮な反応よねぇ」
「女の子扱いされないんだ?こんなに可愛いのに。勿体無いなぁ」
言われた野明は「やめてくださいよぉ」と恥ずかしそうに手元のグラスで顔を隠して俯いた。
黙ってその様子を見ていた遊馬は意外な反応だなぁと思い野明に問いかけた。
「・・・して欲しかったのか? 女の子扱い」
「え・・・?! あの、えっとね。」真っ赤になってどもる野明を見てそうだったのか、と思う。
「お前そういうの嫌がると思ってた」というと「なんで?」と聞き返された。
「なんとなく」と答えると今度は野明は少し困った顔をして見せる。
「ま、いいけどな」あっさりとこの話題を切り上げると残っていたビールを呷りながら『そんなもんなのかなぁ』と考える。
職場の環境が環境だけに これといって女性というのを意識して対応することは少ない。
それは野明だけでなく南雲隊長も熊耳さんもそうだったからその方がいいんだろうと勝手に思っていたがもしかすると野明は不満に思っていたのだろうか? 聞いてみたいような気がしたがここで聞くとまわりが五月蝿そうなのであとにしよう、と決めた。
そろそろ場所を変えようということになって 一旦店を出る。
時間も10時を回って気温も少し下がり ひんやりとした空気が酒で火照った肌に心地良かった。
終始 隣で機嫌よくサワーのグラスを傾けていた野明は店の外に出ると軽い足取りで前を歩き、時折くるりと振り返るとスカートのすそがふわりと広がった。
その様子に如何にも『女の子』だよなぁと思いながらゆっくりと歩を進める。
他の面々は野明の少し前を次に移動する店を相談しながら歩いている。
遊馬のとなりで歩調をあわせる緑が前をいく野明を見ながら口を開いた。
「来た時 随分機嫌が悪かったじゃない?」
「小池が嵌めたからだよ、俺、合コンとか出ない主義なの」遊馬もまた前を見て答える。
緑は小さく「ふうん」というと言葉を継ぐ。
「それは生い立ちの所為? 野明の所為?」さらっと言いにくいことを訊いてくる緑に一瞬強い目を向けた。
「黙秘権は?」と返す。
「使いたい?」と言って強い視線を返された。
誤魔化すのを諦めて遊馬は小さく肩を竦めると少し考える。溜息を吐きながら「今は両方、だな」と答えた。
『野明の所為か』という質問を 今更否定するのも馬鹿馬鹿しかった。
「両方、ね」緑は小さく笑うと悪戯っぽい笑顔を見せながら続ける。「野明も合コンとかには出ない主義なのよ、知ってた?」
遊馬は意味を図りかね一瞬戸惑ったが 含み笑いを見せる緑の顔を見て「なるほどね」と呟いて空を仰ぎ大きく息を吐き出した。
緑はやれやれ、というように溜息を吐き遊馬の腕をポンっと叩くと「ま、上手くやって頂戴よ?」と言い置いて軽く駆け出すようにして他の面々に合流していった。
自分を追い越していった緑に気付いて野明がこちらを振り返ると駆け寄ってくる。
遊馬の腕に両手を絡めるようにして軽く引っぱり「急ごう」と促す野明に「いいよ」と答えると「見失っちゃうよ?」と小首を傾げる。
「平気だよ」というと野明はきょとんとした顔をした。
少しづつ皆と距離が開いてくると野明の瞳に不安そうな色が出てきた。
それでも腕を放して『先に行くね』とは言わない。その様子を見ながら面白いな、と思う。
皆と合流したければ走るなり、携帯で連絡をつけるなりすればいいだけでそこまで不安に思うことは無いだろう。
それは向こうにしても同じことなのだが 緑の『上手くやって頂戴』というのをそういうことだと捕らえれば 仮にこのまま逸れたとしても今日のところは向こうからの連絡はまずないだろうと思えた。
そうなったら後日、連中にからかわれることは必至だが後のことは後から考えればいい。上手く乗せられたような気するが『まあいいか』と思うことにした。
ふと野明の方を見下ろすと不安そうな顔でこちらを見上げていた。
それは皆と逸れそうなことに対してなのか、遊馬が黙りこんでしまったこと対してなのか。
遊馬は少し考えてから ゆっくりと話しかけた。
「なぁ 飲みなおさないか?」野明は驚いて目を丸くした。
「今から?」
「そ。殆ど飲んでないだろ? 折角めかし込んで来たんだし居酒屋じゃなくてバーとか行くか?」
顔を覗き込んで様子を見る。ほんのり頬を染めた野明を見て『嫌がってるわけじゃなさそうだな』と思った。
俯き加減で「あ・・えと・・皆が・・・」とごにょごにょ呟きながら時々 ちらりと上目遣いで顔を伺う様子はなかなか見物だった。
「あっちは心配要らないさ。大丈夫だよ」軽く笑うと不思議そうな顔をして物問いた気に首を傾げた。
その様子に ちょっと悪戯心が沸く。
わざと少し低い声を出し耳元で囁くように声を掛ける。「女の子扱い、してやろっか?」
野明の顔が真っ赤になるのを見ながらひょいと『お姫様だっこ』をしてやる。
「え? あ ちょっと 遊馬ぁ?」と真っ赤な顔をしてじたばたする野明に「あんまり暴れると落ちるぞ?」と声を掛ける。
拗ねたような目で遊馬を見上げると小さな声で訴えた。「あの・・・降ろして貰える?自分で歩く」
その顔は結構可愛いな、と思いつつ「やだね」と答えた。
胸元に腕を突っ張って一生懸命降りようとする野明に苦笑しながら、どうしたら大人しくなるかなと考えて。
半分は冗談、半分は本気で もう一度耳元に囁く。
「ちゃんと女の子扱いしてやるから、大人しく抱かれてなさい」
顔を覗き込むと野明は一瞬呆気に取られて動きを止め、腕を突っ張る気力をなくした。
そして赤かった顔を更に朱に染めると顔をぽすんっと遊馬の肩口に伏せ小さい声で「馬鹿ぁ」と言った。
大人しくなった野明を満足気に眺めて「どこに行きたい?」と問いかける。
野明は肩口に額を押し当てたまま小さな声で「お任せします」と答えてそのまま更にキュっと顔を伏せた。
遊馬は軽く目を瞠り野明を見遣ったがその顔はしっかり伏せられていて見ることが出来なかった。
額を押し付けられている肩口の温度で『相当顔赤いんだろうなぁ』と思うと可笑しくて仕方が無かった。
遊馬は「了解」と返事をしてから 少し考えて東口にあるバーに行こうと決めてゆっくり歩き始めた。
駅から近くて軽く食事も摂れ、席も個室が多いバーとしては珍しい店だ。でもゆっくり向かい合って話すには丁度いいだろう。
明け方まで開いているので始発まで飲み明かしてもいい。
歩きながら 野明に話しかける。
「寮に連絡しなくて平気か?」
「え?」野明はきょとんとした顔をする。
「門限。今日中には帰れないぞ?」
「あ・・」少し考えるような顔をする。
「帰りたいなら今から送る」そう言って顔を覗くと野明は「・・・・・ううん。平気」といって小さく首を振った。
「じゃ、いくか?」と声を掛けるとはにかむ様に笑いながら「はい」と返事をした。
END
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追記
ちょっと長くなってしまいました(^^;
2部に分けるような話でもないし・・・
ちなみに最後に遊馬が向かおうとしている店にはちゃんとモデルがあります。
新宿東口に行くことがあったら探してみてくださいね♪
割と有名なお店のようですよ☆
それにしてもこの時点でもまだ「付き合ってない」ということですよね(笑)
いいのかな それで(^^;
では 最後までお付き合いくださいまして有難うございました!!
タイトルの ”Irreplaceable”は 置き換えられない、かけがえのないという意味です(^^)
だれか私にタイトルをつける才能を下さい・・・