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軽井沢編4 言霊

軽井沢編第4弾です
書いている最中に色々ありまして 最初に書いたものと全然違う話になってしまいました(^^;
おかしいなぁ・・・・
とはいえ なんとか形になったのでとりあえずUPしてみようと思います。
相変わらず 長い上に完結まではまだまだ道程が長いですがどうぞ見捨てないでやってくださいね(^^)
ご意見・感想などいただけますと やる気か出てまいります(笑)
ではどうぞ よろしくお付き合いくださいませ~

以下本文

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言霊
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「お先~」
先に入浴を済ませて リビングに戻ると野明はソファに沈むようにして眠っていた。
「おい、こんなとこで寝たらか風邪ひくぞ?」
声を掛けて肩を揺さぶると 気だるそうに目をあける。
「ん・・・遊馬 おかえり」
「ただいまって・・・いいから寝るならベッド使えよ、風呂 空いたから入ってきたらどうだ?」
眠そうに目を擦る野明に「立てるか?」といって手を差し出す。
差し出された手を取ると野明はゆらりと立ち上がり「お風呂いってくるね」と足元に纏めてあった手提げを持って浴室に向かった。
ふらふらと浴室に向かう野明を見送って『大丈夫か?』と思いはしたがついていく訳にも行かないので「おう」とだけ返事をして先ほどまで野明の転がっていたソファに深く腰をかけた。

程なくして 脱衣所の方から「わぁ!」という歓声があがり「遊馬ぁ!」と呼ぶ声が聞こえた。
呼ばれる理由には何となく心当たりがあったので よっと声を掛けてソファから立ち上がると扉の前に立ち「なんだ?」と声を掛けた。
カチャと戸が開き、すっかり眠さがとんだ様子の野明がひょっこり顔をだす。
「遊馬、すごいね!外」嬉しそうに遊馬の手を引いて浴室の戸を開けると板塀で囲まれた坪庭がライトアップされて掃き出し窓の外に浮かび上がっていた。
露天風呂気分が味わえる室内風呂といった感じだ。
「さっき見た」と苦笑して答えると、「あ、そうか。そうだよね」と野明は少しシュンとしてしまった。
その様子に思わず笑みが漏れる。
「いいさ。見せたかったんだろ?」
野明の頭をくしゃっと撫でて「サンキューな。」というと野明は笑顔を見せた。
「すっごく綺麗なんだもん。でも そうだよね、先に入ったならみてるよねぇ」心もち眉根寄せて言う。
「気にすんな、さっさと入って来いよ。ご希望ならお供しようか?」
にっと笑って言うと 野明は吃驚した顔で振り返り「希望しない!」といって慌てて背中を押すと遊馬をリビングに追い出した。
「ぜ~ったい 覗かないでね!」というとピシャンと扉を閉める。
遊馬は思わず吹き出すと 再びソファに向かう。途中 キッチンに向かい冷蔵庫からビールを一缶取り出した。

ビールを片手に暫くTVを眺めていると入浴を終えた野明が出てきた。
「おまたせ~」
「おう」
声を掛けると野明はスタスタと遊馬の傍にやってきて隣にぽすんと座る。
「ただいま」
「おかえり、それ似合ってるじゃん」
野明は今日買ったワンピース型の寝巻きを着ていた。
襟ぐりにフリルとリボンのついた可愛らしいデザインのそれは 肌触りのよいサラサラした生地で出来ていた。
「なんか・・・変じゃない?」野明は着慣れない寝巻きに落ち着かない様子で問いかける。
「いいんじゃないか? まぁ職場に持ってはいけないけどな」
「それは 無理だよね」
そう言って顔を見合わせて笑う。
遊馬の手にあるビールに目をとめて「私も持ってこようかな」とキッチンに向かった。
冷蔵庫を物色してウーロン茶をみつけるとグラスに注いで持ってきた。
「お茶?」
「うん。お酒は今いいかな、と思って」
「そっか」
そういうと再びTVに目線を戻す。静かな目をしてニュースを見ている遊馬の横顔を眺めながらゆっくり手にしたウーロン茶を飲む。
たまに短い会話をしながらただ並んでTVを見ているだけなのにひどく安らいだ気分になった。
ニュースが終わると遊馬は大きく伸びをする。
「そろそろ寝るか~」というと洗面所に向かった。
野明も慌ててその後を追い、二人で歯を磨き、顔を洗う。
リビングの明かりを落として寝室に入ると、遊馬は昨日と同じように「どっち使いたい?」と訊いた。
出入り口に近い方と 睡蓮のある池が望める掃き出し窓のある方。
少し悩んだ末に野明は 掃き出し窓に近い方のベッドを選択した。
遊馬は出入り口に近い方のベッドに入ってさっさと横になり、野明もそれに習って横になる。
「電気消すぞ」
リモコンを片手に遊馬が振り向く。
「うん お願い」
そういうと 部屋の明かりが落とされた。

少し間があいて遊馬の声がした。
「なぁ、もう寝たか?」
「ううん 起きてるよ」
「さっきの質問。」
「え?」
「俺の役は何か、聞いてない」
「あ、えっとね・・・」少し考えるような間のあとで野明は答えを紡ぎだした。
「おにいさん・・・かなぁ」
「兄貴?」
「私 兄弟いないからさ、ちょっと憧れるんだよね。お兄さんとかいたらいいなぁって」
「ふーん。そんなもんかね? じゃ、いい兄貴演じてやるよ。おやすみ 野明」
「うん おやすみ 遊馬」
挨拶を交わすと野明はあっという間に眠りに落ちた。

規則正しい野明の寝息が聞こえるようになるまでそれ程時間は掛からなかった。
遊馬は野明に背を向ける様に大きく寝返りを打つ。
「兄貴ね・・・」小さく呟くとゆっくり息を吐き出した。
なるほど無防備でいる訳だ、と妙に納得すら覚える。
『仲のいい兄貴』の姿を思って一緒に買い物を楽しんだりちょっとした旅行に出たりする。
それを意識しているか否かはともかくとして兄弟なので平気だよね、位の感覚なのだろう。
実際の兄弟がそんなに仲睦まじいとは思わないが野明の理想の範疇はこんなところなのかもしれない。
事実自分には兄がいたが尊敬はしていていても男同士の兄弟でもあり、年が離れていた所為もあってべったり仲良しということは決してなかった。
とはいえ ここまで一緒についてきた訳だから嫌われてはいないとして、『彼女にしてやる』と声を掛けて『迎えにきて』と応えたのだからもう少し意識してもいいんじゃないのかと思うと 軽い脱力感に見舞われる。
焦ってどうこうしようという心算も無かったが 聊か拍子抜けしたような気分になったことは確かだった。
頭だけ野明の方を振り返ると安心しきった顔をしてすやすやと眠っていて それを確認すると再び顔を戻し眠ることに決め、目を閉じた。

夜半を過ぎた頃 ものすごい雨音と雷鳴で野明は目を覚ました。
掃き出し窓にものすごい勢いで雨と風が吹き付けていて外はさながら嵐のようだった。
時折 稲光と雷鳴が響き窓の外がカッと白くなる。
野明は そっとベッドから脚を下ろすと窓のそばに歩み寄った。
眠りに落ちたときからそんなに時間は経っていないのに外の天気は一変していて窓の外は紗がかかったようで視界が殆ど効かなかった。雷光が時折視界を白く染める。
外には 殆ど明かりは無かったが コテージ同士を繋ぐ小道には申し訳程度の街路灯が配置されていてその近辺だけが仄かに明るかった。
ふと 遊馬のいるベッドの方を振り返るとこちらに背を向けるようにして眠っている姿が目に入った。

『おにいさん・・・かなぁ』
自分で言った言葉を思い出す。
『俺の役は何?』そう訊かれて言葉に困った。焦って口から出た言葉は『おにいさん』だった。
けど、それは本当は少し違う気がする。
遊馬は 『遊馬』であって私の中でどんな役を担ってますか、と訊かれても一言でいえない。
きっと遊馬はこんなことまで考えて質問したわけではないと思う。
単純にままごとの話が出たので配役を訊いて見ただけなのだろうけれど、それをサラリと返す余裕が自分には無かった。
遊馬は仕事上のパートナー、気の合う友達、休日もつるんで遊ぶ仲間。
それから手のかかる子供みたいで 信頼できる兄のような親友のような人だ。
でも 恋人ではない。
はじめにままごとみたいだと言ったのは2人で家事をしているのが『新婚さんみたい』と思ったからだ。
ということは その時の遊馬の配役は『旦那さん』だったことになる。
でもそれを言うのは恥ずかしくて言葉を濁した。もしそう言って遊馬に拒絶されたらこの後どんな顔をして過ごしたら良いかわからなかったから。
遊馬に拒絶されるのが怖いということに思い至って初めて納得する。
『そっか、私、遊馬が好きなんだ』
多分仕事の相棒とかそいういうものとは違うところで、『遊馬』が好きなんだ。
そう思うと まともに遊馬の方を見ているのが辛くなった。
「あんなこと いわなきゃ良かった」と思わず口に出して呟いた。
あんなことが『ままごと』と引き合いに出したことなのか遊馬を『おにいさん』と言った事なのか自分でも図りかねて小さく溜息を吐いた。
雨足は弱まることなく降り続き 雷鳴も断続的に響いている。
雨の日は あまり良くない記憶が多いなとふと思った。
エコノミーに載った遊馬がグリフォンにつぶされた時も 熊耳さんが撃たれたときも二課棟に内海たちが乗り込んできたときも雨が降っていていた。
少し寒さが増した気がして両手で自分の肩を抱きしめる。
大きく息を吐いた時 轟音がして視界が真っ白になった。
思わず声を上げてその場にしゃがみ込む。
地面が少し揺れ、窓ガラスがビリビリと振動し反響音が辺りに響いている。
至近距離に落雷があったんだ、と気づくまで数瞬かかった。

その音と振動で 遊馬も目を覚ました。
「どうした?」
「落雷。近くみたい」
応えると遊馬はリモコンを操作して明かりをつけようとした。
「停電か?」
そういわれて外を見ると先ほどまで点いていたはずの街路灯が消えているのに気がついた。
「そうみたい、街路灯も消えちゃってる」
「そうか、野明 起きてたのか?」
布擦れの音と共に遊馬の声が聞こえる。
「うん、雨音で起きちゃった」
遊馬の気配を感じて振り返るとすぐ後ろで同じように外を見ているのが気配でわかった。
完全に真っ暗になってしまったので 部屋の中も外も視界が無い。
「ここに立っていても仕方がないし、リビングに行くか?」
「でも 向こうも真っ暗でしょ?」
「ガスは使えるだろ、コーヒー飲まないか? 目が覚めちまった」
「うん、でも・・・」
「明かりだろ? ここ動くなよ、部屋の隅に確か・・・」と言いながら遊馬が動く気配がして程なく懐中電灯の明かりが点いた。
「すごい、よくそんなの有ったね」
野明が感心していると、「部屋に入ったときに非常灯の位置とか確認しなかったのか?」と逆に不思議そうに訊かれた。
野明は「しなかった」と言ってクスリと笑う。こういうところが遊馬だな、と思う。
いつでもちゃんと色んなことを想定して行動している。
行き当たりばったりな自分との違いを見て『やっぱり遊馬といると安心』だと思った。

リビングに入ると 遊馬は野明をソファに座らせ「ここで待ってろ」といって玄関に向かい、そこからもう一つ懐中電灯を持って帰ってきた。
一つを野明に手渡し 自分も一つ手に持ってキッチンに入る。
ガスコンロのつまみを捻ると青い炎が踊った。ガスが点くことを確認すると水を入れた薬缶をかける。
沸騰するまでの間にインスタントコーヒーと砂糖、マグカップを取り出して並べた。
冷蔵庫から手早く牛乳を取り出すと小さめの片手鍋に移して直ぐに残りを冷蔵庫にしまった。
小さな火をつけたコンロのうえに片手鍋を載せると丁寧に温める。
「てつだうよ」と言って腰を浮かせた野明に「いいから座ってろ」といって手際よく作業を進める。
程なくしてコーヒーと カフェオレを作りおわるとまずカフェオレを野明に手渡した。
次いで 自分のコーヒーを取りにキッチンに戻り ついでとばかりに開封済みのポッキーも手にして戻ってきた。
とりあえず懐中電灯を一本TVの上において手元を照らしもう一本の明かりは消した。

「いつから起きてたんだ?」
ブラックのコーヒーを口に運びながら静かに話しかける。
「何時だろう、30分くらい前かも。雨と雷の音、凄かったんだよ」
「そうか、場所変われば良かったな。落雷があるまで気づかなかった」
「私が向こうにするって言ったんだもん。遊馬が気にすることないよ」
そういうとカフェオレを啜る。「あ おいしい」と呟くと「そりゃ よかった」と遊馬が笑った。
少しの間沈黙が続き、遊馬が心配そうに口を開いた。
「なんか元気ないな、もしかして雷怖いのか?」
断続的に雷鳴が聞こえてはいるがさっきほど至近距離の音ではなくなってきていた。
「雷が怖いって言うんじゃないんだけど、さっきのはびっくりした」
「あれはなぁ、俺も起きたし」
「でも、雨はあまり好きじゃなくなった気がする。ここ暫く 嫌なことがある時は雨の日が多かったから。」
そういうとカップをテーブルに置き 額を膝につけ丸くなるようにして両脚を抱える。
「それは今日も嫌なことが有ったって事か?」
目線を外すようにして静かに問う声に思わず顔を上げる。
「『雨が好きじゃなくなった気がする』ってのは 今そう思ったってことだろ?」
「・・・あ・・・・」
野明は心の中で舌打ちしたい気分だった。
考えに沈んで勝手に自己嫌悪に陥っていて言葉の選択を誤った。
以前からそうだというなら『なくなった気がする』ではなくて『好きじゃない』というべきで無意識に出た言葉だったためそこまで気が回らなかった。
そして殊この件に関しては自分の中の問題でこのタイミングで口に出して、まして遊馬に聞かれるのは一番避けたいことだった。
誤解を解かなくてはと思う一方で 自分でも整理がつかないことをどうやって説明すればいいのかわからずに逡巡していると先に 遊馬が口を開いた。
「着いてきたの、後悔してるならそう言えよ? 幸いにも今のところ何も無かったわけだし夜が明けて雨足が落ち着いたら東京に帰るか。」
とても穏やかな口調でそう言って野明の頭をポンと軽く叩くと マグカップをもって立ち上がる。
野明は慌てて遊馬のパジャマの袖口を掴んだ。
「ごめんなさい、そうじゃなくて。違うから、そんなこと言わないで」
何に対してなのかはっきりしない後悔の念と 遊馬が離れていきそうな不安感で 胸がぎゅっと締め付けられるような感覚が走り涙が出てきた。
一度出はじめると もう止まらない。あとから後から涙が溢れてきて顔を上げていられなくなり俯いた。
その様子を吃驚したように見ていた遊馬は 困った顔をしてもう一度ソファに座りなおした。
「野明 どうして泣くんだ?」
カップを置いて 顔を覗こうとしたが野明は袖口を掴んだまま完全に下を向いて顔を上げようとしない。
少し考えて、袖口から野明の手を離し肩にそっと手を掛けると身を強張らせる気配がした。
遊馬は黙って手を離しソファの背もたれに手を掛け直した。
野明が落ち着くのを待つように遊馬は何も言わずに雨音に耳を傾けていた。
暫くして、小さな声で「ごめん上手くいえない。でもお願い もう少しだけ傍にいて」と言うと遊馬の胸元にコツンと額を押し当てた。
遊馬は少し驚いたものの、小さな溜息を吐き『気の済む様にさせてやるか』と思った。
「了解。いい兄貴 演じてやるって言ったからな。傍にいてやるよ。その代わり 無理はするな。帰りたくなったら ちゃんと言え」
そういうと 野明はイヤイヤと首を振る。
「・・・帰るのはやだ。遊馬と一緒に居たいの」
そう言って遊馬の胸元に頬を寄せた。
『いい兄貴を演じてやる』という遊馬の言葉に激しく後悔した。遊馬を『おにいさん』と言ったのは自分。それなのにその通りにしてくれると言う遊馬に今更何を言えばいいのか判らなくて胸が軋む思いがする。
自分の発した言葉を今頃になってとても恨めしく思った。

胸元に頬を寄せて身体を預けるようにしている野明を横目にみて遊馬は内心溜息を吐いた。
『いい兄貴を演じてやるよ』と言ったのは自分だ。
野明がそう望んでいるのだから好きにさせてやろう、と思った矢先にこれだけ無防備にしな垂れかかってこられると正直眩暈がしそうだった。
『これは兄貴の役割なのか?!』思わず野明に問いただしてしまいたくなる。
少しはこっちの気持ちも察して欲しいものだと思わずにはいられなかったが 今それを言うのは精神的に不安定になっているらしい野明には酷なことだと思いぐっと飲み込んだ。
とはいえいつまでも この沈黙に耐える自信がなくて何か話題を探す。
「復旧しないな」
「え?」
「電気。落雷の磁場の影響なら数秒で復帰するだろ。変電設備のブレーカーが原因なら30分もあれば復旧するはずだし。どこかで 電線が切れたのかもな」
「あ・・・そうだね。あれからどの位たったの?」
遊馬は腕時計を確認すると時間は午前3時を少し回っていた。
「一時間ってとこか。切れてるなら復旧は夜が明けてからになるかもな。雷も大分収まったことだし夜明けまでまだ2時間以上ある。そろそろ向こうに戻るか」
野明の頭をポンと軽く叩くとTVの上から懐中電灯を取り野明に手渡す。
自分も机の上に置いていた懐中電灯を手にして野明の背を押した。
各々 ベッドに入って「おやすみ」と挨拶を交わすと布団に包まって明かりを消した。

2人とも互いに自分の発した言葉に少なからず縛られてしまい簡単に眠りに就くことは出来なかった。

to be continue...
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追記

日記の方を見てくださった方はご存知かと思いますが一度殆ど書き上げた原稿を雷に打たれて消失してしまいまして 最初はもっと幸せ一杯であったはずのお話が書き直すとこんなことに・・・(T∇T)
保存中に電源が落ちたためPCごとリカバリと言う激しく切ない状態に追い込まれてその他SSと描きかけだった挿絵も消失・・・
なので挿絵なしです(笑)
なにしろ今回は話が暗くなったので書いて楽しいところがなくなってしまったというのも一要因です(^^;
この2人 先日から完全に寝不足だと思うんですが・・・大丈夫でしょうかね?(笑)
書いた自分が言うな!って感じですが・・・・

長い駄文に最後までお付き合いくださいまして有難うございます。
完結までの道は長そうなので挫折しないように頑張りたいと思います。
ご意見、ご感想等のコメントをいただけますとそれを糧に頑張れますのでお時間のある方は是非宜しくお願い致します(^^)

軽井沢編3 配役

軽井沢編第三弾

やっとコテージに着きました(笑)
お泊り旅行の一日目 スローペースでスタートです(笑)
まだまだ完結には程遠いですが・・・最後までお付き合いいただけますと幸いです。

以下本文です

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配役
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「ここに泊まるの?」
野明は目の前のコテージを見て遊馬の顔を覗き込む。
「そ。連泊するならこっちの方が経済的だし、何より気兼ねなくていいだろ?」
言いながら 遊馬は鍵を開けて中に入る。
パチンと部屋の電気をつけると、車に荷物を取りに戻った。
野明も慌てて後を追う。
一通り荷物を運び終えると 遊馬はコテージ真横にある駐車スペースに車を入れてくるといって外に出た。

1人残った野明は室内をぐるっと見てまわる。
ダイニング机の上に建物の説明と注意書きのような冊子があるのに気付き手にとった。
間取りは大きな1DKといった造りで 16.5畳のリビング・ダイニングにカウンターキッチン、隣室はセミダブルのベッドが2台ある13.5畳もある寝室。お風呂とトイレ、洗面所はきちんと独立していて、バスルームには大きめの窓があり外囲いにかこまれた坪庭を見ることができる造りになっている。寝室の窓からは睡蓮の浮かぶ小さな池が望め、大きく張り出したベランダには専用のバーベキュー台もあるらしい。
典型的な貸し別荘。
野明は冊子を置いてキッチンに向かう。
戸棚を開くと一通りの食器や炊飯器などの家電、調理器具、調理道具に食器洗い用のスポンジや洗剤、塩、醤油をはじめとする簡単な調味料も用意されていた。
洗面所も覗いてみれば 洗濯機も物干し台もあるし、掃除機他掃除用具も一式、タオルやバスマット、シャンプーやリンスに石鹸まで揃っていて 冷暖房も当然完備されていた。
「至れり尽くせりだね」と思わず口に出す。
「ホテルより充実してるだろ?」と帰ってきた遊馬が玄関口で答えた。
「本当だね、ないのは食料品と着替えくらい」
「だから 買い物してきだんだろ?」
遊馬は愉しそうに笑って買ってきた食料品と寝巻きなどの入った袋を手にしてキッチンカウンターにドサッとおく。
「冷蔵庫 冷えてるかな?」といいながら扉を開け中からひんやりした空気が流れ出すのを確認すると袋の中身を冷蔵庫に入れ始めた。
野明も駆け寄って「やるよ」と声を掛けたが、遊馬は「いいから座ってろ」と言ってテキパキと冷蔵庫の中に買って来た物を仕舞い込んだ。
手持ち無沙汰になってしまった野明は寝室を覗きに行く。広い部屋に結構な間隔をあけて2台のベッドが配されていた。『随分無駄に場所使ってるなぁ』と思って近づくと 其々のベッドの下にトランドルベッドが用意されているのをみてこの間隔の広さに納得する。
そういえばダイニングのいすも4客あったしここは4人まで泊まれる建物なんだと得心が行く。
バスルームを覗けばそこもかなりの広さで『ひろみちゃんでも足が伸ばせそうだ』と思うくらい浴槽も広く ファミリー層でも十分に対応できる施設だと知れた。
床も浴槽も綺麗に洗ってあるのを確認して遊馬に声を掛ける。
「ねぇ 遊馬ぁ お風呂って沸かす?」
時間はもう8時を回っていて遊馬は少し考えて答えた。
「順番に入ると時間掛かるしな、沸かしといてくれ」
「はーい」返事をして野明は全自動給湯器のボタンを押した。

リビングに戻ると遊馬は既にソファに座ってTVを見ながら寛いでいて野明に軽く『こいこい』と手招きをした。
「なあに?」といってそばに寄ると「座れよ」といって自分の隣をぽんっと叩いた。
「そこに?」
「嫌ならいいけど?」
「座らせてもらおっかな」
遊馬の横にぽすんと座って顔を見上げる。
「ほら」
グラスに移した缶チューハイを野明に手渡すと、自分もビールの入ったグラスを手に持った。
「おつかれさん」と軽く笑う。
「疲れたのは遊馬でしょ? 私運転してないし」
遊馬の顔を覗き込む。
「そうでもないさ。大した距離じゃないしな」
さらりと言う遊馬に 少し不満気な顔で頬を挟むように両手を添えて言う。
「目の下に隈できてるよ。大丈夫?」
「ばーか 気にしすぎ。今日はもうあとゆっくり休むだけだし明日になったら消えてるさ」
言いながら つまみに出していたポッキーを一本野明の口にぽいっと放り込む。
野明は遊馬の頬から手を離してポッキーの尻尾を人差し指で押しながらポリポリと食べると「ならいいんだけど」と呟いた。
TVを見ながらお酒とつまみを手にリビングでまったりと過ごす。
暫くしてから野明は 「あ!」と声を上げた。
「ご飯前にこんなの食べてよかったのかな・・・」
「そういや 惣菜買ってたよな、確か・・・」
そういうと二人でキッチンに向かい冷蔵庫とレジ袋を開く。
買ってきたものを机に並べて幾つか選ぶとお皿に出してダイニングテーブルの方に運んでいく。
遊馬も飲みかけのビールやチューハイをダイニングテーブルに移動させた。
「野明、お茶とコップな」
「お茶ってあったかいの淹れる? それともペットボトルの?」
「そうだなぁ 熱いのくれ」
「はーい」
返事をしながら急須に買ってきたティバッグの緑茶を入れてお湯を注ぎ抽出を待つ間に湯呑みを探してお湯で温め お茶を注いでテーブルに運ぶ。
「はい お茶」
「サンキュー」
お茶を受け取る遊馬を見て野明は『なんだかなぁ』と思う。
いつも二課でしている事とやってることは全く変わらないのだが何となく浮き足立っている自分が居る。
遊馬の正面の椅子に座って食事を摂りながら、ふと思った。
「ね、遊馬」
「ん?」
「向かい合って座るってあんまりない気がしない?」
二課ではいつも隣に座る。食事もそうだし普段の席も隣同士だ。
「そうか? ・・・そうかもな。それがどうかしたのか?」
「ちょっと新鮮だなぁって思って」
「新鮮ねぇ。そういうもんか?」
不思議そうに首を傾げる遊馬に野明は「うん」と頷いてみせる。
「なんかちょっと変な感じ」
両手で顎を支えるように肘を突いて遊馬の顔をしげしげと眺める。
「・・・なんだ?」
遊馬は怪訝な顔をして箸をとめた。
「何ってことも無いんだけど・・・」
何と言って良いかわからなくて言葉に詰まる野明をみて、遊馬は「ふーん」としたり顔で頷く。
「なんとなく落ち着かない、違うか?」
悪戯っ子のような笑顔で楽しげに問う。
「えっと・・・そう・・・なんだと思う。良くわかんないんだよね」
困った顔で答える野明に目線を合わせると クックッと笑う。
「あんま悩むなよ そんなんであと3日保つのか?」
「・・・悩んでる様に見える?」
「見えるけど、違うのか?」
「・・・どうなんだろう?」
「ほら それだ」笑いながらそういって席を立つと野明の隣の席に移る。
「隣の方が落ち着くなら 並んで座ればいいだろ」
頭の後ろで手を組んで軽く伸びをすると「折角 遊びに来たんだから楽しくやろうぜ。」といって野明の髪をくしゃっと撫でた。

食事が一段落して 使った食器を片付けにキッチンに入る。
野明の洗った食器を遊馬が綺麗に拭いて棚に積み戻していった。
食事当番の時に何となく出来上がった分担。
いつもと同じ作業なのに 妙にそわそわした気分になった野明は遊馬にくすくす笑いながら声を掛けた。
「なんか ままごとしてるみたい」
「え?」
「家付き 実物大のままごと」
「・・・・まままごとねぇ・・・」成る程、確かにそうかも知れない、と思う。
「遊馬は子供の時にやらなかった?」
「・・・あんま 記憶に無い」
「え~ そうなの? 近所の女の子とか公園でやってるのに巻き込まれたりとかさ?」
「小さい時は公園とかあんま行かなかったしなぁ。爺さんと住んでたから。」
「そうなの?」
「庭で大人相手に過ごす時間の方が多かった。学校上がってからは外でも遊んだけどな」
「学校に上がると 男の子巻き込んでのままごとってしなくなるよね。嫌がられちゃうし」
「家に来た客の子供と数回やったくらいかな、多分。すぐ逃げるから相手が怒るんだよな」
溜息混じりに言う遊馬に野明は笑った。
「遊馬らしいというか。興味ないと全然乗ってくれなさそうだよね」
「楽しいと思うか? 男があんな遊びして。何が悲しくて会社帰りのサラリーマンの役とか演じなきゃならんのだ。」
「へぇ? 旦那さん役だったんだ、それは好待遇じゃない」野明はクスクス笑う。
「なんで?」
「そりゃね、好意がある人ほど旦那さん役にしたいじゃない。そうでない人は子供とか赤ちゃんとか果ては近所のお店の人とか演らされるんだよ。そういうの無い?」
「さあなぁ・・・そういうのは記憶に無いなぁ・・・・」
「遊馬 モテモテだったんだ♪」
「そういう問題か?」遊馬は呆れたような顔で野明を見下ろす。
「そりゃ 旦那さん役に指名するなら好きな人がいいじゃない? それ以外の役指名されたこと無いならモテモテじゃない」
からかう様に言って笑う野明を横目に遊馬はにやりと笑う。
「じゃ、野明。お前は俺に何の役くれる?」
虚を突かれて野明の動きが止まる。
遊馬はにやにやと笑いながらもう一度聞く。
「実物大のままごと、なんだろ? 俺の役は何?」
「えっと・・・」
口ごもる顔が赤く見えるのはチューハイの所為ばかりでもないだろうと思いながら野明の顔を眺める。
更に一言いってやろうか、と思った時 給湯システムが軽やかな電子音で浴槽に湯が張れたことを知らせた。

「あ 遊馬! お風呂沸いたよ」
あからさまにホッとした顔をして話題を逸らす野明に思わず小さく笑いその話に乗ってやる。
「先 入ってくるか?」
「私 用意あるから遊馬先でいいよ。」
「そっか? じゃお先。」
「ごゆっくり」と小さく手を振る野明に 片手を上げて返事をすると着替えを手に浴室に向かう。

『逸らされた質問の答えはおいおい聞き出すさ。時間は有るんだし』そう思うと遊馬は妙に楽しい気分になって浴室の扉を開けた。

to be continue....

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追記

なかなか時間が進みません(笑)
時間経過から行けば 2時間くらい?!
このままのペースでうっかり4日設定してしまった休日を何回で書ききるのでしょう?(^^;
まずは ここまで 長い駄文にお付き合いくださって有難うございます。

軽井沢編2 お出掛け

今度は出発の野明サイドです。
最初は別行動ですものね(笑)
というわけで 軽井沢編第二弾。
皆様の暖かいお言葉に支えられて書いてます(笑)
どうぞよろしくお願いします!!

以下本文です

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お出掛け
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野明が寮に戻ると 11時半を少しまわっていて人気疎らなコモンスペースを抜けるとまっすぐ自室に向かった。
部屋の前で鍵を出していると、これから出かけようとしていた緑が野明に気づいて声を掛けた。
「野明、今帰り?」微かに含みのある笑顔で問いかける。
「うん、だたいま、これから出勤?」答えながら鍵を開けて扉をひらく。
「今日は夜勤。お昼食べに出ようかと思ったの。野明は?」
「とりあえず着替えて このあと出かける」
「そうなんだ? 篠原君も一緒?」
「後でむかえに来るっていってたよ」
「そうなんだ~」とにこにこと笑う緑の顔に野明は少し怯んだ。
「な、なに?」
「い~え♪ お昼、買いに行こう。話聞かせてもらうわよ?」そういうとさっさと野明の手を引いて近くのコンビニに向かった。

コンビニで弁当と飲み物を購入し野明の部屋にやってきた緑は含みの笑顔を見せながら手早く買ってきたものをテーブルに並べた。
野明がアンサンブルを脱いでTシャツとホットパンツに着替え緑の向かい側に座ると、弁当をつまみながら徐に緑が口を開いた。
「ね、あの後、どうしたの?」興味津々といった様子の緑に野明は気圧される様に身を引いた。
「どうって・・・飲み直そうって遊馬が。それで東口のバーに行った」
「へぇ? 良かったじゃない。で?」楽しそうに後を促す緑に野明はバツが悪そうに続けた。
「酔っ払って、寝ちゃったの」
「誰が?」
「私が。」恥ずかしくなってちょっと目を逸らす。
「・・・嘘でしょう?」緑は目を丸くして言った。「あんた 蠎(うわばみ)じゃない?」
「蠎って・・・。でも そうなの。注意されたんだよ、飲み方に気をつけろって。・・・でも寝ちゃったの」
野明は ほうっ・・・と息をついた。
「そう。それで どうなったの?」目を眇めて緑が先を促す。
「どうやっても起きないし電車もないからって 遊馬がホテルに運んでくれたの」
こういうことを普通に話せるようなタイプではないとおもっていただけに、さらりという野明に緑は少なからず驚いた。
「え? じゃぁ・・・」一線を越えたのか、と聞こうとする前に野明が続けた。
「で Tシャツとか買ってきてくれて、着替えてシャワー浴びて、酔いが醒めるまで面倒見てもらちゃった」
「・・・・・・それで・・・?」
「それでって、それだけだよ。其々 ベッドで朝までねてて起きて帰ってきたらこの時間に・・・って 緑?」緑の眉間に小さく皺が寄っている。
「其々って シティホテルに泊まったの?」
「うん、ツインの部屋を取ってくれて。」
緑は まじまじと野明を見た。
「で? よもや何もなかった、とか言わないわよね?」
「何もって、何もないよ。叱られたけど。 『一応 年頃の娘なんだから行動に気をつけなさい』って・・・」
緑は呆然とした顔で野明を見て、その後天井を仰ぐと はぁーっと大きく溜息をついた。
上手くやってねと言っておいたはずなんだけど・・・そう思い眉間に人差し指を添えるようにして軽く目を閉じる。
「それで 手も出されることなく帰って来れちゃったわけね?」
そういうと野明の顔を覗き込んだ。「そういう言い方しないでよ」と野明は拗ねたような顔で答える。
「遊馬は 『酔っ払いには手を出しません』って。そういうの嫌なんだって」
緑は『へぇ、意外に生真面目なんだ、篠原くん』と思い軽く目を瞠る。
「大事にされてんじゃん、野明」
「・・・そうかな・・・?」野明は小首を傾げる。
「じゃないの? だから素面でないときに手を出して後悔したくないってことでしょ? 何も拗ねることじゃないわね。」
「別にそういうことで拗ねてるわけじゃないって」
「そういわれるのが嫌なら せめてほろ酔いで済む程度にしとくのね。」
「だから そうじゃなくて・・・」
「はいはい いいわよ、何でも。で 今日これから出かけるって?」
「あ うん。そうそう、軽井沢行こうって。」
「軽井沢って今から?」時間を見るともう1時を過ぎている。確かに日帰りできない場所ではないがそれでは 大して遊ぶことも出来ずに疲れに行くようなものだろう。
「もしかして 泊まり?」
「今週、準待機だから」野明は目を少し逸らすようにして答える。
「そっか」緑は含み笑いを見せた。
「じゃ 荷物の用意とかあるか。私、一旦部屋に戻るわ、後でお化粧してあげる♪」
そういうと食べ終わったお弁当の容器をテキパキと片付けて「後でね~」と手をヒラヒラ振りながら部屋を出て行った。
部屋に残された野明は一息置くと「さて」と声を出して立ち上がり荷物を纏めるべくクローゼットを開けた。
ボストンバッグに着替えや洗面道具などを詰めると寮の受付に降りて外泊届けを提出する。
部屋に戻ると再びクローゼットを開いて『何を着ていこうかな』と端からハンガーを滑らせるようにしながら中身を物色していき、悩んだ末に麻で出来た生成りのワンピースを手に取った。
いそいそと着替えて姿見の前でくるりと回ったりしているとコンコンと扉がノックされて緑が顔を出した。
「どう?用意終わった?」
「うん、大体ね」
野明が答えると、緑は野明の格好を見て「ふーん」と言いながら口の端に笑みを浮かべる。
「いい心がけじゃない?」というと野明の頭をぽんぽんと叩いた。
「じゃ お化粧しましょうか♪」というと楽しそうに野明に化粧を施す。
昨日とは違う色のパレットを使って手際よく色を乗せていくと最後にリップの上にグロスを重ねた。
「うん、完成!」といって満足そうに頷くと手鏡を取り出す。
「どう?」
「ありがとう」野明は暫く鏡を覗いてから「色で雰囲気って変わるんだねぇ」としみじみ呟いた。
昨日はピンク系の色が多かったのでどちらかと言えば甘い感じのメイクだったが 今日はグリーンやブルーが入っていてちょっと凛とした感じの仕上がりになっていた。
「今日は服が生成りだからね」と言いながら緑は小さなメイクパレットを2つ野明に差し出す。
「使い方教えてあげるから座って」というと野明にメイクの方法をレクチャーし始めた。
一通り説明すると 小さなポーチに寒色系と暖色系2種類のパレットと小さなグロスとリップを入れて「はい」と野明に手渡した。
「ちょっと使っちゃってるけど、あげるわ。私はこの色あんまり使わないし。」
「え、でも・・・」
「頑張ってらっしゃいって意味込めて。取り敢えずもって行きなさいよ。中身はトライアルキットの寄せ集めだから気にしないでね」というと にっと笑って言った。
「リップの色は薄いのにしてあるから、ついちゃっても目立たないように」
「なっ・・・・!」野明が顔を真っ赤にして緑の方を見ると、緑は楽しそうにケラケラと笑った。

暫くして 野明の携帯電話が軽やかな音を立てた。
遊馬が自分で設定して行った着信音なのでディスプレイを確認しなくても相手は彼だとわかる。
「はい、もしもし」
「あ、俺。今から車でそっちに行くけど大丈夫か?」
「うん どのくらいかかる?」
「30分見といてくれ」
「わかった、気をつけてきてね」
野明が電話を切る。
「すぐ来るって?」
「30分くらいで来るみたいだよ。」
「そっか、忘れ物ない様にね。楽しんでらっしゃい♪」」緑は笑顔で野明の肩をぽんと叩いた。

30分もしないうちに再び携帯が軽やかな音を立て、遊馬の到着を知らせると野明はボストンバッグとハンドバッグを手に部屋を出る。
寮の玄関を出たところで ハザードを出して止る車を見つけた。
遊馬が降りてきてボストンバッグを受け取ると「荷物、これだけか?」と声を掛け、助手席の扉を開けた。「先 乗ってろよ」と促し手にしたボストンバッグをトランクに仕舞う。
運転席につくと遊馬が「出るぞ」と声を掛けとゆっくりと車が走り出した。

走り出してすぐ「交通情報検索してくれ」といって遊馬は野明に自分の携帯を手渡した。
「えと、どうやって?」困った顔でそれを受け取ると一応ディズプレイを開いてみる。
そもそも機械が苦手な野明は基本的な通話とメール以外の機能を殆ど使いこなすことが出来ない。
レイバーに乗れることと機械が得意なことは全く別問題なのだ。
遊馬がアプリケーションの使い方を説明したが野明は結局理解することが出来ず 車が関越に乗ったこともあり携帯での検索を諦めてラジオで情報を取得することを選択した。
ハイウェイ・ラジオの電波を捕まえると交通情報に耳を傾ける。
道中大きな混雑は報じられておらず順調なドライブが出来そうだった。
「碓氷軽井沢I.C.まで ノンストップで一時間半ってとこだな」
遊馬が前を見ながら口にした。
それは野明に語りかけたというよりもラジオの情報を分析した結果が口をついて出ただけ、という口調だった。
「そんなもんで着くの?」意外な近さに驚く。
「でないと、準待機中に出かけられないだろ?」呆れたような顔で言われ、準待機であることを忘れかけていた野明は惚けたように「そっか、準待機・・・」と呟いた。
『途中、寄りたいところはあるか』と訊かれたが、まるで土地勘のない野明にはまったくわからず、苦笑した遊馬はそのまま運転を続けた。

隣でハンドルを握る遊馬の顔を何とはなしに眺める。
いつも見慣れた遊馬の横顔。
初めて会った頃より少し精悍さを増した顔、シャープさを増した顎のライン。
今まであまり意識してみることがなかったその顔をまじまじと見ていると心臓の鼓動が早くなる気がして少し落ち着かない。
一度目を逸らして目線を前方に向けたものの、すぐに遊馬の方が気になってまた目線を戻した。
『どうしてこんなに 落ち着かないんだろう?』
遊馬の運転する車に乗るのは初めてじゃない。
任務中、指揮車に同乗する事もあれば、キャリアを運転する遊馬の隣に乗ったこともある。
研修や説明会の時には公用車で相乗りすることもあったし 遊馬の助手席に座ること自体はさして珍しいことではない筈だ。
休日を共に過ごすことが多いため私服が珍しい、ということもない。
なのにどうしてこんなに落ち着かないのだろう。
泊まりで出かける、ということがその一因なのかもしれないが、月の半分は二課棟で泊り込みになる中で宿直室で雑魚寝したことも一度や二度ではないし、二人でということなら着任間もない頃に手違いの結果とはいえ酒田の旅館で同泊した経験もあった。さらに遊馬は北海道の実家まで押しかけてきて泊まって帰ったことすらある。
何かにつけて 『初めて』ということがこれほど乏しい相手というのも珍しいと思う。
まして 彼とは付き合っているわけではないのだから。
野明は今朝、彼が発した『彼女にしてやる』という言葉を思い出しその真意を測りかねた。
かといって 今更『あれは 本当か』と問い直す勇気もない。
結果として自分は『迎えにきて』といい、彼は迎えに来たのだからそれが答え、と取ることもできるかも知れないが、はっきりとした返事をもらえたわけではない野明は結果不安を抱えることになってしまった。
自分のあの答えは告白したも同然で、それに気付かないでいるほど遊馬は鈍くないだろう思う。
『遊馬はどう思っているんだろう?』と考えながら野明は暫くの間、運転を続ける遊馬の横顔を眺めていた。

藤岡のJCTを通り上信越道に入って暫くすると 遊馬が不意にこちらを向いた。
一瞬目が合ったが遊馬はすぐに目線を正面に戻し、「どうした?」と声を掛けた。
「何が?」
「落ち着かないみたいだからさ、気が進まないなら無理せずに帰るか?」
考えていたことを見透かされたような気がして吃驚した。
「あの、違うよ、遊馬。気が進まないなんてそんなんじゃないの。そうじゃなくて、なんか変に緊張しちゃって・・・なんだろうね?」
答えながら、『そうか、私 緊張してるんだ』と納得する。と同時にどうして緊張するんだろう、と不思議に思った。
「嫌じゃないならいいんだけどな、なんか有るならちゃんと言えよ?」
遊馬が自分を気遣ってくれているという嬉しさと くすぐったさが同時に感じられて先刻までとは違う意味でそわそわする。
「うん。ありがとう。でも帰るのは・・・やだ。」と答えると恥ずかしさも手伝って遊馬の顔から目を逸らした。
「了解。じゃ、少し気ぃ抜いとけよ? 緊張が感染るだろ?」
言いながら遊馬が左手を伸ばし髪をくしゃっと撫でる。その心地よさで緊張が解れていく気がして笑顔を返した。
もうすぐ高速を降りる、という頃になって遊馬が『宿に向かう前に買い物に行こう』と言い出した。
『ホテルじゃないから入用なものを揃える必要がある』というので「どこに泊まるの?」と訊いたが楽しげな様子で「行けばわかる」というだけで教えてくれない。
少しむくれると「お楽しみってやつだな」と言いながら額を人差し指で小突き、楽しそうに声を上げて笑った。

高速を降りて着いた先は とても大きな商業施設だった。
「こんなところがあるんだ~」と素直に驚く。ショッピングモールというのは買う買わないにせよテンションが上がる。
「今日は あんま時間ないからざっと要るものだけ買うようになるけどな、明日ゆっくり来ようぜ?」
テナント数が総計200を超える施設では とても一日、ましてやこんな時間にやってきては回りきれよう筈もない。
遊馬とならんで歩きながら 横顔を見上げると 遊馬と目が合ってなんだか擽ったい様な胸がキュンとするような感覚になった。
「えっと、腕 組んでもいい?」と訊くと少し驚いたような顔をした遊馬はそれでも 「どうぞ」といって腕を差し出してくれた。
嬉しくてその腕にぴったりとくっついて歩く。
『こんなことは二課にいるときには絶対出来ないな』、と思わずクスリと笑うと遊馬は「なんだよ?気持ち悪いなぁ」と言って顔を顰めた。

遊馬の指示にそって、ちょっとした食べ物や飲み物などを買い込みならがらショッピングモールを歩く。普段コンビニでお弁当を買うのとは違ってすこしワクワクした。
フロアガイドに一度ざっと目を通しただけで大体の位置を把握してしまったらしい遊馬は迷うこともなく目的の店を効率よく回って買い物を済ませていく。
『こういうところが凄いんだよね』と内心舌を巻きながらついて歩いた。
寝具を扱う店舗に着くと遊馬はワゴンに入った寝巻きをざっと見て「これでいいか」と無造作に一つを選び取った。
「野明もなんか買っとけよ、向こうにないから」
「うん、わかった」
店内を物色しながら ふと遊馬に聞いてみる。
「ね。遊馬ってパジャマ着るんだ? 」
「普段はきねーよ、持ってないし。宿直んときはスウェット着るけどな。」
「持ってこなかったの?ないのがわかってるのなら持ってくればいいのに。」
「予備は二課棟のロッカーの中、使ってたやつは乾いてないの。準待機入ってからずっと出かけてるだろ?」
「あ、そうか。」
「俺はなくても構わないけどね、寮に居るときみたいに下着でウロウロされてもいいなら」
野明の顔を覗き込んでにっと笑うと野明は顔を赤くして目を逸らした。
「・・・それは 困る・・・」
「だろ。で、決まったか?」
「ごめん。まだ」
遊馬の見ていたのと同じようなワゴンを覗きに行こうとしてふと店先に吊るされていたワンピース型の寝巻きに目が留まる。
襟ぐりにフリルをあしらい肌触りのよい生地で出来ている可愛らしいデザインのものだった。
思わず一度手に触れたものの、すぐに手を離しワゴンに向かおうとすると遊馬が声を掛けた。
「気になるなら それにすりゃいいじゃん」
野明は驚いて振り返った。
「こんなの似合わないって!」
「そうか? 取り合えず今日、試してみりゃいいじゃん。高いもんじゃないし。」
ハンガーにつけられているPOPを見るとSALEがかかってる商品で手ごろな値段だった。
とはいえこういう寝巻きを着たことがないので興味半分、羞恥半分で踏ん切りがつかない。
少し考えていると『時間ねぇぞ』と時計を確認した遊馬に急かされる。
「明日もくるよね?」
『気に入らなかったら明日違うのを買おう』と思い遊馬に確認する。
「ああ。明日はちゃんと午前中から見に来ようぜ」
「じゃ 取り敢えずこれにする」
そう言って レジに向かった。

他に数店舗を手際よく梯子して一通りの買い物を終える頃には閉店を告げる音楽がモール内に流れ始めていて二人は急いで車に戻った。
トランクに荷物を詰め込むと遊馬は 「じゃ、宿に向かいますか?」と言って車を走らせた。
国道に沿って暫く走り、脇の小道に入るとコテージの点在する地域に入った。
一軒のログハウスの前で車を止めると、遊馬は「待ってろ」といって車を降りていく。
『ここに泊まるのかな?』と明かりのついたログハウスを眺めていると 遊馬が地図と鍵を手にして帰ってきた。
再び車を走らせて更に国道から離れていくのに不安を覚えて思わず声を掛ける。
「ね、どこまで行くの?」
「もう着くさ」と悪戯っ子のような笑顔で応じる遊馬を訝しむ。
更にもう一度 脇道に入ると間もなく遊馬は車を停止した。
「着いたぞ」といって車を降りた遊馬を追って慌てて車外にでると目の前には外装が木で出来た小さめのコテージがあった。

to be comtinue....

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追記

軽井沢編第二弾は 野明側の出発でした(笑)
話がすすんでませんね(^^;
この先は一緒に行動することになる(筈)ので 両サイド書く事は・・・多分しないと思うんですが・・・・進まないし、話が(笑)
次回の更新は ・・・未定です~。
来週にかかるかも?!

ジンクス

ツッジーさんのところで 『夢は口にすると本当にならない』という話がでていて可愛いモチーフだなと思いました。
何か浮かんだら書いてもいいよ、とツッジーさんからお許しが出ていたのですっごい一場面だけ思いついたので書いてみました(笑)
前後は ご想像にお任せします♪

以下本文。

============
ジンクス
============
当直明けの朝 野明は上機嫌でハンガーに続くタラップを下りる。
丁度出勤してきた遊馬と階段の上下で向かい合う形になり、「おはよう」と声を掛けた。
「おう おはよう!宿直ごくろーさん」
すれ違い様に頭をくしゃっと撫でて訊く。
「何か機嫌いいな。いい事あったのか?」
「ちょっとね」
「へぇ、なに?」
「あのね・・・」といいかけて遊馬の顔を覗き込む。
「・・・やっぱだめ!」
「あ?」
「『夢は人に話すとホントにならない』って訊いたから」
そう言って踵を返す。
「なんだよ、そりゃ」
腑に落ちないって顔をしてこっちを見ていた遊馬は再びタラップを上がり出す。
「そうだ」といって顔だけ振り返ると「知ってるか?希望と目標は口にしないと叶わないんだぜ?」といって口の端を上げるようにして笑うと 背を向けて手を振り歩き出した。

野明が隊員室に入ると遊馬はもう席についていてこちらをちらりと見る。
「で、その上機嫌の原因は?」
遊馬の顔を正面から覗き込み くすりと笑うと野明は答えた。
「・・・恥ずかしいから教えない」

END
==========
追記
野明は何かいい夢見たんですよね。きっと。
なんだったんでしょうか?(笑)

軽井沢編1 出発

見切り発車で とうとう出発!
終着点の見えないまま遂に連載開始です(←遂に連載と公言しましたよ、何回で終わるんだろう?!)
不評でしたら途中で打ち切りも覚悟で(笑)

怒涛の(?!)軽井沢編 スタートです♪

皆様に励まされ アドバイスも戴き、更に途中で別の妄想が炸裂して頓挫していた軽井沢編ですが、悩んでいても筆が進まないので思い切って纏まらなくてもいいや~と始めてしまいました(^^;
今まで以上にまとまりのない駄文ですが暖かく見守っていただけると嬉しいです(笑)

では 以下本文です 

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軽井沢編1 出発
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遊馬が寮に着いた時にはもう12時を回っていた。
流石に平日なので出勤している者も多く寮の中は人気が少ない。
部屋に戻ると 一気に疲れが襲ってきて思わずベッドに倒れこんだ。
昨晩も寝ていないわけではなかったが精神的な疲労感が大きかった。
『このまま少し寝ちまうかなぁ』とも思ったが 『車や宿の手配が先だな』と思い直し勢いをつけて身体を起こす。
大きく伸びをするとPCに向かい検索を始めた。
レンタカーの予約を済ませると宿泊先の検索に取り掛かり表示された連絡先に直接携帯で予約を入れて到着が夜になる旨を告げると電話を切った。
寮の受付に外泊届けを出し、荷物を簡単に纏める。
時計を見ると午後2時を少し回っていた。

軽井沢までなら練馬から高速に乗れば2時間かからない。
電車を利用するなら東京駅から1時間もあれば着いてしまう。
準待機中でも行ける範囲の小旅行としては妥当な距離ということになるだろう。
荷物と手間を考えると車の方が楽だと考え車を手配した。
一通りの手続きを終えて車を受け取ると、野明に電話を入れる。
数回コールした後、野明が電話に出た。
「今から車でそっちに行くけど大丈夫か?」
「うん どのくらいかかる?」
「30分見といてくれ」
「わかった、気をつけてきてね」
電話を切ると遊馬は東雲に車を向けた。

30分もかからずに東雲の寮に着くと野明に電話を掛ける。
程なく野明が大き目のボストンバッグを抱えて寮からでてきたのを確認すると、遊馬も車から降りてバッグを受け取った。
「荷物、これだけか?」
コクリと頷く野明に助手席の扉を開けて『乗れよ』と促し、遊馬はトランクを開けながら声を掛けた。
「これ、後ろで良いよな」
「うん、平気」
荷物を積んでトランクを閉めると運転席につく。
「じゃ、出るぞ。忘れ物ないな?」
「大丈夫」野明が答えると 車はゆっくりと走り始めた。

練馬I.C.方向に車を向けながら 野明に交通情報の検索を頼んで携帯電話を渡す。
こういうものがあまり得意ではない野明は 「どうやって 探すのか判らない」といって携帯をダッシュボードの脇に置くと、ラジオをつけて交通情報を探すことにした。
練馬から高速に乗って暫くすると ハイウェイ・ラジオの電波を捕まえた。
午後3時前の関越道は特に目立った混雑もなく流れは順調で、今のところ上信越道にも目立った混雑や渋滞の情報は上がっていない。午後5時を過ぎる前に首都圏を抜けさえすればスムーズに目的地までつけそうだった。
「碓氷軽井沢I.C.まで ノンストップで一時間半ってとこだな」
「そんなもんで着くの?意外に近いんだ」野明が驚いた顔をしたのを見て苦笑する。
「でないと、準待機中に出かけられないだろ?高速降りてから宿まで30分くらいあるかもしれないけどな」
「そっか、そうだよね。準待機・・・」半ば忘れていたように言う野明に一瞬呆れたような目を向けたが すぐに前に向き直る。
「S.A.寄りたいところあるか?近いから寄らずに行くならそれでも良いけど、この道沿いは結構大きいところがあるぜ」
「えっと。よくわかんないんだよね・・・」困ったように笑う野明に『こいつに訊くのは間違いだよな』と納得して軽く溜息をつく。
「走りながら考えるか」というと「ごめんね」と拗ねたように野明が呟いた。

交通情報通り道路は空いていて50分ほどで関越道から上信越道に入る。
いつになく口数が少ない野明にちらりと目線を走らせると 丁度こちらを見ていた野明と目が合った。
目線を前に戻し声を掛ける。
「どうした?」
「え? 何が?」野明は少し慌てた様子で返事を返す。
「落ち着かないみたいだからさ、気が進まないなら無理せずに帰るか?」
何気なく問う。
無理強いをするつもりはなかったし、昨日の今日で泊まりに出かけるというのも年頃の女性としては複雑なのかもしれないと今更ながらに思った。
野明は少し吃驚した様子でこちらを見ながら焦ったような口調で言う。
「あの、違うよ、遊馬。気が進まないなんてそんなんじゃないの。そうじゃなくて、なんか変に緊張しちゃって・・・なんだろうね?」
「嫌じゃないならいいんだけどな、なんか有るならちゃんと言えよ?」
「うん。ありがとう。でも帰るのは・・・やだ。」最後は聞き取り辛い位小さい声で言った。
その答えに遊馬は少しほっとする。
「了解。じゃ、少し気ぃ抜いとけよ? 緊張が感染るだろ?」
言いながら左手を伸ばし野明の頭をくしゃくしゃっと撫でると野明は「ごめんなさい」と嬉しそうな笑顔を見せた。
.
時計を確認すると午後4時を少し回った頃で碓氷軽井沢I.C.に着くのは午後4時半前後だなと予想を立てる。
「野明、もうすぐ高速降りるけどS.A.寄らなくても平気か?」
「うん 平気。もう着くの?」
野明の質問に 軽く笑って答える。
「宿までは高速を降りてもう少しある。その前にちょっと買い物に行かないか?あんまりゆっくりしてる時間はなさそうだけどな」
「お買い物?いいね。なに買うの?」
「食い物とか あと色々。泊まるのホテルじゃないから細かいもの買っとかないとな」
遊馬は愉しげな笑顔をみせた。
「そうなんだ。どこに泊まるの?」
野明は小首を傾げる。
「行けば判る」
にっと笑って答えると「教えてくれてもいいじゃない?」と野明が少しむくれる。
それを見た遊馬は「お楽しみってやつだな」と言いながら野明の額を人差し指で小突き、楽しそうに声を上げて笑った。
小突かれた額に手を当てて「なんだかなぁ」と野明は上目遣いで天井を見上げると小さく肩を竦めた。

程なく高速を降りると遊馬は車を軽井沢駅方向に向けて走らせる。
15分ほどで大きなショッピングモールに到着した。
「こんなところがあるんだ~」と野明は素直に驚いた。
飲食店を含めると200店舗以上が入っている巨大アウトレットモール。
嬉しそうな野明の反応に遊馬は満足気な笑みを浮かべて車を降りる。
「今日は あんま時間ないからざっと要るものだけ買うようになるけどな、明日ゆっくり来ようぜ?」
「本当に? ありがとう、遊馬」
ぴょんと車から出てきた野明は遊馬のすぐ横に並んで歩きながら見上げるように顔を覗く。
目線が合うとはにかむ様に笑った。
「えっと、腕 組んでもいい?」
予想外の言葉に遊馬は軽く驚いたが「・・・どうぞ」と腕を差し出した。
野明は嬉しそうに自分の腕を絡めてぴとっと寄り添うようにして歩きはじめる。
その様子は普段二課で見かける少年のように元気で溌剌としたイメージとは違い 『女の子』の仕草だよなぁ思う。見慣れない一面をここ2日で立て続けに見たような気がした。
生成りのワンピースを着た野明と二人並んでショッピングモールを歩く。
野明はきょろきょろと店を眺めながら遊馬に問いかけた。
「ね 何が要るの?」
「そうだな、寝巻きって持ってきたか?」
野明が首を振る。
「じゃ 先ずそれだ。それから洗面道具とかは?」
「それは持ってきたよ」
「あとは 食料品だな、飯と酒とお茶、あとつまみも欲しいかな」
そういうと 遊馬はフロアガイドを手にり現在位置を確認するとさっさと移動し始めた。

一通り必要なものを買い揃えて時間を確認すると7時近かった。
閉店を告げる音楽が鳴り始めていて二人は急いで駐車場に戻り荷物をトランクに詰めて車に乗り込んだ。
「じゃ、宿にむかいますか?」
野明の顔を覗き込むようにして遊馬が声を掛ける。
「はい。お願いします」
買い物で上機嫌になった野明は笑顔で応じた。
遊馬は 中軽井沢方面に向かって車を走らせる。
国道を20分ほど行き、脇の小道に入るとコテージが点在するエリアに出た。
明かりの灯る一軒のログハウスの前に車を止めると遊馬は「ちょっとまってろ」といって車を降りていった。
5分ほどで地図の描かれたコピー用紙と鍵を手にして帰ってくると再び車を走らせる。
「ね、どこまで行くの?」
国道から逸れて山に入っていく車に少し不安気な顔で訊ねる。
「もう着くさ」
遊馬は悪戯っ子のような顔で笑い、更にもう一度側道に入ると少し進んだところで車を止めた。
「着いたぞ」
と言うと遊馬はさっさと車を降りる。
野明もあわてて外に出ると目の前には外壁が木で出来た小さめのコテージがあった。

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追記

先ず 軽井沢に着きましたよ~
宿泊先はコテージでした♪
次回の更新は・・・・出来れば今週中くらいには(^^;
間に全く違う更新が入るかも知れないので見やすいようにカテゴリの整理も考えたいと思います(笑)

美しいアザ

MEME様から強奪した美麗イラストに勝手につけた駄文です。
見た瞬間妄想が止らなかったこのイラスト。
先に ASAKI様がステキな小説を公開していらっしゃるにもかかわらず、寛大にもMEME様から思い付きを公開してもいいですよ、という優しいお言葉をいただけたので、調子に乗ってUP!です。
ハイテンション状態で勢いのまま書いてしまったのでイメージを壊していないといいのですが。。。
でも 自己満足度はかなり高いです(笑)

では以下本文

こちらは勝手に MEME様にささげます!!!

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美しいアザ
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映画を見て軽く食事を取る、いつもと同じように遊馬と休日を過ごした夕方。
前から見たかったDVDを購入したという遊馬に 「帰りに取りに来いよ」と声を掛けられた。
遊馬の部屋に着くと 「ほい」といってDVDのパッケージを渡される。
タイトルを確認して「じゃ 借りるね」と言ってバッグにしまった。
「コーヒー飲んでくか?」といって遊馬がカップを手にしたのをみて、「私やるよ」とそばに近寄った。
遊馬の持ったカップを受け取ろうとして手を伸ばす。
遊馬が 「あ、ばか!」といって手を引いたときには遅かった。
中には カップをあたためるために熱湯が既に注がれていて、金属製のサーモカップはかなりの熱を帯びていた。
それに取っ手ではなくカップに直接手を触れたので熱さで手を引いたときにはカップを引っぱる形になり野明は肩口から湯を被ってしまった。
「上着 早く脱げ!」といってカップを流しに放り出した遊馬が慌てて野明のカーディガンに手を掛ける。
一瞬上着を取りかけた野明は はっとしたように襟を合わせて「平気、中まで染みてない」と言ってイヤイヤと首を振った。
「何考えてんだ、ばか!早く冷やさないと痕になるだろう!」といって半ば無理やりにカーディガンを剥ぎ取ると 細い肩紐のキャミワンピースが目に入った。
「あ・・・わりい」
それをみて今の自分の行動が気恥ずかしくなった遊馬は思わず目を逸らす。
「中までは行ってないな」といいながら手近にあった自分のシャツを「羽織っとけよ」押し付ける。
受け取る気配がないので 不思議に思って振り返ると野明は両掌で肩のアザを隠すように自らの身体を抱きしめて俯いていた。
「どうしたんだよ? やっぱ痛いのか?」
肩に触れようとすると 野明はビクッとして身を引いた。
「冷やすもの 用意するか?」重ねて声を掛ける。
俯いたまま首を振るだけで返事を返さない野明を横目にみながら カーディガンを拾い上げハンガーにかけた。
少しの沈黙の後、消え入るような声で野明が呟く。
「やっぱり、いやだよね」
「え?」
「・・・痣・・・」肩を抱く腕に力を込める。「やっぱり 引いちゃうよね・・・」
レイバー乗りに特有のセーフティーガードの痕を掌で隠すようにしながら自嘲気味に笑う。
予想外のことを言われて動きが止まった遊馬をみて野明は言葉を継いだ。
「顔の傷跡より、こっちの方が問題だよね、やっぱ魔性の女に・・・・」なるしかないかな・・・と続けようとしたとき、背中から遊馬に抱きしめられた。
「あ・・遊馬・・?」
「わりぃ 今の態度、気にしたなら謝る。痣を気にしたんじゃないんだ。その・・・服がな。焦っただけで。」
そう言って腕に少し力を込める。
「痣のことなら、俺は気にしない。それにそれは勲章なんだろう?」
遊馬が耳元で静かに話す。
「レイバー乗りの自分には、誇りがあるの。けど やっぱりこの痣は時々辛いなって思う。これでも一応 年頃の女なんだし・・・」
俯き ぽつりと呟く姿はとても儚げに見えて遊馬は野明を抱く腕にまた少し力を込めた。
「そうか。けど 俺はこいつを嫌だと思うことはない。むしろ誇りに思うくらいだ。」
そう言って 肩口の痣に唇を寄せると 野明の肩がピクリと跳ねた。
「これは 俺達の絆だからな」 
「絆?」野明が聞きかえす。
「そう、二課でコンビを組んで今まで、一身同体で歩んできた年月の中で少しづつ刻んできた痕。野明と俺が歩んできた時間の刻印だ」
そう言ってもう一度 その痣に唇を強く押し当てる。
「ちょっと・・やだ。遊馬」
唇の触れる肩口が熱く、背筋にゾクリとする感覚が走る。
思わずその手と唇から逃れようと身を捩ると、遊馬は更に力を込めて野明を抱き寄せ暫しの沈黙の後、耳元で静かに囁いた。
「お前が、野明が欲しいんだ・・・」
全身に広がるゾクっとした感覚と 心臓をキュッと鷲づかみにされるような感覚に野明は思わず固く目を閉じた。

END

===============
追記

この先に行くと思い切り反転しないといけない展開になりそうなのでここまで!ということで(笑)
もし反転をかける内容になるなら もっと自信がつかないと・・・MEME様のイラストに申し訳がたたないので寸止めで(笑)
展開と文章の荒さは そのまま書き出しのテンションの高さなので大目に見てくださると・・・嬉しいです(^^;

お付き合いくださってありがとうございました。
MEME様 ありがとうございます~!!

パートナー

軽井沢編がまったくの白紙で・・・逃げようかなと思ってコミックを眺めていたら風杜さんがいたので遊馬と話をさせてみようとしたら・・・こうなりました(^^;
なんでこんなに面倒になるんでしょうね?
それは 私に素直さが足りない所為かも知れません。
(今までのお話とは全く無関係なお話です)

以下 本文になります。

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パートナー
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今日は出動もなく一日が終了し 退勤時間になった。
お武さんが報告書にサインをして隊長に提出してくると、「さ、今日はもうあがりましょう」と声を掛けた。
皆 口々に「お疲れ様です」といって帰り支度をはじめる。
机の上を片付けた野明と遊馬も「お先に失礼します」と言って隊員室を後にした。
更衣室で着替えを済ませる。
約束しているわけではないが 早く着替えた方が待っているのが習慣になっていた。
先に着替えを終えた遊馬が 壁に背中を預けて野明を待っているとシゲが通りかかった。
「遊馬ちゃん あがり?」
「そ。今日は出動もなかったし」
「・・・泉ちゃん?」更衣室を指しながらシゲが問う。
「着替えるのおせーんだよな」
シゲは にっと笑った。
「その割りに楽しそうよ、遊馬ちゃん?」
「んなことないって」
「そーお? まいいけどねぇ」
軽口を叩いていると 遠くで榊班長の「シゲ!こら どこ行きやがった!!」と言う怒鳴り声が聞こえてきた。
「あ やべ。またね~ 遊馬ちゃん」
そう言ってシゲが姿を消すと入れ替わりに野明が更衣室から出てきた。
ブラウスに薄手のパーカー、ホットパンツという軽装ではあるが色が全体的にパステルカラーで普段のTシャツとジーンズという出立ちとは少し雰囲気が違う。
遊馬の傍に駆け寄ると「おまたせ」と言って歩き始めた。

ハンガーを出て少し歩くと、野明が遊馬の顔を覗き込むようにくるりと回りこんだ。
「ね、この後暇?」
「なんかあるのか?」
「あのね」といいながら デイ・バックの中から一枚のチラシを取り出した。
「これ、行きたいなぁって。関東、初出店なんだって」
それは 汐留に新しくできたパーラーのものだった。遊馬もチラシを覗き込む。
「ふーん 俺 甘いもの苦手なんだよなぁ」というと渋い顔をする。
「じゃ 遊馬はコーヒー飲んでていいから。ね、駄目?」
「こーゆーとこって 女ばっかりだろ? 俺はいいよ」
遊馬は興味がない、とばかりに手をひらひらと振って見せた。
こういうときは もう何を言っても無駄だと経験で判っている。
野明は 諦めたようにしゅんとして、「つまんなーい」と頬を膨らませた。
そこへ 二人の背後から声が掛かる。
「へぇ? そんな店ができたんだね、泉さん 僕とどう?」
吃驚して振り返ると 二人の背後に風杜がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
突然のことに吃驚して野明が固まっていると 遊馬が笑みを浮かべているのに目だけはあからさまに不機嫌な光をたたえて言った。
「風杜さん、来てたんですか?」
「松井さんの付き添いでね。」あくまでも穏やかな笑顔で風杜は答える。
「今日はもう?」
「用事はおわったよ、後は帰るだけだ」といって野明に向き直る。
「ということなんだけど、僕と行かない? 篠原君は乗り気じゃ無いみたいだし。」
「あの・・えっと・・・」と遊馬を見遣る。
遊馬は苦虫を噛み潰したような顔で風杜を見遣り、野明はそれを見てどうしたらいいのか図りかねた。
「このあと時間はある、ということでしょ。泉さん?」
先刻のやり取りを聞いていたのだから 「予定があるんです」という誤魔化しは使えない。
野明が困っていると風杜は更に続けた。
「それとも 篠原君以外とはいきたくない?」
遊馬は 風杜に鋭い目を向けた。
そんな言い方をしたら 野明は絶対断れない。知っていてそう言った事が判った。
案の定、野明は「そういうわけじゃないです」と答えてしまった。
予想していた通りの答えに 風杜は「なら 行こうか」といって野明の髪をくしゃりと撫でた。
それは自分が野明にするものと同じ仕草で。
それを見た遊馬は すごい勢いで野明の頭を強引に引き寄せると聊か乱暴な手つきで髪をクシャクシャにするように撫でると、「行くな」と声を掛けた。
「遊馬?」野明は頭を抱えられたような格好のままびっくりして声をかける。
いつに無く怒ったような顔をして自分を抱え込んでいる遊馬を見て野明は小さく溜息をつく。
「・・・判った。だから離して?」
野明が言うと 遊馬は視線を風杜に向けたまま黙って手を緩めた。
遊馬の腕からするりと抜け出した野明は風杜に向かい合うように立つと申し訳なさそうな顔をして言った。
「ごめんなさい。やっぱり行けないです。」風杜は野明をみて微かに笑うと 遊馬に視線を移した。
やや不満そうな顔をして、遊馬に問いかける。
「篠原君は 一緒に行かないんだよね、その店」
遊馬は風杜から視線を外さずに静かに答えた。
「好みじゃないですね、けど 貴方が野明と二人で行こうとするのはもっと気に入りません」
「なるほど。で、君が連れて行ってあげるのかい?」
穏やかならざる雰囲気に野明が口を挟む。
「あの、いいんです。別の友達と行ってもいいですし。」
「泉さん、僕は駄目で『別の友達』なら篠原君は怒らないと?」
「あ・・・えっと・・・」野明が言葉に詰まると「篠原君と話したいんだ」といって野明を制した。
「改めて訊こうか、篠原君。君が泉さんをそこに連れていくのかい?」
「貴方と行く、というくらいなら俺が行きますよ」
「消極的だね、自分も楽しむつもりが無いなら泉さんに失礼じゃないか?でないと彼女は君に気を使わなくてはいけない」
二人の会話を真ん中に立って聞くことになってしまった野明は居た堪れない気分だった。
『どうしてこうなっちゃったんだろう』と野明が困惑している間にも言葉の応酬は静かに続いていた。
「君は 泉さんの何なんだい?」静かに しかし誤魔化しを許さないまっすぐな目線で遊馬を見る。
「パートナーですよ」遊馬は短く答えた。
「それは仕事上のことだね、プライベートでもそうかい?」
「そんなことを・・・」答える義務はない、と続けようとした遊馬の声に被せるように 風杜は静かに言った。
「僕はプライベートのパートナーになりたい、と思ってるからね」といって野明に目線を向ける。
野明は驚いて目を丸くしたまま、固まってしまった。
その様子を捉えて小さく笑うと、遊馬に目線を戻し言葉を継ぐ。
「仕事の上で君が泉さんのバックアップ、指揮担当としてコンビを組むパートナーだということは理解しているよ、けどそれはプライベートなところまで介入するものではない、と思うんだけど、違うかい?」
「仕事の上のパートナーは俺でも、プライベートでは貴方がパートナーになりたい、とそういうことですか」
「今、そう言った筈だよ?」
「それは 野明が決めることですよ、俺じゃない」
その言葉に野明は遊馬を振り返る。不安気な瞳が大きく見開かれていて今にも泣き出しそうに見えた。
遊馬は野明の瞳をまっすぐに見返すと、ゆっくり風杜に視線を合わせた。
「でも 俺 退くつもりは無いですよ、公私どちらも」
そういうと もう一度野明に向き直る。
「お前は 俺にとって唯一のパートナーだからな」
野明は遊馬を見つめて、やがてこくんと頷くと、風杜を振り返った。
言葉を選ぶようにゆっくりと、しかしはっきりした口調で告げる。
「ごめんなさい、風杜さん。『私のパートナーになりたい』と思って下さって有難うございます。けど 私は風杜さんのパートナーにはなれません。」
そう言って頭を下げた。
「篠原くんのパートナーだから?」
真摯に問う眼差しを受けて野明はきちんと向き合うように答える。
「私が遊馬のパートナーになりたいから。もし望んで貰えるならこの先も共にありたいと思うからです」
まっすぐに目を見て答える野明に風杜は相好を崩した。
「君自身に 面と向かってそういわれるとこれ以上争っても無意味だね」
「はい、すみません」野明は穏やかに笑った。
風杜は野明に向かって頷くと、遊馬に問う。
「君はそれを望むのかい?」
「他に望むものはないですよ」
そう言って野明の顔を見る。嬉しそうに笑顔を返す野明を見て遊馬もまた笑顔を返した。
風杜は「そうか」というと二人に背を向けて「邪魔したね」というと二課棟の方へ戻っていった。
残された野明と遊馬は暫く風杜の去った方を見ていたが やがてどちらからともなく顔を見合わせた。
「帰ろっか?」と声を掛け野明はバス停に向かって歩き出す。
少し後ろを歩いていた遊馬が野明の背中に声を掛けた。
「汐留、寄っていくか?」
野明はきょとんとした顔で振り返ると、「さっき嫌だっていわなかった?」と聞き返した。
「気が向いたから寄ってやる」
頭の後ろで両手を組み目を逸らす遊馬に、野明はくすりと笑う。
「ホントにホント?」
そばに駆け寄って来ると嬉しそうに顔を見上げる。
遊馬が「嘘は言わん」と言うと野明はにっこり笑って「ありがとう」と言った。
遊馬の手首を掴むと軽やかな足取りで「乗り遅れたら寄れなくなっちゃうよ」と言ってバス停まで走りだす。
後をついて走りながら遊馬もまた野明と「この先も共にありたい」と思わずにはいられなかった。

END

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追記

汐留のお店はもう出来てからかなり経ちますが行きたいお店があって其処をイメージです。
本文で店について触れていないので 余計な裏設定なんですけどね(笑)

最後まで 駄文にお付き合いくださって有難うございました(^^)
感想などいただけますと励みになります。

風杜さんの扱いに愛が足りないのは・・・遊馬に注ぐ愛が大きいからです。ごめんなさい~

the after night

ここしばらく気合を入れて描き込む系統の絵を描いていたので反動でものすごい適当に絵を描きたくなりました(笑)
色もいい加減に塗って 線もタブレット直描きにしたら勢いも手伝ってか 意外に可愛く描けました。
先日 書き掛けのお話を設定の都合上 没にしてしまったのでこれに何かつけようかな・・・と思いついたのが 「Irreplaceable」の後日談みたいなものです。
野明の服がアンサンブルから何故かワンピースになっていたり 腰の紐とか袖口の飾りがなくなっているのは・・・ご愛嬌です(笑)
今更書き直すのは無理ですね~
描いたときのテンションが もうない(笑)

というわけで おまけの劇場 無駄に長いのもご愛嬌で(^^;

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the after night
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野明をお姫様抱っこして新宿を歩くこと暫し。
やがて 大通りに出るとこのまま歩くのは人通りの関係で難しくなってきた。
10時半を少し回り 大型店舗の多くが店を閉めても飲食店やゲームセンターと言った娯楽関連の店舗は未だ煌煌と灯りを燈し夜の街に繰り出す人は引きも切らない。
『他人にぶつかりそうだな』と思った遊馬は自分の肩口に顔を埋めるようにして目を閉じている野明に声を掛けた。
「歩けるか? 大通りに出たからさ、ぶつっかちまう」
声を掛けられて野明がパッと顔を上げる。「あ、うん。平気」
言いながら少し名残惜しそうに額を一度肩にコツンとあてる。
「いいか?」言いながら足を支える手をそっと下げると、野明は軽く勢いをつけてぴょんと飛び降りた。
スカートをぽんぽんと軽く叩いて皺を伸ばすと遊馬に預けていたバッグを受け取り肩に掛けた。
軽く促すと 後ろ手を組みながら遊馬の隣を歩き始める。
慣れないミュールの所為なのかそもそも人ごみを歩くのが苦手なのか、何度も他人にぶつかっては「ごめんなさい」とか「すみません」を繰り返している野明に『これじゃ 抱えてた方が良かったか?』と内心溜息をつきながら 「ほら」と言って腕を差し出した。
「摑まってろよ、危なっかしい」
野明が少し戸惑うような顔を見せたので にっと笑いながら「何なら肩とか腰とか抱いてやろうか?」というと野明は「いい」と言って遊馬の腕をとった。
二人で腕を組んで歩く。
「ね どこに向かってるの?」
「東口」
「東口?」
「そ 朝までやってるバーに行こうかと思ってさ」
「そんなところあるんだ?」
「新宿だしな、始発までやってる店は結構多いぜ?」
「ふーん」
「折角 めかし込んでるんだしな。いい店に連れてってやるよ」
遊馬は楽しそうに笑う。
野明は自分の格好をざっと見て「おかしくない?」と遠慮がちに訊いた。
「そんな格好はじめて見たからな、いいんじゃない?似合ってるよ」
意外にさらっと口から出た褒め言葉に言った自分が少し驚いた。
野明は はにかむように笑いながら「ありがと」というと絡めた腕をしっかりと抱えなおした。

東口側に出ると大通りから一本裏手の路地に入る。一軒の雑居ビルの前までやってくると遊馬は地下に降りる階段を躊躇することなく下りはじめた。
「ここ?」野明は地下に下りる薄暗い階段に不安そうな顔を見せた。
「そ。地下にある店なんだ。嫌か?」
「ううん。そうじゃなくて・・・こういう店初めてだから」
落ち着かない様子で遊馬の腕を掴みながら階段を下りると目の前に大きな木の扉が見えた。
遊馬は躊躇うことなく扉を開けるとさっさと中に入っていった。
中は結構広い空間だった。オレンジを基調にした間接照明が品良く配されていてカウンターとテーブル席が並んでいる、雰囲気のいい店だった。
遊馬がスタッフと二言三言やり取りをして 案内されたのは軽い個室風に仕切られたボックス席だった。
野明と向き合うように座ると、「さて、何にする?」といってドリンクメニューを差し出す。
中をパラパラと捲って 野明は途方に暮れた。
酒屋の娘とは言え、カクテルと言うのは守備範囲外だった。
名前を見てもどんなものなのか皆目見当もつかない。いくつかは居酒屋のドリンクメニューでも見たことが有る名前の物もあったが普段 興味を持ってみていなかったのでどんなものか思い出せもしなかった。
メニュー自体はベース毎に大まかに集められているのだが そのベースにしても知らないものが多く並んでいて、それがわからなければどうしようも無かった。
野明は自分で選ぶのを諦めて遊馬にメニュー返す。
「よく判んないや、お願いしていい?」
「いいけど。どんなのがいいんだ?」
「どんなのって言われても・・・どんなのがいいんだろう?」本気で悩んでいる様子を見て遊馬は「飲みやすいとこから行くか」とオーダーをかけた。

程なく野明の目の前にはオレンジ色の液体が入ったフルート形のシャンパングラスが、遊馬には無色透明でライムが飾ってあるタンブラーが運ばれてきた。
「とりあえず乾杯しようぜ」そう言ってグラスを持ち上げる。
野明も慌ててグラスを持ち上げ目の高さでグラスを合わせるとリンっと澄んだ音が響いた。
二人で目を合わせると どちらともなく笑い出す。
「やぁだ 遊馬」「ガラじゃないよな」といってひとしきり笑うと其々のグラスに口をつけた。
「・・・おいしい・・・これ なぁに?」
「飲みやすいだろ?」
「うん、ジュースみたいだね」そういうと 野明はグラスの中身を一息で呷ってしまった。
「あ おい!そんな飲み方するヤツがあるか!」遊馬が止めた時にはもう中身は空っぽになっていた。
「どうかしたの?」不思議そうな顔をして小首を傾げる野明に遊馬は思わず頭を抱えた。
「あのなぁ、それはミモザっていってシャンパンなんだよ、ベースが。喉越しがいいと思ってそんな飲み方すると倒れるぞ?」
「・・・そうなの? 日本酒コップで散々飲んだって遊馬止めないじゃない? 平気だよ、こんなの。」
「カクテルってのは 口当たりや喉越しがいいものが多いけど 結構きくぜ? アルコール度数は日本酒よりも高いのも多いし。気をつけろよ?」
「遊馬 心配性じゃん」野明は楽しそうにくすくすと笑いながら「遊馬、おかわり♪」と言って空いたグラスを軽く振って見せた。
「・・・はいはい・・・」遊馬は諦めたように追加オーダーを出すと自分もグラスに口をつけた。
「ね 遊馬のはなに?」言いながら身を乗り出すようにして遊馬の手からタンブラーを奪うと口をつけた。
「うわ・・・」と少し顔を顰める。「なんか アルコールって味がする。」
「ジントニック」言いながらタンブラーを奪い返す。
「調子に乗ってあとで悪酔いしても知らんからな」
「平気だってば。私 お酒強いもん。こういうところ来たの初めてだから何か楽しい♪」
「そうか? そりゃ良かった」

お通しにあたる乾き物と オーダーしたサラダ他 数点のつまみを適当に食べながら他愛のない話をする。
午前12時を回った頃になって 何杯目かのカクテルを空にした野明が 突然それまでの上機嫌から一変して拗ねたような口調で訊いた。
「ね 遊馬ぁ、遊馬はどうしてここをしってたの?」
「あん? ああ、前に来たことがあるんだ。」何の気なしに応えると野明は しゅんっとした様子で「そりゃそうだよねぇ。遊馬にだって彼女の一人や二人や三人や四人・・・」と言って頬杖をつく。
ペースを加減しながら飲んでいたため左程酔いのまわっていなかった遊馬は野明の様子を見て「おい、酔ったのか?」と心配そうに訊いた。
遊馬の声が全く耳に入っていないらしく野明は「だからカクテルとかにも詳しいんだ」と言いながらテーブルに顔を伏せる。
遊馬が呆れたような顔をして「おい、本当に大丈夫か?」と声を掛けると野明は「平気だもん」と呟いてそっぽを向いてしまった。
いきなり情緒不安定になった野明を前に 『さて どうしたものか』と考えていると不貞腐れたような顔をした野明が口を開いた。
「他の子ともここでこうやってお酒飲んだんだ?」
「は?」
「今みたいに親切にしてさ」ちょっと傷ついたような顔でポツリと言う。
「何言ってんだ、お前?」何のことを言われているのか判らずに遊馬が首を傾げる。
少し考えて、「あ そうか。もしかして前に来たのが誰か、って勘ぐってる訳か?」と訊ねた。
野明が答えないので、『説明が足りなかったか』と思い言葉を継ぐ。
「前に来たのは昼間。ここ昼はカフェとして営業してるんだ。来たのは都庁の帰りで 隊長と松井さん、風杜さんと俺の4人。気になるなら訊いてみるといい。」
顔を覗こうとしたがそっぽ向かれているので表情が見えない。思わず苦笑する。
「夜来たのは今日がはじめてだよ」
「・・・ホントに?」
「本当。ちなみに此処に皆を連れてきたのは風杜さんだ」
野明は拗ねたような目をしたまま少し顔を上げる。顔に赤みが差していて酒がいくらかまわってるな、と一目でわかった。『飲むペースが早すぎるんだよ』と思ったが口には出さなかった。
野明は「その4人で?そうなんだ~」というと両手で顎を支えるようにして顔を上げると軽く目を閉じたまま続ける。
「女の子ときたわけじゃ なかったんだ」幾分ホッとした声に聞こえた。
「なんだよ それ、妬きもちか?」と冗談交じりにいうと野明は少し考えるように小首を傾げ「そうなのかなぁ? 良くわかんないや」と呟いた。
まさかそんな返事が返ってくると思っていなかった遊馬は少し驚いて 逆に聞き返してみた。
「お前こそ そんな感じで合コンに参加してるわけか?」
「え? まさかぁ 今日はね 特別なの。合コンとか行かないもん。」
「ふーん で、何が特別だったんだ? その格好」 
今日一番の関心事といっても過言ではないその理由を訊く。
「これ?」野明は自分を指差して遊馬の顔を見る。
遊馬に「そう、それ」と言われて、まじまじと考える。
メイクと服は緑がしてくれたのよね。で なんでこうなったのかって・・・・
思い出して野明の顔に朱がのぼった。
どうしよう、『遊馬に女の子扱いして欲しかったから』だなんて、こんなこと言えない。絶対無理だ。
その様子を見ていた遊馬が怪訝な顔をしている。
そこで野明の口から出た言葉は「・・・恥ずかしいから 教えない」だった。
「なんだそりゃ?」遊馬は拍子抜けしたように言うとそれ以上追求するのをやめた。

空になったグラスを両手で持ちながら野明が「おかわり欲しい」という。
遊馬はその様子を見て「まだ飲むのか?」と言ってグラスをひょいと取り上げた。
「なんだか ふわふわして とってもいい気持ち」
遊馬は頬杖をつきながらそれを眺め、「それを称して酔っ払いっていうんだよ」と笑った。
「酔ってません」
そう言ってテーブルの端に手を掛けて立ちがると益々ふわふわした。
「おい、気をつけろよ」遊馬が慌てて立ち上がる。
「へーき♪」と言って遊馬の傍に近寄ると ぽすんと遊馬の胸に倒れこんだ。
「遊馬のにおいがする」といって嬉しそうに背中に手を回す。
予想外の行動に吃驚した遊馬は思わず天を仰いで、「勘弁しろよ、酔っ払い」と言いながら溜息をつき 手のやり場に困って右手で自分の顔を覆った。
立っていても仕方がないので野明を抱えたまま腰を下ろす。
不意に自分にかかる野明の重さが増した気がして慌てて「おい、野明?」と声を掛けたが返事がない。顔を覗き込むと 無防備な顔ですーすーと寝息を立てて眠っていた。
「野明 起きろ。こんなとこで寝るな」
肩をゆすっても耳元で「起きろ」と言っても起きる気配がない。
時計を確認すると0時半をすこしまわったところだった。
「・・・どうしろって言うんだよ・・・」遊馬は思わずため息を吐いた。

今から東雲の寮に連れて帰るには電車がない。野明を送ったあと自分が寮に帰れなくなるからだ。
かといってタクシーでまわるのも距離がありすぎる。
今が4時とか5時ならこのまま肩を貸してやってもいいのだが4時間以上は双方に負担が大きすぎた。
カラオケボックスとかまんが喫茶みたいなものに移動することも考えてみたがカラオケは2人で入っても野明を横に出来るだけの空間がある部屋には入れそうにないことは明白だし、まんが喫茶にいたっては治安の問題からもこんな状態の野明をつれて入る気にはなれなかった。
裏通りに行けば場所柄 イカガワシイ宿泊施設が軒を連ねているのは判っていたがこれだけ無防備に寝ている人間を喩え手を出す気がないにしても合意なしに連れて行くのは気が引けた。
結局 携帯電話でシティホテルの検索を掛けて部屋を探すことにする。
首都圏のシティホテルは空室の稼働率を上げるために深夜になっても空室が残っている場合、特定の方法でリザーブすると格安で素泊まりできるプランを持っているところが多い。そういうのを纏めて扱うサイトが携帯電話やコンビニの端末にあるのだが、以前作業が深夜にかかった時に面白半分で携帯に登録していたのを思い出した。
野明を片手で支えて携帯を操作し、此処から10分ほどのシティホテルに部屋を見つけた。
どうしたものかと もう一度野明の顔を眺めて「起きろよ」と声を掛けて肩をゆすってみたが反応は無かった。遊馬は大きく息を吐くと「決定」のリンクをクリックして部屋をとると野明と荷物を器用に抱えて店を出た。

とりあえず 部屋に着いたものの起きる気配のない野明をそっとツインベッドの一つに横たえて軽く肩を回すと一旦部屋を出た。
一階にコンビニが併設されていたのでそこに降りて白いTシャツを手に取った。
野明の服のサイズが良くわからなかったので取り合えず自分に合うものを2枚買って部屋に戻る。
暢気に寝息を立てて寝ているのを確認するとタオルとガウン、寝巻き代わりの浴衣、買ってきたTシャツを掴んでシャワーを浴びてくることにした。
熱めの湯を浴びながら思い切り溜息を吐く。
無防備にも程がある、最初に飲み方に気をつけろってあれほど注意したのに。
今までだって居酒屋で飲み明かすようなことがあっても野明が先に潰れることなど無かった。
とはいえカクテルはベースが日本酒のものはあまりないので野明は日本酒と焼酎以外にはあまり強くないのかも知れないと思った。
何れにせよこのことは他の男に知られたくないなぁとぼんやりと思う。
歯も磨いてできることをとりあえず終えると Tシャツの上に浴衣とガウンを羽織り部屋に戻る。

このままにしておくと服が皺になりそうだな、と思って寝ている野明を起こしにかかった。
「野明 起きろ」軽く身体をゆすると寝返りを打つようにコロリと転がったが起きそうには見えなかった。
仕方なく先刻コンビニで買ってきたスポーツドリンクのボトルを首筋にピタっとくっつける。
「きゃぁっ!」と悲鳴を上げて野明が目をあけた。
やれやれ、と溜息を吐くと「起きたか?」と声を掛ける。
野明はまだぼんやりしているのか 軽く頭を振ると半身を起こし「あ おはよう、遊馬」と普通に挨拶をした。
「おはよう、じゃないの! 状況、理解してるか?」
「へ? あ、うん。・・・・ってここどこだっけ?」
焦点の合わない瞳でぼんやりと周りを見てそれから 困った顔をしている遊馬に目をとめる。
「ここは ホテルの部屋だよ。店で寝ちまうからここに連れてきたの」
騒ぐだろうなぁと思って見ていたが反応は意外なほど素っ気ないものだった。
「・・・そうなんだ。ごめんね、迷惑掛けて」野明は 素直に謝ると床に下りようとした。
慌てて遊馬が手を貸すと 足がふらついてまた遊馬に寄りかかった。
「大丈夫か?」
「うーん、自信ない。こんなにふわふわした感じがするの初めてかも」
「酔っ払い」
「ごめん」といいながら遊馬の腕を放して歩こうとしたが「いいから 座ってろよ」といわれて再びベッドの淵に腰を掛けた。
遊馬はさっきのペットボトルを手に取ると「飲めるか?」と言って差し出す。
野明はコクリと頷いてペットボトルを受け取るとゆっくりと喉に流し込んだ。
半分ほど飲んだところで 少し落ち着いたのか目の焦点が大分合ってきた。
「気分どうだ?」
「えっと ふわふわしてるけど 悪くはないよ?」
「頭は? 痛くないか?」
「うん なんかぼーっとした感じはする。でも、ガンガンしたりはしてない」
「そうか」と言いながら頭をクシャクシャと撫でると時計を確認する。もう2時前だった。
「な、その服、吊るしとかないと皺になるぞ。着替えてこいよ」
そういうと 浴衣とガウン、それにTシャツとタオルを野明に押し付ける。
「シャツはデカイと思うけどな、ないよりあった方がいいだろ? ついでにシャワー使って目を覚まして来い」
そういうと遊馬は部屋の奥側に配置されたベッドに向かった。
野明は手の中の着替えと遊馬を見比べて 「ありがとう」というと大人しくバスルームに向かった。

遊馬は 奥のベッドに胡坐をかいて座るとTVを見るともなしに眺める。
『もっと騒ぐかと思ったんだけどなぁ』と野明の反応にホッとしたのか拍子抜けしたのか。
場馴れしてるってことでも無いんだろうけどなぁ、そんなことを考えているうちに野明が部屋に戻ってきた。
着ていた服をハンガーに掛ける様子を見て声を掛ける。
「目 覚めたか?」
「大分ね。」
遊馬の傍に座ると「本当にごめん、迷惑掛けちゃった」と申し訳なさそうな顔をした。
「これに懲りたら あんな無茶な飲み方するなよ?」
「反省してます」
「なら、よし。 ところでさ、野明、驚かないんだな?」
「なにが?」きょとんとして聞き返す様子に惚けている感じはなかった。
「普通さ、寝てる間にホテルに連れ込まれてたらもう少し焦りそうなもんだけどな?」
頬杖をついて野明を見遣る。
野明は口元に手を当てて少し考えてから「そうだよねぇ」としみじみ呟いた。
「普通に 『おはよう』は無いよな、いくらなんでも。」
少しの沈黙の後、「うん 変だよね。でも・・・」と考えながら言葉を選ぶように続ける。「連れ込まれた、とかそういう危機感 感じなかったんだよね。今もそうなんだけど。」というと困った顔で遊馬を見た。
遊馬は天井を仰ぐと大きく溜息をついた。
「お前ね、仮にも年頃の娘がそんな無防備でどうするんだよ? 相手によっては無事ですまない事もあるんだからな」
呆れたような口調で言われて野明は しゅんとした様子で小さく呟く。
「だって 遊馬なんだもん」
「あ?」
「遊馬がそうした方がいいって判断して連れてきてくれたんでしょ? だったらそれが正しいのかなぁって」
思わず野明の顔をまじまじと覗き込んでしまった。
「正しいって、そういうもんか?」
「遊馬のこと信じてるし。色々考えてくれた結果がここなんだったらそれでいいって思ったのかなって、今思った。」
「今?」
「そ さっきはそういうことまで考えてなかったんだけどね。遊馬の判断を無条件に信じてるんじゃない? だから不安がないっていうか・・・遊馬が言うなら大丈夫って・・だから 目の前に遊馬がいて逆に安心しちゃったんだよね、きっと。」
叱られた子供みたいな顔して言う野明に「その結果が 『おはよう』か?」と言うと遊馬はやれやれと肩を竦めた。
「全面的な信頼を頂けるのはありがたいんですけどね、少しは考えろよ?一応 俺だって健康な成人男子だし?」
言われて野明は改めて自分と自分の周囲に目を配る。
「あ そうか、そうだよね。」急に状況が飲み込めてきたのか顔が真っ赤になってきた。
「今頃赤くなるなよ、迂闊なやつ」
「あの、えっと・・・」急に慌て始めた野明を見て『やっと頭が回ってきたみたいだな』と呆れ半分で様子を見る。
よっと声を掛けて ベッドから降りるとコンビニの袋から水を取り出し「飲むか?」と声を掛けた。
野明がブンブン首をふったので黙って一気に1/3ほど飲み干すとボトルをナイトテーブルの上に置き、ついでに時間を確認する。
「さて、ともう3時前だな。折角 ベッドのあることまで来たんだから少し寝とけよ?」
言うと遊馬は2台のベッドを示して野明に「どっち使いたいんだ?」と訊いた。
最初に寝かされていたほうと、今座っている方。
野明は少し考えて「そっちにする。」と最初にいた方に慌てて移動した。
「焦んなくていいから ゆっくり動けよ?」そういうと自分は空いた方のベッドに腰掛ける。
各々 寝る場所が決まると遊馬はシーツを引き寄せてごろんと横になった。
野明も同じように横になりながら遊馬の様子を心配そうに伺う。
視線を感じで振り返ると不安気な顔をした野明と目が合った。
肩肘をついて頭を起こす。
「安心しろ。手ぇ出したりしないって約束してやる」
「うん。」返事をしながら野明は複雑な顔をして見せた。
「信用できない?」
「そうじゃなくて・・・」と野明が言い澱むと遊馬はすいっと目線を外して言った。
「言い訳するのも、されるのも御免だからな。こういう時に手は出さん。判ったらさっさと寝ちまえよ? 俺も寝る」
そういうとそのまま目を閉じてしまった。
野明はその様子をみて「うん、おやすみ 遊馬」といって同じように目を閉じた。

翌朝 野明が目を覚ますと遊馬はぐっすりと眠っていた。
時計を見ると7時を少し回っている。
お酒の匂いが残っているような気がして、もう一度シャワーを浴びようと掛けておいた服を取りに行き 部屋のゴミ箱に気がついた。
中には Tシャツが入っていたと思われる袋が2つ無造作に捨てられていて、野明は今自分が着ているTシャツは遊馬が買って来たという事に改めて気がついた。
『ないよりいいだろう?』といって無造作に手渡した遊馬を思い出し、ここの寝巻きが浴衣であったことに思い当たる。その気遣いに思わず笑みが零れた。

シャワーを浴びて軽く化粧を施して部屋に戻ると 遊馬は起き上がってTVを見ていた。
「おはよう 遊馬。」と声を掛ける。
遊馬は「おう」と短く返事を返すとベッドから降りてズボンを手に取ると「俺も浴びてくるわ」といってバスルームに向かった。
遊馬のいたベッドに腰掛けるとTVを眺める。
遊馬のいた辺りはまだ少し暖かくて野明はぽすんとそこに倒れこんだ。
結局 遊馬は宣言どおり野明に一切手を出すことなく夜があけた。
それにホッとしたのか、残念に思ったのか自分でも良くわからなかったが何かあったら今ものすごく気まずかったのかなと思うと やっぱりこれでよかったんだ、と思えた。

暫くそのまま目を閉じていると 頭の上から遊馬の声が降ってきた。
「こーら、二度寝するとチェックアウトに間に合わなくなるぞ」
見上げると 遊馬はTシャツにズボンを身につけて苦笑していた。
時計は8時半を少し回っていて 「チェックアウトって何時?」と訊くと「10時」と短く答えて遊馬はベッドの上に胡坐をかいて座った。
身体を半分起こして 見上げると目線をおとした遊馬と目が合った。
「化粧 したんだ?」
「緑みたいに上手く出来ないんだけどね」照れくさくなって笑う。
「それは練習次第だな」軽く笑うと「いいんじゃね?」と言って髪を撫でる。
その手はとても心地よくて思わず目を閉じると遊馬は呆れた声で「本当に無防備な奴だな」といって頬に手を添えた。
ファイル 21-1.jpg
「こんなこと 今回だけだぞ?」そう言って苦笑する。
「こんなことって?」思わず聞き返すと まっすぐに目線を合わせて遊馬が言った。
「次 同じような事が有ったら手を出さない保証ないからな。」
眉間に皺を寄せて小さい子供に注意するように言われてしまった。
「はい、以後 気をつけます」思わず 神妙に返事をする。
「よし。じゃ 出る準備するかな」と言って大きく伸びをすると遊馬は洗面所に向かった。
その後姿を見ながら野明は何となく幸せだなぁと思った。
用意を終えた遊馬が野明に声を掛ける。
「な この後どうする、寮に帰るか?」
少し考えて「やっぱ洋服は着替えたいかな」というと、遊馬は「だよな」と頷き「じゃ帰るぞ」といって手を差し出した。

ホテルをでて駅に向かって歩く。
「準待機って あと4日だっけ」野明が話しかけた。
「ん? そうだな」
野明は 少し考えると小さな声で言った。
「ね、もう少し一緒に居ていい?」
遊馬は軽く目を瞠る。
「いいけど、一旦帰るんだろ」
「うん、一度着替えてその後ね」
「どっか行きたいとこあるのか?」
「う~ん どうしようかなぁ」
嬉しそうに話す野明を見て遊馬が提案する。
「軽井沢、とかどうだ?」
「この後?」
「そ、四日あるし」
「四日?」
その言葉の意味を考えて泊まりの旅行ってことだと気付いてドキッとした。
「遊馬、さっき 行動に気をつけろって言わなかったっけ?」
一度気付くとドキドキして顔を見れない。
「だから、確認とってんだろ?」楽しそうに遊馬は笑う。
「・・・そーゆーのは 彼氏と行きたい」野明は顔を赤くすると目を逸らした。
「俺も彼女と行きたいけどね。で どうする?」
逸らした顔を追うように野明の顔を覗く。野明は視線を外すようにして答えた。
「・・・彼氏が出来たら考える」
遊馬はにっと笑って耳元で囁いた。
「じゃ来いよ、彼女にしてやる」
言われて心臓がキュッと縮まる感じがした。
「・・・・偉そうなんだから」
わざと大きな溜息をついた。少し黙っていると「で、返事は?」と悪戯っ子のような目で遊馬が返事を促す。
恥ずかしくてそっぽを向いたまま「・・・あとで迎えにきてね・・・」と小声で応じた。
それを聞くと遊馬は悪戯っぽい笑顔のまま続けた。
「了解、あ そうだ、『手を出さない保証はしない』からな?」
吃驚して顔を上げると目線があう。
野明は「そういう事いう?」というと遊馬の腕に額をつけたまま暫く顔を上げられなかった。
顔を真っ赤にしている野明を見て遊馬は声を上げて笑った。

END

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追記

無駄に長い割には うちの遊馬は結局手が出せませんでした(笑)
次回は 少しは手が出せるのか?
別に続く予定は無いのですが(笑)
結局 軽井沢に行ってもあんまり進展がなさそうなのが さくらのとこの遊馬です(^^;
長いおまけ駄文にお付き合い有難うございました~

旅立つ日に

本当は季節を考えると9月末にUPするように企画をあたためておくほうがいいのかも知れないのですが そんな事すると忘れてしまいそうなので勢いでUP!

ネタは 第二小隊が解散して埋立地を離れる日です。
ザザッと書いてそのままなので あとでこっそり加筆訂正するかも知れないです(^^;

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旅立つ日に
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二課棟の備品庫で野明と遊馬は片付けに追われていた。
「野明、そっちおわったか?」
「う~ん あとちょっと。遊馬は?」
「こっちは もういいかな、あと隊員室、片付けないとな」
そういうと 遊馬は 「よっ・・」と言いながら軽く肩を回す。
野明は 「よいしょっ」と声を出しながら棚の一番奥にあった段ボール箱を引っ張り出して机にのせようと持ち上げた。
その途端、箱の底が抜けてバサバサっと書類が床一面に広がった。
「おい、何してんだよ、大丈夫か?」
そういいながら、遊馬は傍に来て散らばった書類を集めはじめる。
箱の底を確認して「ダンボール壊れてたんだぁ」と言いつつ、野明は手近にあった一冊を手にとりパラパラとページを捲った。
「これ 日報だね、懐かしいなぁ」ざっと眺めて 目を細める。
「そうそう、最初の出動って 上野だったんだよね」
「ん? そうだな、3年前のか。」そういいながら 遊馬もちらりと覗き込む。
野明の字で書かれた出動記録。
まるで 『小学校の作文のようだ』と後藤隊長に言わしめたその日誌は3年半近い年月を経て紙が少し黄ばんでいた。
「そんなん読んでたら 今日中に終わんないぞ。」そう言って散らばった書類に手を伸ばし「今 読んだら恥ずかしいと思うけどな」と遊馬は笑った。

カチャリを音がして扉が開くとひろみちゃんが顔を覗かせる。「泉さーん、新型機きましたよ」
「イングラムの見送りせんでいいのかー」太田もハンガーから大声で二人を呼んだ。
「今行くー!」返事をして 遊馬と一緒にハンガーに向かった。

搬入されてくるヴァリアント、そしてキャリアに搭載されシートを掛けられたイングラム3機が簡単な手続きのあと 篠原重工の人たちに引き渡された。
ゆっくりと 動き出すキャリアに後藤隊長以下 全整備班員と第一小隊を含む特車二課全員が無言のまま万感の思いを込めて敬礼を送る。
キャリアの姿が完全に見えなくなるまで誰一人微動だにせずその場に立ちイングラムを見送った。

「いっちゃったね」ぽつりと野明が呟くと遊馬は無言で野明の髪をくしゃっりと撫でた。
野明はその掌の温かさを感じ同時に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
すぐ後ろでは榊班長の号令の下、整備班が搬入されてきた新型機の初期設定と調整に慌しく動き始めている。
熊耳が皆に、「さ、早くかたづけてしまいましょう」と声を掛け隊員室に向かって踵を返しそれを追って太田、進士、山崎が屋内へ入っていった。
「さ、行った行った」と後藤隊長に促され、野明と遊馬もまた備品庫に戻ってきた。
床に散らばったままだった日報の束を集めながら野明はなんともいえない喪失感と寂寥感に苛まれていた。

2001年9月28日金曜日。
今日でここに出勤するのは最後になる。
10月1日付けで 装備開発課に移動、そのまま篠原重工に出向することが決まっていた。
遊馬も同じ部署に移動して同様に篠原重工に出向する。
同じ部署のパートナー同士がセットで同じ所に移動出向する。こういう人事は異例だと思う。
野明はテストパイロットとして乞われる形で、遊馬はデータ解析要員として。
どちらも得難い優秀な人材で貴重な実戦経験者だ。しかし 警察という組織はあまりそういうことに価値や効率を見出さないところなのでこの人事には 篠原側なり後藤隊長なりの尽力があったであろう事は想像に難くなかった。
また遊馬と同じ職場に居ることが出来る。
それは野明にとって心強いことであることは確かだ。
しかしイングラムから降りて現場に出ることが無くなった野明は遊馬にとって『パートナー』で有り得るのか。
イングラムと共に埋立地を出て行く98式指揮車を敬礼しながら無言で見つめていた遊馬の横顔を見たとき野明は改めてそのことを考えた。

ZEROが配備された時、イングラムに対して後悔の無い様に使おうと決め、心の準備をして来たつもりだった。だから イングラムが八王子に帰り、ヴァリアントを迎え入れることになったそのことに拘りはない。自分もまたここを同時に離れることになったのだがそれも公務員である以上、配置転換というのは起こりうることでそれついても納得しているつもりだった。
にもかかわらず、遊馬と『パートナー』でなくなる自分、というのを想像したことが無かった。
初任からコンビを組んで 事ある毎に口にしていた「フォワードとバックアップは一心同体!」という言葉。それは野明の不安を和らげようと遊馬が言い出したことだった。
しかしそれがある種の呪文のように二人の間に浸透していくと強くなった絆の分だけ離れがたくなっていたのも事実だった。
遊馬の気が荒れて一時期、コンビを解消された時のどうしようもない不安感を今でも覚えている。
熊耳の指揮に不満があるわけではなかった。至れり尽くせりで作業としての効率はむしろ高かったのかもしれない。それでも遊馬の指揮を受けるときの安心感と信頼感に勝るものは無かったのだ。
イングラムを搬出した今、その遊馬と『パートナー』として出動する事はもうない。
そう思うと 心にぽっかりと大きな穴が空いた様な気持ちになった。

日報を集める手が自然、遅くなっていたのだろう。
日報を殆ど1人で拾い終えた遊馬は野明が手にしていた分も取り上げると軽く端を揃え新しく作ったダンボールに入れなおす。
側面にマジックで 『特車二課第二小隊 日報1998.4~』と記入し「ま、こんなもんだな」といって軽く蓋を畳んだ。

遊馬はイングラムを見送った後、すっかり元気のなくなった野明を見て軽く息を吐き話しかけた。
「寂しくなったか?」
「え?」
「イングラム見送ってさ」
一瞬見透かされたのかと思った。けど聞かれたのはイングラムのことだったので野明は小さく首を振った。
「後悔しないように乗ったから、それは平気。ただね、もう 終わったんだなぁって」
自分に語りかけるように軽く目を伏せて考えながら口を開く。
「終わった?」
「そう。ここでの私の仕事は全部。終わったんだなぁって思って」
遊馬は黙って野明を見ていた。その顔は少し困ったような、訝しむような表情で、けれどそれはどこか優しい遊馬らしい顔だと思った。
暫く俯きながら考えたあと胸の前で手を組むようにして一呼吸置くと野明は言葉を継いだ。
「遊馬」
顔を上げまっすぐに遊馬を見る。
「いままで本当にありがとう。私 遊馬とコンビを組めて良かった。遊馬が指揮を執ってくれたから 今日までフォワードでやってこれたんだと思う。3年と半・・・になるのかな。お世話になりました。」
そう言って ぺこりと頭を下げた。
遊馬は少し驚いたような顔をしたがすぐに「どうしたんだよ、急に?」と心配そうに野明の顔を覗き込み俯いている野明を見て静かに呼びかけた。
「おい、野明?」
返事を返さない野明を見ながら 困ったなという顔をして頭を掻くと遊馬は続ける。
「なにも今日でお別れ、って訳でもないだろう? 少なくとも俺達二人は同じ場所に移動が決まってる。知ってるよな? イングラムだってデータ収集用の実験機になるだけで八王子に行けばいつでも見れるさ。・・・何がそんなに不安なんだ?」
野明の頭をくしゃくしゃと撫で、泣きそうな顔をしたまま黙って俯く野明の肩にそっと手を添えた。
「野明?心配要らないさ、ちゃんと一緒にいてやる」そう言って顔を覗き込んだ。
野明は下を向いたまま「もう フォワードでもバックアップでもなくなっちゃったのに?」と小さな声で呟くように言うと涙を零した。
気にしていたのはそこなのか、と遊馬は少し驚いた。
イングラムの事でも、移動先のことでもなく野明をこれだけ落ち込ませていたのが自分との関係だと思うと意外な気がした。
軽く笑って野明を自分の方に向き直らせると、静かな声で語りかける。
「ばぁか。何言ってんだ、野明は俺のパートナーだろ。」
「でも・・・」
「でもじゃない。それとも嫌なのか?」
野明は慌てて首を振った。少し不安が残る目で遊馬の瞳を見返す。
「フォワードじゃなくても?」
「フォワードじゃなくても。初任からコンビ組んで3年半、そんなに信用無いか、俺?」
野明の瞳をじっと見る。不安に揺れる大きな目。
「いいの? まだ『パートナー』で居ても?」
「当たり前だ、他に誰がいるんだよ? わかったら泣くのをやめる! 太田辺りに見つかると『泉に何をした!?』だのってうるせーからな」
野明の額を人差し指で軽く突付くと にっと笑った。

野明が落ち着くのを待って隊員室に戻るため備品庫の扉を開けようとした時、遊馬はふと思いついて足を止めると野明に向き直った。
「なぁ」というと 軽く笑って手を差し出す。
ファイル 17-1.jpg
野明が不思議そうに見返すと 「手、出せよ」と言った。
言われるままに手を出すと、その手を遊馬がしっかりと握る。
そしてこう言った。

「なかよくやろう」

遊馬は悪戯っ子のような目で野明を見る。『おぼえてるか?』と目で訊かれる。
思い出す、初めて隊長にポジションを告げられたときのこと。
思わずくすっと笑いながら野明は応えた。

「どーやって?」

二人で顔を見合わせて笑う。
「しっかりやろうぜ、相棒」
遊馬が背中を軽く叩くと野明は嬉しそうに笑いながら「よろしく」と応じた。

二人連れ立って隊員室に戻ると皆がそれぞれに自分の机を片付けていた。
二人の姿に気づいた太田が声を掛ける。
「おう、向こうは終わったのか?」
「うん、終わったよ」
「あとは机ん中だけだな」言うと遊馬は徐に紙袋を取り出し適当に中のものを放り込み始めた。
「遊馬ぁ そんな風にするとあとで大変だよ?」
「んなことは あとで考える。まずここを空にするほうが先だろ?」
野明は溜息をつくと自分の机の整理に取り掛かった。
3年半の間に 徐々に増えていた私物をより分ける。
「ね、遊馬 カメラもってない?」
「今か?」紙袋にぽんぽん物を入れながら遊馬が顔を上げる。
「あとでさ、皆で記念写真撮りたいなぁって」
「ふーん 鞄に入ってる。後で隊長たちにも声掛けるか?」
「そうだね」
そう言って野明が皆を見回すとそれぞれが笑顔で頷いた。

就業時間まであと30分。
埋立地を離れる時間が近づく中、帰りに皆で飲みに行きましょう、と進士が提案した。
記念撮影が終わった後、反対する者などなく皆でここに揃う最後の日の夜を居酒屋で飲み明かした。
また必ず皆で会いましょうと約束をして、それぞれが埋立地に別れを告げる。

10月1日からは それぞれが新しい場所で仕事につく。
それでも ここで出会った人たちはかけがえのない仲間できっと折に触れて連絡を取るだろう。
その時 昔話に花が咲くのだ。キラキラ輝く夏休みのようなあの3年半について。

end

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追記

ドラマCDの日報編を聞いていたら 埋立地を離れる日のお話が出てきました。
この回の野明と遊馬のやり取りが軽妙でとても好きだったので ここから何か広げたいなぁと妄想すること2日。
握手する二人の絵を落書きしたことでここに強引につなげてみました(笑)
この絵 実は自分が結構気に入ってしまいましてこれをネタに2,3本 妄想が膨らみつつあります(^^;
気が向いたら書くかも知れません。

Irreplaceable

このお話は先の三作品
「ガールズ・トーク」
「心を占めるもの」
「歩速の選択」
の目線違いのお話になります。

先の三作は野明側からを中心にした目線になっていてこちらは 遊馬側を中心にみた形になります。

teraさまから パウダールームにいた間、座敷はどうなっていたのか興味があります、というお言葉を戴きそれならば、と思って書きはじめたのですが・・・
思ったより大変でした。
あったんですよ、最初は描写が。
ただ本文全体が長かったので割愛したんですけど。
単独で紹介できるほどのネタでもなかったので少し広げてみようとしたら、最初に書いてしまった話の展開と時間軸に結構縛られるので思った以上に苦労しました(^^;
よく一つのお話を視点をかえて書かれる方がいらっしゃいますがそれって凄いことなんだな、と痛感(T∇T)
辻褄を合わせるために文章と展開が自分でも不自然かなぁと思うところも多々ありますが・・・
そこは初心者ということで大目に見てくださいね(^^;

こんなんでいかがでしょう?(笑)

以下本文です

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Irreplaceable
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今日は 朝から定期健診だ。
今回は人間ドックを含むので 昨夜から食事も制限され、夕方まで病院に缶詰。
いつもなら 野明と一緒にぶらぶらしているのだが今日は一日別行動。
付き合っているわけではないので それが普通といえばそうなのだが一緒にいる時間が長い分いないと何となく物足りなさを感じる。病院 特にこういう検査の時はとかく待ち時間が長いのだ。病院内ゆえに携帯電話で暇をつぶすことも出来ず かといって指定されている待合所を離れるわけにも行かない。
お仕着せの検査着は糊が効き過ぎてお世辞にも肌触りがいいとは言えないものでこんなものを着て一日過ごすのは結構苦痛だった。
『あいつがいたら少しは気がまぎれるだろうに』そう思うとますます退屈に拍車がかかり思わず はぁーっと大きく息を吐いた。
「篠原、彼女がいないと退屈か?」一緒に健診に来ていた小池が頬杖をつきながら訊いた。
「ばぁか、んなことねぇよ。第一 彼女って誰だよ?」同じように頬杖をつきながら訊き返す。
「誰って・・・泉さん。いつも一緒だろ?」
「パートナーだからな、付き合ってるわけじゃない」言いながら思い切り伸びをすると間接がコキコキと子気味のいい音を立る。
小池は意外そうな顔をして、「そうなのか?」と訊いた。
「当たり前だろ? 公務でコンビ組んでるだぜ。休みが同じってだけだよ。」
「そうかぁ?」それだけの理由でそれこそ公務でも顔を突き合せなければならない相手と休日まで一緒に居たがるものなのかと思ったが小池は突っ込むのをやめた。
「そ。職場が同じだから変な気を使わなくていいしな。」
「同じだと気を使うんじゃなくて?」
「非常召集とか 緊急出動が多いからさ。今週だって準待機だけどいつ待機命令がでるか解らないし。そういう時 気が楽だろ?」
「そういうもんかねぇ?」
「そういうもんだよ」
そう言って壁の時計を確認するともう3時を回っていた。
「あーあ やっぱ一日潰れちゃったなぁ」遊馬は心底つまらなそうに言うと肩を落として溜息をついた。

結局 全ての検査を終え、病院を出たときには6時を回っていた。
「すっかり遅くなっちゃったなぁ」と言いなら小池は携帯の電源をいれた。
遊馬も肩を回してこりをほぐすと携帯の電源を入れ留守電とメールの着信を確認した。
予め健診で一日潰れそうだと伝えてあったこともあって野明から連絡が入った様子は無かった。
聊か残念に思い携帯を閉じると一瞬 野明に電話を掛けようかと思ったが時間が遅い。
今から呼び出したところで寮の門限を考えるとゆっくり食事が出来るわけも無かったし、大体 野明が寮にいるとしたらもう食事の時間に差し掛かる頃だ。今更 引っ張り出すのには無理があるだろう。遊馬は携帯をポケットに仕舞うとカタカタとメールを返信している小池に視線を移した。
一通り返信が終わると小池は遊馬に声を掛けた。
「篠原、飯どうする?」
今から帰っても寮の食事には間に合わない。外で食べるか買って帰るかということになる。
「小池は?」
「武田が新宿で飲んでるからこないかってさ、篠原もいこうぜ」
「俺も?」
「どうせ寮に帰っても飯無いだろ、コンビニで買うなら居酒屋の方がうまいぜ」
「・・・確かにな」
「じゃ きまりな、詳しい場所聞く」
そういうと小池は武田に電話を掛けた。

新宿駅を出て10分ほど歩くと目的の店に到着した。
日本庭園風の内装で個室に区切られた客席を持つ小奇麗な店舗。
入り口で予約名を確認している小池を見て遊馬は訝しむ。
男だけで飲むには小洒落た雰囲気。
予約名を確認したということはたまたまここに来たわけではなく席を確保してあったということだ。 
遊馬は他に誰が来ているのかと訊かなかったことを悔やんだ。
1人できて予約は取らないだろう、ということは同行者がいるのだ。
案内する店員の後ろを歩いていくと奥まったところにあるひときわ広い個室の前に着く。
「小池、他にだれがいるんだ?」 不機嫌さが入った声で問う。
「武田と寮の同期が二人来てる。あとは・・・武田の知り合いの女性が4人かな・・・」
最後の方は小声になってばつの悪そうな顔をする。
「合コンだなんて聞いてないぜ? 俺がそういうの嫌いだって知ってるよな?!」空腹感も手伝って気が短くなっている。
小池は「言ったらこなかっただろ?」と拗ねたような顔をみせた。
「当たり前だ。俺は帰るからな。」と踵を返しかけた時、店員が開けていた障子から武田が顔をだした。
遊馬の顔を見るとにっと笑って、悪びれた様子を見せることなく「そこで騒ぐと迷惑だからさ、とにかく入れよ」と手招きをした。
遊馬は低い声で「小池、後で覚えてろよ」といって一睨みすると不貞腐れたような顔で座敷に入った。

中に入って部屋をぐるっと見回すと予想外の人物と目が合った。
「・・・野明?」思わず名前を呼んだ。
呼ばれた野明は上ずった声で返事をしたが動揺して顔が引き攣っていた。
綺麗に化粧を施しふわふわした如何にも『女の子』という薄紫のアンサンブルを着てサワーのグラスを両手で抱えている。
自分と出歩く時こんな格好をしてきたことは無い。化粧っ気も無いラフなスタイルに足もともスニーカー。酒だって日本酒をコップでグイグイ飲み干すような女なのに。
合コンに行く時にはこうして気合をいれてお洒落してしおらしくするわけだ。
そう思うと妙に面白くない気分になったが、ここで野明に噛み付いても仕方がない。冷静になろう、と大きく息を吐いた。
目線を外して俯いた野明から 目を逸らすと武田たちの近くに座る。

変に緊張した雰囲気を察した武田が場の雰囲気を抑えるように乾杯の音頭をとった。
野明を見ると相変わらずグラスを両手で抱え すっかりしょげた様子で俯き加減にちびちびとサワーを飲み続けていた。
野明とは付き合ってるわけじゃない。その野明がどんな格好をして休日に何をしようがどこに行こうが自分が口を出すことじゃない。
そう思って遊馬は黙って飲み食いに集中することにした。
それでも着飾った野明が視界に入ると何故か裏切られたような気分になって仕方が無かった。

暫くすると野明が鞄を引き寄せ隣の女性に何か話しかけているのが目に入った。
気遣わしげな視線を向ける女性に軽く首を振り、そっと障子を開ける。
『帰るつもりだ』と思った瞬間 急いで席を立ち野明の肩を掴んだ。
驚いて振り返った野明の髪から甘い香りが漂ってきて鼻腔を擽る。
「何だよ、帰るのか?」野明の瞳が揺れるのを見て言葉を継ぐ。「俺が来たからか?」
野明は俯いて視線を合わせない。
「違う、遊馬が来たからじゃないよ」
「じゃ、なんだよ」
思わず口調がきつくなる。
「遊馬の所為じゃない。でも遊馬 怒ってるでしょう?先刻だって黙って向こうに行っちゃうし。」
目線を合わせない野明に少し苛立つ。自分に野明の行動を縛る権利は無いのだから文句を言う筋でないことはわかっていたが 黙って帰ろうとするのは気に入らなかった。
「あ? あー・あれはさ・・お前の所為ってばかりじゃないし、ちょっと気が立ってたから・・・て・・・おい、泣くなよ?」
話していると 突然野明がぼろぼろと涙を零し始めた。驚いた遊馬は思わずその顔を覗き込んだ。俯いたまま泣いている野明をみていると、イライラしていたことがなんだか馬鹿らしくなって思わず溜息が出た。
「当たって 悪かったよ」そう言って髪を撫でてやると野明が嬉しそうに目を閉じた。無防備なヤツだなぁと思う。
「あんまり泣くと化粧落ちるぞ」というと「うん、そうだね」と顔を上げ少し笑った。取り敢えず席に戻るよう促すと素直についてきたが、いつもらしからぬしおらしい態度に何となく落ち着かなかった。
泣いてすっかり化粧が落ちたことに気付いた隣席の女性に連れられて化粧直しに出て行くのを見送ると身体からどっと力が抜けた。

取り敢えずその場に座り込む。
甘い香りのする髪と、化粧を施した顔、ふわふわした洋服。あんな野明は見たことが無かった。
右手で顔を覆って溜息をつく。
「馬鹿野明。なんだよ、あれ・・・あんな格好で合コンとかでてんじゃねぇよ」
面白くない気分だった。
「俺と出かける時にはしてきたこと無いくせに。」声に出したつもりは無かった。
しかし ふと我に返ると部屋にいた人間全員が目を丸くしてこちらを見ていた。
「え・・・なに・・?!」思わず問いかける。
全員が お互いに目を見交わしてまた視線を戻す。
ヒヤリと背中に冷たい汗が流れた。
気まずい沈黙のあと にぃーと笑いながら武田が口を開いた。
「つまり 篠原はここに彼女が居たのが気に入らなかったわけか?」
聴かれていたことに気づき顔に朱がのぼる。
「え、いや 別にそういうわけじゃ・・・」慌てて否定しようとしたがもう遅かった。
「自分以外の為におめかしして来たのが気に入らなかったんだ?」人の悪い笑みを浮かべて皆が次々と話しかける。
「いや・・・あの・・・だからさ・・・」
「普段の野明ってノーメークだもんね、格好もラフだし。それは篠原君ショックだったわよねぇ」
こうなるともう だれも遊馬の話など聴いてくれない。
少なからず落ち込んでいたところにほぼ正鵠を射られた格好になったため反論に力が入らない。
「泉さんが浮気すると思ったとか?」
「だからさ・・・そんなじゃないんだって。大体 俺と野明は付き合ってないの!」
思わず声を荒げると皆一斉に呆れたような顔を向けた。
「本当に?・・・・うそでしょ? 休みの度に二人で出かけてるじゃない?」
「それでも。本当に何もないのっ。男として見られてないんだから手の出しようが・・・」
言ってしまってから あっと思ったが取り返しはつかない。
男性陣はにやにやと笑い 女性陣は微かに頬を染めてクスクス笑いながらこちらを見ている。
「そうだったんだ?」
「野明 鈍感だからねぇ」
「てっきり付き合ってると思ったのに 意外だったな~」
「けど こういうところに参加するのは気に入らなくて文句つけるわけだ」
「彼女じゃなくても?」
「だから やきもちなんだろう? 泉さんも苦労するよなぁ。付き合う前からこれじゃ・・・」
「安心しろって、誰も泉さんにコナかけたりしてないさ。篠原の大事な『パートナー』だもんなぁ?」武田がにやにやと笑い 女性陣も 「いいなぁ『パートナー』だって~」といいながら きゃぁきゃぁ盛り上がる。
遊馬は 仏頂面をして胡坐を掻くと「なんでこうなるんだよ」と頭を抱えた。

野明たちは戻ってくると 座敷の様子が一変していることに驚いて「どうしたのよ?」と問いかけたが みんなニヤニヤ笑って遊馬を見るだけで何も答えないし遊馬自身も「なんでもねぇよ」と答えるだけだった。
野明が遊馬の隣に座りながら目の前の女性二人に話を振ったのをみて相手を一睨みするが、相手は肩を震わせ「話しちゃ駄目だって」と言って笑い、緑が小池と武田に目を向けると 笑いを堪えきれなくなった二人が大声で笑い出してしまった。
次いで他の奴らも笑い出し、目の前の女性二人はけらけらと笑いながら 「篠原君って 可愛いわ~」とか「がんばれ~」と言いつつ人の頭をぽんぽん叩いた。
遊馬はばつが悪くて仕方なく、遂には「勘弁してくれよ」と言いながら机に突っ伏した。

そのまま暫く凹んでいると野明が顔を覗き込んできた。
化粧は綺麗に直されていて大きな瞳を瞬かせ「遊馬ぁ?」と声を掛ける。
髪がサラサラと揺れ甘い香りが鼻腔を擽る。
この数分の間に気力と体力を根こそぎ失ったような気がして机に顎を乗せたままこっちを覗き込む顔を眺め「なんだよ」と応じる。
「どうしたのさ?」と聞く声に こいつ睫長かったんだなぁと、関係の無いことを考えた。
きょとんとした顔をして能天気に顔を近づける野明に「・・・・お前が悪いんだからな」と言うと ふいっとを反対を向いた。
「私?ね 私何かした?」野明が慌てたように声を掛ける。
俺の居ない所にそんな格好で出歩くから、見たことの無い顔を見せるから、落ち着かなくて仕方が無い。そんなことを認めたくないのでそのままそっぽをむいて黙っていた。
部屋の奥で武田と小池が緑になにか説明していたようだがもう どうでもよくなってそのまま放っておいた。
暫くそうしていると武田が唐突に「この話題はここまで!」と宣言して事情を知りえなかった野明が不満の声を上げたが、野明以外の全員がひとしきり笑った後にそれを了承した。

その後、先の件には触れないまま飲み会がいっそ和やかといってもいい雰囲気で進行したのだがここで生まれた変な連帯感は弱みを握る連中がつるんでいる、という感じがして遊馬は心中穏やかでなかった。
野明も服装や化粧の所為なのか、それとも別の要因があるのか図りかねるところではあったが、いつもと違い大人しい態度でサワーをコクリコクリと口に運んでいる。
時折 ちらりと遊馬の顔を見て安心したように前を向く。
その様子は先刻までの落ち着かない気分を凪ぐには十分なものだった。
ふいに野明が腰を浮かせ机の真ん中に置かれたビールのピッチャーに手を伸ばすと横から手を伸ばした武田が、「女の子は重いものを持たない」と言って野明を制した。
野明が少し戸惑い気味に頬を朱くしながら笑うのをみて 『そんな顔 みせてんじゃねぇよ』と思わず眉根を寄せる。
それに気付いた小池が遊馬の反応を面白がるように口を開きそれに皆が乗った。
「泉さんって 可愛いですよね~、そういうところ。」
「確かにね、野明って女の子扱いされるのに慣れてないから弱いのよね、こういう扱いに」
「新鮮な反応よねぇ」
「女の子扱いされないんだ?こんなに可愛いのに。勿体無いなぁ」
言われた野明は「やめてくださいよぉ」と恥ずかしそうに手元のグラスで顔を隠して俯いた。

黙ってその様子を見ていた遊馬は意外な反応だなぁと思い野明に問いかけた。
「・・・して欲しかったのか? 女の子扱い」
「え・・・?! あの、えっとね。」真っ赤になってどもる野明を見てそうだったのか、と思う。
「お前そういうの嫌がると思ってた」というと「なんで?」と聞き返された。
「なんとなく」と答えると今度は野明は少し困った顔をして見せる。
「ま、いいけどな」あっさりとこの話題を切り上げると残っていたビールを呷りながら『そんなもんなのかなぁ』と考える。
職場の環境が環境だけに これといって女性というのを意識して対応することは少ない。
それは野明だけでなく南雲隊長も熊耳さんもそうだったからその方がいいんだろうと勝手に思っていたがもしかすると野明は不満に思っていたのだろうか? 聞いてみたいような気がしたがここで聞くとまわりが五月蝿そうなのであとにしよう、と決めた。

そろそろ場所を変えようということになって 一旦店を出る。
時間も10時を回って気温も少し下がり ひんやりとした空気が酒で火照った肌に心地良かった。
終始 隣で機嫌よくサワーのグラスを傾けていた野明は店の外に出ると軽い足取りで前を歩き、時折くるりと振り返るとスカートのすそがふわりと広がった。
その様子に如何にも『女の子』だよなぁと思いながらゆっくりと歩を進める。
他の面々は野明の少し前を次に移動する店を相談しながら歩いている。
遊馬のとなりで歩調をあわせる緑が前をいく野明を見ながら口を開いた。
「来た時 随分機嫌が悪かったじゃない?」
「小池が嵌めたからだよ、俺、合コンとか出ない主義なの」遊馬もまた前を見て答える。
緑は小さく「ふうん」というと言葉を継ぐ。
「それは生い立ちの所為? 野明の所為?」さらっと言いにくいことを訊いてくる緑に一瞬強い目を向けた。
「黙秘権は?」と返す。
「使いたい?」と言って強い視線を返された。
誤魔化すのを諦めて遊馬は小さく肩を竦めると少し考える。溜息を吐きながら「今は両方、だな」と答えた。
『野明の所為か』という質問を 今更否定するのも馬鹿馬鹿しかった。
「両方、ね」緑は小さく笑うと悪戯っぽい笑顔を見せながら続ける。「野明も合コンとかには出ない主義なのよ、知ってた?」
遊馬は意味を図りかね一瞬戸惑ったが 含み笑いを見せる緑の顔を見て「なるほどね」と呟いて空を仰ぎ大きく息を吐き出した。
緑はやれやれ、というように溜息を吐き遊馬の腕をポンっと叩くと「ま、上手くやって頂戴よ?」と言い置いて軽く駆け出すようにして他の面々に合流していった。

自分を追い越していった緑に気付いて野明がこちらを振り返ると駆け寄ってくる。
遊馬の腕に両手を絡めるようにして軽く引っぱり「急ごう」と促す野明に「いいよ」と答えると「見失っちゃうよ?」と小首を傾げる。
「平気だよ」というと野明はきょとんとした顔をした。
少しづつ皆と距離が開いてくると野明の瞳に不安そうな色が出てきた。
それでも腕を放して『先に行くね』とは言わない。その様子を見ながら面白いな、と思う。
皆と合流したければ走るなり、携帯で連絡をつけるなりすればいいだけでそこまで不安に思うことは無いだろう。
それは向こうにしても同じことなのだが 緑の『上手くやって頂戴』というのをそういうことだと捕らえれば 仮にこのまま逸れたとしても今日のところは向こうからの連絡はまずないだろうと思えた。
そうなったら後日、連中にからかわれることは必至だが後のことは後から考えればいい。上手く乗せられたような気するが『まあいいか』と思うことにした。

ふと野明の方を見下ろすと不安そうな顔でこちらを見上げていた。
それは皆と逸れそうなことに対してなのか、遊馬が黙りこんでしまったこと対してなのか。
遊馬は少し考えてから ゆっくりと話しかけた。
「なぁ 飲みなおさないか?」野明は驚いて目を丸くした。
「今から?」
「そ。殆ど飲んでないだろ? 折角めかし込んで来たんだし居酒屋じゃなくてバーとか行くか?」
顔を覗き込んで様子を見る。ほんのり頬を染めた野明を見て『嫌がってるわけじゃなさそうだな』と思った。
俯き加減で「あ・・えと・・皆が・・・」とごにょごにょ呟きながら時々 ちらりと上目遣いで顔を伺う様子はなかなか見物だった。
「あっちは心配要らないさ。大丈夫だよ」軽く笑うと不思議そうな顔をして物問いた気に首を傾げた。

その様子に ちょっと悪戯心が沸く。
わざと少し低い声を出し耳元で囁くように声を掛ける。「女の子扱い、してやろっか?」
野明の顔が真っ赤になるのを見ながらひょいと『お姫様だっこ』をしてやる。
「え? あ ちょっと 遊馬ぁ?」と真っ赤な顔をしてじたばたする野明に「あんまり暴れると落ちるぞ?」と声を掛ける。
拗ねたような目で遊馬を見上げると小さな声で訴えた。「あの・・・降ろして貰える?自分で歩く」
その顔は結構可愛いな、と思いつつ「やだね」と答えた。
胸元に腕を突っ張って一生懸命降りようとする野明に苦笑しながら、どうしたら大人しくなるかなと考えて。
半分は冗談、半分は本気で もう一度耳元に囁く。
「ちゃんと女の子扱いしてやるから、大人しく抱かれてなさい」
顔を覗き込むと野明は一瞬呆気に取られて動きを止め、腕を突っ張る気力をなくした。
そして赤かった顔を更に朱に染めると顔をぽすんっと遊馬の肩口に伏せ小さい声で「馬鹿ぁ」と言った。
大人しくなった野明を満足気に眺めて「どこに行きたい?」と問いかける。
野明は肩口に額を押し当てたまま小さな声で「お任せします」と答えてそのまま更にキュっと顔を伏せた。
遊馬は軽く目を瞠り野明を見遣ったがその顔はしっかり伏せられていて見ることが出来なかった。
額を押し付けられている肩口の温度で『相当顔赤いんだろうなぁ』と思うと可笑しくて仕方が無かった。
遊馬は「了解」と返事をしてから 少し考えて東口にあるバーに行こうと決めてゆっくり歩き始めた。
駅から近くて軽く食事も摂れ、席も個室が多いバーとしては珍しい店だ。でもゆっくり向かい合って話すには丁度いいだろう。
明け方まで開いているので始発まで飲み明かしてもいい。
歩きながら 野明に話しかける。
「寮に連絡しなくて平気か?」
「え?」野明はきょとんとした顔をする。
「門限。今日中には帰れないぞ?」
「あ・・」少し考えるような顔をする。
「帰りたいなら今から送る」そう言って顔を覗くと野明は「・・・・・ううん。平気」といって小さく首を振った。
「じゃ、いくか?」と声を掛けるとはにかむ様に笑いながら「はい」と返事をした。

END

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追記

ちょっと長くなってしまいました(^^;
2部に分けるような話でもないし・・・
ちなみに最後に遊馬が向かおうとしている店にはちゃんとモデルがあります。
新宿東口に行くことがあったら探してみてくださいね♪
割と有名なお店のようですよ☆

それにしてもこの時点でもまだ「付き合ってない」ということですよね(笑)
いいのかな それで(^^;

では 最後までお付き合いくださいまして有難うございました!!

タイトルの ”Irreplaceable”は 置き換えられない、かけがえのないという意味です(^^)

だれか私にタイトルをつける才能を下さい・・・

歩速の選択

今回、いよいよ3部作(になってしまいました・・・)の完結編(笑)
広げた風呂敷は畳めたのでしょうか?
何しろ 見切り発車で開始した素人の初書き超大作です。
温かい目で見守ってくださいね。(^^;

このお話は
「ガールズ・トーク」
「心を占めるもの」
に続く3本目になります。
通して見ていただけますと嬉しいです。

では 以下からが本文です。
ご興味を持ってくださったかたへささげます(^^)

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歩速の選択
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このままじっとしていると泣きそうな気がしたから。
野明はそっとハンドバックを引き寄せ緑に「悪いけど先に帰らせて」と小声で告げた。
緑は野明と遊馬を等分に見やって眉根を顰める。「ごめん・・・」と申し訳なさそうに続けた「こんなつもりじゃなかったのよ」
「わかってる、大丈夫だよ」
野明が入り口の障子戸をそっと開ける。
部屋を出ようとすると、後ろから肩を捕まれた。
「何だよ、帰るのか?」先刻までの穏やかな顔ではなくて ちょっと不貞腐れたような顔をしていた。
「俺が来たからか?」小さな声で畳み掛けるみたいに耳元で話す。
トクン・・と心臓が跳ねる気がした。
「違う 遊馬が来たからじゃないよ」
「じゃ なんだよ」
「遊馬の所為じゃない。でも遊馬 怒ってるでしょう?先刻だって黙って向こうに行っちゃうし。」
野明は俯いたまま目線を合わさずに話し、話しているうちに涙がぼろぼろと落ちてきた。
「あ? あー・あれはさ・・お前の所為ってばかりじゃないし、ちょっと気が立ってたから・・・て・・・おい、泣くなよ?」
遊馬が来てくれた、気に掛けていてくれた、それだけで嬉しくて涙が出てきた。
遊馬は困った様に野明の顔を覗き込むと大きく息を吐いて「当たって 悪かったよ」といって髪をくしゃくしゃっと撫でる。
心地のいい大きな手、その感触が気持ちよくて思わず目を瞑る。
「あんまり泣くと化粧落ちるぞ」
「うん、そうだね」
化粧しているのにも気づいてくれてたんだ、と思うと嬉しかった。「取り敢えず 席に戻ろうぜ?」促されて席まで戻る。
目が合うと緑はほっとした顔をして「折角のお化粧が台無しね」といってバッグを引き寄せ直してあげるからいらっしゃい、と私の手を引いて立ち上がった。

パウダールームで緑が手際よく化粧を直す。
「さてと こんなもんかな」そういうと自分もリップを少し塗りなおして道具を仕舞う。
「ところでさ、篠原君 何だって?」
「何って 何が?」
「いろいろ。何であんなに機嫌が悪かったのかとか、その格好についてとかさ」
「なんにも。」
「なんにも?」
「うん。私が1人で泣いて有耶無耶になっちゃった」
「なんだかなぁ・・・」緑は不満気に頬を膨らませた。
「でも 一つわかった」野明はにっこり笑って言った。「遊馬って特別なんだなぁって」
緑は小さく肩を竦めると「今頃 何言ってんだか・・・」と大きく息を吐いた。

個室に戻ると座敷の様子が一変していた。まず 遊馬がさっき武田が座っていた野明の隣席にいた。
遊馬は仏頂面で胡坐をかき頬杖をついていて、女性陣二人はくすくす笑いながら顔を見合わせている。
残る4人の男性陣はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて遊馬を見ていた。
事情が飲み込めない 緑と野明は入り口で立ち止まって「どうしたのよ?」と問いかけたが皆が一様に顔を見合わせてくすくす笑うだけで、遊馬も「何にもねぇよ」とぶすっとした様子で答えるだけだった。
なんだか妙な具合だなぁと思いつつ遊馬の隣に野明、その横に緑が座る。
こういう時の遊馬に何を聞いても無駄なのは良くわかっていたので野明は正面に座る女性陣に話を振ることにした。
「ね 何かあったの?」
「それがね・・・」二人で顔を見合わせてくすくすっと笑い話し出そうとすると、遊馬が鋭い視線を投げてそれを制する。
それを受けて二人は肩を震わせて笑いを堪える。「・・・話しちゃ駄目だって」余程 面白いことがあったんだろう。
今度は緑が男性陣に物問いた気な目線を送ると武田と小池がふき出すように笑い出した。
するとそれまで我慢していた女性陣と残り二人の男性陣も盛大に笑い出し、女性二人にいたっては「篠原君 可愛いわ~」「ん~ 頑張れぇ!」といって机越しにぽんぽんっと頭を叩いたりし始めた。
遊馬は体を震わせて黙っていたが遂に、「勘弁してくれよ」と言って机に突っ伏してしまった。

「遊馬ぁ?」顔を覗き込むようにして野明が声を掛ける。
「・・・なんだよ・・・」脱力したような声が返ってくる。
「どうしたのさ?」
「・・・・お前が悪いんだからな」そういうとフイッとそっぽ向かれてしまった。
「私?ね 私何かした?」
遊馬はそれっきり何も答えずに不貞腐れていて、その間に武田と小池から大まかに状況を聞いた緑は「ふ~ん」と言いながら他の男性陣同様、人の悪い笑みを浮かべて遊馬を見遣っていた。
困り果てた野明が緑を見ると、彼女は「努力って結構報われるものみたいよ」笑った。
「さて これ以上篠原を虐めていても何だからこの話題はここまでな!」と武田が宣言し、他の者もひとしきり笑った後「了解~」と応じた。
野明だけが事情を全く把握できないままだったので「え?ちょっとまって、どうして?」と訊いてみたがみんな一様に、「この話題はもうおしまい!」といって誰も質問に答えてはくれなかった。

その後は皆で談笑しながらの飲み会になったのだが野明達が化粧直しをしていた間に起きた何かがすっかりこのメンバーを打ち解けさせたらしくかなりざっくばらんな雰囲気になった。
野明も始めのように氷が解け切るまでマドラーをまわし続けることも無くグラスを空ける。
空になったジョッキに気づいた野明がビールを注ごうとピッチャーを持ち上げようとすると武田が「重いからやるよ」と声をかけた。
「この位 大丈夫ですよ」
「いいから いいから、女の子は重いもの持たない」とピッチャーを取り上げると武田が悪戯っぽく笑った。
こういう扱いに慣れていない野明は「じゃ、お願いします」というと照れたように笑う。
その横で遊馬は 面白くないぞという顔をして武田と野明を見遣っていた。
「泉さんって 可愛いですよね~、そういうところ。」と小池が声を掛ける。
「確かにね、野明って女の子扱いされるのに慣れてないから弱いのよね、こういう扱いに」緑が応じ、「新鮮な反応よねぇ」と女性陣も話に加わる。
「女の子扱いされないんだ?こんなに可愛いのに。勿体無いなぁ」と武田。
野明はなんだか居た堪れないような気分になって「やめてくださいよぉ」と手元のグラスで顔を隠すようにして言った。
黙ってその様子を見ていた遊馬が意外だなという風に目を丸くして野明に問いかけた。
「・・・して欲しかったのか? 女の子扱い」
「え・・・?! あの、えっとね。」真っ赤になってどもる野明を見て、「ふーん」と呟く。
「お前そういうの嫌がると思ってた」少し考え込むような顔をしてぼそっと言う。
「なんで?」
「なんとなく」
今度は野明が考え込む。
「ま、いいけどな」遊馬はあっさりとこの話題を切り上げると残っていたビールを呷った。

3時間余りが過ぎた頃 場所を変えようと言うことになって皆で店を出た。
ひんやりした空気が酒の入った身体に心地いい。
機嫌の直った遊馬に安心した野明は上機嫌でスカートをヒラヒラさせながら緑と遊馬の少し前を跳ねるように歩く。
時折くるっと振り返って二人の顔を確認するとまた跳ねる様に歩いていく。
周りから見ればほろ酔い加減で浮かれているようにも見えるが 緑と遊馬は野明があれくらいのサワーで酔っ払うなどとはサラサラ思っていなかった。

「ところで篠原君?」前を見ながら緑が口を開く。「来た時 随分機嫌が悪かったじゃない?」
「小池が嵌めたからだよ、俺、合コンとか出ない主義なの」遊馬もまた前を見て答える。
「それは生い立ちの所為? 野明の所為?」さらっと言いにくいことを訊いてくる緑を一瞥して視線を前に戻すと「黙秘権は?」と返す。
「使いたい?」そう言うと一瞬強い視線を送って来た。
遊馬は小さく肩を竦めると軽く溜息を吐きながら「今は両方、だな」と答えた。
「両方、ね」緑は小さく笑う。
「野明も合コンとかには出ない主義なのよ、知ってた?」
遊馬は一瞬目を瞠ると「なるほどね」と呟いて空を仰ぎ大きく息を吐き出した。
緑はやれやれ、というように溜息を吐き遊馬の腕をポンっと叩くと「ま、上手くやって頂戴よ?」と言い捨てると野明の更に前を行く他の面々に合流していった。

緑が自分を追い越していったのに気づいて野明が後ろを振り返り、複雑な顔をした遊馬がゆっくり歩いているのを見ると走り寄る。
「みんなと結構離れちゃったね」そういうと遊馬の腕を取って「急ごう」と促した。
腕をとられた遊馬は少し考えてから「いいよ」といいそのままのペースで歩き続けた。
「見失っちゃうよ?」野明が小首を傾げるのを見ながら、ああ言ったということは後は緑がなんとかするんだろうと漠然と考えて「平気だよ」と答える。
遊馬の腕を取ったまま少しづつ距離が開いていく皆の後ろ姿と遊馬の顔を不安そうな瞳で交互に見つつも野明は決して1人で走って行こうとしない。
『面白いもんだなぁ』とゆっくりと歩を進めながらしみじみ野明を観察する。
大体そんなに不安な顔をしなくても合流したいなら今からでも走ればいいし、見失ったとしても携帯で連絡をつければいい。
それはこちらからがそうであるように 向こうから見ても同じことだ。
けど、このまま逸れても向こうからこちらに連絡は来ないだろうと思えた。先刻のはそういうことなんだろうと。緑に上手く乗せられたような気がしなくもなかったが『まあいいか』と思うことにした。

考え込み黙ってしまった遊馬に野明が不安そうな顔を向けていた。少し間をおいて遊馬が口を開く。
「なぁ 飲みなおさないか?」野明は驚いて目を丸くする。
「今から?」
「そ。殆ど飲んでないだろ? 折角めかし込んで来たんだし居酒屋じゃなくてバーとか行くか?」
顔をほんのり朱くした野明が小さな声で「あ・・えと・・皆が・・・」とごにょごにょ呟く。
「あっちは心配要らないさ。大丈夫だよ」軽く笑うと野明が不思議そうな顔をした。
その様子が可笑しくて悪戯心がふっと沸く。
「女の子扱い、してやろっか?」と耳元に囁くと野明が何か言うより早く膝の裏側と背中に手をまわし、ひょいっと抱き上げる。
「え? あ ちょっと、遊馬ぁ?」
真っ赤になりながら動揺してじたばたする野明を面白そうに見ながら「あんまり暴れると落ちるぞ?」と呆れた様に言った。
ファイル 9-1.jpg
「あの・・・降ろして貰える?自分で歩く」
「やだね」
遊馬の胸元に腕を突っ張って一生懸命降りようとする野明に苦笑しながら、再び楽しそうに耳元で囁く。
「ちゃんと女の子扱いしてやるから、大人しく抱かれてなさい」
顔色も変えずにしれっと言い放つ遊馬に、野明は呆気に取られて腕を突っ張る気力をなくし、朱に染めた顔をぽすんっと遊馬の肩口に伏せた。
その様子を確認して遊馬は満足気に笑い、顔を覗き込んで「どこに行きたい?」と訊く。
顔を上げられない野明は額を遊馬の肩口にきゅっと押しあてたまま「お任せします」と小さな声で答えた。
遊馬は軽く目を瞠ると「了解」と返事をしてすこし考えてからゆっくりと歩き出した。

遊馬の腕の中で思い返す。今日 寮を出るときに思ったこと。
かわいい服を着て、綺麗にメイクをして、甘い香りを纏うことで周りの反応は変わるのか?
勿論それだけで変わるわけではないだろうけれど。
先刻聞いた緑の言葉を思い出す。「努力って結構報われるものみたいよ」

END

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追記

何とか風呂敷畳んでみましたが 結構強引に畳んだので綻びだらけです(^^;
壮大な処女作ってことで笑って許してください(^^;

突っ込みどころ満載ですが今はこれが精一杯かなぁ。文才が欲しいです(T∇T)
折角なのでお姫様抱っこさせてみたんですが絵にすると成人男女に見えないですねぇ。補導されそうですよ、夜中歩いてたら(笑)

長い駄文でしたが最後までお付き合いくださった方々、本当に有難うございます。
また コメントもすごく励みになりました。これに懲りずにまたお付き合いくださると幸いです。

心を占めるもの

こっそり書いていた駄文の続きです。

ここからでも読めますが 内容は「ガールズ・トーク」の続きになっています。

続きは?
と訊かれて調子に乗って書き出したは良いけれど・・・
無駄に長くなってしまった為取り敢えず 一部を先行公開状態に。
いきなり連載状態になってしまうあたり本当に行き当たりばったりです。
そしてこの大風呂敷、畳めるんでしょうか、私・・・

それとツッジー様~ 今回挿絵断念です(笑)
何しろ絵にして面白い場面が全く無い、というのが難点で。
完結するまでには一枚くらい入れたいと思います(←弱気)

では 小学校レベルの作文で 且つ無駄に長いお話になってきましたが・・・
ご興味を持ってくださった方へささげます。

では どうぞ。

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心を占めるもの
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野明と緑は待ち合わせ場所になっている新宿の居酒屋に向かった。
他愛も無い話をしながら野明は久しぶりに二課以外の人と沢山話したなと思った。
二課はすごく居心地のいい職場だけど常に限られた人としか接しない職場でもある。
その上、月の半分は当直として泊り込むわけで 妻帯者の進士ですら家に帰る日数より職場にいる日数の方が多いだろう。
そういう関係においては 寝食をともにすることで互いを熟知し気心が知れている反面、相談し辛いことや話しにくいことも出てくる。
ましてあの職場には女性が極端に少なく、同年代の女性は1人もいなかった。
そんな理由からも他愛も無い、けれど職場では言いにくいことを話すには緑はうってつけで、且つ彼女はそういうことを興味本位で掘り下げたりしない。
野明にとってはとても有難い友人の1人だった。
はっきりと口にしたことはない遊馬に対する複雑な感情も彼女は何とはなく察している雰囲気があって、もしかするとそれは野明自身よりも良く見えているのかも知れなかった。

「さて ついたね」
緑が入り口で予約している旨を告げると店員が「こちらへどうぞ」と二人を奥の座敷に案内した。
店内は小洒落た日本庭園を模していて、客席の殆どが個室のようになっている。
通路には玉砂利に飛び石が配置されていた。
おもわずキョロキョロろしてしまう野明に緑は「おもしろいでしょ?」と笑う。
案内された部屋に入ると既に席についている人がいた。
自分達を含めて女性4人、男性3人。
「女性が少ないんじゃなかったの?」と聞くと「向こうが5人だったはずなんだけど」と野明に耳打ちして、先に来ていた男性に声を掛けた。
「武田、残りは? 来れなくなったの?」
「いや、なんか少し遅れるって」
「そ、じゃ先に始めちゃおうよ。待ってても時間勿体無いしね」
そういって店員を呼び「はじめてください」と告げると、飲み物をオーダーした。
一通り飲み物が行き渡ったところで 「武田」と呼ばれた男性が「じゃ 取り敢えず乾杯!」といい皆でグラスをカチンと合わせ飲み会が始まった。

野明はグレープフルーツサワーのグラスを手にして無意識にマドラーをクルクルと回していた。
何か落ち着かないのだ。居酒屋には遊馬とだってよく行く。その時には景気よく日本酒をグイグイ飲めるのに、今はそういう気分になれなかった。
それは小洒落た店構えの所為かもしれないし、着慣れない洋服とメイクの所為かも知れなかったが、変な緊張感みたいなものがあって気が緩まない、というのが正直なところだった。
野明のそんな様子に「難しい顔しないの、それとも篠原君がいないとつまらない?」と緑は苦笑しながら声を掛けた。
「え? そんなことないよ、楽しんでるよ」野明は慌てて否定すると サワーをクイっと呷った。

「泉さんって 雰囲気変わったよね?」
武田が突然声を掛けた。野明は 「え?」といって小首を傾げる。会ったこと、ある人だっけ・・・? 全く思い出せなかった。
「なあに? 武田いきなりナンパ?」緑がからかう様に言い、「気をつけなさいよ~」と野明の肩を小突く。
交番勤務だと言った武田と野明には接点はない、研修校も自分は早稲田だったが武田は三鷹だったという。どこで会ったのか・・・。
「僕のことは覚えてないよね、でも特機の適正試験を受けに行った奴の中では有名人なんだよ、泉さんは」
「・・・ああ あの中にいたんですか?」
「うん、あのシュミレーターに乗って真面目に交番勤務から始めるべきだって身に染みた」
野明は平気だったのでなんともいえないのだがあれはかなり評判が悪く体験者の殆どが居住性の悪さにギブアップしたというある種の伝説になるようなものだったのだ。
「あれから出てきて ”もすこしゴツゴツうごいてもいいな” なんて言ったのは泉さんだけだったよ。ましてそれが小柄な女の子だったわけだからね、みんな君をよく覚えていると思うよ」
「・・・あはは・・・そうですか」 なんだかちょっと恥ずかしくなってグラスを口元に持ってきて顔を少し隠してみる。
「あの時は始め 男だと思ったんだよね、ショートカットだったし。それが随分 女の子になったなぁって」
そういわれて野明の顔に朱がのぼる。そんな風に言われたことが無かったので免疫が無い。
「・・・えと・・・どうも・・・」といいながら俯いてしまう。
そんな野明を横目で見ながら「ほらね、それらしい格好すればちゃんと女の子扱いされるのよ」と言って緑は野明に笑顔を向けた。

その後も相変わらずお酒の進まない野明はすっかり氷の解けたグレープフルーツサワーのマドラーをクルクル回しつつ当たり障りの無い会話を皆と交わしていた。
「女の子になったなぁって」と言われて思ったことは 今のこの格好を遊馬がみてもそう思ってくれるのかなということだった。
見て貰いたい気はするけど いつもと全く違うこの格好を見られるのはちょっと抵抗があった。
「似合わない」と一言で否定されるかも知れない。考えて思わず溜息をつく。

「泉さん 退屈?」
「え・・あ、違います。ごめんなさい、なんか普段着慣れないものを着てると落ち着かなくて」
思わず吐いた溜息が 他人に思わぬ気を使わせてしまったことに気づいて野明は慌てて顔の前で手を振る。
「そうなの? よく似合ってるのに。それからさ、」そういうと武田は野明の手にあるグラスをひょいと取ると机の端に置いた。
「新しいの頼んだら?もう味がしないでしょう?」
「有難うございます」野明は普段されないこの手の気遣いに少し動揺する。
こういう扱いに慣れていない為どう対処していいのか戸惑っていた。

新しくオーダーした飲み物を持って店員が障子を開けたとき通路の方から声が聞こえた。
一瞬 耳を疑う。その間もその声はちょっと怒った様に誰かと会話を続けていて。
やっぱりそうだと確信した時 野明は動揺して思わず立ち上がってしまった。
緑が可笑しくてたまらないという顔をして私を見上げ「座ってなさいよ」と手をひいた。
「なんで・・・? 緑は知ってたの?」ちょっと恨みがましい視線を向ける。顔が多分真っ赤だ。
「健診にいってたんでしょ?捕まるかどうか判らなかったじゃない?」としれっと言ってのける。
障子の外からは「合コンなんて聞いてない」とか「そういうの嫌なんだよ」とここまで来てダダをこねる声が聞こえる。
野明はその声を聞きながらどうしたら良いのか判らずに緑の横で縮こまっていた。
会いたいのか、会いたくないのか・・・自分でもよく判らなくなっていた。
武田が「しょうがないな」と言って席を立ち入り口に向かう。
「そこで騒ぐと迷惑だからさ、とにかく入れよ」そういって声を掛けると男性が二人部屋に入ってきた。
「小池、あとで覚えてろよ」不貞腐れたような顔をしてやや不機嫌そうにいって室内をざっと一瞥した彼と・・・目が合った。

「・・・野明?」
「え? あ、はい」動揺して声が上ずっているのが自分でもわかる。引き攣ったような笑顔を浮かべて返事を返す。
遊馬は野明の格好をざっと眺めると ふーっと息を吐く。
野明は緊張と気恥ずかしさで真っ赤になって俯いた。
程なく遊馬はふいっと視線を外すと男性陣が固まっている辺りに黙って腰を下ろした。
微妙に緊張した空気が漂う。
武田が気分を切り替えるように もう一度乾杯の音頭をとり場を繕う。
その後は 遊馬も特に不機嫌さを表に出すことなく穏やかに飲んでいたし野明もちびちびとサワーを飲み続けた。
暫くすると野明の顔の火照りも収まり、ついでに浮ついていた気分もどこかに行ってしまった。
後には 妙に寂しい気分が残る。
緑が時々気遣わしげに視線を向けるのがわかったので頑張って笑うことにした。
気を使ってもらうのは余計に辛いから。

つい先刻まではこの格好をみたら何か言ってくれるかなとか どんな顔をするだろうとか 似合わないって言われたら辛いだろうなとか色々考えていたけれど。
似合わないって言われるよりも関心を持って貰えないという方がよほど辛いのだということに初めて気がついた。
他の人に褒めてもらっても、さりげない気遣いで女の子扱いしてもらっても それは違うんだと。
「似合わねーな」と言われても「なんだよ、それ」と小馬鹿するのでも何でもいいから。
私は遊馬に構って欲しかったんだ、そう気づいたら凄く悲しくなった。

to be continue...
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追記

なんだか暗くなってきました。
そもそも別行動の日をネタに無計画に始めたものでつじつまが合わなくて(^^;
遊馬なかなか出てこないし来たと思ったら結構不機嫌です。
このまま続けて収集がつくのでしょうか?!

ちなみにでてくる男性陣の名前は コミックの1巻目で適正試験を受けに来た人からそのまま貰いました(笑)

ガールズ・トーク

こっそり 駄文小屋を開設しました。

こちらは さくらが初書きしたPAT系駄文です。
文才がないのに強引に書き出したためクオリティに責任もてませんので「苦手」という方はどうぞそのままスルーして下さい(^^;

ちなみに ここにでてくる 「緑」さんは ゆうきまさみさんのコミック版1巻で予備校時代の寮の同室者の名前をそのままです(笑

では 小学校作文レベルでもいいわという心優しい方は以下へお進みくださいませ~
 
==============
ガールズ・トーク
==============

今朝 野明が寮で朝食をとっていると予備校時代からの友人、緑に声を掛けられた。
「ね 野明 今日休み?」
「うん 今週は準待機だから」
「今日は 彼氏と出かけないんだ?」
「・・彼氏じゃないって。ただの同僚。今日は出かけないよ。定期健康診断だって」
「そうなんだ~ ま、いいけど。じゃ今 野明に彼氏はいないんだ?」
「・・・・そうだね」
応えて ちょっと胸がキュッとなる。でも遊馬とは付き合ってるわけではない。
気の合う同僚、仕事上のパートナーというだけで。
「ね、じゃ今日飲み会きなよ。合コンみたいなものだけど女の子足りないんだ~」
「合コン・・・」
それはちょっと気が進まないなと思って困った顔をしていると
「彼氏いないならいいじゃない? それとも篠原君に悪いなって?」
「なんで遊馬にそんな・・・大体 彼氏じゃないって言ってるじゃない? 遊馬だって私のこと女だと思ってないよ」
「どうしてそう思うの?」
「・・・・そういう扱いされたこと・・・ない・・し?」
小さい声でそういうと 緑は可笑しそうに「してほしいんだ、そういう扱い♪」といって笑った。
「別にそういう意味じゃ・・・」
「そういう意味なんだよ、それを不満に思ってるってことはね。」
そうなのかなぁ・・・と少し考え込んでしまう。
「それにはさ、まず女の子らしくしてみようか♪」と楽しそうにいうと緑は私を自室に引っ張り込んだ。

楽しそうにクローゼットから洋服を引っ張り出したりメイク道具を揃えたりしながら野明に話しかける。
「野明ってよく篠原君と出かけてるじゃない? でもあんまりメイクとかしないよね?」
「・・・しないね。」
「洋服もすごくラフだし」
「うん。でも職場だと化粧はレイバーに乗る時邪魔になるし、服装だって制服かスウェット、さもなければTシャツかノースリーブに短パンってことも多いから今更 畏まるのもなんだかね・・・」
「・・・・特車二課って 男ばっかのとこなんでしょ? 野明も年頃の娘なんだからさ、ノースリーブに短パンって格好でウロウロするのはどうなのよ?」
緑は呆れたようにいいながらテキパキと野明にメイクを施していく。
「そんなの誰も気にしてないと思うよ? それこそ女扱いされてないんだから。」
「どうだかね」
本人がどう思っているかはともかくとして 野明は美人ではないが快活で明るいし 可愛い部類に入ると思う。
そういう娘がそんな格好でウロウロしていては無関心なヤツばかりではないだろうに。緑は小さくため息をついた。
ファンデーションを塗り終わった時点で手を止めてクローゼットから引っ張り出してあった洋服をとっかえひっかえ野明に宛がってみる。
今ひとつ納得行かない様子で少し考えてから「そうだ!」とポンっと手を叩くと今度は押入れの中から紙袋を引っ張り出してきた。
中から薄い紫色でサラサラとした肌触りのボレロとノースリーブのワンピース、金糸の縫い取りのあるカットソーがセットになったアンサンブルが出てきた。

「うん 似合うじゃない」緑は満足げに頷くと再び道具を取り出してメイクを再開した。
「ね この服、新品じゃない?なんだか悪いよ」野明が洋服を脱ごうとすると「あげるわよ、それ」というと緑は溜息をついた
「え?だって。」
「着れないのよ、それ。バーゲンでサイズを確認しないで買っちゃったら、胸周りがきつくて着れないの」
「・・・胸周りが・・・?」野明は自分の胸元を確認する。随分と余裕が感じられた。
「そ。だからあげるわ。あっても虚しいんだけど、捨てるに捨てられなかったのよ」
「いいの? じゃ ありがとう、今度何かお礼するね」
「いいよ、そんなの、捨てるより有意義でしょ?」
そういうと緑はクスクスッと笑った。

「さて、終了!」そういうと緑は クローゼットに備え付けの姿見の前に野明を引っぱって行った。
メイクをして ふわふわするスカートを穿いている自分、というのが見慣れなくて恥ずかしい。
「変じゃない?」と聞くと「私のセンスに文句があるの?」といって緑が笑った。
「なんか 女の子みたいだなぁって・・・」
「女の子でしょうが? たまにはこういう格好してみたらいいのよ」
「あはは・・・照れくさいんだもん、今更」
「そう?」いいながら緑はメイク道具と他の洋服を片付けつつ”今更”っていうのはさ・・対象を限定してる時に使うんだよ、と思ったけどあえて口にはしなかった。
そのあと携帯で何通かメールのやり取りをして「よし! 野明も参加ね」といって肩を叩いた。

自分の部屋に着ていた洋服を戻しに行って シューズボックスからミュールを探し出して履きかえる。
滅多に使わないのだが 可愛かったので正月に衝動買いしたものだった。
「履く機会なんてないかとおもったのにね」と呟きつつ 小さめのハンドバックに持ち物を入れ替えて部屋をでた。
出てきた野明をみて緑は満足げに頷くと「仕上げ」といって甘いベリー系の香りのミストをさっとふりかけ「さ、出かけるわよ」と言って先に立って歩き出す。
すこしかわいい服を着て、ちょっと綺麗にメイクして、仄かに甘い香りを纏って・・・
そうしたら 周りの反応が少しは変わるのかな? そんなことを考えながら野明は緑と二人駅に向かって歩き出した。

END

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追記
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日参している日咲さまのサイトでガールズトークが展開されていて、いいなぁ かわいいなぁということでちょっとこっそりチャレンジ。
初めて書いた文章なので おかしい所が多々ありそうですが・・・
温かい目で見てやってください(^^;

また書くことがあるかというと・・・それは謎(笑)
ちなみに サイズを確認しないで洋服を買って失敗したのは実話です。あれから ものすごいサイズを見るようになりました(^^;
バーゲンとはいえ 無駄金使った~って後悔して心優しい知人に差し上げました☆

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