[ 三妖神物語 外伝 裁きし者 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke

その六、後日談

 ギャギャギャ! キキキーーー!!
 ドガシャアアアン!!
 すさまじい音を立ててバイクが電柱につっこんだ。
 周りの物見高い連中が、死体を見るために周りに集まったが、竜一は視線を向けただけで、無視して歩き出した。
 傍らにいたミューズが野次馬達に笑いを含んだ視線を送る。
「ひでぇ・・・・」
「これじゃあ・・・・生きちゃいねえな」
 そんな声が野次馬達の間から聞こえる。
 バイクはよほど勢いよくつっこんだに違いない。
 頑丈そうな電柱は根本にひびが入っている。
 そして、肝心のぶつかった方は、バイクからはじきとばされ、思いっきりよく地面に投げ出されていた。
 バイクはといえば完全にひしゃげており、どこから見てもスクラップ以外の何物にもでもなかった
 後頭部から赤い血が流れ続けている。誰もが死んだと思った。バイクから優に5m以上もとばされ、後頭部を強打している。しかもヘルメットもないのだ、普通なら即死は免れない。

「・・・・おい! 生きてるぞこいつ!!」
 一人の野次馬が驚愕に叫んだ。
「間違いじゃないのか、これで生きてたら化けもんだ」
 別の野次馬がそう言った。野次馬達の視線が血を流し続けている人物に注がれる。
「う・・・・うう・・・・」
 微かに、だが、確かに生きている証として、小さなうめき声が聞こえた。
「信じられない生命力だな・・・・こいつ本当に人間か?」
「それよりも、誰か救急車を呼んだか?」
 その声に我に返る野次馬一同、あわてて近くの公衆電話に一人が飛び込み、119番に通報する。
 通報から優に30分が経過して救急車が到着した。
 普通なら絶対に間に合わないほどの大怪我であるにも関わらず、被害者は生きていた。かろうじてではあったが・・・・

 現場から少し離れた場所で竜一は呟いた。
「・・・・あいつ・・・・どこかで見たような・・・・」
 野次馬の驚愕の叫びに、無視を決め込んでいた竜一もついつい事故現場に視線を向けた。その時、ちらりと盗み見た被害者の顔。
 その顔に竜一は見覚えがあった。
 つい最近見たように思うのだが不思議なことにいっこうに思い出せない。まるで理性と本能、知性と感性とが寄ってたかって思い出すのを妨害しているかのように。
 困った竜一は傍らのミューズに尋ねる。とミューズは苦笑した。
「本当に思い出せないの?」
「ああ」
 頷くと、ミューズはぷっと吹き出した。
「本当につい最近のことなのに・・・・思い出せないなんてよほど精神的なショックが大きかったのねえ」
 そう言って笑うミューズの姿に突然有る人物の記憶がひらめいた。
「ま・・・・まさか・・・・」
「そう、おかまになった馬鹿の一人」
 ミューズの答えに頭を抱える竜一。
 思い出したくもないものを思い出したせいか顔が青白い。
「しかし・・・・あれでよく生きていたもんだ、ゴキブリもかなわんな・・・・」
「死ねないように呪を施しておいたからね」
 あっさりといいのけるミューズ。
 彼女は、あの二人に呪いをかけていたのだ。

 これから彼等は不幸の底なし沼に落ちていく。
 金銭面では破産、借金地獄。道を歩けば、物が落ちてきて生傷が絶えず、乗り物を運転すれば、多くの事故を起こす事になる。
 勿論、他人を巻き込むような事故は起こさないが、自身が大怪我になる事故は頻繁に起こる。
 だが、彼等(?)は死ねないのだ。
 どのような大きな事故を起こそうと。人生を悲観して自殺を図ろうと決して死ねない。死ぬ寸前の苦痛だけは十分に味わいながらも。絶対に・・・・
 彼等の為に死を選ぼうとした少女。彼女が生きた時間を無にしようとした彼等は、彼女が生きてきた16年間、どのようなことが有ろうと生き続ける責任を負わされている。
 その16年間が彼等の償いの時。それが終わらぬ限り、彼等に安息の日は決して訪れない。
 女神の裁きは下された。彼等は己の業にふさわしい罰をこれから受け続けることになるだろう。16年の歳月が永遠とも思えるほどの苦痛と苦悩の時を・・・・

 それを知って、竜一は苦笑した。
「相変わらず、悪趣味だな」
「そう?」
 人の悪い笑みを浮かべるミューズの横をサイレンを鳴らして救急車が走り去った。
 哀れな”元”男達に竜一は心の底から同情したのだった。

  完

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