[ 三妖神物語 外伝 裁きし者 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke

その四、罪と罰

「う・・・・ぷぅ・・・・」
 口元を手で押さえて、慶喜が息を吐き出す。
 それを見ながら冥子はあきれ顔で彼を見た。
「良くなったからと言って、あんなにお酒を飲めば気分も悪くなりますわ」
 そう言いながら、部屋の扉を開けて慶喜に肩を貸して歩く、ベッドの目の前までくると、慶喜に顔を向けて、肩に回されていた彼の腕をおろそうとしたとき、突然慶喜が彼女に覆い被さるようにしてベッドに倒れ込む!!
 どさり
「な・・・・何をなさるんです、重いですから早く退いて下さい」
 冥子のその言葉が終わるか終わらないかという時、慶喜は彼女の服を引きちぎっていた。
 ・・・・自分の身に何が起きているのか、はじめは理解でき無かった。そして、それが何なのか理解できたとき、彼女はけたたましい悲鳴を上げた。
「きゃあああ!」
 必死になってふりほどこうとしたが、男の力にあがらえるものではない、ましてや、冥子は女性でも小柄な方であり、慶喜は高校男子の平均を超えた体力を持っている。
「じたばたするな!」
 そう怒鳴り、慶喜は冥子の頬を二三回殴りつけた。
「や! やめてえ!!」
 だが、こうなった以上慶喜がやめるはずがない。理性的な男でさえこういう状況になれば理性は働かなくなるのだ、元々理性も良心も欠落している慶喜が自分の欲望を抑えることなどあり得ない。始めから、欲望に素直に従っているのだから・・・・
 上品なドレスは既に無惨に引き裂かれ、ぼろ布となっている。彼女の体は僅かにあでやかな刺繍で飾られた下着だけでかろうじて隠されているというありさまだ。
 その下着も、彼の力の前には何の意味もない。男として女性を力ずくでものにするというのは、ある意味ではすばらしい快感であった。それを楽しみながら慶喜は相棒が来るのを待っていた。
「おい! 啓介、早く来いよ。俺は早くこの女を食いたいんだからな」
「そうせかせるなよ」
 そう言ってドアを開けて啓介が入ってきた左手には8mmビデオカメラが握られていた。
「へへ、お前の処女喪失のシーンをばっちり撮らせてもらうぜえ」
 彼女が処女であるかどうかは確かめたわけではない、しかし、何人もの女性を強姦してきた慶喜にはおおよその見当が付いたのだった。そして、それはある意味では極めて正確であった。そう、有る意味においては・・・・
 慶喜の言葉と啓介の姿を見て、冥子は目を見開いた。
「違う! こんな事あるはず無い!! こんな馬鹿なことあり得ない!!
 目を覚まして!! こんな事有るはずが無い!!」
 錯乱したように必死に暴れ、大声で叫ぶ冥子に、にこやかに笑いながら慶喜は冷たく突き放す。
「これに懲りたら、見知らぬ男を家に入れないことだよ・・・・
 もっとも、君にとってこれから起こることは至福の時だ。そう邪険にしなくてもいいだろう?」
 その慶喜の言葉に、冥子は蒼白になり啓介はにやついた。
 強姦されているシーンをビデオに撮る。
 もしも、強姦された女性が訴えればそれは警察にとってまたとない証拠となるのだが、数人の女性に同じ手口を使いながら彼らが無事でいるのは、訴える女性がいないと言うことになる。だからこそ、彼らも証拠が残るこんな作戦をとるのである。
 その確実さと、後々のお楽しみという理由が彼らにこんな行動をとらせていた。
「いや! いやだよ! やめてえぇ!」
 泣きながら懇願する冥子の声が、よけいに慶喜の嗜虐性を高めた。
「へへ、いくぞぉ・・・・」
 慶喜が一段声を下げて、下着をはぎ取る。そして・・・・
「ぎゃああぁぁ!」
 慶喜に純血を奪われた冥子が絶叫を上げた。
「へ・・・・へへへ・・・・いいぞ、気持ちいい」
 慶喜は自分の動きに反応して苦痛で歪む冥子の顔を楽しんでいた。
「へへ・・・・啓介、ちゃんと撮ってるだろうな」
 慶喜の問いに、啓介が答える。
「ああ・・・・ちゃんと撮っている・・・・あんた達のおもしろい姿をねぇ・・・・」
 啓介の答えに慶喜は首を傾げた。”あんた達”とはどういう意味か? 何よりも後半、声が違っていたような気がした、少なくとも、それはまるで女性のような声だった。
 どこかで聞いた誰かの声・・・・・それを不審に思い確かめようと慶喜は啓介の顔を見た。

「・・・・・・・・・・」
「い、いやだ、やめてよぉ・・・・あひぃ、痛いよう・・・・」
 あまりのことに啓介は自分が今何を見たのか、とっさに判断できなかった。
 それでも、男の本能のなせる技か、思考能力が麻痺した状態でありながら下半身は相手を貫き続けている。だが・・・・目の前のそれが現実だというのなら自分は今誰としているのか?

 目の前で自分を映しているのは、カメラを片手に自分達を撮っているのは相棒の啓介、そのはずだ。
 そうでなければならないのだ! だがそこにいたのは・・・・
 自分が抱いているはずの、貫いているはずの冥子だった。
 いや、違う、冥子は冥子でも、先ほどの冥子と何かが違っていた。
 そして、慶喜は気が付いた、それは瞳の色だったのだ。
 つい先ほどまでは彼女の瞳の色は褐色の極普通のものだった。
 だが、今の彼女の瞳は、強い光を放つ黄金の輝きと、深い神秘に満ちた淡く青みがかった銀の瞳をしていたのだから!
「男って便利ねえ・・・・頭が麻痺しても下半身は元気なもんねえ・・・・」
 おもしろそうに慶喜と相手を眺める冥子。しかし、瞳の色が変わったとたんにその様子もがらりと変わった。
 先ほどまでの彼女は、どこか頼りなげで華奢な、簡単に言えばつけ込みやすい絶好の獲物だった。
 それなのに、今目の前にいるのは、ふてぶてしい、面憎いほどに自信にあふれた、近寄りがたい迫力と威厳に満ちた存在だった。
 獲物どころか、下手に手を出そうものなら、痛烈なしっぺ返しがくることは疑いようがない。傍若無人で鈍感な慶喜でさえ簡単に想像できるほどの危険な女だった。
「い・・・・いたいよ・・・・やめてよ・・・・」
 そして、自分の体の下から聞こえてくる嗚咽の声音が変わったことに遅蒔きながら慶喜は気が付く。

 認めたくはなかった・・・・

 自分達以外に人間はいないと冥子は言ったのだ。
 その冥子が目の前にいる以上、自分の下になっている者がいったい誰なのか・・・・すでに分かっているのだ、頭では。が、感性がそれを認めない。
 認めたくなかった、それでも、確かめる必要があった、死ぬほどいやだったが・・・・
 いやがる感性を無理矢理押しのけて、ちらりと視線を下に、自分が重なっている相手を確かめる・・・・
 はたして、そこに自分が一番認めたくない相手がいた、絶対に有ってはならない・・・・
 だが、変えようのない現実がそこにあった。
「な・・・・なんで・・・・こんなことするんだよ・・・・」
 涙声でそう非難したのは彼の相棒の啓介だった。啓介にはそっち趣味など無かったので当然あそこはバージン(?)である。それを慶喜に奪われたショックと痛みで、ほろほろと泣いていた。
「ぬ、抜けねえ!」
 自分がおぞましくも相棒を貫いていることを知った慶喜は必死になってそれを抜こうとするが、まるで中で引っかかっているかのように、全く抜けない。
 渾身の力を込めて抜こうとするが一定の所までくると、ぴくりとも動かなくなるのだ、奥に入れ直して、勢いをつけて引き抜こうとするが、何度試しても無駄だった。
「あう、痛い、痛いよお」
 何とか自分の物を引き抜こうと慶喜は何度も動くのだが、いっこうに抜ける気配は無い。慶喜の力のこもった激しい動きに啓介は涙を流して悲鳴を上げる。
 その行為は、結果として端から見ていると激しいピストン運動にしか見えない。これを見ても、誰も、それが抜くための努力だとは思わないだろう。
 どう見ても激しく”愛し合っている”としか思えない状況なのだ。そして、それは彼女の手の中にあるビデオにしっかりと記録されている。

「いいわねぇ、絵になるわ」
 にこやかな顔と冷たい口調。男達の狂態を彼女はあざ笑う。
「て、てめえ! いったい何をしやがった!!
 何の恨みがあって・・・・そうか! 女達に雇われたな!!」
 慶喜は殺意さえこもった瞳で彼女をにらみつけた。
「さあて・・・・どうかしらねえ・・・・想像はご自由に」
 慶喜の瞳に宿った強い光をまったく気にすることなく彼女はビデオを回し続ける。
「そのビデオをどうする気だ!」
「そおねぇ・・・・あなた達の学校にコピーしてばらまくのもいいわね。
 TVのビデオ投稿番組に出すのもおもしろいかも・・・・
 どうしたらいいと思う?」
 わざとらしく慶喜に意見を求める、彼は顔から血の気が引くのを自覚した。
 この女は自分がしてきたことをそっくりおかえしする気なのだ。そして恐ろしいことに、男にとっては、女は脅して”もてあそぶ”という楽しみがあるが、女から見れば、気に入らない男と”遊ぶ”ということなどあり得ない。
 脅すとすれば、金の無心。もしも金に興味がなければ、自分達の狂態を撮ったテープが世間に公表されることになるのだ!
「か、金ならいくらでもはらう! だから頼む、そのテープを売ってくれ」
「ほーそんなにお金持ちなのあなたは?」
 にやにやと笑う彼女を見て、慶喜は内心で体勢を立て直すことが出来た。どうやら、金でけりを付けられそうだ。それなら、何とかなる。この場を取り繕ったあと、後で懲らしめてやる。
 密かに決意する慶喜。彼の頭にはどうやら学習機能も記憶力もないらしい。
 先ほど感じていた得体の知れない恐怖と迫力をすっかり忘れ去っていた。
 彼は目の前にいる彼女をただの金の亡者と決めつけ、その本質を見失ってしまったのかもしれない。
 あるいは、女ごときにここまでしてやられたと言う屈辱感が彼の判断力を狂わせたのであろうか?
 それとも、自分のプライドを保つために、わざと彼女を低く見ようとしているのかもしれない。
 もっとも、それがとんでもない過ちであることを、彼はすぐに思い知らされることとなる。
 彼女の問いに、彼は頷いて答えた。
「俺の親父は通産省の大臣だ。こいつの親父はヤマギグループの会長。金なら、百万でも二百万でも出せるぞ。
 だから、そのテープを売ってくれ!」
「ほう・・・・」
 彼女の声が幾分低くなった。
 それが極めて危険な兆候だということくらい彼らにも分かる。もっとも、どれほど危険なことかは彼女の身内しか知り得ないことだったが。
「なぜ、金に不自由していないのに強姦をしているのかしらねえ?」
 その言葉に慶喜は一瞬息をのんだ。
 まるで、部屋の気温が一気に氷点下まで下がったように感じる。つい先ほどまで感じていた夏の蒸し暑さがまるで嘘のように・・・・
「そ・・・・そうだよ・・・・悪いか! 強姦がおもしろいんだから!」
 今更取り繕っても仕方がなかった。慶喜は何とか虚勢を貼って叫んだ。
「金には不自由していないのに、女の子達から金品を脅し取っている・・・・と」
 さらに冷たい口調。彼女の一言一句が氷の矢になって慶喜の心臓を射抜く。
「か・・・・金はいくらあっても・・・・いいじゃない・・・・か・・・・」
 蚊の鳴くような声で呟く慶喜を、彼女は目を細めて睨みつける。
「ほおぉ・・・・そぉ言う了見なの・・・・」
 その瞳に宿った輝き。それを知ったとき慶喜は背筋が凍り付いた。
「・・・・いいわ、金で片を付けて上げましょう」
耐え難い沈黙の後発せられたその言葉に、思わずほっとした慶喜と啓介だった。
「テープ1本一千万円で売って上げる」
「い・・・・一千万・・・・!」
 悲鳴を上げたのは啓介だった。確かに父親に泣きつけばあるいはそれくらいの金は用意してもらえるかもしれない、だが、いきなりそれだけの金額を要求されるとは思ってもいなかった。せいぜい数百万程度と思っていたのだから。
 しかし、今更後へは引けない、とにかく何とか口先だけで丸め込んでやろう。
 慶喜はそう決心し、何とか自分のペースに引き込むべく交渉を開始した。
「分かった・・・・何とか都合をつけて金を払う、だから・・・・・」
 そこまで言った慶喜を彼女は右手を挙げて止める。
「テープは1本一千万円、あなたが手を出した女性全てにコピーをばらまくから、頑張って買い集めてね」
 ・・・一瞬、何を言われたのか二人は理解できなかった。
 だが、その要求を理解したとき、彼らはついに憤慨した。もう、交渉も計略もない、
 そんな事を考えている心の余裕など、どこかに吹き飛んでしまっていた。
「ふ・・・・ふざけるな! 足下見やがって!!」
「何で他の女に金を払う必要がある!」
 二人の非難を彼女は右から左に聞き流し、言葉を続けた。
「現金の受け渡し方法は、私の口座に振り込むこと。
 振り込まれた金は私が責任を持って相手に渡すわ。
 ただし、あなた達が金を取り戻さないように相手の名は秘密にしておくわね」
 自分達の言い分を無視された慶喜は怒声を上げる。
「てめえ! 人の話を聞きやがれ!! 誰がそんな大金を払うと言った!!」
「それなら、あなた達の痴態はこの町はもとより、TVを通じて全国にさらされることになるわね」
 聞く耳持たぬといいたげな彼女の台詞に、啓介がかみつく。
「このアマ!! 俺達をもて遊びやがって!
 そんな卑怯な手を使って、人間として恥ずかしくないのかよ!!」
「ほほおぉう・・・・卑怯ねえ・・・・人間として恥ずべき行為ねえぇ・・・・」
 目を細め、わざとらしく”卑怯”と”恥ずべき行為”の部分にアクセントをつける。

 お前達にそれが言えるのか? そんな事を言う資格が有るとでも思っているのか!

 彼女の瞳はそう言っていた。

 二人はとっさにどう反撃すべきか分からなくなっていた。確かに今まで自分達がしてきたことだった。
 だが、今までは、加害者の側にたっていたため、全くそんなことを考えたことは無かった。せいぜい、教師にばれたら退学だな・程度のことでしかなかった。
 勿論退学になるはずもない。金を握らせて学校を沈黙させるくらい訳はないのだから。
 その金額もせいぜい百万といった程度の物だ。それがいきなり一千万という法外な金額をふっかけられ、しかもそれを相手は適正価格だと言わんばかりである。
 そして、それを飲まなければ、この醜態を世間にばらすというのだ。これは社会的に抹殺するということだ。
 このような醜聞をばらまかれたら、例え父親といえどもごまかしきれない。
 それどころかこんなスキャンダルを知られたら父親の立場が悪くなることは必死だ。
 そうなれば、かばってくれるどころか、切り捨てられ見捨てられる可能性の方がはるかに高い。
「た、頼む。謝る! 謝るからそんな無茶はやめてくれ!!」
 ついに慶喜は泣いて謝りだした。啓介も必死に頭を下げる。
 もっとも、二人とも裸でしかもつながったままだから、とても悲壮さが見えない。それどころか、滑稽でさえあった。
 そんな悲壮な二人に彼女は全く頓着しなかった。
「金を払うこと。それ以外にあなた達に道はないわ」
「ひ・・・・人がこんなに頼んでいるのに! 冷血女!」
「お前達は泣いて懇願した女達を許してやったの?」
 慶喜の悲鳴に彼女は冷笑を持って答えると、さっさと歩きだす。
「ま、待ってくれ! せ、せめて、これを抜いてくれよ」
 慶喜が自分と啓介の接合部を指さし情けない声で助けをこうと、彼女は冷たく言い放った。
「それね、私にも、もうどうしようもないのよ。それを外したかったら・・・・」
 意味有りげにそう言うと、右手でじゃんけんのちょきを形作り、人差し指と中指をくっつけて見せた。
「これしか方法はないわね」
 心底楽しげに笑う彼女に慶喜の顔から完全に血の気が引いた。
 真っ青な顔で、確かめるように呻く。
「ま・・・・まさか・・・・切れ・・・・と?」
「あたり」
 うれしそうに笑い、彼女はそのまま背を向けた。
「じゃあね」
 そのままドアを開け、外に出ていく。
「ま、待ってくれ! 頼む何とかしてくれ! おい!」
 だが、閉じられたドアからは何の返事もなかった。
 絶望の底にたたき込まれた慶喜は、せめて、医者に診てもらおうとベッドの脇にあった電話に手を伸ばす。

ぐにゃり

 周りの景色が一瞬音を立てて歪んだように慶喜には感じられた、あるいは、余りのショックにめまいがしたのかもしれない。そして、その歪みが収まったとき、彼らの周りの景色は一変していた。

 つい先ほどまでここは、一流ホテルとも見間違うほどの豪勢な品のいい部屋だった。
 家具も一流品でありベッドの感触も最高の品のはず・・・・

 それがどういうしたことか!
 今目の前にある部屋は、部屋というのもおこがましい代物ではないか!!
 重厚で高級な木材で出来ていたはずのドアは安物のスチール製、ふかふかのベッドと思っていたのはただのベニヤ板がおかれているだけ。あげくには窓にはガラスもなく、四角い穴以外の何物でもない。
 そこは、建設途中のビルの中であった。彼らは知る由もなかったが、そここそ、彼らにもてあそばれた少女が命を絶とうとしたあのビルだった。
「こ・・・・これは・・・・いったい・・・・」
 慶喜も啓介も呆然とした。自分達はいったい何をしていたのか? あるいは今までのは全て悪い夢で何もしていなかったかもしれない。彼らはそう思いたかった。だが慶喜も啓介もそれが夢でない証拠を目の前に突きつけられている。現実逃避は許されなかった・・・・

「い・・・・痛いよ・・・・早く抜いてよ・・・・」
 涙声で訴える啓介に、慶喜はやけくそで怒鳴り散らした。
「抜けだと! 抜くって事は俺のこれをちょんぎる事になるんだぞ!
 第一、どうやって医者に行けって言うんだ!!」
 このビルが建設途中である以上、電話など有るはずもない。そうなれば、電話のあるところまで歩いて行かなくてはならないのだ。この情けない姿で、裸のままで・・・・
 裸?
「そうだ! 服!!」
 我に返って慶喜は周りを見回した。服の中には携帯電話があるのだ!
 それを使えば何とかなるかもしれない・・・・
 そう思い辺りを見回したが、服は結局どこにもない。既に冥子が処分していたのだ。

 どこまでも卑劣な女だ!!

 自分のことはしっかりと棚に上げ、歯がみして悔しがる慶喜だったが、既に手遅れである。もはや、彼等には道は残されていなかったのだ・・・・

 結局、彼らは泣く泣くビルから外へ出ることにした。このまま黙っていても餓死するだけなのだから。
 建設途中であるからエレベータが有るわけもない。薄汚れた階段を真っ裸でしかも男同士が結合した姿で歩くのだから、並大抵の苦労ではない。
 裸足で歩く間に足の裏を小石で切り、血を流しながら二人は階段を下りていく。それは拷問だった。だが、真の拷問はビルから無事に出てから始まることを二人とも知っていた。

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