[ 三妖神物語 外伝 裁きし者 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke
その弐、欲望にまみれた手
その日は最低だった。
本命にかけていた馬券はあっさりと外れて紙屑と化し、パチンコに行けばこれまでの最短記録で財布が空になる有り様だ。
隣を歩く自分の相棒はといえば、馬券はともかくパチンコではそこそこに利益を出し、ほくほく顔で歩いている。
「ったく、何でお前ばっかりいい目を見るんだ! ああ、世の中は不公平だ!!」
「悪いな慶喜」
「まったく・・・・。啓介、お前俺の幸運横取りしてんじゃねえか?」
隣を歩く少年を危険な目つきでにらむ。
しかし、
「何いってんだか、今日は俺のラッキーデーなの。雑誌の占いでもそう書いてたしね」
「なーにが、ラッキーデーだ、女じゃあるまいし占い何か信じてんじゃねえ!」
にらみながら悪態を付いていた慶喜は、その自分の言葉であることを思い出した。
「そうだ、あいつを呼び出していじめてやれ、ついでに金も持ってこさせよう」
「ああ、あいつは最近手に入れた奴隷の中でも最高だな。
美人で具合も良くて大人しい、おまけに金持ちときた。最高の雌だぜ」
二人の会話はとても高校生の物とは思えなかった。
その表情は学生の物では無く、肉欲におぼれた醜い怪物とも言うべき物だった。だが、その醜悪さを二人の少年は全く自覚していない。
ポケットから携帯電話を取り出し、TEL−Noを押す。彼らの奴隷の家に・・・・
プルルルル・・・・ガチャ。
呼び出し音に続く機械的な音。
「おい、俺様だ・・・・」
だが、慶喜が全てを言うことは出来なかった。ピーという聞き慣れた電子音と共に流れ出すメッセージ。
「ただいま留守にしております、ご用件がお有りの方は・・・・」
涼やかな声で機械が対応する。
どうやら肝心の彼らの奴隷は外出中らしい。
本人なら呼び出すことは可能だが、留守番電話では下手なことは言えない。
一応、彼女専用の電話だが、いつどんな弾みで彼女の親がそれを聞くかもしれないのだ。
結局、彼はすぐに電話を切った。いつ連絡が入るか分からない相手を待つのも馬鹿馬鹿しい。そんなことをするくらいなら、他のことをして時間を潰す方がおもしろい。
二人はしばらくあたりをうろついていたが、前から一人の女性が歩いてくるのに気が付いた。
顔立ちはなかなかの美人だ。ブランド物の服を着ているがその趣味もかなりセンスがいい。
年齢は18〜20位か、少なくとも外見から察するに彼らよりは年長だろう。だが、そんなことは彼らには関係なかった。
「おい、あの女どうだ?」
慶喜が啓介に声を潜めて聞く。
「いいんじゃないか? なかなか良さそうだし、金もそこそこ持っていそうだ」
啓介が舌なめずりをするように答える。
彼らのその目には欲望がぎらついていた。自制心を持たない者の危険な瞳だった。
「きゃあ!」
人影のない、ビルの狭間に女性の悲鳴が響きわたった。
欲望の権化となった二人の少年だったもの達が、目を付けた”獲物”をなぶろうとしていたのだ。
「叫びたければ叫びな、その方がおもしろい」
後ろから女性を羽交い締めにした慶喜が楽しそうに笑う。
「そうそう、無抵抗の女ばっかりで飽きていたんだ。
少し抵抗してくれた方がおもしろい」
残忍な笑みを浮かべて啓介が女性のスカートの中に手を入れようとする。
「いや! やめてえ!!」
女性の絶望的な悲鳴。それを聞きながら快感に酔いしれる二人。
人間としての精神的なできはともかく、彼らの肉体的な能力は標準的な高校生を抽んでていた。下手なちんぴらやくざよりよほどやっかいな相手である。普通の女性ではとても力で対抗できるものではなかった。
彼女も又彼らの毒牙の餌食となりつつあった。
「さて、それじゃあ、お姉さんの一番大事なところを・・・・」
そう言いつつ、伸ばされていく手。
そして、その瞬間を撮るために地面に8mmビデオがおかれている。うまく映ればいいが、映らなかったら、彼女を物にした後、改めて彼女の裸を撮りそれをネタに強請ればいい。そのために買った物だ、使わなければ損なだけだ。
「へへへ、もうすぐお姉さんの大切なところがビデオに撮られるぜ」
わざと下品な事を言いながら彼の欲望にまみれた手がのびる。
そして、それが彼女の大切なところを隠している布に触れる寸前にそれは来た。
「いい加減にしろ、馬鹿者共」
美しい魅惑的な声音には似合わない侮蔑と嫌悪のこもった声が慶喜の背中に投げつけられた。
女性を羽交い締めにした慶喜は首だけ後ろに回し、啓介は彼女から離れてその声の主を見つめた。
声から察するとおそらくは女性と思われたが、もしかしたら、声の高い男かもしれない。
そう思えるほどにその人影の性別を外見から判断するのは難しかった。
その人物はとてつもない長身だった。
どんなに控えめに見ても2mは優に越えている。
金髪が光を放ち、まるでもう一つの太陽であるかのように輝いている。
顔は整いすぎているほど美しい。その秀麗な顔に嫌悪と侮蔑を浮かべて、その人物はビルの谷間の路地に仁王立ちになっていた。
その広い肩幅といい、迫力といい、一瞬男と間違えてしまう。もしも、最初の声を聞いていなければ、彼らも間違いなく男と間違えているはずだ。
ただ、その肉体が男のような無骨なものではなく、しなやかな丸みを帯びたものであること、そして、その胸の膨らみが、かろうじて彼女が女性であることを主張していた。
だが、その体から発されるすさまじいまでの威圧感は、たとえどんなに鈍感な人間でも圧倒するだけの力を秘めていた。
実際、普通の高校生より遥かに肉体的に優れていた慶喜と啓介は相手の持つ常軌を逸した力を感じとり冷や汗をかいていたのだ。
「な・・・・なんだよ・・・・何か文句あんのか?」
「つまらないお節介なんかしない方がいいぞ・・・・お・・・・俺達は強いからな・・・・」
内心の動揺を抑えようと精一杯の虚勢で大柄の美女にはったりをかけるが、成功したとはいいがたい。
その言葉から動揺と恐怖がありありとにじみでていた。
ゴキン!!
ガキ!
鈍い音と共に二人の目から火花が散った。
彼らが何かを言っていたようだが、それにかまわず、大柄な美女が歩み寄り、彼らを殴りつけたのだ。
「うぐぐぐぐ・・・・」
「こ・・・・こいつ・・・・」
頭を抱えて呻いている二人の強姦魔は、目に涙をためて美女をにらみつけていた。
(ふむ・・・・人間を殴るのは加減が難しいな・・・・)
金髪の美女は軽く首を傾げた。今の一発でのびるかと思われたのだが、どうやら力を加減しすぎたようだ。しかし、下手に力を入れると気絶どころか首の骨が折れてしまいかねない。その辺の力の配分が難しい。
もっとも、今のでだいたいの見当は付いたが。
頭をふって、何とか体勢を立て直そうとしている彼らに侮蔑の視線を投げつけて、美女が視線を動かす。
「どうした、早く逃げろ」
彼女はぶっきらぼうにその場に座り込んでいる女性に向かって促すが、女性はふるえる声で答えるだけだった。
「こ・・・・腰が・・・・抜けて・・・・」
二人から解放された女性は、安堵感からかあるいは先ほどの恐怖のためか、腰が抜けているらしく、逃げられずにその場にへたり込んでいた。
「やれやれ・・・・」
溜息をもらした美女が視線を強姦魔達に戻すと、彼等はまだ痛む頭をなでながらその場を逃げ出そうとしていた。
「それは困るな・・・・」
美女はそう呟くと、足早に彼らのそばに近づいた。
一歩歩く毎に頭がずきずき痛み出す。その痛みに顔をしかめながら、なんとか足を進めている彼らの横に彼女は並んだ。
ゴキャ!
再び狭い路地にものすごい音が響きわたった。
目から先ほどとは比べ物にならないほどの火花を散らせて、二人の強姦魔はそのまま倒れた。
彼らの意識は、深い闇のそこへと落ちてゆく・・・・
「こんなものか・・・・」
彼等が意識を失うのを見届けて頷くと、美女は腰を抜かしている女性の前に戻った。
「怪我はないようだな」
女性をすばやく観察し、そう言うと彼女を抱き抱えた。まるで、猫の子を抱くかのように軽々と持ち上げられ、女性は小さな悲鳴を上げる。
「きゃっ!」
「そう警戒しなくてもいい。
腰が抜けているのだろう? 適当なところまで送ってやる」
笑いながらそう言う。
「あ・・・・ありがとうございます・・・・」
本当は死ぬほど恥ずかしかったが、腰が抜けて動けないのだから仕方がない。
こんな薄暗い場所でついさっきまで自分を襲っていた相手と一緒にいるのもご免だった。
恥ずかしさに耳まで真っ赤にしながら、彼女は自分を軽々と運んでいる女性に尋ねた。
「・・・・あなたのお名前をまだうかがっていませんでした・・・・」
彼女の質問に金髪の美女は短く答えた。
「メイル」
二人が去った後、だらしなくのびた二人の強姦魔が残された。