[ 三妖神物語 外伝 裁きし者 ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke
その五、結末
「う・・・・うげえぇぇぇ・・・・気持ちわりいい!」
モニターに映し出されている画像を見て、顔を真っ青にした竜一が死にそうな声を出す。
そこに映し出されているのは、つい先ほどミューズがビデオに撮ってきた馬鹿な男達の痴態である。
今回の出来事の報告の締めとしてミューズが竜一に撮ってきたばかりの映像を見せたのだが、そっち方面に全く興味も免疫も無い竜一は、最初の数秒でいきなり吐き気を催してしまっていた。
元々、ホモやおかまに人権はないと言い切るような性格の竜一である。
自分の目の届かないところでされていれば、個人の自由だと無視するが、内心ではうわさ話を聞くだけで吐き気を催すような彼だ、本物のビデオを見せられては、ひとたまりもない。
「こ・・・・こんなもん見せるなあ!!」
半分泣き顔で竜一は抗議した、これは、はっきり言って拷問である。
「そう? 結構おもしろいと思うけど」
画面を見ながら平然と答えるミューズ。
映像を見ながら、やれ、構図が甘かっただの、もう少し照明を入れた方が良かっただのといっぱしの監督気分で自分の脚本・演出・監督作品を採点していた。
「悪趣味な・・・・」
ミューズの撮ってきたビデオを見ながら、メイルはあきれていた。
「本気で、こんな物を被害者達にばらまくのか?」
メイルが言うと、シリスもそれに応じた。
「そうですね、あまりいい趣味とは言えませんわね・・・・
ミューズ、あの二人には細工をしたのでしょう?」
シリスの疑問にミューズ胸を張る。
「勿論、今回のことを思いっきり深層意識に刷り込んでおいたからね、二度と、女性に手を出そうなんて気にはならないはずよ。
もっとも、これで目覚めて、あっちの趣味に走ることも十分あり得るけど・・・・」
にやにや笑いながらミューズは画面を見て続ける。
「でもいいじゃない、一応被害者の皆さんには送っておいても。
きっと喜んでもらえると思うわよ」
「・・・・嫌がらせの間違いだろ・・・・」
メイルのもっともなつっこみに知らんぷりを決め込んでミューズはモニターを眺めながら続ける。
「そんなこと無いわよ、きっとみんな面白がって見ると思うな・・・・」
「何を根拠に・・・・」
顔をしかめてメイルが唸る。目の前にある十数本のビデオテープをテープ消磁装置で消し去りながら。
勿論、そのビデオテープの山は、あの二人の家から押収した、被害者の弱みが記録されているテープである。ミューズがあの二人を虐めている間に、メイルが彼らの家に忍び込み失敬してきたものだった。
メイルならば、体内に地球の磁気を蓄え圧縮して放出し、一瞬で全てを消し去る事も可能だが、周囲のエネルギーを蓄え、増幅して叩きつけるという彼女の能力は純粋に戦闘用の能力なので、細かい作業には向いていないのである。
こんなところでその能力を使ってテープを消去しようものなら、竜一がタイマー録画したものまで綺麗さっぱり消し去ることは疑い無く、そんなことをしようものなら、確実に竜一にお仕置きされてしまうだろう。
「それにしてもあの馬鹿供、ずいぶんとためていたものだ」
あきれながらも、自分の仕事を黙々とこなすメイル。
とそれまで静かだったシリスがけたたましい悲鳴を上げた。
「きゃああ! 御主人様! 御主人様!! しっかりして下さい!!」
その悲鳴に何事かとメイルとミューズが振り向くと、白目をむいた竜一がシリスに抱き抱えられていた。
ビデオのショックが大きすぎたため、気を失っていたのだ。
「・・・・」
その事態にメイルが目を点にしていると、その傍らでミューズが楽しげに笑った。
「マスターの弱点みーつけたっと!」
「・・・・誰のせいだと思ってんだ・・・・」
メイルは額に右手を当てて呻いた。
それから、三日がすぎた・・・・
結局、彼らは金を振り込まなかった。
家の事情で、それだけの大金を払うことが出来なくなったのも勿論理由の一つだが、一番の理由は、その必要が無くなったのだ。
あの後、バージン(?)を奪われた啓介は完全にそっちの方面に目覚めてしまい、現在はゲイバーでバイトする始末。慶喜も男の象徴をちょんぎったため、ニューハーフとして新しい人生を歩んでいる。
自分の息子の余りの醜態に両者の父親も完全に彼等を見捨ててしまっていた、かろうじて生活費の面倒は見てもらえたが数千万という大金をどうにかするほどの財力など既に彼等にはない。
そして、ミューズの手によって彼等の深層意識には今回のことが深く刻み込まれていた。
その効果はてきめんで、もはや、女性に悪戯しようなどという気も起きない。それどころか、女性が近づくだけで悪寒と恐怖が彼等を襲い、思わず逃げ出してしまう有り様だった。
勿論、今まで手を出した女達にも近づくことさえ出来なくなり、完全に手を引いていた。
金をたからなくなり、手を出さなくなった上、同性愛に走った二人を不思議そうに見ていた彼女たちだが、その手元に送られてきた差出人不明のビデオを見てその理由を知った。
そのビデオには便箋が一枚同封していた。その便箋にはワープロ文字でこう書かれていた。
”あなたを脅していた彼らのビデオは全て消去しました。安心してください。
あなたにこのビデオと一緒に送ることも考えましたが、郵便事故などを考えると私の手で消去したほうが安全と考え、こちらで処分いたしました事をご了承ください。
万が一、あの馬鹿二人がまたあなたに手を出して来た場合は遠慮無くこのビデオを利用し、ご自身の身を守ることをお勧めします。
なお、その方法はあなたにお任せします。
女性の味方 夜の女王”
その手紙を読んだ女性達は一瞬新しい脅迫者が生まれたのかと思った。しかし、送られてきたビデオを見てその考えを変えた。女性達ははじめ、そのビデオが自分達の痴態を取ったビデオを編集した物かと恐れていたが、そこには男達の痴態そのものが映されていたからである。
彼女たちの半分はそれをおもしろがって見、残りの半分は悪趣味ではあるが、彼等に対しての切り札として、とりあえず押入や机の引き出しの奥に封印していた。
既に無用の長物では有ったが・・・・
ただ一人、他の女性達には同封していた便箋さえなく、ただ男の痴態を記録されたビデオのみを送りつけられ、それが一体何を意味するのか分からず、頭を抱えて苦悩した少女がいたこともつけ加えておくべきだろう・・・・
そして、ある日の昼下がり。
「あの馬鹿ども、どうしてる?」
竜一の問いにミューズはおもしろがって答えた。
「二人とも立派な同性愛者として人生をやり直してるわ。もっとも、これからもっと不幸になる予定だけどね・・・・」
ミューズは彼等から男を抹殺したが、それで終わりではなかった。彼等の運命に強制的に干渉し、これから彼等は底なしの不幸の泥沼へと落ちて行くことになる。
一人の人間を死に追いやろうとした相手にミューズは相応の罰を用意しているのだ。
たかが、同性愛になっただけで彼女を苦しめた罪が清算されるわけではない。
「彼女に与えた不幸の分だけ苦しんでもらわないと、不公平だからね・・・・」
ミューズのすごみのある言葉に竜一は苦笑した。
「相変わらず悪趣味な奴だなあ・・・・」
竜一がそう呟くと、メイルも全く同感と言うように頷く。
「シリス・・・・お前はどう思う?」
メイルの問いにシリスは微かに憂いを含んだまなざしで微笑むだけだった。