[ 三妖神物語 第二話 女神集う ] 文:マスタードラゴン 絵:T-Joke
エピローグ
あのあと、竜一は渋る三人に命じてあの7人をもとに戻させた。
正確にはメイルとシリスが反対したのだ。
メイルにとっては敵は殺しておくに限るし、シリスにしてもそれは同様であった。
いかに、シリスが慈悲深いとは言え、それは無条件ではありえない。
普段は常に主人の暴走を抑え、他の二人のやり過ぎを諌める役割を自らに課しているシリスだが、それはあくまでも主人のためであるのだから。
ましてや、自分の命よりも大事な主人を殺そうとした相手に対しては、あるいは三人の中で最も過激かも知れないのだ。
だが、そんな二人をなんとか竜一は宥めた。
あの場で、”聖戦士”を殺してしまっては、結局シリスが彼等を殺したのと同じ事になる恐れがあったのだ。
そう言って、何とかメイルを宥め、シリスを宥めて、あの7人を元に戻したのだ。
勿論、竜一とて無条件に許した訳ではない。
ミューズに力を封じさせ、徹底的に叩きのめして、二度と手を出す気が起きないように十分に教訓を叩き込んでやったのだ。
そして、”聖戦士”騒ぎから既に10日が過ぎていた。
だが、彼等の報復は今の所無い。
どうやら、あの脅しは十分に利いているらしい。
まあ、神の”奇跡”を封じられた上に、得たいの知れない化け物じみた女が三人もガードについているのだから、さしもの”聖戦士”様も手を出す気にはなれないのだろう。
今や、三人の美女(それも、幻想的な美しさを誇る絶世の美女)と同居することになった竜一は、だが、素直には喜べなかった。
「何故追いかけてきた?
私が死ぬ時、言っておいたはずだ。自分自身のために生きろと。
なのに何故だ?」
竜一は、かつて彼女達の主人であった時、ある罪をおかした。
そのために、もといた世界から追放刑になったのである。
その時、竜一は彼女達に自分から離れて、自由に生きるように命じたのだ。
しかし、今、彼女達はここにいる。
「御主人様、あれからどれほど時間が過ぎたのか御存じですか?」
シリスの問いに、竜一は素直に首を横に振った。
「もう三千年以上過ぎてるぜ。」
メイルが面白そうに答える。
「三千年だあ?」
我が耳を疑った竜一にミューズが面白そうに頷く。
「そうよ。」
微笑していたミューズが、ふと真面目な顔になる。
「でも、それで気がついたのよ。
マスターがいない世界が、私達にとって何の価値もないということに。」
その言葉に、メイルが頷く。
「本当につまらなかったぜ。
まあ、正式に神の称号を貰ったからまったくの無駄じゃなかったけどな。」
「神の称号?」
これは竜一には初耳だった。
「ええ、私は”雷神”ミューズ。」
「あたいは、”闘神”メイル。」
「わたくしは、”魔神”シリス。」
シリスの言葉に、竜一はいぶかしげな表情で尋ねた。
「魔神だあ?」
だが、竜一の問いと同時にミューズとメイルが、声を揃えた。
『シリス、あなたは”薬神”でしょう!』
そして、三人は、竜一に簡単に事情を説明した。
竜一、いや、マスタードラゴンである彼が、あの世界から追放刑になったあと、あの”外道”が、人間達を宗教的に支配しようと再び動き出したため、他の神々は、奴の動きを封じる必要に迫られた事。
そのために、
それに伴う、数度の宗教戦争。
そして、この世界に主人である彼の魂の輝きを見つけて、この世界に来たことなどを。
「なるほど・・・・大体判った。
だが、人間界を守護するお前達がこんな所に遊びに来ていては、向こうの人間達は、あの”馬鹿”の良い餌食になるのと違うか?」
竜一の心配はもっともな事だが、彼女達に抜かりはない。
それには既に手を打っていた。
昔からマスタードラゴンは彼女達の実力を過小評価する癖があったのだ。
それは、別に彼女達を見下している訳ではなく、彼女達の事が心配でそういうふうに考えてしまうのだ。
そして、彼女達が打った手は、彼を驚かせるのに、十分な物だった。
彼の罪の一部が償われたことを示すものだからである。
三人は、お互いに顔を見合わせ頷く。
代表して口を開いたのはミューズだった。
「ご心配無く、マスター。
人間界のことは心配ありませんわ、なにしろ、とても信用のおける者達に引き継いできましたから。」
「信用のおける者達?」
ミューズは頷いて、その名を口にした。
「
「!!」
竜一がその名を聞いて硬直する。
「御主人様、大丈夫です。彼女達はもう十分に力を回復しているのです。
もう、御主人様が苦しまれる事はないのですよ。」
シリスのその言葉に、竜一は苦しそうに呻いた。
「いいや、例え彼女達が完全に元に戻っても、彼女達を死の縁に追いやった私の罪は決して消えない。
彼女達にどう詫びればいいのか・・・・」
「何いつまでうじうじ気に病んでいるんだよ盟主。
そんなことじゃ、あいつらが悲しむぜ。」
「そうよ、彼女達はマスターが追放になって随分と悲しんでいたわよ。
マスターに会ったら、よろしく伝えてっていってたんだから。」
「そうか・・・・」
メイルとミューズの言葉に、竜一は頷いた。
これ以上この話しはしない方が良い。
三人はそう判断した。
そして、ミューズがゆっくりと立ち上がる。
「そろそろ、お昼にしましょう。」
「そうだな、そう言えば腹減ったな。」
ミューズの言葉に頷く竜一。
シリスも、ミューズに続いて立ち上がる。
「手伝います、ミューズ。」
「ありがと。」
そして、二人が台所に向かうと、メイルが竜一に笑いかける。
彼女は竜一の考えを見通しているかのように頷いた。
「大丈夫さ、何があっても、あたいらが守って見せるよ。
安心しなって。」
その言葉に、竜一も笑顔で答えた。
「そうだな。何とかなるか。」
そう呟いた竜一だった。
これからどうなるか、それは竜一には判らない。
このまま、何事もなく平穏に生きられるのか。
あるいは、波乱万丈の冒険物語りを語ることになるのか。
彼の運命は、まだ、運命の女神の胸のうちにある。
運命の女神の天秤は、今だ彼の運命を定めかねていた。
完