語る「万華鏡」

(主水純情する)

主水純情する(もんどじゅんじょうする)

項目名主水純情する
読みもんどじゅんじょうする
分類必殺シリーズ

作者
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  • 公的データ
  • 新必殺仕事人第10話
  • 感想文等
  • 新必殺仕事人」は、続く「仕事人」ナンバーシリーズと比べれば、まだまだドラマも芝居も有ったのは確かだ。カメラワークもルーティンではなく、いくつかは心に残る佳作と呼べる回も確かに存在する。

    しかし、足りないものがある。
    それは、中村主水という男の情念だ。

    中村主水が「必殺仕置人」で登場したときには、彼は仕置人チームの「知恵袋」であり、悪を標榜して外道を滅する「ヒーロー」だった。仕置人中村主水は――かっこよかった。「男30過ぎてカッコつけようなんざ、落ち目になった証拠よ」。そのセリフそのものが、そのままかっこよかった。

    「公儀隠密か!?」
    「違う……仕置人だ」
    仕置のテーマと共に登場し、こう言い放つ中村主水は紛れもないヒーローだったはずだ。

    頭が切れ、家庭や職場では巧妙な昼行灯のを維持しながら、念仏の鉄らの前では剃刀のような鋭さと世の中を開き直ったふてぶてしさを見せる。

    それは、仕留人時代の主水についてもおなじことが言えた。

    仕置屋時代の主水は、糸井貢の悲劇を胸に刻みつけ、冷徹さや非常さを身につけることで「世の中少しでもよくなったか」どうかなど考えることなく、仕置を続けようと足掻いていた。仕業人時代には、すり切れ、薄汚れながら、「恐ろしい男」で在り続けた。

    新仕置人時代、再びチームの「切り札」の位置に戻ることで、主水は心の安らぎを手に入れていた。新仕置人時代の主水が冷徹さや非常さ、恐ろしさを見せることは少ない。これはやはり念仏の鉄がヘッドとして存在することの安心感が強いのだろう。不死身、無敵のがいる限り、主水がグループの頭として責任を感じ、ストレスを溜める必要がなかったのだ。

    その新仕置人が崩壊し、家庭内での大変動により、主水は新たに思い定めた商売人を開始する。ここでの主水にもあまり「恐ろしさ」は見られない。思うにこれもまた、チームと言えるのは実は実際の仕置を担当することのない正八のみであり、おせい新次は彼ら二人の別チームとしての認識が、主水に責任者としてのストレスをもたらさなかったからではないか。だから、最終的に主水の魂をえぐり取ったのは、商売人チームの崩壊ではなかったのだ。

    仕事人主水には、そして苦さのみが残った。
    もう、のような熱い躍動した心で仕置をすることはできない。できるのは、ただの「仕事」でしかない。
    それでも、畷左門という男がいる間は、主水には言えない真情の吐露を左門相手にはすることができた。もはやヒーロー性も、恐ろしさも、そうした「かっこよさ」の発露は全てあり得ない。ただ、それまでの中村主水という男の辿ってきた道程が、情念として、凄みとして、顕在化する姿を幾度か見ることができていた。

    左門がいなくなり、主水には、ついに対等な仲間として語り合える存在を全て失った。
    いるのは、若い連中――と、加代と、勇次
    たまに現れるおりくは、おとわとは違い、愚痴を垂れる相手にはならない。
    その時、主水はひどく弱々しくなった。語る言葉は、例えば鹿蔵のような含蓄は持たず、ただの保身的な説教にしか聞こえなくなった。若い仲間からは「おっさん」と思われ、それも経験豊かな強靱な先達ではなく、簡単に心を見抜かれ、同情を寄せられる立場となった。あの、中村主水が。

    この新仕事人第10話「主水純情する」では、主水が「いい年して」同僚の未亡人に純情恋愛感情を抱き、加代勇次にいろいろつけ込まれた挙げ句、簡単に落ち込み、ついには加代から「薬が効き過ぎちゃったかな」と憐れまれるに至る。
    とても、あの仕置屋仕業人時代を経験してきた男の姿とは思えない。

    新仕事人以降の主水は、裏のすらもが昼行灯となり、職場や家庭で軽侮されるのと同じに仕事人仲間からも重きを置かれなくなっていく。それはそうだ。言葉にも行動にも重みがなく、たまに何か語れば説教でしかない、そんな人間を誰がリーダーだ上司だと立てるだろうか。

    それでも、未練がましく空想することはある。
    主水は……やはり、非常に、冷徹になりたいのではないか。だから、「表の」の昼行灯ぶりを、「裏」にすら持ちこんで見せているのではないか。それは「敢えて」のことではないのか。
    あまりにも失うものが多すぎた主水にとって、心を通い合わせる仲間、信頼しあう仲間を作ることを忌避しようという部分がそうさせているのではないのか。
    主水は、「恐ろしい男」であると同時に、どうしようもなく甘く、弱く、脆い男であることは間違いないのだから。

    そしてそうした結果、勇次加代順之助もずっと失わずに済んで行ったのではなかったか。主水が「気が抜けちまったからそろそろやめようか」などとそれこそ気の抜けた理由で平気でグループを解散するようになったから……だから、彼らは崩壊の危機を迎えずに済んで行ったのではないか。

    次に主水が仲間を失うのは、声を震わせながら後先も考えず相手をぶったぎった「裏か表か」でのことになるのだ。
    感情を、情念を見せない中村主水
    それが、仲間を失わないための主水の最後の選択だった……そう考えれば、「新仕事人」の中村主水もまた……(おっぺ)
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