語る「万華鏡」

(約束無用)

約束無用(やくそくむよう)

項目名約束無用
読みやくそくむよう
分類必殺シリーズ

作者
  • 監督・工藤栄一 脚本・野上龍雄
  • 公的データ
  • 必殺シリーズ新必殺仕置人」の一編。(おっぺ)
  • 出演・綿引洪 田口久美 服部妙子
  • 感想文等
  • 初めて観たときは、なんだ?この話は?みたいに思った。
    この必殺シリーズというのは、すごーく単純に言えば、「殺し屋」の物語。金を貰って人を殺す。ただ、「必殺仕置人」などが殺し屋と違うのは、善人や弱い者は殺さない、いわゆる「悪」を相手にする、という点。しかし、だからといって「正義の味方」などではない。のちの「必殺仕事人」あたりになると、多分に「正義」のヒーロー然としてきたが、そもそもの「仕置人」には「正義の心」なんてものはない。
    「向こうが悪なら、こっちはその上を行く悪に」「俺たちゃ悪よ」
    でだしは、こうである。
    最初の「必殺仕置人」は、こうして始まり、そして、ドライに、ハードボイルドにと努めながら、やがて「人情」のために仕置を行い、
    「一文にもならないことに精出すなんて、まるで、ましな人間になったみたいな気がする」とひとりごちたとき、破局を迎えて解散した。
    新必殺仕置人」は、『寅の会』という「殺し屋団体」からの請負という形をとることで、「人情」を廃し、よりドライに、あくまで「悪の上前をはねる極悪」としてあろうとした仕置人たちの物語……だったはずが、実は前作を上回る熱い「情」に囚われてしまった物語、だった。
    結果、とうとう、この「約束無用」のような話までできてしまったわけなのだろう。
    プロットはシンプルだ。仕置人のひとり、鋳掛け屋の巳代松は、ある日、島流しになっていた頃の友人、仙三に出会う。(巳代松は、悪らつな犯罪者の兄の身代わりとなって島送りになっていた)仙三は、巳代松が島抜けをしようとしていたのを未然に押しとどめ、おかげで巳代松は命拾いをした。一緒に脱走しようとしていた仲間はあえなくつかまり、処刑されていたからだ。
    女郎のおとよという女と夫婦になろうと思いながら、「前の男が好きで忘れられないから」と延ばし延ばしにされていた巳代松は、そんな欝を忘れるような、恩人とも言える友との再会を喜ぶが、その仙三を殺してくれとの頼みが「寅の会」に持ち込まれていた。それを知った巳代松は、なんとか仙三の命を守ろうと、陰で種しゅの工作をする。だが、自分のチームのメンバーである念仏の鉄が仙三殺しに乗り出したことで、これ以上の工作は無駄と思い、仙三を逃亡させにかかる。
    だが、実は仙三殺しを依頼したのは、巳代松の惚れた女、女郎のおとよだった。仙三こそ、おとよの元の愛人であり、しかし、この男に金のためにぼろぼろになるまで酷使され、そして女郎に売り飛ばされていたのだ。 「だっておまえ、言ってたのに。前の男が好きだ、忘れられない……って。そのおまえが、どうして、仕置人に?」
    「あの人が嘘をついたからよ」
    おとよは放心したように言う。
    「あの人が島から帰ってきて、やっと普通に暮らせると思った……それが、博打に負けてしまって金がいる。おまえ、俺がまた島へ行かされてもいいのか。そう言われて……
    女郎になった。博打のことなんて、最初から信じちゃいなかったけど……、たったひとつの約束さえ、あの人は守っちゃくれなかった」
    その「たったひとつの約束」とは……
    「一日のうち、ほんのいっときでいい。どこか暗い中で、私のことを思い出して」
    そんなことか、と仙三は言った。
    「ああ、わかった」
    ああ、わかったとあの人は言った。約束する、と……
    「でも、そんな小さな約束さえ、あの人は守っちゃくれなかった」
    だから、仕置人に……
    呆然とする巳代松だったが、仕置人の探索によって、次々と仙三の悪事が発掘されていく。巳代松が島で仙三に助けられたのも、善意からではない。仙三は巳代松の組の組頭であり、巳代松が島抜けすれば自分も責任を問われるため、巳代松を止めたのだ。そればかりか、巳代松と一緒に島抜けしようとしていた仲間のことを密告したのも仙三自身だったのだ。
    「おまえ、まだ目がさめねえのか」
    しかし、仲間にそう言われても、巳代松はこだわり続けることしかできない。 「奴の本心がどうだろうと、助けられたって気持ち、思い出は、俺の胸の中に、どっしりと重石みたいに残ってるんだ。俺には仙三はやれねえよ」
    そして、仲間を騙したということで袋叩きに遭う。だが、そんな中、おとよが仙三に殺されてしまう。
    「おまえが仕置人に」
    仙三はそれを知って、おとよを殺したのだ。
    巳代松は袋叩きにあってぼろぼろの姿で立ち上がる。
    「あの野郎は、俺がやる」
    『仕置料』として配分された小判には手を出さない。
    「六文だけ貰っていくから、あとは分けてくれ」
    そう言って、立ち去る。
    このとき、ふだんのエピソードなら『仕置き』のシーンで流れる勇壮なBGMが流れる。しかし、画面にあるのはだらけでよろよろと歩く巳代松と、それをただ見送りながら、やりきれなそうに額の汗を拭う仲間の仕置人たちの疲れた姿だ。シリーズのとして有名な中村主水も、このエピソードでは「悪人退治」することはない。そして、いつしか『仕置きのテーマ』はフェイドアウトし、BGMは静かでかなしい曲に変わっている。
    巳代松は、江戸を離れるという仙三を飲みに連れ出したり、遊廓に連れていこうとしたりして、別れを惜しむ。そして、いつしか古寺に着く。そこで、かつて仙三本人がしつらえていた深い蔵に、突き落とすのだ。
    「何するんだ、巳代松巳代松。おい。巳代。ま。」
    次第に心細く弱まっていく仙三の声。
    何かしらを悟ったかのような、呆然とした表情になる……
    巳代松は、蔵を塞ぎ、その空気に仕置き道具の竹砲を差し入れていきながら、仙三に語っていく。
    「これがおとよの願いなんだ。暗い中で、あのひとのことを考えてやりな……おまえひとりを行かせやしねえ。俺だって、てめえの大事なものを、この中に閉じこめるんだ……人間らしい、思い出って奴をな……」
    そして、発砲する。
    余分なBGMは何もない。巳代松はうつろなで、の中に、小銭をひとつずつ落としていく。その音だけが響く。
    「仙三……迷わず、三途の川渡るんだぜ……」
    そして、六文を落とし終わると、の上につっぷす。

    そのまま、また余分な締めくくりの寸劇はなく、断ち切られるように物語は終わる。
    最初観たときは、あまりの地味さ、カタルシスの無さに「なんだ、今のは?」と思った。
    だが、なんどか見直す機会があり、次第に「好きなエピソード」にすら浮上してきた。
    バイオレンスでも、ファッショナブルでも、かっこよくもない。お涙頂戴でも、コメディでもない。
    新必殺仕置人」には、そうした「ドラマ」があふれている。(おっぺ)
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