項目名 | いのちを売ってさらし首 |
読み | いのちをうってさらしくび |
分類 | 必殺シリーズ |
作者 | |
公的データ | |
感想文等 | 順序よく、という感じで、仕置人になるメンバーが次々とスピンオフのように画面を占めていき、それと共にドラマが流れていく。おひろめの半次、中村主水、念仏の鉄、棺桶の錠、鉄砲玉のおきん。それぞれのキャラクターがその寸刻ずつではっきりわかり、そして停滞することなく物語がうねっていく。 中村主水初登場となる「必殺仕置人」、けれど主人公はあくまで念仏の鉄、、、のはずだったけれども、この第1話、鉄の存在感は別として、錠の葛藤、そして中村主水の葛藤が実は中心だった。 「俺は怖いんだ。。。」という中村主水の吐露は、二度と再び聴けなかったものだ。 仕置シーンでの緊迫感も、こればかりは後のどのシリーズにも優っているのではないか。そう、ゲストヒロインの表情は随一であり。。。 個人的には、天神の小六は仕置人チームの一員とはいえないし、たまに「邪魔」に感じることも無いではないのだが、この第1話については当然必要な存在だ。主水は、決して小六にはなれない。小六は本当に「悪党」であり、単純に「悪で無頼よ」と言い放てるものではない。場合によっては、小六は仕置人たちと敵対してもおかしくない。。。 とまれ、「必殺仕掛人」という原作付きのものから離れて、ついに「必殺」が本当に誕生したのがこの「必殺仕置人」第1話からだったと思っている。だから、やはりこれが「原点」なのだ。。。(おっぺ) 「怖い?? 何が?」 「正しいことなんかねえ。きれいなことなんか、この世の中にはねえ。そう思いながら、心のどこかでそれを信じて、十手を握ってきたんだ……」 これは、「必殺仕置人」第1話「いのちを売ってさらし首」で、主人公のひとり中村主水が吐露するセリフだ。 のちにメジャーになった「必殺仕事人」の中村主水をのみ見知っている視聴者なら、意外に感じるかもしれない。「仕置人」ストーリーに初めて登場した中村主水は、基本的なライフスタイルこそすでに「奉行所の昼行灯」「家では妻・姑に軽視される婿養子」として確立していたが、キャラクターはまさしく「能ある鷹」だった。「正しいこと」「きれいなこと」を心のどこかで信じている同心だったのだ。 だが、佐渡島で務めていた頃知り合っていた女犯坊主の「念仏の鉄」という男が、主水を惑乱させる。島帰りの念仏の鉄は、同じ仲間の棺桶作り「棺桶の錠」らと共に不穏な事件に関わりを持ったのだ。 「闇の御前」などという大仰な名前の賊が打ち首になったが、実はそれは替え玉で、首をはねられたのは出稼ぎに来ていただけの、「闇の御前」に顔かたちが似ていただけの農夫だと。そして、「闇の御前」を捕まえた与力もそれを知っていたのだと。 晒されていた生首は父親のものだった――そう主張する娘の叫びと涙が、まだ若く直情的な棺桶の錠の心を動かしたのだ。 父親の仇を討ってくれたら三十両払うと娘は言っている。そう聞いた念仏の鉄は俄然やる気を出した。それだけあれば当分大名暮らしだ。破戒僧で享楽主義者の念仏の鉄は、正義だの人情だのの為に行動するわけではない。見合っただけの報酬が得られると聞いて燃えているだけだ。 だが、鉄は、仲間の錠が言っているのだからと信じていたが(この頃は鉄も人がよかったということか(笑))、娘・お咲に、そんな大金の持ち合わせがあるわけはなかった。 お咲は、おびえたように錠に言う。 「おらぁ、金なんて持ってねぇだ……」 錠は鬱陶しそうな不機嫌そうな顔で、お咲の方を見ようともせずに言う。 「こういうことは金でやることじゃねえ。金でやっちゃいけねえんだ」 「もう、いいんです……」 「なにがいいんだ。おまえの親父はな、首と胴がバラバラになって、金輪際つながらない死に方をしたんだ」 お咲は堪えられない表情になって、両手で耳を塞ぐ。そんな彼女に錠はさらに言い募る。 「バラバラだ」 それはそれは物凄く陰険な口調で言う。 「バラバラだ」 お咲は悲鳴のような声をあげる。錠はついに怒鳴る。 「バラバラだ! バラバラにされちまったんだ!」 そして主水たちは、「闇の御前」が結託しているのが与力だけではなく、北町奉行自らであったことを知る。「闇の御前」の正体は、主水も与力の使いで賄賂を届けたこともある豪商「浜田屋」だった。 全ての裏を知った主水、鉄、錠の三人はいよいよ行動に移る。 「どうにもこうにも我慢できねえ。なにやってんだ、さっさとバラしゃいいじゃねえか、バラしゃ」 いきりたつ錠に、 「それだけじゃ足りねえよ」 と、うすら笑いを浮かべて主水は答える。 「それじゃ、細切れにして肥ダメにたたき込んでやるとか」 「まだまだ」主水は笑い顔のまま言う。 「病気持ちの夜鷹抱かせて鼻っかけにしてやるとか」 ニタニタとうれしそうに笑いながら、鉄が言う。 「まだまだ」 その主水の返答に、鉄は本当にうれしそうに武者震いする。 「あー、なんだかゾクゾクしてきやがった。生きてるってのも満更じゃねえな。さあて、あの外道ども、どう料理してくれようか」 「まだまだ」 「ばかやろう、まだなんにも言ってねえや」 「いきるな、いきるな。男三十過ぎていいかっこしようなんざ、落ち目になった証拠よ」 そうふてぶてしく笑う主水の顔には、もはや悩みの色はなかった。 そして、骨接ぎの技術を持つ鉄が奉行を拉致し、その背骨を外すことで脊髄を損傷させ、喉骨を潰し、声も出せず手足の自由もきかない体にする。一方主水と錠は与力と浜田屋=「闇の御前」を襲い、斬り殺し、突き殺して、殺害する。その場面には、お咲も伴われ、親の仇が死んでいくのを、カッと目を見開いて、唇をちぎれんばかりに噛みしめて凝視していた…… 翌朝には、どこの誰とも判らない女の死骸(鉄らの仲間である「鉄砲玉」の女おきんが、長屋の連中を金で雇ってどこかから見つけてこさせたのだ)と一緒に、薄汚い風体に着替えさせられ、髪も剃られた奉行が、わざとらしく鉄砲玉のおきんの叫びとともに発見された。 「心中だよ! 相対死にだよ! かたわれがさらされてるよ!」 一緒になって、やはり仲間の瓦版売り、おひろめの半次もはやし立てている。 「見に行け見に行け!」 「見ろよ、ひでえ野郎だ、女を殺して自分だけ生き残りやがった」 「女の顔みなよ、一緒に行けるって信じきってるぜ。かわいそうになあ」 どんどん巧妙に誘導していく。 「ひでえ野郎だ」に凝り固まって集まった群衆の前で、もっともらしく鉄が言う。 「心中して生き残った奴は、三日間晒すってのが天下の御法度だ。どうだい、俺でやってやろうじゃねえか」 群衆心理で「そうだそうだ」「やっちまえ」になるのが、サラッと描かれていて、そこがまた恐ろしいところだ。 よってたかって石を投げられる奉行。それを凝視している娘お咲に、棺桶の錠が石を握らせる。 「あいつは、おめえのお父を殺した連中の中でも一番悪い野郎だ。さあ、やってやれ」 だが、お咲は動こうとしない。 「いいのか?」 厳しい顔で問いかける錠。 「本当にいいのか?……これで、気が済んだんだな?」 うなずく娘。 全てが終わり、念仏の鉄は金の配分を計算などしている。 「三十両から主水が経費で出した分を引いて三人で分けて……」 「三人! あたいはっ?!」 「ああ、おめえもいたなあ」 「いた、いたっ!」 「五人だなあ。五人で分けて……棺桶、金どうした、金もってこい。おかしな野郎だ、鳩なんか飼いやがって。おい、金どこへやった?」 「金はねえよ」 ピタッと、鉄・おきん・主水の動きが止まる。 「金はねえ……?」 鉄は呆然と、つぶやくように復唱した。 「……それじゃおめえ、三十両って話は嘘だったのか!?」 次第が飲み込めてきて激怒する鉄。「背骨外してやる!」 主水がなだめる。 「錠にだって何か事情があるだろう、事情をきいてやれよ、事情を」 「事情はねえ」 凝固。 「……それじゃあおめえ、あんまりひでえじゃねえか」 さすがに主水も気が抜けたように言うことしかできない。 「今度のことは金でやりたくなかった。それだけだ」 などと、さらに錠が鉄の血管を破裂させるようなことを言い、あわや……のところで、おひろめの半次が脳天気に外から戻ってくる。 「おまたせー」 なんと、その手に持っているのは三十両だ。 「お咲ちゃんが、身を売ったんだ」 呆然とする錠。 「なんだ、知らなかったのか?」 錠は何も知らなかった…… 「お咲……どこ行った……」 それは半次への問いではなかったのかもしれない。 琉球生まれの錠は故郷の歌を口ずさみながら棺桶を作る。そんな錠を仲間たちが取り囲んでいる。 錠の手元、作り差しの棺桶の上に、無造作に何両かの金が投げ出された。 「奉行は腹斬って死んだぜ。これは、おめえの取り分だ」 主水が告げるが、錠は無言で棺桶をがんがん叩いて整えている。 鉄がぶっきらぼうに口を開いた。 「俺たちはな、今度みたいな『仕置』を、これからも続けていくことにした」 錠は答えない。金もあからさまに無視して目を向けようともしない。 主水が続ける。 「先の長い、きたねえ仕事だ……向こうがワルなら、こっちはその上をいくワルにならなきゃならねえ。俺たちゃワルよ。ワルで無頼よ。磔にされても仕方ねえくらいだ。なあ、鉄」 「ああ」 「だがな、こう悪い奴等を、おかみが目こぼしするとなりゃあ、そいつを俺たちがやらなきゃならねえ……つまり、俺たちみたいな、ろくでなしにしかできねえ仕事なんだ」 「おめえみたいに、世のため人のためなんて言ってたら、すぐにへたばっちまうんだよ」 また鉄が引き継ぐ。 「俺たちと一緒にやる気があるんだったら、その金とれ。ねえんだったら、どっかへ消えちまえ」 そして数刻の時が流れ、錠、主水、おきん、半次、鉄の誰もがひとことも―― そして、いきなり錠は手をのばし、金をつかみとる。 こうして―― こうして、プロフェッショナルな仕掛人とは違う、「仕置人」が誕生したのだ。 「俺たちみたいな、ろくでなしにしかできねえ仕事なんだ」 そう自嘲するように言いながら、主水は薄笑いを浮かべた。おそらく、このときの主水は、自らを「ろくでなし」と言いながら、それでも、「やるべきこと」を見いだしたよろこびのようなものを感じていたのだろう。だから……(おっぺ) |