感想文等 | 僕の場合は、「震えるな、僕の手!」のあと、「言ってしまった」あと、全ての緊張が消えたわけじゃなくて、どこか「背水の陣」的な「抵抗」が感じられるんですが、それでも、あの表情はあきらめでも絶望でも虚無でもなく、平静の眼だったと思っています。 あ、今この場では「平静」と「緊張」を対義語にしていません(^^;。あの瞬間、恐怖やおびえ、畏れ、あるいはその他諸々の感情に「抵抗」していたと思っています。それを、「緊張」と言ってもいいと思います。 でも、これはあくまで僕はということなんですが、「聞こえなかった、ジャック……」言ってしまったあと、まっすぐに(たぶん、ジャックを見ているんだと思うんですが)向いたグレアムの顔は「未来に向かうための抵抗」を残して、恐怖もおびえも畏れも少なくともその瞬間には全て放逐して、「平静」になっている… …と見えたんですね。
でも。 こう書きながら実は、読むたびにいろいろ違うことも感じたりする私(^^;。(おっぺ)
僕には、「カッコーの鳴く森」と「つれていって」とで、あの牧師のキャラクターがあまりに変わっているので少し不満がある(^^;。牧師にはぜひ、最初の時のままのキャラクターでいてほしかった。そうでないと、あまりにもクークーもサーニンもグレアムもアンジーも……僕も、みじめだ。そして、彼自身も。(おっぺ)
「つれて行って」は【花とゆめコミックス】版なら4冊にもまたがってしまう長編なので、しかも最終パートでもあるので、少しじっくりと語ってしまおう。自分の中では、やはり【花とゆめコミックス】の巻数ごとの印象というものもあるのだ…… まず第一巻めから思い返してみる。精算のスタート…… 総ての精算――ということで言うならば、サーニンにはクークーとエル、グレアムには雪山での殺人、マックスには前作「ブルーカラー」から引き続いてのリッチーとの確執……と並び、実はアンジーについては、クレーマー家に入り、ジャック・ロナルド・パムといった「家族」を得ることで殆ど安住したのだ、と言えていたのかもしれない。 やはりアンジーは、アンジーこそは、四人の中で最も実は「家庭的」だった。一番「幸せ」を知っていたし、順応を知っていた、そう思ったりもする。 そんなアンジーに降り懸かって来るのが、グレアムの挙動不審。グレアムは――「レッツ・ダンス・オン!」のラストで意識したことを、もう一度明確に感づいてしまう。マックスやサーニンがいたから、歯止めになっていた…… ジャックやパムがいてくれるから、もう自分は要らないのだ……と、そう結論することにしたグレアムは、自分だけの決着を考え始める。どう「山の上」を終息させるのか…… だがその前に、マックスに、それよりさらにクレーマー家に転がって来るリッチーという石ころを排除しなければならなかった。 第一巻では、この、「いかにリッチーは『はみだしっ子』たちに挑み、神経をささくれさせたか」が描かれる。マックスを襲ったリッチーにグレアムが刺され、結果、グレアムの計画が延期を余儀なくされ、同時にアンジーにその計画を察知されるところともなる。 「ブルーカラー」の引き続きとして、このあたりが描き尽くされ、はみだしっ子たちとクレーマー家との融和と反撥、ジャック側の内面の表出など、本格的に枚数もたっぷり使って細かく濃密な描写が為され、そのまま第二巻へと引き継がれている。 続く第二巻の見所の一つは、裁判劇だ。特にマックスがリッチー側の弁護士フランクファーターに突っ掛かるところは、グレアムの庇護にはないときの「独りで戦う」姿を垣間見せ、いきなり好感度が上がる(笑)。 そしてフランクファーターに対してグレアムが叫ぶ長科白――。法律、裁判、……裁き。グレアムは最後に「死んじまえ!」と言うしかなかった。グレアムが罵っているのは自分自身でしかなく、殺したいのも同じことだ。フランクファーターへ感情をぶつけた後、なぜかロナルドのところへ行ってしまうグレアム。ロナルド自身すら「珍しい」というグレアムの行動だ。そしてグレアムは話す。邪魔者をみんなぶち殺し、新しい社会を作ってしまえ…… 韜晦しながら話すグレアムに対し、ロナルドは劣勢だ。この場面だけ見ると、やはりロナルドは内面描写が薄い分「不利」だ。 だが、実際にはロナルドもジャックも、グレアムたちがごく自然にイメージしているような「気楽に生活してきた大人」などではないことを、やがて読者は「ロングアゴー」で教わることになる。ここにも「窓のとおく」があるのだ。実は最初にジャックを信じなかったのと同じであり、グレアムはまるで故意にそれを繰り返しているかのようだ。 一方、「裏切者」以来の伝貧の容疑のため、二度と走れないかもしれないエルバージェに、サーニンは語りかけている。 「ねェ……そんなのは、本気で悩む事じゃないよ! 自分に……ここにいるだけの意味があるのか……なんて」 「春になれば……また仔馬達が生まれて来るよ。南へ行ってた鳥も帰って来る!」 「木がどんなふうに葉を繁らせ、秋には色を変え……毎年……毎年」 「ボクには、何かを無意味だと信じる事の方がよほど難しいよ。それが何かはわからないけど……でもきっと……何か目的があるんだよ!」 地下室で話も笑いもしなかったサーニンも。指を回すだけで、自発的に何もできなかったクークーも……。 それが何かはわからないけど…… そして、この第二巻のラストシーンは印象的だ。リッチーとの「けり」をつけようとするアンジーを阻むグレアム。「こっちにも計画がある。」 そして、四人で、そうだ「四人で」、動き出そうとするのだ。 「では、指示を。キャプテン・グレアム」…… キャプテン・グレアム――この響きが、どんなに懐かしく、せつなく感じられることか。。。 続く第三巻。これは、実は私にはかなり長く「幻」だった。どうしてもどこでも見つからず手に入らず田舎の無知無経験な高校生としては打つべき手段が判らなかった。そこでこの第三巻はとばして第四巻――最終巻を読んでいた。 この第三巻に、番外編「Part18とPart19の間」が収録されていて、これは現行の文庫版より構成的によかった。というのは、名前は「間」でも、実は「Part19になってから」という部分が含まれており、この部分はやはり、【花とゆめコミックス】第二巻あたりまで進んでからこそ、読みたいところであるからだ。 この第三巻では、「キャプテン・グレアム」の、「裏切者」で見せていた頭脳戦、スパイ大作戦か白昼の死角かといった仕掛け、からくりが色濃く展開する。 まずはリッチーに対する仕掛け。仲間、友人たちを動員しての文字通りの「大作戦」はエキサイティングだ。 グレアムが仕掛けたかったのはリッチー個人というよりフランクファーターに代表される大義名分、似非の人道や正義といったものかもしれない。 そしてもうひとつは、グレアムが自分自身に仕掛けたかった計画……。 雪山で死なせた男の妹、ミス・フェル・ブラウン。彼女にいかに裁いてもらうかの――。 この辺りのすべてを、私はずっとあとになってから知ることになった。第四巻の頭では、グレアムが二度と再び戻らないという不安に苛まれ、アンジーがジャックと共にグレアムの足跡を辿っている。 そんなアンジーがジャックに見せたグレアムのメモは、コミックであることを故意に忘れるように、ページの全てを活字で埋め、グレアムの心情が書き綴られている。 僕はずっと知りたかった…… フェル・ブラウンから裁くことを拒絶され、あまつさえ「自由になって」と言われてしまうグレアム。それは、少し前、グレアムが言った言葉なのに。自由になってください――と、グレアムは「裏切者」以来のミセス・シグナンに言ったのに。それは偽善でも同情でもなく――けれど、自分が言われてグレアムは思う。 それであなたは自由になれましたか……? 目的も居場所も行き場所もなくしたグレアムはついに前髪を上げる。死んだ父の「眼」をさらす。 ずっと拒絶していた父の…… それはグレアムが、かつてシドニーの言っていた言葉、「抵抗だけが僕の真実」すらも捨ててしまったということだ。 ペンギンが待っていた、寒い氷の国についに辿り着いたように。 グレアムは生きるのを放棄しようとし、なんとかそこにアンジーが間に合う。 懸命にとどめようとするアンジーに、グレアムは叫ぶ。 「もう真平だ……もう真平だ!」 「誰かの為だとか何の為にとか都合だけで口実をもうけて生き続ける事なんて! 自分の内には生き続けてゆきたい程のものもないのに!!」 そして背を向けたグレアムを、銃弾がかすめる。 さすがに愕然とした顔で振り向く先には、銃を構えたアンジーがいる。 「それでも……生きていろと言ったら? 死ぬ事なんか許してやらないと……」 「忘れたか? グレアム……この拳銃! “あの時”の」 アンジーが叫ぶ。 「忘れたか? 身勝手さにかけちゃオレの方が上手だって事を!! おまえが帰らないならオレがおまえを殺してやる!! こいつで!!」 「アンジー……何を……馬鹿な事を……」 「本気だとも! ……さあ…行けよ! そしておまえの死体からは、4年前ジョイが犯行に使ったのと同じ拳銃から発射された弾が出る……勿論、警察は黙っちゃいまい……それでも構わないなら行け!!」 これは、アンジーの賭けだっただろう……。 グレアムは従う振りをして油断を誘い、アンジーから銃を奪おうとする。そこへ、遅れてジャック・ロナルドが駆けつける。 「アンジー……拳銃を隠せ……こんなもの持ってるとバレたら、おまえまで家にいられなくなる……いいな! ボクが囮になっている間に……」 グレアムはどこまでもジャックたちを信じられないでいるのだ。そして同時に、どこまでも仲間たちをかばおうとする。 そんなグレアムがアンジーにはつらすぎる…… グレアムはジャックにつかまり、家に連れ帰られる。そこからのグレアムはまるで抜け殻だ。もはや唯一の真実だという抵抗も反抗もせず、泣きも、笑いも…… 身を寄せ合う他の三人。思い出すのは――スリー・ドッグ・ナイト。 けれど、今は犬が一匹足りなくて…… 抜け出したいと願うこともなく虚ろにいるグレアムと。そんなグレアムを見ていなければならない孤独さに泣くアンジーと。 なんと遠いところまで来てしまったのだろう。山の上でも彼らは励まし合い笑い合っていられたのに。 ひとつの船の乗組員でいられたのに。 キャプテン・グレアム、持ち場を離れ…… …… …… マックスの話は、リッチーのエピソードでほぼ終息している。だが、サーニンには耐えづらいものが待っていた。 それは先にグレアムが知ったことだ。クークー……サーニンの可愛いカッコー鳥は、あの少女は、死んでしまった。グレアムはずっとそれをサーニンに隠していたのだが…… サーニンはそれを、クークーと出会ったキャンプでの友達から電話で知らされたのだ。 ボク……君が知ってると思ったんだ! でも……ボクは案外……この方が良かったのかも知れないと思ってる…… だって生きていてどうなるっていうんだ!? 自分の始末さえ何一つできもせず……他人の負担になるばかりでだぞ! 彼女も……周囲も、誰が本当に彼女の存在を喜ぶと。 「じゃボクも……死んじまえば良かったのか!?」 サーニンは電話の向こうへと叫ぶ。 「今でこそボクだって話しもするけれど……親だっているけど! 浮浪児だったし! たいてい……誰も喜んでくれなかったし! いっぱい迷惑かけて……ボクは……ボクも死ねば良かったのか!?」 サーニン! 君の事なんて言ってない! 「誰が誰に言うんだ!? 言わせてるんだ!? それが幸せだなんて! 健康で幸せな奴らがじゃないか!」 サーニンは否定する。健康で幸せで、そんなふうであることだけが、生きる値打ちのような言い方を。 「ボクはいやだ!!」 しかし、傷ついたサーニンを癒すアンジーもグレアムもおらず…… けれど、そんなサーニンも、グレアムの危機となれば、傷ついたままでなどいられないのだ。 みんながそれぞれ傷つき泣きながら、それでも互いに互いのことだけは、捨ててしまってはいられない…… そして、TVのニュースが、アルフィーの死を伝えた…… ………… グレアムが抜け殻でなくなった一瞬、それは、クークーを死なせてしまった神父が、もはや「カッコーの鳴く森」時の気取りもそれらしい物腰も口調も失って、言い訳と媚び諂うような笑顔で現れ、そして揉み合う形になった弾みで、転落していくのをまのあたりにしたとき――。 グレアムは、「今度こそ」と思った。今度こそ間に合わなければ、と…… ………… ………… グレアムはサーニンに話す。クークーはサーニンを探していたのだと。自分の足で歩き出したのだと。 それはサーニンへの福音…… アンジーはジャックとの関係を深め、マックスは家族に馴染み、サーニンも笑顔を取り戻した。 そして、だからこそ、グレアムは「精算」をしなければならなかった…… そこで、グレアムは、他に親しい者達が大勢聞いており(けれど、「家族」ではない)、「なかったこと」などにはできない場所で、ジャックについに告げる。 「フェル・ブラウンの兄を殺した」……と。 ………… ………… アンジーは笑っている。マックスも笑っている。サーニンも満面の笑顔だ。 グレアムは……。 ――回答はなく、「はみだしっ子」の物語はここで終わる。 きっと、決して暗い未来などではないはずだ。そう思いたいとは願いながら、確信などはどこにもない。 けれど、……。 願っている。たとえば「ロングアゴー」のあの最後のページは、あれは「つれて行って」よりあとの時間で、だからアンジーはちゃんと笑い続けているのだろう、だからそれは、グレアムが「大丈夫」だということだろう、きっとそれは……、と。 そんな材料を掻き集めながら。 私の細胞は、三原順で出来ている。グレアムや、アンジーや、ほかのキャラクターたちみんなで、私の細胞は出来ている。 これからもきっと…… だから――。 思い続けながら、いまもこうして生きている。いろんなことを恐れたり、怖がったり、しながら。。。(おっぺ)
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