語る「万華鏡」

(主水腹が出る)

主水腹が出る(もんどはらがでる)

項目名主水腹が出る
読みもんどはらがでる
分類必殺シリーズ

作者
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  • 公的データ
  • 新必殺仕事人第1話。
  • 感想文等
  • このシリーズも、だいぶ後になって初めて観ることが出来たものなのだ、実は。

    商売人」の後半、「からくり人富岳百景」、「うらごろし」の前半辺りまでだけリアルタイムで観ることができていて、その後局編成の都合か何かで観られなくなり、あまり意識することもなくなり……引っ越してみると、そこでは平日夕方に「仕留人」の再放送をやっていた。「あ、これは『商売人』の中村主水」という感じで、石屋の心臓潰しが面白くて、しかし必ず観るぞという感じでもなく、帰宅時間によって視聴しているという感じだった。
    そして迎えた「仕留人」最終回。この平日再放送シリーズは、主水シリーズだけセレクトしていたようで、そのあと「仕置屋」「仕業人」「新仕置人」ときちんと続けてくれていたのだ。
    新仕置人」の「愛情無用」で、生まれて初めて「時代劇を差別していた」ことを悔いたのは、前に何度も書いた。

    新仕置人」の次は「商売人」のはずだったのだが、そこで中断した。というのは、おそらく、土曜日午後に、この「商売人」の再放送がされていたからではないかと思う。なぜ平日の帯で「仕留人」から「新仕置人」をやっていて(たぶん、私が引っ越してくる前に「仕置人」もやっていたんだろう)、毎週土曜日にだけ「商売人」をやっていて見事に追いつかれたのか、これは不明だったのが、そのうち「商売人」も最終回を迎えた。次には「富岳百景」をやったんじゃないかと思うのだが、すぐ「仕事人」だったかもしれない。この辺は昔の話なので、あまりはっきりしない。ただ、「うらごろし」が飛ばされたのだけは間違いない(笑)。

    で、この頃は、リアルタイムでは「仕事人III」から「渡し人」、「仕事人IV」をやっていたわけなのだ。「新仕置人」で必殺にのめりこむことになって、ようやくリアルタイムの必殺シリーズもちゃんと毎週観ようと思ったのだが、このときは主水勇次加代の「仕事人黄金期」メンバーが確立していたことになる。

    土曜日の再放送で「仕事人」第1シーズンが始まるまで、私は錺の秀は無口で暗いクールなキャラクターだとばかり思い込んでいた。それはそうだ。「仕事人III」や「IV」のを見ていれば、そんなふうに思う。
    だから、「仕事人」第1シーズンの第1話、第2話でぶっ飛んだ(笑)。違うじゃん、錺の秀

    そして、長丁場の「仕事人」は、なんだか知らないが最後まで再放送されることなくいつの間にか終わってしまい、左門がどうなったのか分からないまま時は流れ……

    ある時、いきなり「新仕事人」の再放送が始まった。

    どんななのかな、は、そしてもう「仕事人」はおろか「仕切人」としても馴染みになった三味線屋の勇次の初登場は、ちらりとバラエティ番組の中での紹介映像で見た感じでは、勇次も随分違った印象だったけれど……
    とワクワクしながら観た、「新必殺仕事人」第1話、サブタイトルは――「主水腹が出る」。「仕事人」シリーズではおなじみの、「主水(勇次、その他)○○する」のパターンだ。

    なんでも屋の加代の印象が全然違うのにまず驚く。私にとっての加代は「仕事人」III以降の加代だったので、「がめつい下品なおばさん」ではなく若い娘娘した加代は驚きだった(あとで、「仕事人」第1シーズンで登場した木更津の元締め配下時代の加代に出逢うと、もっとちゃんとした、一人前の仕事人の仲間だったのでもっと驚いた(爆) 加代って……退化する人間?(爆))。
    あまり派手でなく、ちゃんといろいろ工夫して三味線の糸を相手の首に掛けている苦労人の三味線屋勇次(笑)。そっかー、単に投げたら何故か相手の首にきちんと巻き付いていくんじゃないんだー(笑)。

    だが……見終わったときの印象は、「……なんだか随分軽いんだ……?」だった。
    仕事人の再開を例によって渋る主水が、被害者の無残な死に様が発火点となって今一度裏の仕事に戻るパターンはいつものことだ。しかし、なんだか物語として、主水が決意する動機付けとして如何にも軽く、弱いように感じられた。これは個人的な感じ方なので、単なる気のせいなのかもしれない。被害者の最期のシーンは、少なくとも以降のシーズンでは見られないだけの哀切なものが込められてはいると思う。
    しかし、その被害者の姿に、「……野郎、仕事に掛けてやる」と主水が言い出す、そこに、「え、もう?(笑)」という軽さを感じてしまったのだ、少なくとも私は。

    仕置屋」や「仕事人」でのとことんの渋り方に比べて、こんなに軽く、まるで正義の味方のように決意を新たにしちゃっていいの、中村主水

    今にして思えば、もしこれが「仕事人VI」とでもいったシリーズ最新作の第1話だったとすれば、こんな不満を感じることはなかったのだろう。勇次と長く仕事人を続けた主水は、もはや裏稼業への葛藤など持たず、悪を標榜することもなくなった。そんな中村主水が何かしらに胸をうたれて決意をする姿は「旋風編」の「主水、コールガールの仇を討つ」で新鮮さを感じさせたくらいだ。もし、新しい番組「仕事人IV」があり、それがこの「主水腹が出る」と同内容同演出だったなら――十二分に、久しぶりに見応えのある第1話だ……と首肯したに違いないのだ。

    きっと、だから、期待しすぎていたのだろう。まだまだバラエティ番組になってしまっていない、アダルトな魅力に満ち溢れた必殺シリーズ、「新必殺仕事人」はまだ大丈夫だったんじゃないか……そう思いながら観てしまったからだ。期待値と比べたときに、もはや「主水腹が出る」は軽みを付けすぎていたのだ。主水の腹は出て、その分、軽くなったのだ、体重ではなく、密度というものが。

    この「新必殺仕事人」は、「仕事人III」以降のバラエティ番組のような必殺にはまだなっていないのは確かだ。しかし、苦さより軽さを、重みより格好良さを、たぶん選択して作り始められていたのだ。
    だから、仕事のテーマミュージックも、それまでになく軽い。正義のヒーローのテーマのようなのだ。

    新仕置人」が「仕置人念仏の鉄のカラーに支配されていたように、「新仕事人」は「仕事人錺の秀のカラーに支配されている。そして、とベクトルの違う己代松主水がいた「新仕置人」とは違って、とベクトルをほぼ同じくする三味線屋と、すっかり毒気の抜けて裏ですらも昼行灯めいてきた中村主水しかいない「新仕事人」は、自ずと軽みの世界で突き進んでいったのだ。

    とはいえ、この「新仕事人」の何本かは、以降では見られない「必殺」としての物語もちゃんと何本か存在している。お茶の間で見ていてもどんよりとしてしまわない程度の軽さと、必殺としての苦味、それがギリギリバランスをとっていたのが、この「新必殺仕事人」だったかもしれない。

    だから、この第1話は、別に駄作ではなく、「新必殺仕事人」の第1話として非常にきちんと作られた第1話だったのだろう。寂しい感じも、しないではないのだが……。(おっぺ)
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