感想文等 | 二転三転する推論自体は非常面白いものがありました。なにしろ「過去を遡る」ので、安楽椅子探偵というか、あるいはもっと、ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」のような感じとも言えるようで。
また、「なぜ、思い出せないのか」についての記憶というものは、自分自身にも覚えのあることで、そして、あれは誰の作品だったか、たぶん筒井康隆じゃなかったかと思うんですが、般若の面とハサミを持った鬼女の話。。。ジュブナイルとして書かれていたはずですが、あの、「なぜ自分は今、○○について恐怖を感じるのか。そして、その原因が思い出せないのはなぜなのか」についての、心理学的ストーリーを随所で思い起こさせて、非常に面白いものがありました。。。
しかし、読み終わって、例えば同じ作者の『黄金色の祈り』のような読後感がないのは、ひとえに、この主人公たちが、これほど重い過去を背負い込みながら、しかし、それによって人生を狂わされた、支配されてきた、という感じがないからではないかと思います。
確かに、主人公も、そして早紀も、いま現在、「幸せ」というのとは違うらしい状況にあるようですが、それが、この「思い出せなかった、封印された過去のため」というリンクが見えてはこないのです。
「ようやく支配者の呪縛から解放されたのだ」といっても、それによって現在の状況から脱却することにつながるようでも、またそもそも、やはり現在の状況が「支配者の呪縛」のゆえだったという様子にもなっていないために、カタルシスといえるような解放感も存在しません。
過去の「罪」を思いだしたために、これからの人生に重しが載った。というわけでもない。 過去の「罪」を思い出せたために、これからの人生が新しく変わるようだ。というわけでもない。 つまり、この「夏の夜会」事件(?)の前後で、主人公たちにそう特別な変容が生じたようには読めなかった、というのが、今ひとつ読後感が弱い理由になるのです。 ラストの書きぶりからすると、作者の中では、「新しい旅立ち」につながるものと目されているようなのですが。。。
カタルシスかカタストロフィか、どちらかが待っていたラストシーンなら、かなり違っていたかもしれません。(おっぺ)
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