感想文等 | 記念すべき放映第1話。時間軸的には幡随院の事件などよりもあとらしいが、これが最初に放映してもらえたのは幸運だった。 なにより、この回は、古畑任三郎の事件簿の中でも最もプロットの本格度が高い回だったからだ。 事件や推理やトリックや解決、それらに関しては高得点ではないかもしれない。ダイイングメッセージの解釈はすこぶる恣意的なものだし、小石川ちなみは決して奸智に長けた名犯人でもない。 しかし、卵の件をはじめ、犯人ちなみの手抜かりをこつこつ詰めて行くスタイルと、余分な登場人物を殺ぎ落とした(犯人と被害者と探偵とワトソンしかいない――ワトソンすら要らないくらいだったが、まあ今泉はレギュラーとして)純粋な「VS」ミステリ……刑事ドラマは山ほどあり、2時間サスペンスは死屍累々(笑)、そんな中でここまでプロットにおいて『本格ミステリ』を造ってくれるとは…… 最初にこのシリーズのスタートを知ったのはテレビガイド雑誌だったと思う。どうやら『刑事コロンボ』スタイルのミステリドラマが始まるらしい。毎回の犯人は、テレビの刑事ドラマの犯人役など普通やらないような主役級の俳優たちで、田村正和演じる警部補古畑任三郎が彼らゲストスターと丁丁発止の知的対決を繰り広げる……みたいに書いてあったはずだ。 期待半分、諦め半分だったのは、昔同じように『坂上二郎が刑事コロンボのような刑事に扮して』などと前宣伝されていた『夜明けの刑事』が、風体だけコロンボ風の人情刑事物だったりしたからなのかもしれない。 やはり昔、鮎川哲也の倒叙物の短編を原作にした、松方弘樹主演のミステリドラマ『チェックメイト'78』が短命に終わり、今では殆ど誰の記憶にもない――そんな一種の敗北感も、諦め半分に貢献していただろう。 だが、いざ始まってみて、この「VS小石川ちなみ」を観た時、初めて「構想の死角」でコロンボを観た時と同じワクワク感を味わうことができたのだ。 たぶん、作り手もそれを狙っていたはずだ。本格ミステリを読み進んで行くときの、あのワクワク感…… テレビドラマでそれを味わえたのは、「刑事コロンボ」が初めてだった。「チェックメイト'78」は鮎川哲也原作であり、つまりはすでに「知っている作品」であるため、ワクワク度は小さくとどまった。また、正直なところスマートさに欠け、健闘はしたものの旧来の刑事ドラマの体裁に縛られていた感じがある。 「警部補古畑任三郎」は、一話完結で、原作のないオリジナルで、本格ミステリの面白さを堪能させてくれた稀有な作品だったのだ。 こんなドラマを観ているのは一部のミステリファンくらいで、多分「チェックメイト'78」のときと同じに忘れ去られて行くんだろうな……と思ったのが大間違いだったのは今となっては明らかだ。 古畑のキャラクター、今泉慎太郎の存在、コミカルな演出、そういったものがミステリドラマ「古畑任三郎」に人気を呼んでくれた。 今後、後継となる本格ミステリドラマが現れてくれるかどうかわからないが、「古畑任三郎」に最初から最後まで立ち会っていられたことを幸運に思う。(おっぺ)
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