あ~ぁ、2人とも結構飲んじゃって。綾香はそれほどでもなさそうだけど、先輩はもう、思いっ切り酔っぱらっているみたいだ。
「先輩、かなり酔ってるだろ?」
「・・・・・・(ふるふる)」
「またまた~」
「・・・・・・(ふるふる)」
先輩は否定してるけど、これは、間違いなく酔ってるな。普段からポ~~~ッとしてる先輩だけど、今は、それに輪をかけている感じだ。反応もかなり鈍い。
「綾香は酔ってるのか? なんか普段通りって感じだけど?」
「あたしって、あんまり酔わないのよね~。結構強いみたい」
「未成年者の発言じゃねぇな。『お酒は20歳から』だぜ」
「どの口が言うかな、そんな事を・・・」
「この口だ、この口!」
「あっ、ホントだ。だって、舌が2枚あるもん」
「あるか!!」
俺と先輩と綾香はいつもこんな感じだった。俺と綾香が軽口を叩き合って、それを先輩が優しい眼差しで見つめてる。それが、俺たちのいつもの空気だった。
「あたしね、この空気が大好きなの」
ふいに、綾香がそんな事を言い出した。
「姉さんがいて、浩之がいて、あたしがいる。その時の優しい空気が大好き」
「・・・・・・・・・・・・」
「『わたしも大好きです』だって? そっか、先輩もか」
「・・・・・・・・・・・・」
「『浩之さんもお好きですか?』って、もちろんだよ」
先輩は顔を赤くさせると、こう続けてきた。
「・・・・・・・・・・・・」
「えっ? 『それでは、わたしの事は・・・』って、先輩!?」
「姉さん!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「『わたしなんかが、妻の1人でいいのですか? ご迷惑ではないですか?』」
「・・・・・・・・・・・・」
「『いつも訊いてみたかったんです。でも、勇気がなくて。』」
「・・・・・・・・・・・・」
「『今なら、お酒が入ってますし。少し、気が大きくなってますから。だから、お訊きするなら今しかないと思いまして』」
「・・・・・・・・・・・・」
「『ごめんなさい』」
そこまで一気に喋ると、先輩は俺から顔を背けてしまった。体が少し震えてる。
先輩。そんな事を考えていたなんて。
俺は、先輩を不安にさせていた自分に対して怒りを覚えていた。そして、それと同時に、先輩に対する愛おしさも強く感じていた。
「バカだな、先輩は」
俺は先輩の体を強く抱きしめた。
「迷惑になんか思う訳ないじゃん。俺、先輩が側にいてくれて凄く嬉しいのに」
「・・・・・・・・・・・・」
「『本当ですか?』だって? あったりまえじゃん。だってさ」
俺は先輩の目を見て、きっぱりと言い切った。
「先輩の事、むちゃくちゃ愛してるもん」
先輩の目から一筋の涙が零れた。そして、俺に力一杯抱きついてきた。
「わたしも愛してます」
その様子を暖かな眼差しで見つめていた綾香が、ふいに立ち去ろうとした。
「待てよ綾香! どこへ行くつもりだ!?」
「べ、別に。ちょ、ちょっと、ね」
まったく、変に気を使いやがって。
「ほらっ、来いよ綾香」
俺は、左手で先輩を抱きしめながら、右手を綾香に差し出した。
「で、でも」
「おいで、綾香」
滅多に聞けない、先輩の大きな声。
その声に綾香の迷いは消された。
勢い良く、俺の胸元に飛び込んできた。
「ねぇ浩之。あたしの事は好き? 愛してる?」
オイオイ、また恥ずかしいセリフを言わないといけないのかよ。
まったく、しょうがねぇなぁ。
「きまってるだろ。綾香の事も、先輩と同じくらい愛してるよ」
ぐはっ! 恥ずかし~。自分でも顔が真っ赤になってるのが分かるぜ。
でもまあ、たまにはいいか。
瞳を潤ませて喜んでいる2人を見てると、そう思えた。