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bgm - archive - no.17




発情経由地獄行き / オクムラユウスケ

福岡発、一人弾き語り系のアーティスト。
アコギ一本と身体ひとつ(あと、小道具もろもろ。笛とか。)で表現される世界は、”狂気の沙汰”以外のなにものでもない。
20以上の声色を使いわけ、あらゆるタイプの”狂気”を歌い、語り、唸り、叫び、笑う。
ふいに舞台で倒れ込んだり、マイクから離れて客席を意味もなくフラついたりもする。
そのパフォーマンスは時に行き過ぎ、客をヒカせたりもする。(らしい。)
しかし、一見ムチャクチャに思えるパフォーマンスは、しっかりと楽曲とリンクしており、そのバランスは絶妙。
感動すら覚える。


この人の曲や世界観を分かりやすく伝えようと考えた時、一番しっくりくるのは、いろいろなところでの紹介文にも書かれている通り、”三上寛”や”石井輝男(キング・オブ・カルト)”。
とりわけて新しい、というわけではなくて。どっちかというとすでにあるジャンル。
だから、勘の良い人は『発情経由地獄行き』というアルバムタイトルを読んだらなんとなくフインキは掴めると思う。
楽曲のタイプは、ストレートなフォークロックやバラード、加えて珍妙な語り、理解不能な叫びなど、ほんとうに呆れるほど様々。
それらを先に書いた”20以上の声色”を器用に使い分け、驚く程完成度の高いものに仕上げている。(ライブでは、たまに”あやや”とかも入る。怖い。)

少し例を書くと、アルバム3曲目の『むき栗』という語りのみで構成されている曲?があるのだけど、その語り口調は”民話を語るお婆さん”そのもの。
ついでに、そのお婆さんが実は化け猫だったとかいうオチ付き。
語りかけてる相手を喰っちゃった。みたいな。
いや、例えの話し。
で、また合間合間にヒョロヒョロと吹かれるたて笛が、これまためちゃめちゃ妖しい。
その世界は百物語さながら。

もうひとつ例をあげると、アルバム2曲目の『ケロイド・クイーン』という曲。
これはストレートなロック。
と、思いきや、曲の合間に寒気がするような笑い声が挟まれる。
その笑い声は、なんというか、「いったいどうしちまったんだ!」と肩を掴んでグラグラとゆすりたくなるような、なにかヤバイものに取り憑かれたような笑い声。
それを聴いてると「うわーヤバイヤバイ」と耳を塞ぎたくなる。
すごい怖い。
けど、今までに味わったことがないくらいドキドキしたのもまた事実。

で、最後に書いておきたいのが、これらの曲全てがライブで収録されたものということ。
このクオリティーを作り込むんでなしに、一発ライブで表現しきるという技術は半端じゃない。
いくら選りすぐられたものとはいえ、ここまで出来る人はそうそういない。(実際、自分が見た時も相当なものだった。)

こういうタイプのアーティストは、苦手な人は徹底的に受け付けないだろうし、好きな人は言わなくてもハマるだろうと思う。
このままストレートに活動を続ければ、結構なところまで行くのは想像にかたくないし、もしかしたら鳥肌実とかとブッキングされたりもするかもしれない。(見てぇー。)
けど、自分としては出来るだけ今の内に多くの人に見てもらいたいなあと思う。
アングラなものに興味がない人でも、ちょっと手を伸ばせば届くところまで上がってきてると思うし。(QUICK JAPANとかアックスとかでも紹介されているらしい。)

今、こういう世界を味わおうと思ったら、本当にアンダーグラウンドに潜らないと、ないと思うよ。
それってちょっと怖いでしょ。

一度、怖いもの見たさで見てみるのもいいと思うのです。
ちゃんと笑いも用意してるし、しんみり聴けるし、結構感動するよ。


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※文中の石井輝男氏のリンク先は、そのブッチギリ具合を分かり安くする上で選んだです。変な意図はないです。



2003.07.13.Sun