感想文等 | この「必殺商売人」が、実はリアルタイムでまともに観ていた初めての「必殺」になる。 といっても、たぶん放送の途中から見始めただけで、主水・正八コンビとおせい・新次コンビの邂逅とカルテット結成といったあたりは知ることもなかったはず。なんとなく、これは長期のシリーズ物なんだとは漠然と知っていて、ずっとこのメンバーでやっているんだろう、と思っていた。おせいと新次の間で「昔は……」みたいな会話がされたりするのでなおのこと。 なもので、最終回での展開には驚いたのだが……それはまた別として。 これをリアルタイムで観ていたのが、高校のころかな。そのあと順調に、続く「必殺からくり人 富嶽百景殺し旅」を全話観て、そのあと「翔べ!必殺うらごろし」の途中から、放送局の編成の都合だと思うのだけど、私の住んでいた地方では、いきなり試聴できなくなってしまった。 で、ずっと必殺日照りが続いて……というのも別項で書いたので省略。 他の主水シリーズがこの数年間で何とか試聴しやすくなって来た中、この「必殺商売人」は関東地上波ではおよそ二十年間再放送もなく、今回ようやくのことで観る幸せを得られたことになる。 第1話を観ての感想は、まず、この映像美の演出。「必殺仕置屋稼業」第1話でのそれまではいかないが、「新必殺仕置人」が映像美より役者たちのパワフルさで楽しませてくれたのとはまた違い、おせいという女性を前面に立てたことでか、久しぶりに――という感じの映像美が見られた。 高校時代は、エンディングのテロップや仕置の立ち位置のためか、主水と対峙するサブ主人公を新次だと思っていた。しかし、やはり「必殺商売人」の対主水主人公はおせいだったろう。そう見直してみれば、また違った見所が出て来る。 だから――最終回での主水とおせいの別れ際の会話が生きて来るのだが、それも最終回の感想にとっておこう。 もうひとつ「おや」と思ったのは、ずいぶん正八が主水に対して偉そうだなと(笑)。「どうした?」なんて鉄が言うならともかく、まるで対等のようだ――が、つまりは寅の会が崩壊し、鉄が死に、己代松もおていもいなくなり、残された主水と正八には、それだけの近まりとでも言うものが出来ていたわけなのだろう。 実のところ、「商売人」での正八にあまり記憶がない。まあ、高校時代もそんなにきちんと見られていたわけではなく、最終回で鮎川いづみ演じる尼さんとの絡みのシーン、そのくらいしか覚えていなかった。損得より情や夢に左右されやすい正八は「江戸プロフェッショナル」の商売人にはあまり馴染めなかったのかもしれない。のちの正十という人物が正八の後身かどうかは不明だが、情や夢より利得を考えようといきがっていたのは、もし彼が正八だったとすれば、「商売人」という時代を経験していたために他ならない……かもしれない。 この第一話では、仕置人らしい新次・おせいを捕まえて手柄にしようかと企む主水に憤って罵倒するシーンより、やっと主水も腰を上げ、いよいよ仕置に立ち上がろうというところを新次・おせいに横から割り込まれての場面。 「俺達これから殺りに行くんだから!」 「その銭、返してくれよ、仕置料なんだから!」 と泣くように叫ぶところが印象に残る。 結局、この仕置はおせいと新次のペアのみで遂行され、主水・正八はいわば「仕事をとってきた」だけの役回りで終わっている。のちの仕事人シリーズではもちろん、それまでのシリーズで考えても珍しいだろう。 個人的には、キンタと呼ばれる異国人が、その口ずさむ歌それ自体には哀切な感があってよかったのだが、科白回しなどの演技の点で感情移入がしにくく、直接の依頼人となった少女に比重が傾いているにも関わらず描写が薄いといった憾みが感じられた。 キンタというのは当時はやっていた「ルーツ」というドラマの主人公クンタ・キンテのもじりで、もとの脚本では単に相撲取り志願の日本人の大男だったらしい。 撮影時点で「ルーツ」人気にあやかってと改変したのかもしれないが、もとの脚本ではこの被害者はしっかり生きる信条を持っていて、 「俺の取り柄は相撲だ。自分の取り柄で生きて行くのが人間じゃないか」 みたいな科白もあったらしい。こういう部分があるかどうかで人物への感情移入や物語への没入が生まれてくるだろうから、できれば改変されない最初の形で映像化してほしかった気はする。(おっぺ)
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