短編小説集 魔術の花1
1979年9月10日発行
著者 由木匡 ほか
発行所 鼎書店
発行者 広瀬隆
印刷所 株式会社 大竹美術
発売元 話の特集
この本を広瀬隆の自宅近くの古書店で偶然見つけた時、私はその場で踊りだしたい気持ちになった。
この本収録十編の著者はいずれも広瀬隆の変名である。「東京に原発を」(集英社文庫)で広瀬隆の洗礼をうけた私が同じ集英社文庫と言う理由だけで読んだ「不完全犯罪」(同)は、私の中で出来上がっていたそれまでの広瀬隆像を見事に打ち砕いてくれた。「魔術の花」を入手する事は困難かもしれない。が、そこに描かれた世界を知りたいのなら「不完全犯罪」を読めばよい「魔術の花」掲載の15編はすべて「不完全犯罪」に収録されているのだから。この本の発刊の経緯等詳しいことは一切謎である。「不完全犯罪」の解説から考えるに、広瀬隆は「魔術の花」で何らかの実験を行っていたのかも知れない。それが何なのか私はまだ答えを出せない。ただ、いちファンとしてこの本を手元に眺めることは、広瀬隆の原石を手に入れた喜びといおうか感慨深いものがある。この本を読むと、その後に続いていく彼の遊び心や、皮肉の謎がおぼろげながらにわかるような気がするのは私だけだろうか。またこの手の小説も描いて頂きたいものである。
変名の謎。広瀬隆の事だからきっと答えがどこかに眠っているはず。しかしさっぱり判らない。さらに私のワープロソフトでは変名中の2文字が無かった。広瀬が当用漢字、常用漢字という政府が勝手に決めた国語の方針に不信感を抱いているのは判るが、私には変名が読めません。「不完全犯罪」に再録された時に、変名表示が削除されたのは、変名に意味がなかったからなのか?それとも秘密を隠匿するためか?。謎は深まる。
1998年2月28日広瀬隆に直接この本を見せて、サインを求めたところ、「これはまた懐かしいものをお持ちで。」と言う返事が返ってきた。私はこの本の真意を確かめようとしたが、MOX燃料や三菱東芝日立製品の不買運動でお忙しい彼に、それ以上の追求を加えることはためらった。次回お会いできたらもっとましなインタビューが出来るだろう。
収録短編レビュー 題名横は作者名
空飛ぶ異人 浮田 潮
異人は偉人にかけてのことだろう。付記 管茶山「筆のすさび」からよくもここまで話を大きくしたものだと感心した。日本人の通説である、発明能力が無いというのはうそだという一例。
死人に口なし 一柳龍士
こういうシチュエーションってあり得るのかなあ?これはアイデア先行でいかにも作り話っぽいのですが。最近の広瀬には観られない初期の一編。
生か死か 一柳龍士
この辺から話がグロテスクになってくる。これって本当の話なのでしょうか?ダウン症の赤ちゃんって全員生まれたら病院で殺されているのですか?誰か教えて下さい。それって殺人ですよね。だからといって・・・。
考古学 由木 匡
ヨシヤ・ヘヒラン博士の登場だ。この一編は広瀬隆史の中でも最も重要な一編である。赤い楯で完成することになるお家芸、通称「一筆書き家系図」の手法がすでにこの時点で文章としては完成されている。これを実際の家系図にまで芸術的に昇華させた広瀬隆の生みの努力(偶然?)は並大抵のものでは無かっただろう。
言語学 由木 匡
ヨシヤ・ヘヒラン博士の再登場だ。それにしてもヨシヤ・ヘヒラン博士は笑えるキャラクターである。最高。最近の広瀬隆の人格の中からは、ヨシヤ・ヘヒラン博士が姿を消しつつあるようでいて何か寂しい。
近著で彼に近い人物はヘヒランほどはじけてはいないが、いつも月夜とは限らないの庄司專六だろうか?
釘さし 瑳玳野秋洞(原書の玳の字は王へんに我です。)
お先真っ暗な世界に叩き込まれたいのなら瑳峨野秋洞の著作を2編たて続けに読むことをお薦めする。
アッと驚く結末(あまりにも驚かされすぎ、唐突だよ!)だが、この家族は幸せなのかもしれないという余韻を残した作品。
キエム爺さん 瑳玳野秋洞(原書の玳の字は王へんに我です。)
お先真っ暗その2。この話を読んで、台湾映画「黒い太陽−731部隊」を思い出した。「キエム爺さん」も舞台こそ中国ではないが、映画化したら「731部隊」同様に吐き気がするものに仕上がるだろう。どうして中国系の作品ではこうもグロテスクなものを好む?のかという疑問がいつもあった。最近観た花火職人の映画も男性器が花火で破壊されてしまうし・・・・。それはさておき「キエム爺さん」は、人権意識などまるでない救いようのない世界を描いた作品だ。
おそるべき結末 野々村奇風
登場人物の主人の方は、いいボケをかましてくれている。男を馬鹿っぽく描いているのは何故なのだ?世界の男児に対する広瀬の考え?がみてとれる作品。男と女の違いは無いようでいてあるのだが、難しいので明確なコメントが出来ません。広瀬の男女観はこの作品のようなものなのでしょうか?私は少し違うのですが。
豚 野々村奇風
それほどでもないだろう。家畜殺し、哺乳類の殺生経験が無い私だが一度は体験しなければならないと考えている。それでも毎日豚肉を食べている私。
白い杖 鷹巣怜之介
支え合う親友は障害者同士か。最後に登場する大将が健常者のギリギリのラインか。
ソクラテスのスキャンダル 草刈権兵衛
これも実話なのでしょうか?一体何処からこんな話を見つけてくるのか広瀬隆の調査方法が知りたい。
逮捕 文挾清一
婆さんが裁判官の心を動かした?本当?実話?理想?どっち?
童話 水男の物語 泉 元典
環境保護を訴えているのだろうか。私には主題が見えない一編である。
雨 泉 元典
親子っていいなあ。でもこれは映画、自転車泥棒だよね。古き良き時代の香りが漂う一編。
絵物語 ソフィア 泉 元典
絵担当のピエール・クードロウも広瀬隆の変名なのだろうか?この話からは、ハーメルンの笛ふきの話を思い出すが、男の子と女の子はどうなってしまったのだろうか?私には読みとれなかった。
なお、この本の裏表紙にある図版が描かれているが、現在の広瀬隆の名刺にこれと似たような図版が描かれている。彼にとってこの図版は何を意味しているのだろうか?御存知の方がいたら教えて欲しい。
これが広瀬隆最大の謎の図版だ!
さらに、よく見ると魔術の花1と書いてあることに気づく。果たして続編は出るのだろうか。
ここで新情報!1998年11月25日最新刊「漢方經濟學」P248になんと「由木 匡」がフリーの物書きとして登場している。憎いねえ広瀬隆。19年ぶりにこのペンネームが復活したことになるのではないか。どうして「由木 匡」なのか?いよいよ広瀬隆ワールドの混沌に拍車がかかりはじめましたな。
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