不完全犯罪
1988年12月20日 第一刷発行
著 者 広瀬 隆
発行者 若菜 正
発行所 株式会社 集英社
印 刷 中央精版印刷株式会社
不完全犯罪は、魔術の花に収録された15編に、3編を加えた18の短編が収録されている。ここでは、魔術の花未収録作品3編を紹介する。
不完全犯罪
実際に起こった犯罪をもとにイメージを膨らませて描かれたと思われる、広瀬隆流の犯罪推理小説。最後まで真相は明らかにされず、ドンデン返しが待ち受けている。そこまでだったら昔の映画にもありそうなのだが最後の11行を読むことによって読者はしてやられたと思うわけだ。私はそんなひねくれ者の広瀬隆が大好きなのだ。
デスマスク
これも実際にあった話なのだろうか?デスマスク職人の友達が私にはいないのでどこまで本当の話なのかわからない。硫酸カルシウムを始めとして作品に漂う理科室っぽさは、応用化学科出身の広瀬らしさがでている。そう言う意味で珍しい作品といえよう。しかし最後はまたブラックな結末だ。
私も彫塑をかじったことがあるが、石膏が固まる時に相当発熱するはずである。主人公の顔は発熱に耐えられるのだろうか?
糸くずの男
わけがわからない作品。私の読み込みが足りないのか?糸くずを着たら自分の肉体に一体化する所はSF的だ。塚本慎也監督作品映画「鉄男」の糸くずバージョンと考えられないこともない。おお、広瀬の芸術的先進性はここでも証明されましたぞよ。
その後広瀬隆が解説を書いている落合恵子著「ひとりからはじまった」を読んだ。収録エッセイの一つ「そのTシャツ、脱いでみませんか?」(P144)を読んでハッとした。工業製品のように教育された日本人の意識は自分自身を無にして集団に迎合していく。工場で大量生産される化繊衣料、それが自分の肉体と一体化して脱げるような意識ではない。糸くずの男は自ら糸くずと一体化することに快感をおぼえているようだ。そんな人間心理(日本人)を批判しているのか?。広瀬はこれを言いたかったのか?
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