地球の落とし穴

1998年3月24日発行
著者  広瀬隆
発行者 安藤龍男
発行所 日本放送出版協会
印刷所 啓文堂 近代美術
製本  田中製本

 天下のNHKから出版された本書は、広瀬隆の著書にしてはかなりラフな印象をうける。その愚痴ともとれるあとがきからしていつもと違う。内部告発と指摘された検閲前の文章を是非読みたいものである。
コンピューター、特にインターネットに対する批判に2話さかれているのは、インターネットで広瀬隆を応援している身としては耳が痛い。
 しかしこれも、デジタルネットワークの権化のような大前研一が同級生(P170)と書かれていることから広瀬理解が深まる。彼は大前研一を相当意識しているのではないか?同級生だったという話だが、文脈から察するに早稲田大学時代の同級生か?これは「いつも月夜とは限らない」の解説で、佐高信も指摘している点である。「危険な話」には、「第三次農地解放を軽々しく口に出す大前研一のよのうな人間が第一線で喋りまくっていますが、これこそまさに彼らの言う国賊ではないですか。」(P155)とあり、彼の出身コンサルタント会社マッキンゼーの役員ロバート・フライがIAEAのアメリカ代表と書いてある。
 大前研一と広瀬隆の生き方の違いは、アイヌ民族の萱野茂と山道康子の生き方の違いにも通じる所があり、彼らの心理研究の興味を掻き立てられるところでもある。どなたか大前研一から広瀬隆へのメッセージを御存知の方おられましたら教えて下さい。
 残りの9話でもいつもよりもくだけた広瀬が我々に語りかけてくれる。

第一話 タイプライターをたたく猿

第二話 ダイアナ妃黄金伝説

第三話 株価暴落と頭の黒い鼠たち

第四話 この世はからくりに満ちて

第五話 子噛み孫喰い

第六話 遺伝子の逆襲

第七話 異端者への審問

第八話 尻尾をくわえた二匹の毒蛇

第九話 象の背中で焚火をすれば

第十話 自分の墓穴を掘る人々
 後半で、広瀬隆の1998年時点での10代〜20代(1980年代生まれということになるだろう。)の若者観が書かれている。
ところで、1988年に発行された「危険な話」にはこうある。
「人間なんて馬鹿なんだから、原子力発電所はいつか世界中で爆発するよ。地球はいつか終るに決まってるじゃないか。人類はいつか終るもんだ。そんなもの気にしたってしょうがないじゃないか。それより、いま楽しく生きるほうが賢明だよ。」(P115)
このように厭世観を軽々しく言葉にする若者に対して
「人間がそんなに簡単に死ねないものだということが分かります。」
と、原発事故で苦しみながら死んでいく人々を例に出して戒めているが、十年後の1998年の若者に対しては
「人間は考えない葦となった」(P253)
「大変な事実を見落としていたことに気づいた。あの若者たちは、本を読まない生物だという事実を。」(P258)
と、反論してこないらしいこれらの世代の人間に対して挑発的な文面で迫っている。
「このまま彼らが大人になると、ファシズム社会しかあり得ない」(P252)
と、結論を下している広瀬の話仲間は一体誰?また、本当にファシズム社会になってしまうのか?広瀬の予言どおり、ソ連の崩壊は現実になったしなあ。「日本かフランスで次に原発重大事故が起こる。」という予言も、美浜とかもんじゅのことを考えればはずれたわけではないし。広瀬の本を読んでいる人間はどんな人間なのだろう?十代の広瀬読者ってどんな人だ?だいたい最近連載の多い、「月刊宝石」自体おやじ向けの本としか思えない。これを読む十代のほうが奇怪?ととれなくもない。
「若者たちからの反論が山のように出てくるだろう。実は、それを聞くのが楽しみである。」(P256)
さて、広瀬様、十代からの反論はありましたかな?私も早く聞きたいです。

第十一話 最後の落とし穴−インターネット

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