項目名 | 狼の紋章 |
読み | おおかみのえんぶれむ |
分類 | SF小説 |
作者 | |
公的データ | |
感想文等 | 確かに、同姓同名、同属性(狼男)なのだから、そう思うのが当然か。しかし、この2人については同一人物ではあり得ないのはもちろん(生きている時代が同じなのに年齢が異なっている)、パラレルワールドで「時代のみがずれての同一存在」というものでもないようだ。この辺のことははっきりさせておいた方がいいだろう。 犬神明と名乗るキャラクターは、現在までのところ最低3人が存在している。 「狼男だよ」を皮切りとしたアダルト・ウルフガイ・シリーズの主人公、アダルト犬神明。 中編「悪徳学園」に登場した主人公、少年犬神明。 「狼の紋章」を皮切りとしたウルフガイ・シリーズの主人公、少年犬神明。 ※「月光魔術團」の犬神明は「犬神メイ」として別キャラクターになる。 ※「あいつと私」「あとがき小説 ビューティフル・ドリーマー」に登場した青年犬神明は、「悪徳学園」の犬神明であるらしい。 「悪徳学園」の犬神明とアダルト犬神明は相似形だ。この2人なら、時代のずれたパラレルな存在として考えることも不可能ではないだろう。片や壮絶な暴力世界の戦いに突入し、片や“妖精”のようにパロディ世界に在り続けると役目は異なっており、その結果キャラクター的にかなり違っていったのだが、少なくとも「悪徳学園」の犬神明は「狼男だよ」の犬神明の少年時代と言われても違和感のないキャラクターだった。 もともとは「狼の紋章」の犬神明もそう描かれていたようだ。少なくとも原作小説で一人称で書かれている間の犬神明は間違いなくそんな感じだ。 「狼の紋章」は、「狼男だよ」から派生した「悪徳学園」をベースにして、連載少年マンガ「ウルフガイ」の原作として書かれていた(この時の作画は坂口尚)。しかし、原作はシナリオ形式ではなく、小説として書かれている。マンガ家としてはかなりやりにくかっただろう。のちに、石森章太郎が「新幻魔大戦」を描いたとき、やはり原作が小説として書かれていたためにどうしてもコミックとして消化できず、次第に「時々マンガになる絵物語小説」と化してしまった。台詞とト書きで出来ているような書き割り小説ならともかく、キャラクターの内面が濃厚に描かれた小説は、コミック手法で描ききるのは困難極まりない。コミックでキャラクターの内面を綿々と書こうとすると字ばかりが何頁もズラズラ続いてしまいかねない。 特に、「ウルフガイ」の原作小説は、なんと犬神明の一人称で書かれていたのだ。「狼男だよ」も「悪徳学園」も犬神明の一人称なのだから当然と言えば当然かも知れないが、後に完成され刊行された小説版「狼の紋章」「狼の怨歌」は三人称なのだ。 三人称で描かれる少年犬神明はクールで皮肉な少年という趣が強く、「狼男だよ」「悪徳学園」での犬神明が一人称でぼやいたり愚痴ったりダジャレを飛ばしたりというキャラクターであるのと比べると性格がまるで違って感じられる。 もっとも、「狼の紋章」の犬神明も、登場当初のセリフを追っていくと、案外「悪徳学園」の犬神明と喋っていることは変わらないのだ。これって、もしかして一人称で書いていたら、そんなに性格かわんないんじゃないのか?と思って個人的に一人称バージョンを作ってみたりもしたものだ。Sa-Qどんなどは「そうかなー、あんまりピンと来ない」と思っていたらしい節もあるが、いざ「原作小説」が発掘されてみると「おお、なるほど」と思ってくれたようだ。少なくとも、コミカライズ連載当初の少年犬神明は、やはり同一キャラクター存在だったのだ。 それが、原作小説も途中から三人称に変わっていく。まあ、一人称でコミックを作るというのはいろいろ難しいにちがいない。主人公の目で見たものしか画面に描けないわけだから、制約が多すぎる。 そして、三人称で青鹿晶子たち第三者から見た犬神明が描かれるようになり、その結果、次第に犬神明のキャラクターはお調子者の部分が消滅していく。「狼男だよ」「悪徳学園」の犬神明とは乖離していったのだ。 今新たな作画メンバーで新生しているコミック「ウルフガイ」連載当初から、「これは『狼の紋章』の犬神明じゃなくて、『悪徳学園』のじゃないのか?」とさんざん書いてきたのは、そういう違いが如実にあるからなのだ。内面でのぼやきがグダグダ出てくる犬神明は、「狼男だよ」「悪徳学園」の犬神明の属性であり、「狼の紋章」の犬神明はストイックになっているのだ。そして、このクール、ストイック、皮肉っぽいジョークという面が、他の2人の犬神明とは違う魅力をもって読者を夢中にさせたようなのだ。 この「狼の紋章」の魅力は確かに、クールでストイックと評される少年犬神明の内面の懊悩、押し潰してきた感情が爆発する瞬間……に在るに違いない。「悪徳学園」の犬神明が見せずじまいになった感情の爆発、「狼男だよ」の犬神明が続く作品群でようやく次第に見せ始めたそれが、「狼の紋章」ではこの最初の巻から噴出している。アダルト犬神明の魅力を知ってもらうのに第1巻「狼男だよ」では足りないのかなと思ってしまうが、少年犬神明については逆であり、第1巻「狼の紋章」こそが少年ウルフ最大の臨界点なのだ。 続く「狼の怨歌」「狼のレクイエム」では、少年犬神明はむしろ物語のコアとしてのみ存在し、周囲のキャラクターたちの感情が物語を動かしていく。だから、いざ彼が物語の中心に戻ろうとした最終シリーズ「犬神明」がもどかしい作品になっていたのは当然なのかもしれない。しかし、それについてはまたのちのことにしてしまおう。(おっぺ) |