語る「万華鏡」

(「熱い眠りにこころ残して」に書き足す)

熱い眠りにこころ残して(あついねむりにこころのこして)

項目名熱い眠りにこころ残して
読みあついねむりにこころのこして
分類時代劇ドラマ

作者
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  • 公的データ
  • 江戸の激斗」第二十二話。
  • 感想文等
  • 遊撃隊の結成から解散までの短い1シーズンの中で、最も忘れ難い印象を残したのが、この回だった。
     冒頭ですでに遊撃隊は戦いの中にある。
     逃げる敵を追う小助
     相手はまだ幼い少女を捕まえ、人質にした。怒る小助は隙をついて相手を倒し、少女を無事に助け出した。
     だが、少女は、そんな小助にさらに怯え、逃げていく。
     追いついてきた仲間が言う。
    「どうした、小助?」
    「いや……どうやら俺も、いっぱしの人斬りになったようだ」
     苦々しげに小助はそれだけ応える。
     町では、藤太が左官の仕事に精を出していた。通りかかった小助藤太のそんな姿に足を止める。
    「片倉。わしば、訪ねてきてくれたとか」
    「通りすがりだ。あんたの汗が、あんまり気持ちよさそうだったんでな」
     そんな小助藤太は呑みに誘う。
     小助はへべれけになりながら言う。俺と呑んでもつまらねえだろう。俺は楽しむ酒なんか知らねえんだ。
    「片倉、そろそろ潮時じゃなかか」
    「何の話だ」
     藤太は言う。小助藤太の汗を気持ちよさそうだと言った。隊の仕事で流す汗は冷たい脂汗ばかりだからだ。だから……
    「隊をやめろってのか。冗談じゃねえ。俺は隊を気に入ってるんだ」
     しかし、小助の目には、あの少女の幻が見える。
    「しつこいやろうだ……なんて目で人を見やがるんだ」
    「片倉?」
    「……酔ったのかな。これっぱかしの酒で」
     小助藤太に絡みだし、お前が絡み上戸とは知らなかったと、藤太は苦笑しながら帰る。
    「また呑もう」
    「お前は友達甲斐のない奴だ。二度と呑むか」
     小助藤太が去ったあとも、なお呑み続けようとするが、すでに酒は切れていた。亭主を呼び、勘定をしようとすると、藤太が全部払って行ったという。
    「なに! 追っかけてって返して来い! あの人の銭はな、俺の泡銭とは違うんだ。飲み代になんか使わせられねえんだよ」
     「わかりました」と、もののわかったふうな店主は小助の言った通り藤太を追って出るが、飲み屋の亭主に飲み代になんかとは考えてみたら失礼な話である(笑)。
     店には小助ともう1人の女だけが残された。女もすでにかなり酔った様子で、独り言のように言い出す。
    「絡み上戸は、淋しがり屋なんだってさ……誰が言いやがったんだろう……」
     小助と女は一緒に呑み始め、愚痴を言い交わす。
     女・おえんの元夫だった卯之助は悪党で、別れた後でも金をせびりに来て、暴力をふるう。幾日かのうち、次第に小助とおえんの気持ちは通い合い、小助はおえんを誘う。江戸を捨てよう。俺は国へ帰って漁師に戻る。一緒に行こう……
     おえんは小助と約束を交わす。明日、あの橋のところで――。
     だが、後ろ暗いところの山ほどある卯之助は小助を疑い、狙い、悪辣な仲間達と示し合わせて罠を仕掛けた。最後に話をつけたいと言われ、罠を疑いながらも小助は足を運ぶ。
     用心深く指定の場所まで出向いた小助だったが、火の臭いに気付き、身を躱そうとしてもすでに無理だった。何梃もの砲がいっせいに小助を狙ったのだ。
     卯之助の一味は遊撃隊が探索中の殺人一派であり、小助をただの間男ではなく自分達を探っている仲間に違いないと考えて(あながち間違いでこそなかったが)、これほどもの用意で襲撃したのだ。
     致命を負い、血みどろの小助はなおも奮闘するが、さらに撃たれ、斬られ、切り刻まれてついに倒れ伏す。
     ずたずたにされ、血達磨となって仰向けに転がり、かっと両の眼を見開いて死んでいる姿は壮絶だった……
     そんな小助の死骸を、小助が幻覚で見続けた少女がしゃがみこんで無表情に眺めている。なぜ、この少女がこんなところで出てくるのか、現実味がなく、シュールな違和感に囚われる。あるいは死にゆく小助が最後にまたしても幻覚を見ているのか――しかし、少女は小助の体から彼の印籠の鈴を奪って去って行く。なんともシュールだ。
     橋のところで女・おえんは待っている。ちょうど約束の時間だ……と、小助の鈴の音が聞こえ、女は振り向く。しかし、小助の姿はなく、ただ見知らぬ少女が通り過ぎて行くだけだ――。
     「正義のお役人」ではなく、金で雇われた人斬りの傭兵であり、助けた少女からも怯えられ、恐怖の眼で見られる。そんな自分がいやになり、足を洗おうと新たな人生を求めた時、そんな権利はないと裁かれたかのように無惨に死骸と化す。
     これはまさしく「必殺」で描かれるようなプロットだ。人を殺せし者は殺さるべし。最終回での道之介も、隊をやめて幸せな家庭を築こうと決意した時に運命を崩落させた。この宿命から逃れ得たのは藤太だけだったのだ。
     片倉小助という男の運命を描き切った此のエピソードは、そのまま「江戸の激斗」という物語全体の凝縮されたものだ。
     当初からのメンバーの中で、隊士として生き残ったのは久坂新八郎の2人だけ、藤太を数えても3人で、たった半年の間に半数がむくろと化したのだ。第1話で早々に殉死した聞多を数えるからいけないのかもしれないが……(おっぺ)
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