項目名 | 雪だるまに雪はふる |
読み | ゆきだるまにゆきはふる |
分類 | コミック |
作者 | |
公的データ | |
感想文等 | なぜサーニンは地下室にずっと閉じ込められていたのか。それが語られるのがこのエピソード。 雪の降る中、サーニンが言う。「見えない?」他の四人には何も見えない。 「そう……見えないなら……いいんだ……」 サーニンには『幽霊』が見えるのだ。それは、自分を捨てた母親の…… サーニンの本名はマイケル。サーニンというのは彼のインコの名だった。 彼が鳥たちとばかり遊ぶようになったのは――ママが遊んでくれなくなったから…… ママは可哀想だった――とサーニンは思う。 ママのおじいちゃん……つまりボクのひいおじいちゃんはロシアの人だと言っていた…… パパはおじいちゃんのロシアの昔話がきらいだった。 ママはいつも困ったような顔して、どっちにも口をはさまない。ママは二人のことを気にしてて、ボクをあまりかまってくれなかった。 自分と祖父とどちらを選ぶ、などとパパに責められたりしながら…… ママは何も言わず……けれど少しずつ変わっていった…… 笑いもせず泣きもせず…… ある日、パパはママにひとこと言って出かけた。「雪が積もったな……少し雪かきしておいてくれるか?」 「はい……」 ママは虚ろに返事をした。 「はい……あなた……雪かきしておきます……」 ボクはママが降りしきる雪の中で延々と雪かきし続けているのを見ていた。何時間も何時間もとりつかれたように続けている雪かき―― 「おなかすいたよ」と言っても、もうママには聞こえなかった。 「雪かき……」と憑かれた口調で言うだけで―― 「どうして!?ママ!ボクの声が聞こえないの?ママ!!」 可哀想なママ―― そしてママはそのまま……。 ボクはいくつもいくつも雪だるまを作り、命令した。 「行け!!行ってママを連れて来い!」 でも…… それから後しばらくは、頭の中に霧がかかったようになって、ぼんやりとしか覚えてないんだ…… 何もわからなく……口もきけなくなった。 それでボクは地下室に閉じ込められた。家の恥にならないように…… 言葉も忘れ、自分の名前もわからなくなり――そんな少年に変わらず接してくれたのは、鉄格子をすり抜けてやって来る鳥、インコのサーニンだった。 コンニチワ、サーニン オハヨウ、サーニン ピー、サーニン かつて少年が教えた言葉を、鳥のサーニンが少年に向かって口にする。それを聞いて、言葉も名前も失った少年が次第に片言を取り戻していく。 本当の自分の名前を思い出すよりも、鳥の繰り返すサーニンという名前を(それはつまり少年が繰り返し教えた名前だ)そのまま受け入れる方が自然だった。少年はサーニンという名前を持ち、そして言葉を取り戻していったのだ。 その回想を聞いてマックスがサーニンに言う。 「ねェサーニン、知ってる? ちょっぴり寒い夜は、犬が一匹あっためてくれると気持ち良く眠れるんだって! 今夜ちょっと寒いからボク犬のかわりしてあげるね!」 回想ストーリーとは別に、ゲストキャラとの絡みというドラマがある。エピソード的にはそちらが主軸だが、実はこれもサーニンのテーマを際立たせる役割を担っているにすぎない。 心臓が弱いからと、自分はそんなにも可哀想なのだからと我儘の限りを尽くす少女。その少女に叱責もできない母親。少女の我儘に応じて大雪の中で雪だるまを作り続けるサーニン。 「疲れたよ、もうよそうよ、サーニン」 付き合っていたマックスが弱音を吐いてもサーニンはやめようとしない。 「ボクのママもエヴァのママみたいだった」 「ボクはそんなママが可哀相だと思ってた……」 「けれど……今……なんか違うんだ……」 板ばさみで、身動きとれなくて――可哀相だね――だから……自分の気持ちを言葉にもそぶりにもださず、自分のうちにかくまってたの? ――ああ……可哀相だね―― でもママ! そのおかげで、ボクまでママに近寄れなかった―― 「エヴァのママが止めに来るのを待ってるんだ」 ゲストキャラの女の子、エヴァは我儘をよそうとはしない。グレアムの「秘密」がひとつ明らかになるのはこの時だ。 「君は一体、君がどれ程正しくて、他人を裁こうってのサ!?」 そう言い募るグレアムに少女が叫び返す。「人並みの体の人間に、そうじゃない者の不自由さは判らないわ!」 それに対してグレアムは言うのだ。「ボクだって片目だ!」 だがそれ以上はグレアムについては語られない。サーニンの物語なのだから…… 結局サーニンの願いはかなえられない。少女の母は少女をとどめることはなかった。 サーニンの願いは。。。 言ってよ……ママ! ああ……そうだよね……あなたはとっても可哀相だよね。ねえ、ママ…… 可哀相だね、ホントに!…… でもママ…… でもボクもう雪だるまつくるの疲れたよ…… ママが可哀相だと思ってあげることに疲れちゃったよ! ママはどうして自分を可哀相なままにしておくの? ただのひと言も試さずに。 可哀相……ボク疲れて腹が立つよ! 「わかってるよママ……ママはボクのものになんかなってくれやしない……ママはママ自身のことしか思ってないんだもの……それなら。そんなママなら雪だるまの方がましだ!」 アンジーが懸命にサーニンに言う。 「サーニン……もし誰かに……甘えたいなら……それが……ボクでもいいなら……」 「アンジー……ボクは……でも……でもアンジー、ボクは……ボクは甘え方なんか知らない……」 サーニンは最後にやっとアンジーに応えた。 「だって……ママは……教えて……くれなかった…………」 全てが終わって、四人は身を寄せ合っている。居場所も、行き場所もなく―― マックスが言う。 「あのね古い言い伝え! ボク知ってるの! 寒い雪の夜、犬が三匹いて、あっためると、こごえないの! 一人と3匹! ボク達頭数あうでしょ」 「それはスリードッグナイトってんだ。オレ人間! てめえら犬! ナ!!」 そんなふうにアンジーが言い…… この最後の会話、四人で身を寄せ合っていたときの会話を、ずっとあとになってアンジーは身を切るような想いの中で思い出すことになるのだが……このときの四人には、本当に必要なスリードッグナイトだったのだ。 彼ら四人は、こうして何度も何度も絆を強めながら…… ……(おっぺ) |