感想文等 | アダルト・ウルフガイシリーズの中でも、かなり人気のある長編になる。その人気は、角川文庫が初めてこのシリーズを刊行しだしたとき、いきなりこの長編から開始したことにも顕れているだろう。第1作の「狼男だよ」をさしおいて、というより、ここまでのアダルト犬神明の軌跡の全てをさしおいて、いきなりこの巻からである。
理由は「人気」ということ以外にも考えられるだろう。つまり、「狼男だよ」〜「人狼地獄篇」(つまり、「魔境の狼男」)までは、ハヤカワ文庫ですでに刊行済みだったということだ。そして、「虎よ!虎よ!」は祥伝社ノンノベルでは「人狼戦線」より後続の「狼は泣かず」とカップリングで刊行され、シリーズナンバーとしては「人狼戦線」が先に来ている。つまり、ハヤカワ文庫のラインの「続き」として考えるなら、「人狼戦線」の文庫化は確かに「待ってました!」なことにちがいないのだ。
でも、そのあとは第一作「狼男だよ」が刊行されて、あとは順番通り……そして、何度も書いたように、ハヤカワ文庫やノンノベルの収録の仕方と違った「複雑な様相」が現出してくるのだけれどもね。
さて、「人狼戦線」の何がそんなに人気だったのか。 「虎よ!虎よ!」がアダルト犬神明にとっての1つの転轍ポイントであり、次の「狼は泣かず」に進むにはこの長編作品が必要だった……それは、犬神明が「無罪」であることを失い、そして何をその代わりに得たのか、常に不死身、無敵で突き進んできた犬神明が、「人狼、暁に死す」「虎よ!虎よ!」と「スパイダーマン」の地獄巡りをそのまま再演させられて、その存在基盤をゆるがせにされ、そこからどう復活再生を遂げたか。 スパイダーマン・小森ユウのその後については、誰も知らない。もはや立ち直る術を持たず、暗黒の中に堕ちたままなのか、それとも? だが、アダルト犬神明は再生した。不死身性を失い、拠り所を失い、「人間の姿をした狼」ではなく、「狼の魂を持った人間」として自己を認識し、そして、ならば……と。
シリーズを再読して今さらのことなのだが、エンディングがいわゆる「ハッピーエンド」らしさを持って綴じているのは、この「人狼戦線」が初めてなのだ。あの脳天気な「狼男だよ」ですら、3つのエピソードのいずれもエンディングは陰鬱でやるせないものだった。一度たりとも、「アダルト・ウルフガイ・シリーズ」が希望や楽しさを持って綴じていたことはなかった。 この「人狼戦線」こそ、そのアダルト犬神明の血と暴力に呪われた青春が、がらりと様相を違えた瞬間だったのだ。
この次の「狼は泣かず」を皮切りに、アダルト犬神明は次のステージに降り立つことになる。そこから、状況はまた一変するのだが……
つくづく刊行順、時系列順に読みたかったと思ってしまうのは、繰り言になるから、もう言わない(笑)。(おっぺ)
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