語る「万華鏡」
(「主水は三途の川を避けられるか?」の一部削除)
主水は三途の川を避けられるか?
(
もんどはさんずのかわをさけられるか
)
項目名
主水は三途の川を避けられるか?
読み
もんどはさんずのかわをさけられるか
分類
必殺シリーズ
作者
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公的データ
「
必殺仕事人
」第4話。
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感想文等
かつて、「
仕置人
」などでは、『悪役』や『対峙役』こそが大物俳優であることも多かった。
古畑任三郎
の犯人のようなもので、主役と渡り合うに相応しい貫禄と演技でドラマを盛り上げていた。
仕事人後期
辺りではなんだかいつものように
藤岡重慶
や
牧冬吉
が悪人役で出てきて、それも型にはまった役どころなので、藤岡さんや牧さんにも気の毒に思うくらいだった。
この「
仕事人
」第1シーズンでは、初回の相手が「
新仕置人
」同様
岸田森
、第三話には石田信之登場と、まあ中期
必殺
の定番ゲストという感じだったのだが、この第四話で丹波哲郎を持ってくる大技を見せた。
鹿蔵
率いる
主水
ら
仕事人
チームと利害の対立する側として登場した上方の
仕事人
、名は壬生蔵人。
誰ひとり、その男の
顔
も知らない。ただ、殺しの際に堤の音がする。その調べが殺しの道具だという。
壬生蔵人が狙うのは日寛大僧正。日寛は高利貸し更科屋金兵衛の黒幕たる悪党なので、
仕事人
の仕置の的となっておかしくはない。しかし、
鹿蔵
たちにとって都合が悪いのは、江戸から
仕業人
・
商売人
が一掃されたはずが、日寛が殺られればそれは間違いなく
仕事人
の仕業と見做され、探索の手が厳しくなるだろうということだ。
そこで
鹿蔵
が元締として選択したのは、壬生蔵人から日寛を護ることだった。
『大人の事情』の解る
主水
と
左門
は特に異議を唱えもしないが、
秀
は激昂する。なんで悪い野郎を護らなけりゃならないんだ!
「俺は降りる!」
冗談じゃねえ! 高利貸しの用心棒なんかできるかよ!
秀
の癇癪も当然と言えるだろう。『
必殺シリーズ
』のここまでの10年間を振り返っても、自分たちの不利益になるからと、他の
仕置人
の(極めて正当な)仕置の遂行を妨害したことはなかったはずだ。意図せずに、結果的に、というのはある。だが、最初から保身のために悪党を庇う側に立つというのは……
鹿蔵
は特に
秀
を諫めも留めもしない。
「今に解る。今度のことは、直接我が身に降り懸かることだ……」
何度となく仲間を失い、チームの崩壊を経験して来た
主水
にも、よくわかることだった。
鹿蔵
の壬生蔵人との交渉は平行線を辿り、
左門
が蔵人と対決するが、体を壊していた蔵人を倒せない。少し前に、
左門
の愛娘美鈴が蔵人と偶然に出会い、
左門
は妻・涼も交えた家族3人で蔵人と交流を持っていたのだ。
「あんただったのか……」
「江戸の
仕事人
か……やるのなら、あの可愛い女房殿や娘子を泣かせることになるが……」
「俺には守らねばならぬ宝が在る」
左門
が人殺しを生業にした総ての
理由
はこれに尽きる。自分自身のためには決して選択しなかった途だったろう。
だから
左門
は妻と娘を泣かせることも断じて甘んじる受け入れるつもりがない。
殺し屋としては数倍もの経験と確かな腕前を持つだろう蔵人を前に、
必殺
必勝をのみ念じて臨んだのだ。
だが、そんな
左門
の眼前で蔵人は苦しみ力を失ってしまう。そして、この蔵人を
左門
は殺せないのだ。
蔵人には、期するものがある。
かつて、二度と
仕置人
には戻るまいと決めていた
主水
に対し、老
仕事人
の
鹿蔵
は言った。
「三途の川のせせらぎが聞こえるようになると、人間はいろいろなことを考えるようになる。儂は何をやって来たか。今まで儂は何をやって来たか、とな……中村さん、あんたは可哀想な人だ。何もかも無くしてしまったらしいが、儂にはある。これよ……この手はよ、加納屋を殺った手だからよ……」
そして、壬生蔵人は
鹿蔵
に言う。
「三途の川のせせらぎが、もう、すぐそこまで聞こえて来ています……三途の川を渡るには、渡し賃が入り用とか……」
立場は異にしても、歳を重ねて生き残った
仕事人
の想いには共通するものがあるのかもしれない。
「日寛僧正の命を渡し賃にするつもりだろうが、そうさせるわけにはいかないよ」
言いながら、
鹿蔵
も蔵人の覚悟は解り過ぎるほどだったに違いない。
いよいよ蔵人は日寛の仕置に向かい、
鹿蔵
束ねる
仕事人
3人は、結果的に蔵人をサポートする形にとどまった。そして、奉行所の捕り方が集まってきた時、蔵人は我と我が身を晒す。日寛を殺したのは自分だと高らかに宣言する。
「すると貴様は、闇の
仕事人
!」
「そうだ……この世に最後に残った
仕事人
――壬生蔵人とは、俺のことだ」
捕縛される蔵人。奉行所は、最後の
仕事人
を捕らえたとばかり浮かれ騒ぐ。
牢内の蔵人に近づくのは、
主水
の姿だ。
「……お前も
仕事人
か……安心しな、おめえら江戸の
仕事人
のことは、決して喋らねえよ。それが俺の、
仕事人
としての……心意気……よ……」
その言葉を最後に、蔵人は息を絶った。
主水
は――。
自らの
仕事人
たる存在意義を貫き通し、我が身を贄に江戸の
仕事人
グループを守った壬生蔵人。
「
必殺仕事人
」
鹿蔵
編でも印象深い一編になるだろう。長いだけのスペシャル版など比較にならない重たい物語がここにある。
(おっぺ)
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