感想文等 | 魔術師対名探偵というのは、かなり本格ミステリとしても魅力的なプロットで、最近ではジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズでも、そのまま「魔術師」というタイトルで、魔術師と呼ばれた強敵と探偵が対決していた。 倒叙の映像ミステリで本家たる『刑事コロンボ』でも、コロンボ警部は二度ばかり魔術師と戦った。一度は旧シリーズの「魔術師の幻想」で、二度目は新シリーズの第一話目たる「汚れた超能力(超魔術への招待・殺しのマジック)」で。 魔術師が犯罪者として優れているのは、トリックという技を持ち、それを駆使できる術を持ち、相手の心理を読んで、まんまと騙しおおせるなど、数々のいわば『特殊能力』を持ち合わせた存在であるからだろう。現実のマジシャンがどうかはともかく、フィクションの世界では魔術師は名犯罪者としての才能を持った逸材なのだ。 今回古畑と戦ったマジシャンが南大門昌男という名前なのは、これもマニアックな遊びではないかと思う。本格ミステリの書き手でもあり、亜愛一郎やヨギ・ガンジー、曽我佳城などの印象的な名探偵を生み出した作家泡坂妻夫の本名が厚川昌男であり、厚川昌男はマジシャンの顔を持っているからだ。名探偵曽我佳城もマジシャンである。 だが、南大門昌男はあまりエンタテイナーとしてお客を楽しませているふうではない。苦虫を噛み潰した顔が記憶に残るくらいだ。マジシャンズ・セレクトの実際を観られたのは楽しかったが…… 隠し味として、南大門を演じたことで山城新伍は古畑とコロンボの両方と戦った唯一の人物になった、という雑学がある。 コロンボの「ルーサン警部の犯罪」で犯人を演じたウィリアム・シャトナーの吹替を担当したのが山城新伍だったのである。 どうせなら、山城新伍にはこうした――ああ、でも俳優が犯人というのは小林稔侍でもうやってたもんなー。無念。(おっぺ)
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