公的データ | ……ぼくはその時、どんな動機であんなことをする気になったのか分からない。思わず知らずやってしまった所を見ると、おそらく昔のおぼろな衝動に促されたからだろう。昔トム・クエイルとぼくが使った合図のノックである。コツコツと二度ゆっくり叩いてから、手早く三度。ぼくは図書室のドアに向かってそうしていた。 「誰だ?」と詰問する声がした。 ぼくはドアを押し開けた。クエイル判事が火先に顔を赤く染めて立っていた。血の気のない指がダラリとたれて、ビクビクと痙攣している。埃まみれのあの愚かしい大理石像が、判事の後ろから目をぎょろつかせているように見えた。判事が言った。その顔が蒼白だった。 「絶対そんなノックをするんじゃない、分かったな? 絶対にするんじゃないぞ!」 不可能犯罪の巨匠カーが描く怪奇味と神秘感に満ちた雪の夜の連続毒殺事件!
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