語る「万華鏡」

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階段のむこうには…(かいだんのむこうには)

項目名階段のむこうには…
読みかいだんのむこうには
分類コミック

作者
  • 三原順(おっぺ)
  • 公的データ
  • はみだしっ子」シリーズPart5(おっぺ)
  • 感想文等
  • 「ボクだって片目だ」……と、前回でグレアムは言った。
     そして今回はそのグレアムの物語になる。
     四人組が生きていくための生活資金は、時々グレアムが銀行から引き出してきていた。
     「それはグレアムのお金なの?」と以前アンジーが聞いた時、グレアムは、「それはまだ話したくないんだ……」と濁した。アンジーも追及はしなかったのだが……
     グレアムに呼び出しが来る。相手はエイダ・ムア。行き場所のなかったまま、指定されたホテルに赴く四人組だが、グレアムの表情は暗かった。
     エイダは、グレアムの従姉だった。そして彼女はグレアムを憎んでいる。なぜなら、エイダの母は自殺し、その責任がグレアムに有ると思っているからなのだ。
     エイダの母はグレアムをとても可愛がってくれていた。グレアムの父はピアニストで、グレアムに厳しく接した。母のないグレアムには、エイダの母は優しい拠り所だったのだ。そしてそれはエイダには不快なことだった。
     遊んでもらいたがって母にまとわりつグレアムに、エイダは怒る。「ママは体が弱いのよ!」しかし、「私は元気よ! 心配せずにさあ!」。そしてグレアムは甘えて行った……
     だがそれはグレアムの父にとっても望ましいことではなかった。ピアノの練習時間が損なわれると思ったのだ。
     やがてエイダの嫉妬だけではなく、危惧の通り、エイダの母は病床につき、淋しいグレアムは彼女のくれた子犬を遊び相手としていたが、それもまた父の不興を買った。そして……
     「犬と遊んでばかりでピアノの練習をなまけていたようだな――犬がいるからピアノの方を向かないのか?」
     父がステッキで犬を打ち据えようとし、グレアムはそれをとめようとして――
     父のふるった暴打は犬を殺し……グレアムの右眼を奪った……
         そして後になって、おばちゃまに天国への階段を踏みはずさせた!
     「かわいそうに」とエイダの母は言い、自分が死んだら自分の目をあげようと言う。グレアムの父が言い出したのだ。
     「彼女はもう……どうせ助からないのだろう? 死んだらサーザに眼をくれ!」
     グレアムは聞いていた。
     「君の奥さんが死んだら眼がほしい!」
     おばちゃま!
     エイダも聞いていた。
     「ママから眼を盗るつもりね――泥棒!」
     そして、やがてついに……エイダの母は自らの命を絶った。サーザに眼をあげて、と……
     「誰が……ママは死ぬって決めたの? お医者さまはダメだと言ったけど、もしかしたら助かったかもしれないわ。誰がママに死んだ方がいいと思わせたのよ、サーザ!」
     「エイダ……」
     「人殺し!!」
     さらに、神父から、彼女の葬儀は出せないことを聞く――自殺した人は神の御側を離れた人なのだと――天国には行けないのだと……
     あのおばちゃまが天国に行けない!
     …………
     「すぐ手術だ!」
     と父は快哉した。
     「人殺し!」
     そしてグレアムは……
     エイダの父は言った。そんなに家を出たいのなら、きみの母、私の妹のしてやれなかった分と、妻のしてやりたがっていた分、お金を援助しよう。
     だからグレアムは……
     そしてグレアムは……
     エイダは友達のオフィーリアと2人でホテルに待ち受けていた。エイダの目的は、グレアムを彼の父の許に連れ戻すこと。
     だが、彼女の陰惨な感性はエイダ自身も苛み、グレアムの連れとは知らないまま出会ったマックスの、あどけない笑に癒されていく。
     ストーリーは、グレアムを責め糾弾するエイダ、それを甘受するグレアム、そんな二人共へ憤るアンジーエイダに抵抗を示すサーニン、短い安心を分かつエイダマックス……と絡み合う。
     サーニンを撲ちながら、エイダの心は泣いている。
     サーザが悪いのよ!
     悪者になりなさいサーザ! 不幸におなりサーザ
     そうでないと私の心には
     安らぎがない。
     泣きなさいサーザ
     不幸におなりサーザ
     ――そうすれば、私はこんないやな女の子でなくなれるものを!
     そして、
     「このごろあんまり笑わないのね、マックス……」
     と、エイダは淋しげに言う。
     「坊やは笑っていてよ……お願いだから……」
     マックスも、グレアムたちの様子を感じとり、次第に笑になれなくなっていたのだ。
     エイダに乞われ、なんとか笑おうとするマックス。けれど、どうしても、できない……
     「ごめんね……ボク……ボク……今……笑えないよ……ごめんね……」
     破綻は近付く。現実は露見する。
     仲間たちの鬱屈が、「エイダ」という名前の「グレアムの従姉」であり、その過去の経緯を知ったマックスは、不意にグレアムに言う。
     「ねェ、グレアム……ボクのこと好き?」
     「ああ……大好きだよ」
     「じゃ……お願い! ボクを嫌いになって! グレアムに好かれたくないの!」
     混乱するグレアム。どういうこと? ボクなんかには……って……こと?
     その足でエイダのところへ行き、誰何するマックス。「グレアムといとこなの?」「ねェ……グレアムのいとこなの?」
     声もないエイダ
     (マックスグレアムの仲間だったなんて!……)
     「ボク、グレアムが好きだよ! グレアムもボクが大好きだって言ってたよ……だから。ボクを殺していいよ」
     そして笑を取り戻したマックスはそう言うのだ。
     「なんですって!?」
     「ボクを殺していいよ! グレアムエイダの好きなママを殺したんなら……エイダグレアムの好きなボクを殺せばおあいこでしょう?」
     「バカなこと言ってないでお帰りなさい!」
     「ボクはいいんだよ。ボク……もっと前に死んでるはずだったの……パパが……ボクの首をしめて……でも失敗して……グレアム達が仲間に入れてくれなければきっと……もう……ボクを好きだって言ってくれたのはあの3人が初めてだったんだよ!」
     「私が憎んでるのはサーザグレアムなのよ!! 私――マックスは可愛いわ! 大好きなのよ!!」
     「じゃ、すっかり同じだね。グレアムエイダのママが好きだったんでしょう?」
     どこまでも無心に言い募るマックスエイダの心は砕けた。
     「出て行って!」
     「どうして? ボクじゃダメなの? ボク、グレアム好きなんだ! だからボク……エイダ!」
     必死にマックスをドアに外に押しやるエイダ
     「ボク……もう……グレアムに言っちゃったんだもン……嫌いになってって……ボクを好きなままだと死んだ時いやだろうと思って言っちゃったもン」
     そのマックスの言葉がエイダをさらに打ちのめす。
     (サーザ! 私の好きになる人はいつも私よりあなたが好き!)
     グレアムもまた自分を責め立てずにはいられない。グレアムはいつも黒い服ばかりを着ていた。まるで喪服のように……そして今はまるで自分自身を葬るように……
     「アンジー……悪人には、ベッドは拷問台なんだよ……だから……」
     ボクが動くたび、ボクの手足は誰かをつける……誰かがボクのために踏み石になってしまう――ボクにその上を歩めと言うのか?
     もう疲れた! もういやだ! いやだ!!
     窮地を打開すべく、アンジーはなんとか杖無しで歩くトレーニングに励み、成功する。そしてトリックを仕掛け、エイダからグレアムを取り返そうとする。
     「サーザは私と帰るって約束したわ!」
     「オレ達はチェックアウトしたけど、あんた無一文でどうやってホテルを出るの?」
     「私のお財布だわ!!」
     「こういうのをホントの泥棒ってんだよ。ナ! エイダ!」
     「アンジー……ボクは行かないよ」
     「そうよ! 私が行かせないわ。サーザは泥棒であるだけでなく人殺しなのよ!」
     「うるせェ、ホントの人殺しを教えてやろうか?!」
     ついにアンジーのストレスが頂点に達する。アンジーの手にはナイフが……
     「やめろ!! アンジー!」
     叫ぶグレアムエイダの悲鳴。
     サーニンアンジーを人殺しにさせないためにエイダをかばい、マックスアンジーにすがりついて泣いていた。
     「エイダ!」
     ナイフを手にしたまま、アンジーは言い募る。
     「なぜマックスを殺さなかった?!」
     そう詰め寄っていく。
     「マックスじゃ不足なのか。それなら」
     アンジーは、
     「いっそグレアムを殺せ!」
     ナイフを投げ、
     「殺しちまえ!」
     エイダの足下に突き立てた。
     「……マックス!」
     と、うつむいていたエイダが呼んだ。
     「サーザに……伝えて」
     グレアムはすぐそこにいはするのだけど……
     「サーザの右眼……私がつげ口したの! サーザのパパに……彼が犬と遊んでばかりいたって、うんと悪く言ったの。
     私は苦しんで……でも誰かに告白してとがめられるのは恐ろしく……こう思うことにしたの……サーザがわるいんだ……って。
     ママは病気が苦しくて、私を見捨てて逝ってしまったけど最後までサーザのことは忘れなかったわ! パパだってサーザばかり心配して。
     悲しかった! ねたましかった! 不幸になればいい、サーザなんか!!」
     涙の止まらないエイダをそっと支えるオフィーリア。
     「マックス……」
     今度はグレアムが言う。
     「エイダに伝えて…… 『ごめんね』って……そして……『ありがとう』って!」
     エイダはオフィーリアにすがりつき。。。 
     。。。こうして、サーザグレアムエイダとの確執は、仲間たちの怒りや哀しみやを糧にして、あらためて友愛に転換した……
     ああ!
     ボクは信じてしまいそう。
     いつの日にか、ボクの愛する人々がすべて幸せになる日が来ると――
     「あんなに憎んでいたのに……サーザが幸せそうに行ったのに……私、ホッとしているのよ」
     「それでいいのよ、エイダ! それでこそ私の友達よ」
     そう励まし、慰めるオフィーリアは、このコマまでさほど描かれていたわけではなかったが。。。やがて、「フー姉様」として特にアンジーから慕われるようになる女性なのだ。。。
     幸せでいてね、エイダ! ボクのいとこ……
     グレアムはこのとき思っていたのだ。光へ向かって行くんだ! 影をひきずってでも、と。そして、それができるはずだと……
     グレアムは泣きたいほどの気持ちで心から笑えていたのだ。この時!(おっぺ)
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