感想文等 | この話自体はありふれたもので、悪い男が女を食い物にする、事情を知った巳代松が憤って恨みを晴らす。巳代松ものの王道パターンである(笑)。 この話で語り草となるのが、おでん屋で一杯やりながら、念仏の鉄が巳代松に話す心情だ(ちなみに、おでん屋のおやじは鉄に殴り倒されて悶絶中。ことほど左様に仕置人は「正義の味方」なんぞではないのである)。 自分のドジに愛想が尽きた。最低だ。足を洗うことにする……そう述懐した巳代松に、鉄が言う。 「なぁ、松……俺が殺しをやってるのはよぉ……。銭のためとか。人情のためとか。悪い野郎を裁くとか。そんなお前、安物の絵双紙に載ってるようなことじゃないんだよ。そんなことで人間が殺せるかい、ばかばかしい。殺しは殺しだい……この癖はなかなかやめられねえぞ、なぁ、松」 そして、うれしそうにニタリと笑うのだ。 のちの「仕事人」なら、「おまんま食うため」「銭のため」と偽悪的に嘯くところだ。あるいは、「正義の味方、神様だみたいに思い上がってしまわないための重し」。この言い方は、これで結構「正義の味方」になってしまっている気がする。果ては、三味線屋勇次のセリフ、「銭を貰わなけりゃ、ただの人殺しだぜ」になってくる。はっきり言って、銭を貰ったってただの人殺しです。 偽善も偽悪もない、けれど下劣でも外道でもない、そんな仕置人たちの物語が、この「新必殺仕置人」なのだ。(おっぺ)
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