隣で、カートリッジの交換の音がする。
視線を向けると、そこには自信満々な目をしたドックさんがいる。
絶体絶命的な、状況なのに。
俺たち二人しかいないのに。
相手は拳銃密輸組織なのに。
「何で、そんなに・・・」
微かに震える、俺の手と声。
「怖い怖いと考えれば、絶対に体は動かない。絶対大丈夫、そう思えば、自然と体は動く。もうすぐ、ハトも来る。それまで、コウ・・・、粘るぞ」
ガチンっとカートリッジを入れ、遊底をスライドさせる。
S&WM659の銀と黒のツートンカラーが、目の前にある。
俺も、大きく息を吐いた。
落ち着かせる様に。
狙った様な倉庫街。休日の今、人気はない。
銃声がどこまで届くか、分からない。
今頃、ハトさんは、必死になってこっちに向かっていると思う。
まさか・・・、時間が早まっているなんて、思わなかった。
というか、こっちの情報が漏れている・・・。
「漏れてますよね」
「ああ。この情報を知ってるのは、俺たち以外には・・・奴しかない」
じりっと、周囲から包囲が狭まる気配がしている。
ここを突破する為には、多少の無理がかかる。
ドックさん共々、周囲の状況を確認する。
幸いにも一階。窓がある。そこから脱出して、走れば、何とかなる。
「勝負、かけるか・・・」
「粘るんなら、とにかく、フィールドの広い所にいかないと、ですか」
「ああ・・・」
西條が、上着を脱ぎ、放り投げる。
それに釣られた男が出て来た所を、的確に撃ち抜く。
すぐさまに移動を開始する。
少しずつ、少しずつ窓に近づく。
窓まで後少しの時、
「コウっ」
短いドックさんの怒声の後、一気に突き飛ばされた。
上からの銃撃。
ドックさんの淡いピンクのシャツが、瞬く間に深紅に変わる。
遠くから聞こえるサイレンの音。
俺にのしかかる、ドックさんの重さ。
俺は、銃を握りしめ、上の奴の足を撃ち抜き、叩き落とした。
「ドックさん? 大丈夫ですかっ」
微かなうめき声。生きている・・・。
ドックさんをその場に残し、下からはい出して、入り口の男たちに銃弾を撃ち込む。
一番、熱くなる所だったのに、一番、心が冷めていた。
まさか、相手もこっちが突っ込んで来るとは思ってもなかったみたいで、逆に包囲がばらけていく。
俺も無謀だとは思ってるけど、ハトさんたちが背後に見えたから。
それに、早くドックさんを病院に連れて行かないと・・・。
「ハトさんっ、救急車を・・・・」
どんっと、重い衝撃が、腹部を襲った。
軽く足が浮き、コンクリートに膝から落ちた。
膝をついた衝撃で、全身にしびれる様な痛みが回る。
反射的に押さえた掌に、生暖かい液体の感触が走る。
「コウっ!!!!」
一瞬のブラックアウト。
ハトさんの声と、銃声と、足音と。
視界が戻ると、俺の隣には、ハトさんがいた。
「ドック、さん、は・・・」
「大丈夫、無事だ」
「ほ、んと、よかっ・・た」
「はいはい、お前はしゃべらないっ」
「おれ、そんなに、ひど・・・?」
不安な俺の言葉に、ハトさんはにやっと笑って、
「お前らの強運が、酷い」
と、言った。