語る「万華鏡」

(「死神の精度」に書き足す)

死神の精度(しにがみのせいど)

項目名死神の精度
読みしにがみのせいど
分類ミステリ小説

作者
  • 伊坂幸太郎
  • 公的データ
  • ある時は恋愛小説風に、ある時はロード・ノベル風に…様々なスタイルで語られる、死神の見た6つの人間模様。
  • 【目次】
    死神の精度死神と藤田/吹雪に死神/恋愛で死神/旅路を死神死神対老女
  • 感想文等
  • 魅力的なプロット。魅力的なキャラクター。魅力的な転結。
     最初のうち、主人公が自分を「死神」と言うのが比喩なのかどうか考えながら進んだが、すぐに設定にも馴染んだ。深く突っ込むより、素直に享受するのが相応しい、楽しめる作品だった。こういうのを書くのは難しいんだ、実は。
     表題作になる第一話など、主人公の描写のためと思っていたものが、結への伏線に他ならなかったり、ミステリとしての仕込みも揃っている。
     第三話の「吹雪に死神」では、読み始めて少しすると、全然「水と油」のようなこの連作で吹雪の山荘、しかも死神の子守歌的メッセージ付が出てくるわけで、実に楽しい。ミスマッチというかアンバランスな面白さだ。
     この回では、「オリ○ント」のタイトルの使い方も上手い。解るものにはあとあと「あーー」と思わせるように効果的だし、解らない人にはとりあえずネタバレしない(笑)。
     「吹雪の山荘」と見せてオ○エント東野圭吾ある閉ざされた雪の山荘で」も実はそうなのだが、これらは、「なんだ、『×××』じゃないか」とか「これは『△△△』のパクリでは?」とか、そんなふうに感じさせない完全な新しい作品に出来上がっているわけだ。こういうのをこそ換骨奪胎とか呼んでほしい。
     この「吹雪に死神」では、第一の事件の真相も「カ○テン」を思わせて、全体的にクリスティ風味だが、こういうのはパクリとは言わない。旧来のアイデアやトリックをそのまま真似るのではなく、いかに別の意味合いを持たせるかが腕というものだろう。
     さらにこの連作、一人称の連作になっているのだが、毎回趣向や語り方が変えられている。シリーズ物はマンネリ云々で(正確には「シリーズ名探偵物」かな)都筑道夫と論争した佐野洋が、筒井康隆富豪刑事」はその弊を脱していると、都筑さんと論争した「推理日記」上で今度は褒めていたけれど、この「死神」連作もその意味ではマンネリの弊を脱している。
     考えれば、伊坂幸太郎には長編でのシリーズキャラクターがなく(リンクはあるようだ)、そして一作一作が濃厚で面白い。個人的には宮部みゆきの男性版といったところか。凝った実験小説ではなく、作品たちはあくまでエンタテイメントとして存在している。
     純文学ではなく、二時間サスペンスのような大衆小説でもない。エンタテイメントというジャンル? 充実小説とでも勝手に名付けるか(笑)
     「恋愛で死神」のエンディングに切なさを感じていたのだが、それが最後の最後にまた立ち現れてくるのも、上手すぎる。また、この「結」につなげるためとはとても思えない「死神の精度」へのリンクの仕方も土下座物だ。(おっぺ)
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