感想文等 | カバーその他のあらすじ等より→通常の警備会社の手に余るような怪異現象が起きた場合、その警備を引き継ぐ「国枝特殊警備保障」。そこには三人の特殊な能力を持った警備員がいた。面妖な方法で邪霊を祓う和製エクソシスト、怪僧洞蛙坊。人の妄念を昆虫や獣の形で「見る」ことのできるバイセクシャルの美青年比嘉。すべての怪異現象は科学的・合理的に説明できると主張する元大学教授山県。三人は様々な怪事件を解決するが――。ラストで明かされる驚愕の真相!書き下ろしマルチ・エンディングつき。
これは奇妙な連作で、上記あらすじに出てくる三人の警備員が回り持ちで主人公になるのだけれど、田中啓文が坊主、牧野修が美青年、我孫子武丸が元教授が主人公の話を担当している。三回ずつ担当が廻ってきていて、都合三回、それぞれの警備員が主人公となった話を読むことになるのだけれど、時々、他の作家が担当する警備員もゲストのようにちらちらと出てきたりもする。 テレビの刑事ドラマなんかなら、脚本家がそれこそ回り持ちで書くわけだから、あり得ても当然のシステムといえばそういうことになる。たとえば、「太陽にほえろ!」でマカロニ刑事が主人公の時は山田太郎が脚本を書き、ゴリさん刑事が主人公の時は鈴木大助が脚本を書き、殿下刑事が主人公の時は高橋花子が脚本を書く、と決められていたとすれば、この連作小説そのものだ。 そういえば、戦隊物の「五星戦隊ダイレンジャー」では実際に、中盤以降、各メンバーのメイン話になってくると、亮と陣の話は井上敏樹、醍醐と孔雀の話は藤井邦夫、将司と神風たちの話は荒川稔久が担当となってきっちり描ききっていたようだ。 それはともかく、こういうシステムで描いていきながら、最終エピソードはマルチ・エンディングで(笑)、チャート占いで好きなエンディングを選ぶという、ほとんど清涼院流水のようなことをやっている。ここまで来るとゲームに近くなってくる。 最終エピソードは、それまで3巡して合計9エピソードあったものを「伏線」として、それぞれの作家がそれぞれの描き方で書いている。視点が違っているというレベルではなく、全く違った話になって終わっているので、本当にマルチ・エンディングだ。お好きなものをどうぞ、というところ。 個人的には、そもそも牧野・田中両氏の作品というのはほとんど読んだことがないと思うので、ただただ我孫子武丸が何かミステリ的な仕掛けを企んでくれているのだろう、という1点で読んでみたくなって手を出した。が、このネタについては、実は最初の段階で読めてしまったので、ちょっと残念だった気もする。牧野・田中両氏も当然この我孫子武丸の仕掛けについては予め知っていたらしく、それについての伏線となるような書き方を心がけているのだろうが、やはり我孫子武丸的な仕掛けの伏せ方ができていないため、読み手としては実は我孫子パートだけなら騙されていたところを、牧野パート、田中パートで見透かしてしまった、、、というところがあった。 その結果、どういうことになったかというと、実は、マルチ・エンディングで一番読みでがあったのは、田中パートということになった。牧野パートは何だかだんだん本当に「妄想」の域に入っていって終わってしまった感じだし、個人的には一番期待した我孫子パートは、この仕掛けがネタバレしてしまっていたので、今一つ乗れないままになった。田中パートの、「意外な犯人」というのが一番インパクトがあるものになっていて。 それにしても、かなりエグイ、スプラッターというか内臓的というかな話だった。ちょっと下ネタが多すぎる気もしないではない。私は綾辻行人「殺人鬼」も、我孫子武丸「殺戮にいたる病」も別にイヤでもなく読んだけれど、あまり続くと少しは食傷気味にもなってしまう。菊池秀行その他の作品が最初出てきたときは斬新だったかもしれないが、大量生産されてくると「もういいよ」という感じになってくるもので。。。(おっぺ)
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