感想文等 | 三つの感想を置いておきたいと思った。 まずは、カタルシスの面。毎回、冒頭で理不尽な暴力が奮われる。路上での通り魔的な集団暴行、ストーカー、幼児虐待、いじめ……自分や友人知人が現実に被害に遭った経験が無くとも、読んでいるだけで恐怖や痛みが感じられるはずだ。そして同時に加害者への怒りが沸いてくる。しかし、自分に何ができるというわけでもない…… 通り一遍な「被害者の苦しみ」をルーティンに流すタイプの刑事物・時代物では、観ていて別にいきどおろしい想いに胸苦しくなることはない。ドラマでなく映画や漫画、小説の類でも同じことだ。 「被害者」の感じる恐怖や苦痛がひしひしと身に沁みてきた時――それを反転させたいと強く渇望する。 叶えられた時、カタルシスが産まれる。 この奇怪な小説では、さながら「仕置人」の物語のように、カタルシスが存在していた。「加害者」たちの言い訳や自己弁護や責任転嫁や……『正義の味方』なら多少は耳を傾け、断罪を躊躇するなり執行猶予を与えてしまうなりしてしまうかもしれないものを、一顧だにせず処刑する。『正義』ではなく、『悪』にだけあるような爽快さだ。 二つ目は、料理小説としてのあまりに大胆不敵なヒドさ(笑)。普通グルメもの・料理ものは、読むと楽しく美味しくなるのだが、そして「勝ち負けの謎解き」があれば感嘆したりできるのだが、この小説にはそれらは一切ない。納得させる力が皆無で、蘊蓄に溢れた鯨統一郎作品としては異例に感じるくらいだ。わざとではないのかと思うほどだ。 そして、ここまでの2点がそのまま3点めの感想に繋がる。 庖丁人轟桃次郎の料理人としての腕の秘密と、それを産みだす仕置の業の秘密。 後味は恐ろしく悪い。 果たして桃次郎にこの先どういう未来が待っているだろうか。 ほとんどホラー小説である。(おっぺ)
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