感想文等 | 「橋掛人」の中で、唯一記憶に残っていたのが、これ。尤も、今回見直してみると、若干最後のセリフが違っていたけれど。 なぜ記憶に残ったかといえば、これはラストでのどんでん返しを狙った作になっていて、頼み人の依頼で橋掛人が橋掛をしたあと、実は陰でこっそり、その頼み人が下卑た笑いを浮かべ、「我慢してきた甲斐があった。これで俺が2代目天満の虎だ」とか独りごちるのだ。 これは少なくとも後期仕事人あたりからは見られなくなった趣向で、本来なら「おお!」とか感動するはずなのだが、いかんせん、この頼み人の演技がなあ…… こいつがゲヘゲヘ悦に入っているところへ、津川雅彦演じる柳次が近付く。 「わあっ、やめろ! 違う、俺は頼み人だ!」 ああ、この演技もかなしい……(泣) 対する津川雅彦は渋い。 記憶では、表情も無く橋掛していきながら、 「おめえ、天満の虎を殺ってくれって言ったじゃねえか」 と、自ら天満の虎の2代目を名乗った愚かさを切って捨てたように覚えていたのだが、見直してみると、 「2代目天満の虎って、てめえ、言ったじゃねえか」 みたいなセリフだった。若干ニュアンスが違うから、たぶん自分にとってさらに好みな形に脳内改変していたのだろう。 この津川雅彦は、悪くない。 プロットの根幹になる頼み人の演技が、どうにもつたなく感じられて、ガッカリしてしまったのだ。 私はあまりドラマなどを観る方ではないので、この役者さんがどういう人なのか知らない。あるいは、人気の有る演技派の人で、私が馬鹿なだけなのかもしれない。 けれど、「旋風編」の「主水、コールガールの仇を討つ」でヒロインの亭主役をしていた役者さんのときも同じように感じてしまったのだが、――残念だ、惜しい、無念だ……という気持ちだったのだ。 かつての「必殺」には、加害者役にも被害者役にも、本当に実力派の役者さんが揃っていた。同じような顔触れの悪役俳優さんが、同じような役柄を同じような演出で同じように演じているなどということもなかった。加害者役も被害者役も、他の役者さんでは代替が利かず、もしキャストが変わるようなら脚本や演出の根本まで違ってきてしまうんじゃないかというくらいの、この加害者は、この被害者は、なるほど確かにこの役者さんでなければな……それほどまでのクオリティすら在った。 この「橋掛人」では仕置人側を演じた柳次役の津川雅彦の名悪役振りはつとに有名だが、まるでミステリー映画では犯人こそ主役です、を持ってきたように、名加害者・名被害者が揃っていた――。 画面上のクオリティがやはり、この頃はかなり損なわれていたと思う。仕方のないことかも、しれないが……。(おっぺ)
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