語る「万華鏡」

(「バトラー弁護に立つ」の一部削除)

バトラー弁護に立つ(ばとらーべんごにたつ)

項目名バトラー弁護に立つ
読みばとらーべんごにたつ
分類ミステリ小説

作者
  • ディクスン・カー
  • 公的データ
  • 白い幽霊のような霧が、リンカンズ・イン・フィールズの辺りに立ち込めていた。十一月も下旬の午後四時半、空も町も、もう暗かった。
     四階にあるプランティス弁護士事務所はひどく暗くてがらんとしていた。奥の事務所だけに明りがついていて、副所長のヒューが許婚のヘレンに笑われていた。『あなたはどう見たって冒険向きよ。こんな退屈な法律事務所にいるよりはね。霧の中から、外国訛りの皮膚の黒い不思議な人物が現れて《私はトルコの王です。ぜひご相談に乗っていただきたくて上しました》って言うの……』
    『ばかな、そんなことが現代にあってたまるもんか!』
     ヒューがそう言った時だった。廊下に通じるドアが前触れなしにあいて、トルコ帽にアストラカンのオーヴァーを着た東洋人が、霧の中から現われ、妙な話を始めた。
    『私は、トルコのアーブーというものですが……わたしの災難のすべては、あなたの手袋が原因です。助けてくれないと殺人が起きます……』
     そして不吉な予言どおり、アーブーは、ヒューとヘレンに連れていかれた他に誰もいないはず部屋で、胸を短刀で一突きされて死んでいたのだ!
     名法廷弁護士パトリック・バトラーが不可能犯罪に挑む〈密室殺人の巨匠〉カー中期の傑作!
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