感想文等 | この頃の絵柄はさすがに「古い」感じ……だが、別に「下手」というのではなく、単に当時の少女マンガの絵柄に準拠している感じだろう。「ド・少女マンガ」なのだ。
この第1作めでは、「はみだしっ子」たちの拠って立つ「位置」があからさまに描き出されている。親に捨てられた、放置された、殺されかけた……そういった子供たちが、自分を愛してくれる「誰か」を探す……はみだしっ子たちは、その「誰か」を「恋人」と呼んだ。
だが、彼らは偽りの、見せかけの、愛情や同情は欲しがれない。いじけた「はみだしっ子」と呼ばれるだろうと自分で思いながら、「何とでも言うがいいさ!」と結論している。そして、体裁だけの愛情、言葉だけの善意を、自分への「アリバイ工作」としているような人々へ決別の辞を残す。 「きれいな衣をまとった人たちよ、さようなら! ざまあみろ!!」
ここでは、「はみだしっ子」たちは、偽善者を糾弾し、真実の愛を探す、志の高い少年たち、のようにあらわれている。彼らの眼に映る大人たちは、言葉だけの偽善者であり「汚い」存在だ。
彼らを保護してくれていた娘ローリーを、彼女がはみだしっ子たちの親を探していたことを以て、「やっぱり解ってはくれない裏切り者」として拒絶しないではいられない。 「もう親なんて名のつくものはいらない! いらないんだよ!!」
けれど、待ち望む「恋人」は来てくれない。 クリスマスイブの雪の中、はみだしっ子の四人組は、身を寄せ合って誰かが来てくれるのを待っている。恋人が来てくれなくても神様なら? 神様なら来てくれる? 家になど帰るものか、へつらいはしない……
最年長で責任感が強く真面目なグレアムは思う。どうして解ってはくれないのか。一番大切で……一番……簡単な事なのに……
女の子のような衣装の「びっこ」のアンジーは、自分が「びっこ」だから恋人が来てくれないのかといじける。他の3人は、「僕たちは、びっこでもアンジーが好きだよ」と言う。
最年少のマックスは今でも父親に首を絞められ殺されかけたときの夢を見る。
そして、腕白小僧のサーニンは……
他の3人が凍死しかけてすでに意識を無くしている中、サーニンは、自身も凍りつきそうになりながら、彼らを守るように眼を見開いて待っている。いつか、誰かが……恋人か……せめて、せめて神様が……
そして誰かが。
さすがに意識が薄れかける中、手をさしのべてくる「誰か」に気づいて、「さわるな!」とサーニンは鋭く遮った。はっとしたその男性は、とっさのように、こう返事をした。「! メリークリスマス!」
サーニンは厳しい顔でさらに問う。「あんた誰!? グレアム起きてよ、グレアム!」グレアムには起きられない。意識が戻らない。
こんな所で何をしてるの、と紳士は言う。優しげな笑顔だ。
「マックス! アンジー! 起きてよ! あのね! ボク達! ボク達待ってるの! 恋人?」「恋人?」「さわるなってば!」「恋人って誰? いつから待ってるの?」「さわるなよ! ボクの友達なんだから……ボクは!……」「わかったよ……それで……恋人って誰なんだい?」
サーニンは語る。真っ赤な顔で。泣きそうな顔で。
「ボク達はずっと待って……」 「でももういいんだ!」 「誰もボク達の待っている人でないのなら」 「四人きりでいいんだ!」
紳士は言う。 「じゃあ恋人って……誰でもいいんだね? 君達四人を好きならば」 「おじちゃんでもいいかい?」 「君達の恋人になりたいんだ」
信じられない顔のサーニン。
「……四人一緒だね!?」 「もちろんだよ」 笑顔でうなずく紳士。 「親のところへ戻れなんて言わないね?!」 はっとする紳士。 「しないね!? もうマックスやアンジーやグレアムを泣かせたりしないね?! 嘘ついちダメだよ?! そんな事したら、ボクあんたをやっつけてやる! ボク強いんだから!」 あ……と紳士はたじろぐ。 「しないね!?」 サーニンは問う。祈るように。最後の最終の信仰のように。 どうぞ……神様! ボク達にも言わせて! 「メリークリスマス」……と! 「あ……事情は後で聞くとして、ともかく今は……」 どうぞ! 神様!! そして―― 紳士はうなずいてみせる。 「ああ……」 「ああ、いいよ……」 ……神様…… だから―― だから、サーニンは、そのときの紳士の笑顔を信じたのだ。 満面の笑顔で、両手を掲げて、全身をよろこびに満ち溢れさせて叫んだのだ。 「メリークリスマス!!」 グレアム! アンジー! マックス! 恋人だよ! 恋人! そのときのよろこびを、サーニンはそれからずっと…… ……
そして紳士は四人を病院へ運び―― はみだしっ子達はクリスマスが終わったあとようやく目を覚ました。
しかし、それからほとんど紳士の顔を見る機会はなく――なぜなら、「科が違った」ので――紳士は、その病院の、外科の医師だったので。 「ボク達は患者に過ぎなかった」と、四人は……
看護婦が言った。「医者が死にかけた人間見ちゃったら、好きじゃなくたって放っとくわけにいかないでしょう?」と。「助けてもらったお礼言った?」と……
「ボク……ボク信じたんだから……!」 とサーニンは叫び。 「うん、だまされたのさ」 と、アンジーは告げた。 「お医者さんに『ありがとう』って言わなきゃダメ?」 と、マックスが淋しげに言い。 「オレは言わねェぞ。これはサギだ」 と、アンジーは応じた。 グレアムは考える。「ありがとう」というの? 卑屈な気持ちで……ボク達が馬鹿でしたとホールドアップすればご満足? そして良い子だと拍手喝采してくださるおつもり? 何と素敵なきれいごと! だけどそんなの知ったことじゃない!! 石を投げられる方がましさ!! 「お礼にかえて入院費払わずにトンズラなどいかが?」 と、アンジーは提案し、 「いいね」 と、グレアムは言った。 ――そして四人で実行した。
いじけ者! ひねくれ者! ロクデナシ! はみだしっ子! ――何とでも言うがいいさ! ボク達も言ってやろう きれいな衣をまとった人よ、さようなら! ざまあみろ!!
そして、はみだしっ子たちの物語が始まるのだ。
このシリーズは、彼らがどう感じ、どう考え、どう行動し、どう間違い、どう貫き、どう変わり、どう変わらなかったか……そうして、つまり、どう生きて行ったか、そういう物語たちなのだ……(おっぺ)
追記。 白泉社文庫版では、片足の不自由なアンジーに関する表現「びっこ」が、機械的に全て「松葉杖」に直されています。よっぽど「不適切」であると感じます。一応、表明しておきましょう。(おっぺ)
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