5 修道院の隆盛

 修道生活の起源は古代の二元論的世界観や禁欲主義によるものではない。こ とに4世紀以降、キリスト教の公認に伴い教会の世俗化が進行し始めると、キリ ストへの信仰を徹底的に生きようとする者たちが、俗界を離れて砂漠や荒れ地に 隠遁生活をするようになった。初め彼らはそれぞれの志に従って独自の行に励み 、個別の生活をしていたため「単独者(モナコス)」と呼ばれた。しかし4世紀 半ばになると、次第に彼らは共同生活を営むようになり、祈りと食事をともにし 、さらに人々の喜捨によらず労働による自立をはかった。また、こうした集団に 属する者は貞潔、清貧、従順という誓いを立て、生涯を修徳生活にささげるとい う制度が確立した。西方教会では6世紀に、ベネディクトがその後の修道生活の 基礎づくりに貢献した。一日の生活は祈り、労働、休息に三分され、修道生活は 自己の魂の救済のみならずこの世の救済に仕えるものとされた。以後、修道生活 はヨーロッパの文化・文明の歩みにおいてはかり知れない役割を果たすことにな る。

 千年にわたる中世の間、修道生活にも波があった。個人としては財を所有し なくとも労働と種々の寄進を受ける結果、修道院自体には巨大な富が集中し、し ばしば俗権との癒着がからみ、堕落に走った。しかし、そのたびごとに自己改革 が内側から繰り返され、息を吹き返したのもまた事実である。たとえば、10世 紀初頭のフランスのクリュニー改革をはじめ、多くの刷新運動は政治や社会にも 多大の影響を及ぼした。また、11世紀末期に創設されたシトー修道会は、優れ た農業技術をもって当時の農業革命にはかり知れない貢献をした。一方、13世 紀に創設されたフランシスコ会、ドミニコ会の両托鉢修道会は徹底した清貧の実 践と説教、学問の活動によって教会の霊的刷新を展開した。