マルチの話 番外編
二人を眺めつつ
くのうなおき
大概の家庭が夕食の支度にとりかかる午後の五時過ぎ、我が家もまた例外でなく、あかり
とマルチがエプロンをつけて、慌しくも楽しそうに夕食の準備を始めだした。
こういう時男の出番が無いというのは世紀が変わっても変わることなく、オレは談笑しな
がら夕食の支度をしている二人をぼーっと眺めていた。
マルチがオレ達の所に戻ってきてもう二年、料理の腕前は「あの頃」がまるで嘘のように
飛躍的に上がり、今ではあかりの心強い料理のパートナーになっている。結果として、オレ
の出る幕は、皿を並べる事以外はほとんど無い。
「私作る人、僕食べる人」を地で行ってる光景だな・・・・・・・・・
「それでですね、志保さんったら、犬さんがクッキー食べているところに、突然犬さんの
頭を撫でだしたから、犬さん怒って志保さんを追っかけまわしたんですよ」
「それでわたし通りかかった時にあんなに息切れしてたんだね、ふふっ、志保ったらしょ
うがないな~~~」
談笑しながらもてきぱきと手を働かす姿を見て、いやはや料理に関してはこの二人に逆立
ちしたって勝てねえやと感心する一方、今この場所に、この二人が当たり前のように存在し
ているという事に何か不思議なものを感じていた。こうして当たり前のようにオレの傍にい
てくれて、夕食を作っていてくれる二人。
だけど、生まれた時からオレの傍にいてくれるという事が決まっていたわけでもなく、そ
れは「偶然」の繋がりが生み出した結果ではないだろうか?
高校二年の春、階段から転げ落ちそうだったマルチを助けてオレ達は出会った。それは本
当に偶然で、もし、オレがあの日あの時あの場所にいなかったら、オレはマルチと出会えた
んだろうか。もし、あの時あいつに出会わなかったら、その後オレ達は出会えたのだろうか
?そしてマルチはここにいて、優しい笑顔を見せていてくれていただろうか?
マルチの出会いがなければ、オレはオレ自身の気持ちを素直に認めることなく、あかりと
はずっと「幼馴染」のままのずっと変わらない関係のままでいたかも知れない。いや、ひょ
っとしたら二人は別々の道を行き、お互いが他の人と結ばれていたかも知れない・・・・。
いくつもの「偶然」のかけらの連鎖がオレ達を結び付け、そして今に至っていて、だけど
それは本当に「脆い」繋がりで、一つでも欠けていたらまた別の道にいってしまうような気
まぐれなもので、そんな脆い繋がりのなかでオレ達は日常を暮らしているわけなんだろうか
・・・・・。
漠然とした不安から逃げるように、オレは二人の後ろ姿をじっと見つめた。二人は相変わ
らず談笑しながら手を動かしていた。しかし、その後ろ姿には、笑い語り合いながらも、一
生懸命な気持ちがオレにも充分伝わってきた。そして、あかりに笑いかけるマルチの笑顔が
オレの視界に入った。その一生懸命な後ろ姿と、心からの笑顔は、「偶然」という繋がりが
「必然」としてつくられたのではないかと思わせた。
あの時、階段であいつに出会わなくても、オレは廊下を一生懸命掃除しているあいつを見
かけて手伝ったかもしれない、校庭で犬に話かけるあいつを見て興味を持ったかも知れない
。どんなに偶然のかけらが欠けようとも、また別の偶然のかけらが、オレ達を引き寄せて、
結局はオレ達三人は出会い、そして一緒に暮らし、平凡でささやかで、時たま少し騒々し
いけど楽しい日常を共に過ごすようになったんじゃないだろうか。
オレとマルチを出会わせたものは、あいつの一生懸命さと優しさであって、階段から転げ
落ちそうになるのを見かけたという偶然ではないはずだ。
そして、あかりとの関係もまた「必然」だったんだろうな・・・・・あかりがオレを好き
で傍にいたように、オレだって、心の底でずっとずっとあかりが好きだったから、だから傍
にあいつがいる事を当たり前のように感じていた。そして、そのことの意味をいつか必ず素
直に認めていただろう・・・・・・。
むろん、それはオレの独り善がりな解釈とも言えるかもしれない、しかしまた、それを完
全に否定もできない。どっちかと決め付けられる問題じゃない。だったら・・・・・・・
『それが必然か偶然かだなんて一生かかったって分かりゃしないんだ、だったらそうなる
よう運命づけられていたと考えた方が楽しいじゃねーか』
そう思って、また二人の方に目をむける。まるでここにいるのが当たり前のようにいる二
人、それが「必然」というならば、オレは・・・・・・・・・・
「浩之さ~~~ん、もうすぐご飯できますから、お皿並べて頂けますか~~~?」
不意にマルチとあかりがこっちを向いてオレと目を合わせたかと思うと、「「あ・・」」と
小声で呟くと、二人ともみるみるうちに顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
「お、おい・・・・どうしたんだ・・・?」
「・・・・ねえ、何考えてたの・・・・・?」
頬を染めて、嬉しそうな顔をして尋ねるあかりに、オレは怪訝な顔をせざる得なかった。
「なに考えてたって、そりゃ・・・・・」
と言いかけて、オレははっと口を止めた。くそっ!こういう事に関しては異常なまでに勘が
鋭いんだからなぁこいつらは・・・・・・・!!どうせ、オレの目とか顔とかが・・・・・
「浩之さん、とっても優しい目をしてこっちを見ていたから、一体どうしたかと思いまして」
「ねえねえ、浩之ちゃんったら、一体何考えてたの?」
「ぜひぜひ教えて欲しいです」
目をうるうるさせながら迫ってくる二人、いかん、こうなったらオレに逃げる道はない・・
「ま、まあ・・・・いや、特に大した事じゃないぜ、うんうん気にすることのほどでは・・」
「むぅ~~っ、そんな風に言われると余計気になるよ~~~~~~~」
「そうですそうです~~、ちゃんと答えて下さいっ」
「・・・・・・・・・・(汗)」
二人の「うるうる目の詰問攻撃」にたじたじになって、思わずそっぽを向くオレ。だけどこう
いう日常が当たり前な事、この二人が当たり前のようにオレの傍にいてくれる事が、改めて嬉し
くも感じていた。
こんな日常が「必然」な運命だったのなら、オレははその運命を作ったものに「ありがとう」
と自分のありったけの感謝の気持ちを伝えたい。
・・・・・それはきっと、この二人なんだろうけどな・・・・
終
後書き
なんか久しぶりに、余計な「雑念(笑)」のない話を書いたような気がします。
二年前に「マルチの話」を書き出した頃って、こういう話ばっかだったような
・・・・・どこでどう変わっちゃったんでしょうね、まったく。
まあ、「オレもやれば出来るじゃないか」と自画自賛してみたり(^^
え?他になんかあるだろうって?
まったく・・・疑い深いですねえ、んな裏版なんて書いてるわけないでしょ・・・ってこら!!おい!!
見るな見るんじゃない~~~~~~~~~~!!
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