連載小説 私立了承学園
第参百八拾参話 五日目 放課後(3)(To Heartサイド)舞踏会編 中編

 『4.体育館の外へ行く』のパートです。
 今回はSTEVENさんの文体に少しでも近づけるためにpre未使用(笑)
_______________________________


「浩之君…電波届いた?」

 ダンス開始までのんびり夜風にでもあたろうと体育館の外、
満天の星空の下に一歩を踏み出した浩之を迎える第一声はそれだった。



「……」
「……」



 しばしの沈黙。



「…わ、悪い、オレには解んねーや…」
「いいよ、言ってみたかっただけだからね」
  顔を引き攣らせている浩之に、声の主、みさきは屈託の無い笑顔を浮かべて答えた。



「それじゃ改めて…こんばんは、浩之君」
「ああ、こんばんは、みさきさん」
 笑顔のみさきに、浩之は軽く片手を挙げて答えた。

「ところで、こんなところで何してるんです? 会食なら中っスよ?」
 からかい口調でそう言う浩之。
「…浩之君、私だっていつも何か食べてるわけじゃないんだよ?」
 愛らしく頬を膨らませて拗ねるみさき。
「あはは、すんません。それで、ホントは何でこんなところにいるんです?」
「うん、実はね、重大な理由があるんだよ」
「へ?」
 浩之としては挨拶代わりの軽い言葉のつもりだったのだが、
おもむろに真剣な顔になるみさきに思わず気を引き締めてしまう。

 と。


 ちりちりちりちり…


「う、うおっ!?」
 突如浩之の頭の中に電波が流れ込んでくる。



「藤田くん…電波届いた?」



 痛む頭を抱えながら、どうにか声のしたほうへ顔を向けると、
そこには透明な笑顔を浮かべた瑠璃子が立っていた。

 月明かりを浴びた瑠璃子の姿は一種神々しさすら感じさせる。感じさせるが。

「ば、か、や、ろーっ!! ほ、ホントに送って、くる、やつが、あ、る、かーっ!!」
 浩之はそれどころではなかった(笑)
 どうにかそれだけ叫ぶことに成功する。
 するとぴたりと電波は止まり、次いで瑠璃子はなんで? といった表情で
首を傾げ、浩之をまっすぐに見つめる。

 そして一言。

「だって、送らないと届かないよ」
「……」
「……」
「…いや、オレが悪かった…」
 しれっと言ってのける瑠璃子に、浩之は怒る気にもならなかった。
 事実、瑠璃子には悪気は無いのだろう。
 怒りの代わりに強烈な脱力感が浩之を襲う。
 そんな浩之を見て、瑠璃子はもう一度首を傾げたが、すぐに元の透明な笑顔になって、
今度はみさきに声をかけた。
「こんばんは、みさきさん」
「うん、こんばんは、瑠璃子ちゃん」
 瑠璃子とはまた違った、たおやかな笑顔でみさきは応えた。
 なんでオレに挨拶する時だけ電波なんだよ、と浩之は思ったが、思うだけにしておいた。

「重大な理由って、月島か?」
「うん、さっきここでお話する約束をしたんだ」
「…ちゃんと指切りだってしたんだよ」
「そ、そうか」
 指切りという言葉を言った時の、まるで童女のようなあどけない瑠璃子の笑顔が印象的だった。



「ここはね、電波が沢山届くの。屋上も凄いけど、今日はここの方がすごいかもしれないね」
 誰に言うでもなく、空を眺めながら瑠璃子は静かに呟くように言った。
「あ、ほんとだ。みんなの楽しさがそのまま伝わってくるみたいだよ」
 体育館の中の者達の楽しさがそのまま自分の楽しさであるかのように、
みさきは楽しそうに微笑む。
「ふ〜ん…ま、オレには電波はよく解んねーけど、とりあえず風は気持ちいーな」
 その場に腰をおろしながら、ぶっきらぼうに、しかし満足そうに言う浩之。
「そうだね、風も気持ちいいよ」
 そう言ってみさきは体全体で風を感じようと、両手を大きく広げた。


「でもやっぱりパーティは食ってなんぼだろ」


 静かで優雅な空間を台無しにする言葉が後ろからかけられる。

「あれ、浩平君?」
「ああ」
 三人が声のしたほうに顔を向けると、そこには浩平が立っていた。
 両手に大きなケーキを一つずつ持っている。

 女の子二人は敏感に反応する。
「なんだか甘い匂いがするよ」
「…美味しそうなケーキだね」
「先輩がこっちに来るのが見えたからな。適当なケーキを選んで持ってきた。
ささ、月島も藤田も遠慮しないで食ってくれよ」
 そう言って浩平は三人のそばに来ると、ケーキをその場に降ろし、自分も座った。
 どうやらイチゴショートとチョコレートケーキのようだ。
「…ありがとう」
「嬉しいよ」
 さっそく切り分けられたケーキを手にとって食べ始める瑠璃子とみさき。
「あれ、やっぱり食べるんスね?」
 再びみさきをからかうような口調で言う浩之。
 言いながら、自分もチョコレートケーキに手を伸ばす。
「…たまには食べる時もあるんだよ」
 みさきは明後日の方向を向きながら、ばつが悪そうに答えた。
「まぁ、みさき先輩はいつも何か食ってるけどな」
「そんなことないよっ、酷いよ浩平君…」
「…そうだよ、女の子にそんなこと言っちゃいけないよ」
「そうだぞ藤田」
「お、オレかよ!?」
 しばらくそんな調子で4人で楽しくケーキをつまんでいた。













「あ〜、やっと見つけたよ〜折原くん、ていうかイチゴのケーキ!」
 少し間延びした声が聞こえる。
 見ると、名雪がちょっと不機嫌そうに浩之たち、というかその中心にある
ケーキを睨んでいた。
「探してたんだよ〜、イチゴのケーキはそれだけだってお母さんが言ってたから」
 少し怒っているようだが、あまりそう見えないのは名雪だからであろう。
「そうなのか? そりゃ悪いことをしたな、それじゃ水瀬も一緒に食うか?」
「あ、うんっ!」
 浩平の誘いに嬉しそうに駆け寄ってくる名雪。数瞬前の不機嫌さは一瞬で
消し飛んでしまったようである。
「…まーなんつーか…いいヤツだよな、水瀬って」
「ングング…なんだかよく解らないけど、酷いこといわれてる気がするよ」
 引き攣った顔でボソリと言った浩之の言葉に、ちょっとムッとしたような
言葉を返す名雪。しかしその顔と声色はとても幸せそうであった。とりあえず
名雪にとってはケーキを食べられた幸せのほうが大きいようである。












「…あ、そうだ。浩之君なら許してくれるかもしれないよ」

 ケーキもあらかた食べ終えた頃、みさきが唐突にそう切り出してきた。
 勿論かなりの量のケーキがあったわけだが、ここでそれについて触れるのは
野暮というものであろう。

「は? 何をですか?」
「うん、あのね、浩平君たら浩平ちゃんて呼ぶと嫌がるんだよ」
 可愛いのに、と付け加える。
 そこはかとなくイヤな予感がしてくる浩之。
「だからね…」
「…言っておくけど、「浩之ちゃん」はやめてくださいよ?」
「…酷いよ」
「……」
 マジなのか冗談なのか、がっくりとうなだれるみさきに、浩之は言葉を失う。
「ところで浩之ちゃん」
「オメーが言うな浩平!!」
 横からかけられる、呼ばれなれた、しかしあの犬チックな幼なじみにのみ許されている
呼び方に、大げさに声を荒げる浩之。
「いや、だって可愛いぞ」
「それもお前が言うな」
 そう言って浩平の頭にチョップを繰り出しておく。
「あ、それなら私はいいのかな?」
 いたずらっぽく言うみさき。
「…訂正、オメー「も」言うな浩平」
「なんだ藤田、前言撤回とは男らしくないな」
「…うるせー。…とにかく、「浩之ちゃん」だけはやめてくれ。そんな呼び方はあかりだけで十分だ」
 ぶっきらぼうに、そう言い捨てる浩之。
 しかしみんなにはその真意はバレバレである。
「…それじゃぁしかたないね」
「神岸の専売特許じゃあ、オレらが使うわけにはいかないもんな」
「ばっ、ちげーよ、そんなんじゃねーって」
「あ、藤田くん顔赤いぉ〜」
「う、うるせーよ」
「くすくすくす…藤田くん、可愛いね」
「……」
 さすがにここまで言われては返す言葉も無く、黙りこくるしかなかった。
 しかし、浩之の受難はまだ終わらない。

「うーん…あ、そうだ。だったら「浩之たん」なんてどうかな?」

 笑顔で発せられる、何気ないみさきの一言。
 先ほどまでは冗談か本気か解りにくかったが、なにやら冗談の色が
薄れてきている。  浩之は身の危険を感じ始めた。

「た、頼むから…」
 勘弁してくれ、と続けようとする浩之の言葉は遮られる。
「お、そりゃ可愛いな。これからは「浩之たん」で決定だな」
「うん、わかった」
「や、やめろー!! お前も解るな月島ー!!」
「うにゅ…浩之たんばっかりずるいよ、わたしも何か可愛いあだ名ほしいな」
「うわ、さりげなく定着してるし!!」

 その後浩之は必死になってわめきちらし、どうにか妙な呼び名は撤回させる
ことに成功した。
 全員微妙にズレた発想の持ち主であるため、説得は非常に難航したが。








<体育館の外編・終わり>
_______________________________



















浩平「そして最終的には「パーペキ浩之くん」になったわけだな」
浩之「なってねー!!」
浩平「なんだ、これもダメか。贅沢なやつだな」
浩之「贅沢でもなんでもねー、いいから普通に呼べ」
浩平「解ったよヒロッピー」
浩之「…いー加減にしねーと殴るぞ」
浩平「冗談だ、ヒロヒロ」
 ガスッ
浩平「…普通に呼んだんだが」
浩之「…もう一発いるか?」
浩平「…遠慮しておく」









<後編へ続く>
_______________________________

<あとがき>

 …可愛いのに(笑)
 どうも、ERRです。

 はじめは名雪のことを「なゆたん」と呼ばせようとしましたが…
 このお話、ifのお話なんですよね、
 選択肢4つ、どれが実際に起こる出来事か解らない。
 話の流れから、名雪のヤツ「なゆたん」了承してしまいそうですし(笑)
 というわけで、泣く泣く却下(笑) < 笑ってます(笑)

 それでは、引き続きSTEVENさんの後編をどうぞ。



 ☆ コメント ☆ 名雪 :「……可愛いのになぁ」 祐一 :「かわいけりゃいいってもんじゃないだろ」(^ ^; 名雪 :「そう? わたしは可愛いのって嬉しいよ」 祐一 :「お前はそうだろうけど」(^ ^; 名雪 :「『なゆちゃん』でも『なゆなゆ』でも『なゆたん』でもOKだよ。      ねっ、祐たん」(^^) 祐一 :「そんな呼び方はやめろ!!」凸(−−メ 名雪 :「え〜!? 可愛いのにぃ〜」(−−) 祐一 :「男は可愛くなくていいんだよ」(−−; 名雪 :「うーっ」(−−) 祐一 :「唸ってもダメなもんはダメだ」(−−; 名雪 :「ぶー。わかったよ。ゆうゆう」(−−) 祐一 :「ぜんっぜん分かってないだろーが」(ーーメ



戻る