連載小説 私立了承学園
第参百八拾参話 五日目 放課後(3)(To Heartサイド)舞踏会編 後編

 ついに、ダンスタイムの始まりです。
 さあ、浩之は誰と踊るのか?

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 さて、何だかんだで色々とあって……、

 会食の時間も終わり、舞踏会はダンスの時間へと移っていった。

 ガディム率いるオーケストラ隊が、優雅な音楽を奏で始め、
会場内の雰囲気が盛り上がっていく。

 早速、会場中央のダンスホールでダンスを始める
ティリアとデュークを筆頭とする教師カップル陣。

 となれば、当然、それまで皆と談笑を楽しんでいた生徒陣の妻達も、
ダンスの相手の一番乗りを勝ち取る為、我先にと自分の夫の下へと集まる。

 ある家族は譲り合い……、
 ある家族は平和的に話し合い……、
 ある家族は後腐れないようにジャンケンで決め……、
 ある家族は殺気混じりの緊張感に包まれる……、

 そして、ここ藤田家では……、

「ここは、やっぱりあかりでしょ?」

 ……という、綾香の言葉に、他の妻達は誰も文句を言う事無く賛成した。
 こういう場合は、やはり第一婦人の特権が優先されるが暗黙の了解らしい。

 普段なら、あかりはその手の権利は放棄して、公平に決めようと言い出すのだか、
どうやら、今回は皆の厚意に甘えることにしたようだ。

 一般家庭で育ったあかりにとって、こういう場で愛する人と踊るのは初めての経験だ。
 だから、そんな新鮮なシュチュエーションで、浩之とイチャイチャ(?)出来るのが、
嬉しくて仕方ないのである。

「えへへ♪ 浩之ちゃん(はぁと)」

 あかりは、とびきりの笑顔を見せて、浩之の前に立ち、
浩之から手が差し伸べられるのを待つ。
 しかし……、

「悪い……あかり……お前とは、まだ踊れねぇんだ」

 浩之は難しい表情でそう言うと、ゆっくりと首を横に振った。

「……え?」

 浩之のその言葉に、ショックを受けるあかり。

「ひ、浩之ちゃん……今、何て言ったの?」
 浩之の言葉が余程ショックだったのだろう。
 あかりの瞳に見る見るうちに涙が浮かんでいく。
「ちょっと! 浩之っ! どういうつもりよっ?!」
 こうなると黙ってはいられないのが、他の妻達だ。
 真っ先に綾香が浩之に食って掛かる。
「浩之……あかりがダメっことは、私達もダメってことよね?
じゃあ、一体、誰と踊るつもりなのよ?」
「皆には悪いと思ってる。でも、今だけは許してくれ。
どうしても、最初にダンスに誘いたい人がいるんだよ。
いや、誘わなきゃいけない人……だな」
 と、そう言う浩之の真剣な表情に、綾香は毒気を抜かれてしまう。
 他の皆も同様の表情だが、そんな浩之の態度に、一同は一応納得したようだ。

「アタシ達を差し置いて、アカリの誘いを断ってまで、
それでも一緒にDansingしたい人って一体誰ネ? ちょっとjealousyダヨ」
「藤田先輩……」
「もし、浮気だったら……許しませんから……」
「ちゃ~んと、皆で見張っとるからな」
「浩之ちゃん……わたし、浩之ちゃんのこと信じてるから……」

 口々にそう言って、浩之を心良く送り出す妻達。
 そんな妻達に、浩之は深々頭を下げる。

「みんな、すまねぇ……じゃあ、行ってくる」





 妻達の視線を背中に受けて、浩之は『ある人』のもとへと真っ直ぐ歩み寄る。

 そして、その人に手を差し伸べた。










「秋子さん……俺と踊ってもらえませんか?」










「……はい?」
 ダンスホールで踊るカップル達の姿を、ワイングラスを片手に微笑ましく眺めていた秋子は、
突然、差し出された浩之の手を見て、キョトンとした顔になる。
 いつもにこにこして落ち着いている秋子にしては、珍しい表情であった。
「あの、浩之さん……何を言ってるんですか?」
 訊ねる秋子に、浩之はもう一度同じ言葉を繰り返そうと口を開く。
 だが、それよりも早く……、
「何だ? 浩之もかよ?」
 と、すぐ側で誠の声が聞こえた。
「ん? 誠か?」
 背後から聞こえた誠の声に、後ろを振り返る浩之。
 そこには、やれやれといった顔つきの誠が立っている。

 ――いや、誠だけじゃない。

 耕一が……、
 浩平が……、
 祐一が……、

 この了承学園で舞踏会に参加していた全男子生徒達が、そこにいた。

「何だ? まさか、お前らも秋子さんを誘いに来たのかよ?」
「ま、そういうこったな」
 と、浩之に答える耕一の頬には、誰かさんの爪痕がくっきりと残っている。
 ここに来る為、妻達を説得するのに、かなり苦労したようだ。
「みんな、考えることは一緒だったみたいだね」
 そう言って、肩を竦める祐介。
「まったくまったく」
 祐介の言葉に、うんうんと頷く一同。
「……あなた達」
 そんな彼らを見て、いつも微笑みを絶やさない秋子から表情が無くなる。
 これは、秋子が本気で怒っている証拠である。
「自分の妻達を放って、わたしをダンスに誘うなんて……何を考えているんです?
わたしはあなた達をそんな風に教育した覚えはありませんよ?」
 と、口調は穏やかだが、間違いなく秋子は憤慨していた。

 厳しく叱りつけようかとも思った。
 だが、彼らの中には大人もいる。
 いくら自分が学園の理事長とはいえ、大の男を人前で叱りつけるのは良くないだろう。

「さあ、早く奥さん達のところに戻りなさい。みなさん、あなた達を待ってますよ」

 だから、秋子は静かに、諭すように言った。
 しかし……、

「秋子さん……そういうわけには行かないんですよ」
「最初から決めていた事なんです。一番始めに秋子さんと一緒に踊ろう、って」
「例え謎ジャム出されても、俺達は戻りませんよ」

 ……それでも、彼らは引き下がらなかった。

「あなた達……いい加減にしないと、本当に怒りますよ」
 聞き分けの無い浩之達に、さすがの秋子も堪えかねて口調がきつくなる。
 そんな秋子の怒りを静めるように、側にいたひかりがポンポンと秋子の肩を叩いた。
「バカねぇ……浩之ちゃん達は、そんなつもりであなたを誘ってるわけじゃないわのよ」
 その言葉に、眉をひそめる秋子。
「ひかり……それってどういう事?」
「つまりねぇ……」
 と、ひかりが説明する前に、誠が二人の間に割って入る。
「まあ、ようするに……お礼、ってところです。
俺達の為に、この了承学園を作ってくれてありがとう。
そして、いつも俺達の為に尽力してくれてありがとう……ってね」
 そう言って、誠は秋子に手を差し伸べた。
「この程度のお返ししか出来ませんけど……」
「……これが、俺達の感謝の気持ちなんです」
「ですから、秋子さん……」
 誠に続き、浩之が、祐一が、浩平が……皆が、次々と秋子に手を差し伸べる。
 そして……、





『俺達と一緒に踊ってください!』





「祐一さん、浩之さん……みなさん……」
 自分に向かって差し伸べられたいつくもの手を前に、
さっきまでの怒りも忘れ、ただただ呆然とする秋子。
 そして、一瞬、ハッとした表情を見せると、大きく目を見開き、口元を手で押さえる。

 それは、まるで何かを堪えているような……、

「す、すみません……ちょっと、失礼させてもらいますね」 
 手で口元を押さえたまま秋子は俯き、浩之達から視線を背けると、
そのまま逃げるように立ち去っていく。
「あっ! 秋子さん?!」
 突然、自分達の前から走り去ってしまった秋子を追うことも出来ず、
浩之達はその場に取り残される。
「……やっぱり、俺達じゃ役不足だったかな?」
「そんなわけないでしょ?」
「じゃあ、秋子さん……何で僕達から逃げちゃったんです?」
 と、ひかりの言葉に一同は首を傾げる。
 そんな彼らに、苦笑するひかり。
「妙なところで鈍いわよねぇ、浩之ちゃん達って。
まあ、こういう事に鋭かったりしたら、それはそれで可愛げが無くてイヤだけど」
「……はあ?」
「とにかく、浩之ちゃん達はここで大人しく待ってなさい。
秋子のことは、このひかりんに任せなさいな♪ ちゃんと連れ戻して来るから」
 そう言って、秋子の後を追うひかりを、浩之達は見送る事しか出来ないのであった。















 体育館の外――

 そこに備え付けられた水道から、ジャージャーと勢い良く水が出ている。

「……秋子」

 その音を頼りに、ひかりがそこへ向かうと、秋子の姿があった。

「ひかり……」
 歩み寄ってくるひかりに気付く秋子。
 しかし、俯いたまま、ひかりの顔を見ようとはしない。
「……秋子……泣いてるの?」
「……違います」
「嘘おっしゃい」
「…………」
 ひかりの言葉に黙ってしまう秋子。
 秋子の肩は、小刻みに震えてる。
 その意味が分からないひかりではなかった。
「秋子……」
 ひかりの手が、秋子の肩にそっと添えられる。
「嬉しかったんでしょ? あの子達の気持ちが……」
「…………」
 何も言わず、コクンと頷く秋子。
「涙が出るくらい嬉しくて、でも、それを見られたくなくて……だから、逃げ出した」
「だって、わたしはこの学園の理事長なのよ。そのわたしが、あの子達の前で泣くなんて……」
 そう言って、ひかり方を振り向く秋子。
 秋子の頬は涙で濡れていた。
 その涙を、ひかりはハンカチで拭い、そして……、

「気負いすぎ」

 ――ぺしっ!

「あうっ」
 まるで浩之があかりにするように、ひかりは秋子のおでこを叩いた。
「ひかり……痛い」
 叩かれたおでこを手で押さえ、ひかりに批難の眼差しを向ける秋子。
 しかし、そんな秋子の視線を完全無視して、ひかりは言葉を続ける。
「あんたねぇ……いくら理事長と言っても、所詮はただの一家庭の主婦でしょうが。
もっと気楽になりなさいな。それに、あの子達なら『嬉し泣きなら大歓迎』って言うわよ」
「でも、いい歳したおばさんが、人前で泣くなんて……カッコ悪いじゃないですか」
「まあ、気持ちは分からないことも無いけどね……、
だからって、あんな立ち去り方したら、断られたんじゃないかって誤解しちゃうでしょ。
あの子達『俺達じゃ役不足だったかな?』なんて言ってたのよ」
 それを聞いて、秋子の目が少し見開かれる。
「……そうなの?」
「そうよ。だから、早く戻ってあげなさいな」
「そうね……いつまでも殿方を待たせるわけにはいかないわね。じゃあ、行きましょうか」
 と、ひかりの言葉に頷き、秋子は体育館の入り口に向かう。
「……もう大丈夫なの?」
「ええ……ひかりと話していたら、だいぶ落ち着いたわ」
 そう言って、秋子は頬に手を当てて微笑む。
 この笑顔は、もういつもの秋子だった。
「そう……だったらいいけど。でも、顔洗って化粧を直してから行きなさいよ」
「そうね。じゃあ、顔だけ洗って行きましょうか」
「あら? 化粧は?」
「祐一さん達をこれ以上待たせるわけにはいきませんから。
それに、わたしはひかりと違ってすっぴんでも充分ですし」
「わ、わたしだって、軽くやってるだけよっ!」
「あら、そうなの?」
「……秋子、あなた……もしかして、喧嘩売ってる?」(にこにこ)
「いえいえ、滅相も無い」(にこにこ)

「…………」(にこにこにこ)
「…………」(にこにこにこ)

 無言で、笑顔のまま睨み合う二人。
 ……かなり怖い。

「…………」
 笑顔を崩さぬまま、ゆっくりと秋子に近付くひかり。
 そして、大きく手を振り上げると……、

 ――パンッ!

「きゃっ!」

 秋子の背中を思い切り叩いた。

「それだけ冗談が言えれば安心ね」
 と、そう言って、にっこり微笑むひかり。
 そんなひかりの笑顔に、秋子も応える。
「ええ……ありがとう、ひかり」
「どういたしまして♪」















 それから、しばらくして……、

 いつもの落ち着きを取り戻した秋子は、浩之達のもとにに戻ると、彼らにこう提案した。

「皆さんのお誘い、ありがたくお受けいたします。
ですが、さすがに全員と踊っている時間はありませんから、代表で誰か一人だけで良いですか?
あとは、他の教員を誘ってあげてください。
この学園を本当の意味で支えているのは、あの人達なんですから……」





 と、いうわけで、浩之達は、一人一人が別々の教職員と踊ることとなった。





 祐一は秋子と……、



「ふふふ……まさか、こうして祐一さんと踊れるなんて思っていませんでしたよ」
「ま、この役は誰にも譲れませんからね。何たって、俺が一番世話になってんですから」
「でも、名雪達を差し置いてわたしなんかが……後で怒られたりしません?」
「怒られたって構いませんよ……それに、あいつらなら分かってくれると思います」
「そうね……みんな、良い子達ですものね」
「…………はい」
「祐一さん……」
「何ですか?」
「これからも、名雪達のこと……わたしの可愛い娘達のこと、よろしくお願いしますね」
「……はい」



 浩之はひかりと……、



「うふふふふふ♪ たまにはこういうのもいいわねぇ♪」(ぎゅむ~)
「あ、あの……ひかり……お義母さん……あんまり、その、胸を押しつけるのは……」(大汗)
「あら♪ 浩之ちゃんったら照れてるの? かわいっ♪」(ぎゅむぎゅむ~)
「ぐうう……このあかりには無い弾力が何とも……」
「ふっふっふっ……胸はまだわたしの方が大きいものねぇ♪」
「うっ! 何か……あかりからの視線がムチャクチャ痛い」
「と・こ・ろ・で……浩之ちゃん?」
「な、何です?」
「孫の顔はいつになったら見せてくれるのかしら?」
「……勘弁してください」(泣)



 雅史はたまと……、



「にゃにゃにゃ、にゃ~にゃ♪」
「わっ! ちょっとたまちゃん、もう少し落ち着いて……」
「にゃにゃ、にゃ~っ!!」
「うわぁぁぁぁ~っ! 目が回るよお~っ!!」
「にゃにゃにゃ~~~♪」



 耕一は由美子と……、



「ねえ、柏木クン?」
「ん? 何? 由美子さん?」
「今……幸せ?」
「あ? ああ、もちろん。でも、何でいきなりそんなこと訊くんだい?」
「ううん。何でもない。そうよね……柏木家の姉妹って、み~んな綺麗だもんね。
柏木クンが不幸なわけないよね?」
「あ、ああ……ぞうだね」(テレテレ)
「……まったく、顔赤くしちゃって…………
やっぱり、かなわないなかぁ
「ん? 由美子さん、何か言った?」
「何でもない何でもない。気にしないで、ただの独り言だから」
「ふ~ん……?」



 祐介はルミラと……、



「…………
じゅるっ
「…………」(汗)
「…………
ゴクッ
「…………」(大汗)
「……ねえ、祐介君♪」
「は、はい……何ですか?」
「……噛んでいい?(はぁと)」
「ダメですっ!!」
「ケチ」



 冬弥はメイフィアと……、



「……メイフィアさんには、いつもお世話になってます」
「まったくね……最近はそうでも無いけど、一時期は毎日のように保健室に来てたものね」
「は、ははは……」
「あのまま常連さんになられたら、どうしようかと思ったよ」
「……すみません」
「まあ、いいわ。今日から校医も一人増えたし、少しは楽出来そうだから」
「そうなんですか?」
「ええ……でも、ちょ~っと変わり者だけどね……シスコンだし」
「……あなたも充分変わり者だと思いますけど」(ぼそっ)
「何か言った?」
「いえ、何も……」(汗)



 和樹は澤田編集長と……、



「ねえ、千堂君……やおい本、書いてみる気無い?」
「ありません」(キッパリ)
「そんなハッキリ言わなくても……ホラ、あなたがやおい本書いたら、玲子ちゃんが喜ぶわよ」
「嫌です」(キッパリ)
「妻の期待に応えるのは夫の務めでしょ?」
「絶対に嫌です」(キッパリ)
「そんな茜ちゃんの真似なんかしてないで……、
もし書いてくれたら、わたしの方から色々とサービスしてあげてもいいわよ♪」
「…………嫌です」
「今、ちょっと間があったわね……もしかして、脈ありかしら?」(ぼそっ)



 芳晴はアレイと……、



「……あのさ、アレイちゃん」
「はい、何ですか?」
「フラソワーズちゃんも江美さんもいなくて、
あの濃い面々のフォローをするのは大変だろうけど、頑張ってね」
「うううっ……そんな優しい言葉が身に染みますです」
「何か困った事があったら、いつでも相談に乗るからね」
「はい。お心遣い感謝します」



 健太郎はミュージィと……、



「そういえば、健太郎さんとこうして落ち着いて話すのは初めてですね」
「言われて見れぱ、そうッスね」
「なつみは、みんなと仲良くやってますか?」
「ええ、もちろん」
「そうですか。それを聞いて安心しました。
なにせ、あの子、普通の子とはちょっとズレたところがあるでしょ?」
「大丈夫ですよ。他のメンツはもっとズレてますから。
なつみちゃんは、どちらかと言うと常識派ですよ……ココロの方はともかく」
「ココロって……なつみのもう一つの人格の事? あの子、まだ出てくるの?」
「ええ、たまに……時々、なつみちゃんが意図的に出してるような感じもしますけど……」
「そう……まあ、あの子も照れ屋さんで素直じゃないから……許してあげてね」
「ええ、わかってます……それに、そんなところが可愛いんじゃないですか」
「あらあら、ご馳走様」(クスッ)
「はははは」



 浩平は雪見と……、



「…………」(ドキドキ)
「……?」
「…………」(ドキドキ)
「……??」
「…………」(ドキドキ)
「……あのさ、深山先輩?」
「な、何?」
「何だかさ……さっきから動作が固いぞ」
「そ、そんなこと無いわよ」
「……???」



 優雅に流れる音楽の中、
皆はおだやかに言葉を交わしながら、ダンスを楽しむ。

 しかし、一人だけ、そんな彼らをただ眺めているだけの男がいた。

 ――誠である。

「まーくんは誰とも踊らないんですか?」
「ん? ああ……この曲の間はな」
「……何で?」
「だってさ、浩之達は先生達と踊ってるのに、俺だけお前達と踊るってのは、
ちょっち恰好がつかないだろ?」
「だったら、エリアさんやフランちゃんと……」
「まあ、それはそうなんだけど……」
 と、誠は側にいるエリアとフランソワーズの方に目を向けた。

 フランソワーズは、先程、カクテルバーで間違ってお酒を飲んで眠ってしまったちびみずかを、
膝枕をして介抱している為、身動きが取れない。

 エリアは、カクテルバーでの騒ぎで転んで、その時に捻挫してしまったらしく、
右の足首に巻かれたテーピングが痛々しい。

 二人とも、とても踊れる状態ではないのである。

「はぁ~……私って、やっぱり不幸という言葉から逃れられないんですね」
「エリア様……そんなことはありませんよ」
 と、深々とタメ息をつくエリアを、フランソワーズが慰める。
 そんな二人の様子を見つつ、何とかならないものかと考える誠。
「なあ、フランソワーズ……みずかちゃんをさくら達に任せて……」
「エリア様を差し置いて、ワタシが誠様と踊るわけにはいきません」
「う~む……」
 フランソワーズにキッパリと言われ、再び誠は考え込む。

 どうやら、エリアが踊れない以上、フランソワーズは自分も踊るつもりは無いようだ。
 誠の隣りではなく、誠の一歩後ろ……それが自分の立ち位置だと言わんばかりに、
フランソワーズは自分のスタンス変えるつもりは、今のところ無いようだ。

「さて……どうするかな?」
 自分の不幸を嘆くエリアを見ながら、誠は頭を捻る。
 そして、エリアの足首に巻かれたテーピングに視線を向けて……、
「……そうだっ」
 と、ポンッと手を叩いた。
 どうやら、何か良い方法を思い付いたらしい。
「ようするに、足を使わせなきゃいいわけだ」
「はい?」
 何やら独り言を呟きながら歩み寄ってきた誠に、エリアは小首を傾げる。
「どういうことです、誠さん?」
「こういうこと♪」
「きゃあっ!」
 誠は悪戯っぽい笑みを浮かべ、キョトンとしているエリアを、
両腕でひょいど抱き上げてしまった。
「ほら、これなら大丈夫」
 そして、そのままダンスホールの中央にスタスタと歩いていく。
「え? ちょっと、誠さん……そんな……」(ポッ☆)
 誠の突然の行動と、人前でお姫様だっこをされてしまったことで、
エリアの顔は恥ずかしさで真っ赤になる。
 それとは対照的に、誠は平然とした顔で、ダンスホールの中央に立った。
 そして……、
「いくぞ…………そ~れっ!」
 エリアを抱き上げたまま、その場でクルクルと回り出した。
「きゃああああーーーーっ!」
 軽い悲鳴を上げ、振り落とされないように誠の首にしっかりと抱きつくエリア。
 しかし、回転に慣れてしまえばどうということはない。
 それは逆に、嬉しくて、楽しくなってくる。
「あは、あはは……あはははははは♪」
 次第に、エリアの顔から笑みがこぼれ始めた。
 そんなエリアを見て、誠も満足気に微笑む。
「おーおー! やるじゃねーか、誠っ!」
「よかったわねぇ、エリアちゃん」
 踊りながら側にやって来た浩之とひかりが、誠とエリアをはやし立てる。
 いや、浩之達だけじゃない。
 舞踏会会場にいる全ての者が、誠とエリアを……、

 あたたかく……、
 優しく……、
 そして、ちょっと羨ましそうに……、

 ……そんな眼差しで、見つめている。

「はははははっ♪」
「あはははははっ♪」

 皆の注目を浴びる中、誠とエリアは楽しそうに舞い続ける。
 その姿は、どんなに上手く、華麗なダンスよりも……美しく見えた。










 だが……あまり速く回りすぎるのは良くない。










「おわっ!!」
「きゃあっ!!」

 回転の勢いに体がついていかなくなり、誠はバランスを崩して倒れてしまった。
 しかし、抱いていたエリアを落としたりしなかったのはさすがだ。
「おいおい……大丈夫かよ?」
「誠君、頭とか打ってない?」
 仰向けに倒れた誠。
 そのお腹の上に尻餅をついたエリア。
 そんな、、まるで二人の未来を暗示しているかのような恰好の二人の側に、
浩之とひかりはダンスを中断して駆け寄る。
「おい、誠? どうしたんだ? 急に倒れたりして?」
 と、しゃがみこんで誠の顔を覗き込む浩之。

 その浩之に、誠が一言……、





「……目が回っちまったい」
「アホかっ!!!」





 と、浩之がツッコミを入れると同時に……、





『あははははははははははっ!!!』





 ……会場は、笑いの渦に包まれたのであった。















 ――そして、今日も夜はふけていく。

 皆の笑い声が奏でる、『幸せ』という名の音楽を夜空に響かせながら……、





<おわり>
_______________________________

<あとがき>

 ……無意味に長すぎ。(大汗)

 さて、この舞踏会編は、なんとERRさんにも協力して頂きました。
 いわゆる合作というやつですね。

 この場を借りて、ERRさんにお礼を述べさせていただきます。

 ERRさん、ご協力、ありがとうございました。\(^〇^)/

 でわでわー。



 ☆ コメント ☆ 秋子 :「あ~、楽しかったぁ~」(^^) ひかり:「ホントね。年甲斐もなくはしゃいじゃったわ」(^^) 秋子 :「うんうん」(^^) ひかり:「あんまり楽しいんで……思わず、浩之ちゃんを押し倒しそうになっちゃった」(*^^*) 秋子 :「……こらこら」(--; ひかり:「なんてね。うそよ。う・そ。      そんなこと、あるわけないでしょ」(^^) 秋子 :「本当にウソでしょうねぇ」(--; ひかり:「…………当然でしょ」(^^) 秋子 :「今の間はなに?」(--; ひかり:「さあ? なんのことかしら?」(^^) 秋子 :「…………くれぐれも、息子に手を出すようなことはしないでよ」(--; ひかり:「もちろんよ」(^^) 秋子 :「それは、理事長だけの特権なんだから」(--) ひかり:「……こらこら」(--;



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