連載小説 私立了承学園
第参百八拾参話 五日目 放課後(3)(To Heartサイド)舞踏会編 中編
『3.立食テーブルの方へ行く』のパートですぅ。
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ここは、やはり食事でもしながら皆とお喋りでもして、
親睦を深めるべきだろう、と、浩之は料理が並ぶテーブルの方へと足を向けた。
どうやら立食形式らしく、
テーブルには和・洋・中と各種様々な料理が並べられている。、
秋子やひかりといった教師陣の料理の鉄人達の手によるものなのだろう。
それらの料理から漂ってくる香りが、晩御飯を食べたばかりだとは言え、
浩之の食欲を刺激する。
どのテーブルに行こうかと迷う浩之の目に、
一箇所だけ、異様な雰囲気を醸し出すテーブルが飛び込んできた。
「な、何だ……あれは」
そのあまりに非常識な光景に、浩之は顔を引きつらせる。
それも無理はないだろう。
なにせ、そのテーブルには、浩之の身長の倍程もある
たい焼きの山が積まれていたのだから。
「うっぐ、うっぐ、うっぐぐぅ♪ 秋子さん特製たい焼き、美味しすぎるよ~♪」
「あゆさん、良かったですねぇ♪」
そのたい焼き山の側で、妙な歌を口ずさみつつ、幸せそうにたい焼きを頬張るあゆ。
そして、そのあゆの為に、これまた楽しそうに湯呑にお茶を潅ぐマルチ。
ここは舞踏会の会場である。
当然、マルチもあゆもドレス姿である。
その二人が、たい焼き食べて、湯呑にお茶を潅いで……、
シュールである。
あまりにもシュールな光景である。
――いや、マルチとあゆだけではない。
「にゃにゃ。こんなにいっぱいのたい焼きさん、千紗、見たことないですよ♪」
「ふみゅみゅ~ん♪」
「…………」『おいしいの♪』
たい焼きを口に咥える姿が妙に似合う千紗と澪とあかね。
「あっ! これアンコじゃなくて練乳が入ってる」
「それ以外にも、やきいもにチョコレートにツナマヨネーズ……色々あるわね」
そして、比較的常識人の初音とマナまでもが、
何故かこのたい焼きパーティーに参加していた。
「……勘弁してくれよ」
そんな光景に、浩之はうずくまって頭を抱える。
と、そこへ……、
「あ~! 浩之さ~~~ん!」
浩之が居ることに気付いたマルチが、元気良くブンブンと手を振った。
「お、おう……」
それに軽く手を上げて応えつつ、浩之はマルチ達のもとへ向かう。
正直、関わりたくはなかったが、マルチに見つかってしまった以上、
無視するわけにはいかない。
「浩之さん、浩之さん! このたい焼き、とっても美味しいんですよ!」
と、やって来た浩之に、早速、たい焼きを奨めるマルチ。
そして、あゆもまた……、
「ほらほら、浩之さんも食べてみてよ♪」
マルチに協力するかのように、浩之の背中を押す。
「あー、はいはい。わかったわかった」
マルチとあゆに背中を押され、浩之はたい焼きの山の前に立たされた。
「…………」
無言でそれを見上げる浩之。
近くで見ると、その量はまさに胸焼けものであった。
甘い物が大好きな女性、もしくはあの大食いカルテットならまだしも、
常人の浩之がこんな物を目の前にしてしまっては、食欲が無くなること請け合いだ。
しかし、マルチとあゆが、期待の眼差しで自分が食べるのを今か今かと待っている。
こうなっては、食べないわけにはいかない。
「ったく、しょうがねーなー。じゃあ、一個だけだぜ」
覚悟を決めた浩之は、そう言うと山の中から適当に一つ手に取る。
そして、おもむろに頭から咥えた。
――ぱくっ
「…………」
ふ~~~~~~~……
――バタッ!
「はわわ! 浩之さ~~~~っ!!」
「うぐぅっ! どうしたの?!」
たい焼きを咥えたまま倒れた浩之に、あゆとマルチが慌てて駆け寄る。
「浩之さんっ! 浩之さんっ!」
「しっかりしてぇーーーーっ!!」
マルチが浩之を抱き起こし、体を揺するが、浩之は目を覚まさない。
「と、取り敢えず風の当たる場所に連れていこっ!」
「は、はいぃーっ!」
気絶したままの浩之を、マルチとあゆが二人掛かりで会場の隅へと運ぶ。
で、結局、それから30分程の間、
マルチに膝枕をされながら、浩之はうなされ続けたのであった。
浩之が倒れた理由――
それは誰にも分からない。
ただ、彼が食べたたい焼きからは、ドロリとしたオレンジ色の液体が……、
――おまけ
「お願い、健太郎っ! は~~~な~~~し~~~て~~~~~っ!!」
「だああああーーーっ! 大人しくしろぉぉぉぉーーーーっ!!」
「あたしもっ! あたしもっ! あそこでたい焼き食べたいのぉぉぉぉーーーっ!!」
「うそこけっ!! お前の魂胆は見え見えだぁぁぁぁーーーーーっ!!」
「うわぁぁぁぁんっ!! お願い、後生だから行かせてぇぇぇぇーーーーっ!!
あゆちゃんも澪ちゃんも初音ちゃんもマナちゃんも千紗ちゃんもあかねちゃんも、
かわいいのに、かわいいのに、かわいいのにぃぃぃぃぃーーーーーっ!!」
ちゃんちゃん♪
<後編へ続く>
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<あとがき>
これで、浩之も『アレ』の威力を身をもって知ったことでしょう。
で、オチはまあ、お約束という事で……、
というわけで、後編に続く。
でわでわー。
☆ コメント ☆ 梓 :「あ~あ。浩之ってば、ご愁傷様」(^ ^; 楓 :「あのたい焼きは人類の敵ですね」(;^_^A 初音 :「うんうん」(^ ^; 千鶴 :「そう? 美味しいわよ」(^^) 梓 :「え?」(--; 楓 :「はい?」(--; 初音 :「ほえ?」(--; 千鶴 :「独特の風味がたまらないわ」(^^) 梓 :「……………………」(--; 楓 :「……………………」(--; 初音 :「……………………」(--; 千鶴 :「今度、秋子さんに教えてもらおうっと♪」(^^) 梓 :「あうっ。こうして、どんどん千鶴姉がパワーアップしていくんだな」(;;) 楓 :「…………しくしく」(;;) 初音 :「ううっ。お兄ちゃ~ん、助けてぇ~」(;;) ・ ・ ・ ・ ・ 耕一 :「すまん、みんな。こればかりは助けてあげられないんだ。許してくれ!!」(T人T) 柳川 :「けっこう薄情だな、お前」(--;