連載小説 私立了承学園
第参百八拾参話 五日目 放課後(3)(To Heartサイド)舞踏会編 中編

 『1.オーケストラ隊のところへ行く』のパートです。

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 浩之はオーケストラ隊のほうへ向かっていた。

 始めは食事でもしながら皆とのんびり語らうのもいいかと思ったが、
夕食は済ましていたため、大して腹は減っておらず、考え直したのだ。

 幸い、オーケストラ隊の近くにも割と多くの人が集まっており、
皆と交流を深めるという目的はこちらでも達成できそうだった。





 オーケストラ隊のまわりでは、皆思い思いに語り合っていた。
 もしこの舞踏会が浩之達の考えたとおりの理由で開催されているのならば、
概ね成功していると言えるだろう。

「オッス、祐介」
「やぁ、浩之」
 なんとなくオーケストラ隊を眺めていた浩之は、視界に食べ物を運んでいる
祐介をとらえ、声をかけた。
「浩之も一緒にどうだい? あっちで佐藤や長森さん達とおしゃべりしてるんだけど」
 祐介が視線を送った方向を見ると、雅史と圭子、瑞佳と詩子が楽しげに語らっていた。
「そうだな、そうさせてもらうか」
「ああ」



「よっ、邪魔するぜ」
「あ、浩之」
「こんばんは、浩之さん」
「こんばんは♪」
「藤田君、こんばんは」
 当然のことながら、皆は浩之を笑顔で迎えてくれた。




「浩平ったらね、舞踏会のお誘いが来た時、真っ先に喪服着て「いくぞ」って真顔で言うんだよー。
ホントにビックリしたよ」
 その場面を思いだして、ため息をつく瑞佳。

 祐介が持ってきた食べ物をつまみに、新たに浩之を仲間に加えた一同は、なんでもない
おしゃべりに花を咲かせていた。

「わざわざ隣にタキシード用意したのに喪服を着る辺りが浩平君らしいよね」
 瑞佳と同じようにその場面を思いだして笑う詩子。
 彼女らのリアクションの違いにそのまま「個性」が出ている。
「ふふふ、浩平さんって面白い方なんですね」
 圭子は瑞佳と詩子の話を聞いて楽しそうに笑う。
「折原って変なやつだったんだ」
「あれ、祐介知らなかったのか?」
「うーん、何度か授業で一緒になったけど、そんなに変なやつだとは思わなかったなぁ」
 祐介は今まで見てきた浩平の行動を思い出してみるが、別段奇抜な行動は無かったように思う。
 穏やか物腰のいいやつ、くらいのイメージだった。
 しかし、変なやつだというのなら、そういう奇抜な行動の一つも見てみたい気がした。
「まぁ、おかげで退屈はしないけど…もう少し時と場合っていうのを考えて欲しいよ。
いつでもどこでもあんな調子だもん」
「朝遅刻ギリギリでもその調子だもんね」
 またまたため息をつく瑞佳。笑顔の詩子。
「はは、大変だな」
「浩之だって朝に関しては人のこと言えないでしょ?」
 苦笑する浩之に、いつもの笑顔で鋭いツッコミをいれる雅史。
「うっ、朝に弱いのは認めるが、オレは妙な行動はしないぞ」
「ま、そういうことにしておこっか」
「お、おい雅史〜」
「あはは」
 結局浩之は雅史にからかわれっぱなしだった。





「しかし…音楽はいいのに楽団がラルヴァとガディムってのは…」
「不気味だよね」
 ラルヴァたちの奏でる『Brand New Heart』を聞きながら、浩之と祐介は
渋い顔をしながらオーケストラ隊を見つめる。
「だーいじょぶよ♪ そんなもん見なけりゃ全然気にならないから」
 そう言って目を閉じる詩子。
「ほーら、全然気にならないよ♪」
 そして、妙に嬉しそうに笑う。
「まーそりゃそうなんだけどな」
 苦笑しながら、浩之も早々にガディム達の方から視線を皆のところへ戻す。

「そういえば、長森さんってオーケストラ部って聞いたんだけど?」
「うん、そうだよ」
 雅史の言葉に頷く瑞佳。
「まだそんなに聴いたことはないんだけど、瑞佳さんのチェロは一級よ♪」
「へぇ、そりゃスゲーな、一度聴かして欲しいもんだぜ」
 浩之は詩子に一級と言われた瑞佳の腕前に興味を持った。
「あはは、一級かどうかは解らないけど、聴きたいんだったらぜひ聴きにきてよ。
音楽部もできたことだし、ちょくちょく顔だしてると思うから」
「おう、そのうち行かせてもらうよ」
「僕らもお邪魔してもいいかな?」
「うん、むしろ大歓迎だよ。やっぱり聴いてくれる人が多いと刺激になるからね」
 瑞佳は笑顔で頷いた。

「そういやチェロっつったら祐介もできそうだな?」
「はぁ…浩之、言いたいことは解るけど、それはもういいよ…」
「そ、そうか?」





「それにしてもよ、最初から気になってたんだが…なんでラルヴァ達はあんなに演奏上手いんだ?」
「よくぞ聞いてくれたっ!」
 浩之の口から飛び出した疑問に、ガディムは待ってましたとばかりに嬉々として体ごと
浩之達の方へ振り向いた。

 だが、演奏中にそんなことをするから、ちょっと指揮のタイミングがずれる。

 とたんに崩れる曲。
 慌ててラルヴァ達の方へ向き直り、指揮に専念するガディム。

「緊張感のねーヤツだな」
「まったくだね」
「魔王って言うくらいなんだからもっと落ちついててもいいよね」
「ちょっと大人気無いですよね」
「マヌケだよね」
「あ、あはは…皆それは言い過ぎだよ〜」
「むぅ…何気に酷いね君タチ?」
 浩之達から浴びせられる容赦の無い言葉がガディムにつきささった。





 曲と曲の合間のほんの少しの休憩時間に、ガディムは先ほど言おうとしたことを
言おうと、浩之達の方へやってきた。

「実はな、あのラルヴァどもはエキスパート集団なのだ」
「はぁ? エキスパート?」
「うむ! やつらは警備ラルヴァと違って、音楽をやらせるために生んだのだよ」
 得意げに語るガディム。
「へぇ、そんなことできるのか。んじゃ他のエキスパートもいるのか?」
 浩之は少し感心しながら、質問を続けた。
「うむ、どの分野でもおそらく1ヶ月もあればエキスパートを作れるぞ」
 やはり得意げに言うガディム。
 そこで浩之たちは違和感を覚えた。

「一ヶ月って、ラルヴァって生むのにそんなに時間かかるの?」
 一番早くにその疑問に気付いた雅史が問う。
 そしてガディムは。
「いや、生むのはすぐだ。それから1ヶ月不眠不休で学ばせるんだよ」
 しれっと、なんでもないことのように言ってのける。

「アホーっ!!」
「バカーっ!!」
「オニーっ!!」
「悪魔ーっ!!」
「魔王ーっ!!」
「お前の血は何色だぁーっ!!」
「い、いや、多分酷いことを言われてると思うのだが、途中からよく解らないぞ?」
 マシンガンのように浴びせ掛けられる悪口の数々に、ガディムは一歩退きながらも
途中から出てきた悪口かどうか解らない語句にやんわりとツッコミを入れた。
「オメーなぁ、いくらラルヴァだからってそんな無茶させてんじゃねー!!」
「いくらなんでも可愛そうだよ」
「もっと大事にしてあげないと」
「ラルヴァさん、可愛そうですよ…」
「最初っからなーんか覇気が無いなーと思ったら…」
「そんな理由だったんだねぇ…」
 詩子と瑞佳の言葉通り、ラルヴァ達はどうも覇気が不足しているように見えた。
 異形であるラルヴァ達の健康状態は、人間の目からすればどうにも解りにくいが、
それでも不調が解ってしまうということは、よほど疲労しているのだろう。

「いやしかしだな、ラルヴァというのは私がギャフン」
「うるせー」
 なにか言い訳しようとしているガディムの脳天にとりあえずチョップを入れておく。
「はぁ…一人分しか肩代わりできないけど、わたしダンス開始まで手伝ってくるね」
 大きなため息をついて、瑞佳は演奏ラルヴァ達の方へ歩いていった。
「あ、それじゃあたしも手伝ってこようかな」
 そして詩子も演奏ラルヴァの方へ向かおうとする。
「へ? 柚木も何か楽器できるのか?」
「うん、ピアノが少しね」
「へぇ、そりゃ意外だな」
「それじゃ、そういうことだから、じゃーね」
 意外だと言う感想をきっぱり無視し、爽やかに微笑んでから詩子はピアノのほうへ
向かっていった。

「ったくよー…もうエキスパートは作るなよ…いや、作るのはいいがもっとゆっくりやれ」
 浩之は心底飽きれたような声でガディムを叱った。
「いやしかし、仕上がりは早いほうが…」
 魔王の威厳はどこへやら、すっかり小さくなりながら、やんわり講義するガディム。
「却下だ却下ー!!」



 そんなことをしてる間に短い休憩時間が終わり、次の曲が始まった。

「まさかこんなに早く長森の演奏を聴くことになるなんてな」
「そうだね」
「すぐ先の未来に何があるかなんて解らないね」
「ホントですね」
 残された四人は、プロ級の演奏の中に入っても全く退けを取らない瑞佳と詩子の演奏を
心の中で称えながら、しばらくその心地よい曲に耳を傾けていた。





 そして、時間は過ぎていく…








<後編へ続く>
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<あとがき>

 ERRです。

 ラルヴァ達がなんで演奏ができるのかという点を書いてみました。

 …ひでぇ(笑)

 ではでは、引き続きメインとなるSTEVENさんの後編をどうぞ。




 ☆ コメント ☆

綾香 :「一ヶ月も不眠不休だなんて……」(ーーメ

セリオ:「ヒドイですねぇ」(−−;

綾香 :「まったくだわ!」(ーーメ

セリオ:「さすがは魔王ですね」(−−;

綾香 :「うんうん」(ーーメ

セリオ:「鬼です。悪魔です」(−−;

綾香 :「ホントよねぇ。せめて、不眠不休は2週間にすべきよ!」(ーーメ

セリオ:「そうですよねぇ。
     …………って…………え?」(−−;

綾香 :「まったく、ガディムってヒドイ奴だわ!!」凸(ーーメ

セリオ:「……………………(これって、つっこむべきなんでしょうか?)」(−−;;;




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