記事一覧

軽井沢編5 約束

軽井沢編第5弾です

書いている最中に色んな用事が重なりましてだたでさえ遅筆なのにますます鈍亀状態になっています軽井沢。
どうにか 形に纏まりました(^^;
前回よりは 多少明るく展開しているとは思いますが オリジナルキャラ登場しますので苦手な方はご注意くださいね。

相変わらず 長い割りに時間の進まないお話ではありますが どうか見捨てずにお付き合いくださいませ。
こんな駄文ではございますがご意見・感想などいただけますと やる気か出てまいります(笑)
ではどうぞ よろしくお付き合いくださいませ~

以下本文

===============
約束
===============
夜明けまでは まだ時間がある。
雷鳴こそ遠雷に変わったものの 窓に叩きつける風雨は依然激しいままで漆黒と言っていい闇の中、野明は上掛け布団を引き寄せ抱きしめる様に小さく丸まっていた。
時折 窓に打ち付ける雨風のザンッという音が室内に響く。
遊馬の居るほうに首をめぐらせてみたものの 多少闇に慣れた目で見ても遊馬のいるベッドまではそれなりに距離があるためその様子をうかがい知ることは出来なかった。
思わず小さく息を吐くと遊馬から声が掛かった。
「眠れないのか?」
起きていると思っていなかったので少し驚いたものの遊馬の声に少し安堵する。
「うん、やっぱり雨音すごいね。台風みたい」
「場所、変わるか? こっちだとそんなに気にならないぞ?」
「え? いいよ。遊馬の方が疲れてるんだから少し休んで」
「俺はそんなに疲れてないけどな。やっぱ人の使ったベッドは抵抗あるか?」
さらりと音がして遊馬がこちらを向き直った気配がする。
野明も遊馬の方に向き直ってみる。
互いに気配はわかるのに闇に沈んで姿は見えない。
「そんな事ない。けど、他の人のなら嫌かな」
「ばーか。そういうこと言ってんなよ、変な風に勘ぐられるぞ?」
呆れを含んだ遊馬の声が返ってきた。
野明は複雑な思いでクスリと笑う。
自分が本当はどうしたいのか、よくわからなくなってしまった。
すこし考えてから口を開く。
「ね 遊馬 やっぱり変わって?」
「了解」
言うと遊馬は懐中電灯の明かりをつけ 「よっ」と声を掛けて起き上がるとスタスタと歩いてきて「じゃ 交代な」というとベッドの淵に腰掛けた。
野明も すばやく立ち上がると遊馬の居たベッドに移動する。
場所を入れ替わると 先ほどと同じように横になった。
「本当だ あんまり雨音聞こえないね」
「だろ?ちょっとの距離なんだけどな、確かにここだとよく聞こえるな」
「でしょ やっぱり変わる?」
「いや、いいよ。それより 眠れそうか?」
「うん、眠れそう」
そういうと 上掛けの布団を目深に被る。
「遊馬の匂いがする・・・」
思わず小さな声で呟くと 遊馬が軽く溜息をついた。
「気になるなら トランドルベッド出したらどうだ?」
「え どうして?」
「嫌じゃないならいいけどな」
「嫌じゃないよ?」
不思議そうにいう野明に「じゃ 寝ようぜ、夜が明けちまう」というと遊馬も布団を被った。
たしかに そこには野明の香りが残っている気がした。

夜が明けると雨はすっかり上がっていて窓の傍に寝ていた遊馬は眩しさで目を覚ました。
野明は、と思い振り返ると目深に布団を被ったままこちら側を向いて小さく丸まるようにして眠っていた。
遊馬はコキコキと小気味のいい音を立てて肩と首を回すと軽く伸びをしてベッドを降りた。
着替えを掴んでリビングに移動する。
顔を洗って 髭を剃ったあとテキパキを着替えを済ませ再び寝室に戻ろうとして扉の前で手を止めた。
少し考えて 軽くノックしたあと「入るぞ」と声を掛けて扉を開ける。
野明はまだすやすやと眠っていてその寝顔は実に無防備なものだった。
安心した様子で眠る野明の顔を見て安堵する一方で 自分が彼女を思うほど野明はこちらを男として見ていないのだということに軽い落胆も覚える。
『いっそ今 手を掛けてしまおうか・・・』とちらりと過った考えに軽い罪悪感を感じて慌てて頭を振る。
『そんなことをしたら絶対に後悔する』と思いその考えを振り払うようにもう一度大きくかぶりを振った。
時間を確認すると 8時を少し回っていて軽く食事をしてからショッピングモールに入るのならばそろそろ目を覚ましたほうがいい時間に差し掛かっていた。
野明の寝ているベッドに浅く腰をかける。
「野明」名前を呼んだが返事はなく「野明 買い物、朝から行く気ならそろそろ起きろ」と再び声を掛けた。
野明は 「ん・・・」と軽く呻いて身を捩るとうっすらと目をあけて焦点の定まらない瞳をこちらに向ける。
「・・・遊馬・・・ もう朝?」
言いながら 気だるげに半身を起こし軽く目を擦る。
ワンピースの寝巻きを見慣れなくて少し目を逸らした。
「ちゃんと眠れたか?」
「うん 眠れたよ。遊馬は?」
「寝たよ、あそこ結構眩しいのな、朝 それで目が覚めた」
窓際のベッドを示すと そこには燦々と日が当たっていた。
「え、そうなの?ごめんね。今日はちゃんと変わるから」
「ばか、気にすんなよ。それはまたあとで考えようぜ? それより着替えて出かける準備しようぜ。買い物の前に飯食っていかないか?」
「外で?」
「そ。嫌か?」
「ううん、いいけどこんな時間からお店ってやってるの?」
野明は首を軽く傾げる。
「多分な、まだやってるといいけど。」
そういうと遊馬は ベッドから降りると 「じゃ着替えてでてこいよ」といってリビングに向かった。
野明もベッドを降りて着替えを用意しながら 『ひょっとして遊馬はこの辺の地理に明るいのかな?』と思う。
ここにくるときもコテージの場所だけは管理棟から貰った地図で確認したものの それ以外で地図を見ている様子が無かった。
遊馬は普段から最初にざっと地図に目を通すと大体の場所を把握できてしまうところがある。
野明にはない能力で とても頼りになるなといつも思う。
けど先刻の台詞はそうではなくて 『知っている』ことを思い出している感じだった。
そんな些細なことを気にしている自分に野明は少し驚いて苦笑した。

着替えてリビングに向かうと 遊馬はソファに座ってTVを見ていた。
野明に気づくと振り返る。
「30分くらいで用意できるか?」
「うん 出来るよ」
応えると 『うん』と一つ頷くと「じゃ よろしく」と言って楽しそうな笑顔を見せた。
その顔をみて少し嬉しくなって「まっててね」と声を掛けると洗面所の扉を開けた。
緑から貰ったパレットで 教えてもらったように軽くメイクもしてリビングに戻ると遊馬が 「できたか?」と言いながら傍に来た。
コクリとうなずくと 遊馬は野明の顔を軽く覗き込んで 「いいんじゃない?」と嬉しそうにいうと「じゃ 出かけるか!」と言って背中をぽんっと軽く叩いた。

車を走らせて暫くするとペンションが立ち並ぶ一角に入る。
いわゆる観光地からは少し離れた場所でとても閑静な佇まいを見せる地域だった。
やはり一度も地図を確認することなく一軒の瀟洒な水色のペンションにたどり着くと その前に車を止めた。
懐かしそうな顔をして辺りを見回す遊馬に『ここに来たことがあるの?』と声を掛けようとしたが、その前に「入るぞ」といって遊馬が野明の手を引いたので言葉を発するタイミングを逸してしまった。

木で出来た扉を押すと カランカランとカウベルが音を奏でる。
中にいた 年配の女性が「いらっしゃいませ」と声を掛けながら入り口を振り返ると目をまるくして「あら、まぁ!」と言いながら遊馬の傍に歩み寄ってきた。
「遊馬くん? まあ 随分 突然きたわね」
嬉しそうにいう女性に「ご無沙汰してます」と遊馬が笑顔を向けると女性は目を細めて「とにかく 入って頂戴」と窓際の席を勧めた。
野明に目線を向け「かわいいお嬢さん連れてきたわね」と言って遊馬を見遣る。
「まあね、見せびらかしに来た」と言って悪戯っぽい笑顔を見せる遊馬に野明は吃驚して顔に朱をのぼらせた。
「ちょっとまっててね」と言ってご婦人が傍を離れると野明は遊馬の袖を引き小声で話しかけた。
「ね、遊馬 どうなってるの?」
明らかに困惑した顔で問う野明に遊馬は楽しそうに応える。
「どうって? 朝飯食いにきたんだよ。日中は朝から喫茶店として営業してるんだ」
「それは判るんだけど。遊馬 あのご婦人と顔見知りなの?」
「みてて判らんか? 旧知だな。ここ数年来てなかったけど」
「遊馬ん家って 前橋だよね?」
不思議そうに首を傾げる野明を楽しそうに眺める。
「こっちには祖父さんが別荘持ってたんだ。俺は基本、祖父さんとこで育ってるからさ、毎年夏休みはまるまるこっちに来てた」
成る程、と納得すると同時に少し感心する。
「別荘・・・。そっか 遊馬ってお坊ちゃんだったんだよねぇ・・・」
そんなことをすっかり忘れていた野明は眉間に皺を寄せて呟く。
そんな野明を横目に見て遊馬は思わず口元を緩める。
自分を 『篠原の御曹司』として全く意識しないで傍にる野明は本当に得難い存在だと思った。
「そんなんじゃ無いさ。祖父の持ち物だったし、今は親父の管理になってるんで俺は使わないけどな。使う気にもならん」
そう言うと野明の首に腕をかけて軽く引き寄せた。
野明は吃驚した様子を見せたものの大人しくされるがままになっていた。
「で さっきのご婦人は?」
こめかみに軽く頬を寄せる遊馬の顔をくすぐったそうにしながら「どうしたの?人が見てるってば」と抗議しつつ問いかける。
「祖父さんの知り合い。こっちに居るときはよく世話になったんだ。だから 野明を見せびらかしにきた」
「・・・あのねぇ・・・見せびらかすって・・・」
真っ赤になって目線を泳がせている野明にお構いなしで遊馬は頬を寄せて耳元で囁く。
「『彼女にしてやる』っていって連れてきたんだぜ? こっちにに来てから色よい返事を貰ってないけどな」
急に強気に出てきた遊馬にどう対処していいのか分からずドギマギしていると 席を外していたご婦人がお皿とコーヒーを手に戻ってきた。
2人の様子をみて「あらまぁ 仲のいいこと」と言って微笑むとカップを机において「さ、適当に取ってきて」と言って皿を差し出した。
皿を2枚受け取ると遊馬は野明を伴ってバイキング形式になっている朝食のコーナーへ向かった。
野明を解放して食事を皿に盛ると、2人で席に戻る。
遊馬の隣に座ってちらりと顔を見上げると目が合った。
遊馬は小さく笑って野明の髪をくしゃっと撫でるとコーヒーに手を伸ばした。
その様子をご婦人は微笑ましげに見ていて 野明と目が合うと優しい笑顔を向ける。
野明は まだ挨拶もしていなかったことに思い当たって慌てて「あの はじめまして」と頭を下げた。
「あ わりぃ 紹介してなかったんだ」
遊馬が思い出したように言うと、ご婦人は「そうだったわね ご紹介して?」と促す。
「野明、こちらは祖父の友人で昔から夏になるとお世話になってた滝口さん。おれは 伯母さんって呼んでるけど親戚ではないんだ。で こっちが」
言いながら野明の頭にポンと手をおく。
「俺のパートナーの泉野明」
「まぁ パートナーなの?」と楽しげに笑う滝口さんに野明は心中複雑だった。
『パートナー』と言う言葉を 滝口さんがどう受け取ったのか分からないけれどこの場合 仕事上のコンビとしてのパートナーを指している気がした。聞く人によって如何様にも受け取ることが出来るこの単語の便利さに少し歯がゆさを覚えてちらりと遊馬の方窺った。
楽しげに話す遊馬は普段見たことのない顔をしていた。
自分と話すときもリラックスしていると思うけれど 今はまるで親に色んなことを訊いて欲しくて目をキラキラさせる子供みたいだと思った。
お父さんと話すときはもっと緊張感があるし、打ち解けていそうにみえていた実山さんと話すときとも違う。
『こんな顔するんだな』と思わずしげしげと見つめてしまう。
その視線に気づいた遊馬が きょとんとした顔で振り返る。
「どうした?」
「新鮮だなぁって。遊馬ってこんな顔もするんだねぇ」
感心したように言うと遊馬は 「あっ!」と言って少し赤くした顔を左手で軽く覆うとばつが悪そうに「悪かったな」といってそっぽを向いてしまった。
「悪くないよ、ごめんってば。ね 話しててよ」
機嫌を損ねたと思って慌てて遊馬の袖を引く野明を優しく見て滝口さんが呟いた。
「遊馬くんに彼女ねぇ これは都が泣いちゃうわね」
「都さん?」
「姪っ子よ。遊馬くんが大好きでね、でも一度だっていい返事もらえたことがなくて」
「へぇ・・・やっぱり遊馬ってもててたんだ」野明が顔を覗き込むと遊馬は渋面をつくる。
「恋愛対象として見れないものは仕様が無いだろ? 友達だとは思うけどさ」
「昔からそうよね。ままごとに誘っても逃げられちゃうの」と滝口さんが朗らかに笑う。
不意に昨日の会話が思い出されて野明と遊馬は一瞬固まった。
滝口さんはそれを敏感に察して、『何か悪いこと言ったかしら?』という風に首をかしげた。
野明は 『おにいさん』発言を後悔していて今 訂正できるものならしてしまおうかとも思ったがどう切り出していいか分からない。悩んでいると 遊馬が不意に野明の耳元に囁いた。
「なぁ野明 俺の配役って昨日のままか?」
心中の窺いにくい穏やかな顔で問う遊馬に 見透かされたような気がして野明は少しドキリとした。
けれど 訂正するタイミングが欲しかった野明はやっぱり遊馬には敵わないな、と思いながら「あとで 相談しよ♪」といって、にこりと笑った。

「ところで何 滝口来てるの?」
「今 ここで働いてるのよ。もうすぐ降りてくると思うけど」
そういい終わるか終わらないかのうちに二階から軽い足音と共に髪の長い女性が降りてきた。
「伯母さん 二階掃除終わったよ」と言いながら店内を見渡して 野明たちと一緒に席に着く滝口さんを見つけるとスタスタと寄ってきた。
「なあに 伯母さんのお客さん?」と言って遊馬の顔を見るなり顔をポッと朱くする。
「篠原君!?」
「やぁ 久しぶり」軽く笑顔ものせて会釈すると都は「本当久しぶりだねぇ!」と言いながら遊馬の背中に抱きついた。
野明は吃驚して少し身を引く。
肩に顎を乗せるようにして 「何時来たの?」とか「別荘に泊まってるの?」とか話しかける。自分がいつも遊馬にしていることを人がしている、その光景をみて複雑な気分になった。
遊馬がやんわりと 都を離そうとしているのに彼女は簡単に離れようとはしなくて遂に遊馬が「滝口 離れて」といいながら腕を引きがした。
 「なによ、久しぶりに会ったのに、ケチっ!」と言って都が背中から離れると野明はなんだかホッとして小さな溜息をついた。
「私も コーヒーとって来る」と言って都がその場を離れると 遊馬の手が伸びてきて野明の頭を掴み自分の胸元にグッと引き寄せた。
「変な顔してたぞ、妬いたか?」
「・・・・ちょっと複雑。」
その答えに一瞬目を丸くした遊馬は「心配すんな」と言って小さく笑った。

その様子を少し離れたところで見ていた都は驚いて固まってしまった。
自分には決してしてくれなかった仕草で 隣の女性を抱き寄せる遊馬を見て激しい嫉妬感を覚える。
見ているのが辛いなぁと思う一方で 傍にいて話をしたいとも思う。
ここで去るのもあからさまな気がして出来よう筈も無く、意を決して伯母さんの隣の席に戻った。
正面に座る野明を 思わずしげしげと眺めていると 気づいた野明が目線を上げた。
「はじめまして」と言って会釈をする野明の言葉を引き継ぐように遊馬が声を掛ける。
「野明、こちら滝口都さん。伯母さんの姪だな、で 滝口 こっちが泉野明、俺のパートナーだ」
いいながら 頭にポンと手をのせる仕草はとても自然で普段からそうしているだろうことが窺えた。
「彼女・・・?」
思わず訊いてしまうと遊馬は野明の顔を見てから「俺はそう思ってるけど?」と応えた。
野明は何もいわずにただ遊馬の方を見て頬に朱をのぼらせている。
「そうなんだ」
いいながら 改めて野明を観察してみる。
短い赤みの強い髪、小柄で快活そうなどこか幼さの残る雰囲気の女の子だった。
遊馬の好みだといっていた ストレートの黒髪を持つ、色白の知的美人とは随分違うなと思った。
それに少しでも近づこうと頑張っていた自分が少し虚しくなって伸ばしていた髪を無意識に弄ぶ。
微妙な沈黙を嫌った野明が殊更 普通に声を掛けた。
「遊馬、コーヒー淹れて来ようか?」
「ん? ああ、たのむわ」
そう言って少し残っていたコーヒーを飲み干すと野明にカップを手渡した。
「滝口さんは?」と伯母さんにも声をかけると「じゃぁ 戴こうかしら」といってカップを差し出した。
野明は 自分のを合わせて3つのカップを小さいトレイに載せると「行ってくるね」と席を立った。

野明が離れると都は徐に遊馬に声を掛ける。
「好み、変わった?」
「なんで?」
「ロングの黒髪、色白で知的美人がいいんじゃなかった?」
「それはそれで好みだけどね、でも あいつは違うの。」
「好みじゃないってこと?」
「まさか。野明は特別なんだ、虐めるなよ?」
目を眇めていうその顔は本気で『虐めたら承知しないぞ』という雰囲気を漂わせていて都は面白くなかった。
「折角 篠原君好みの女になろうって頑張ってるのに。」
「それは申し訳ないけどさ。前にも言っただろうけどそういう風に見れないんだよね」
「彼女はいいの?」と 野明に目線を送る。
「いいも何も ほかの男と口利くだけも面白くないね」
さらりという遊馬に「大した執着心じゃない」といって溜息をついた。
「そ あいつにはそれが上手く伝わってないけどな」
「こんだけ はっきり宣言しといて?」
呆れたように言う都に 多少バツが悪そうに遊馬は目を逸らす。
「本人にちゃんと言ってないんだよ、俺が」
「・・・なんで?」
あれだけ人前でいちゃつきながらどうして、と心底不思議そうに言う都に遊馬は不貞腐れたような顔を見せた。
「言って拒絶されたら立ち直れないの、俺が。あいつ失うのは嫌なんだよ」
「って・・・あんだけベタベタしてて 断られることもないでしょうに?」
「あいつ人がいいから人前で拒絶ってあまりしないからな。本当はあれで 弾かれないか気が気じゃないんだよ、こっちは」
「彼女に相当入れ込んでるのね」
「ほっとけ。だから あいつに余計なちょっかい掛けるなよ、本気で怒るからな」
強い口調でそういわれて 都は肩を竦めて溜息をついた。
「わかったわよ、で 私は失恋確定な訳だ?」
上目遣いで拗ねた顔をして見せる都に「悪いな」とさらっと言うと遊馬はトレイを持ってゆっくり歩いている野明に視線を移す。
「あいつでないと 駄目なんだ」
都も野明の方に視線を巡らせる。
「あすま」と試しに名前を呼んでみると 目線を一瞬だけ都に移した遊馬はすぐに野明に視線を戻した。
「その呼び方は野明の特権だからな。今まで通り苗字で呼んでくれ」
「・・・そっか。私のことも名前で呼んでくれないの?」
「呼ばない。それも野明の特権、本人は気づいてないのがイタイけどな」
「そっか。冷たいなぁ」
「知らなかったのか?」
「今までは皆に同じだったから気にしないで済んでたの。『特別』扱いされてる人を見ちゃうと他人には冷たいなって実感した」
都が溜息をつくと 遊馬は「さてと・・・」といって立ち上がる。
「どうしたの?」
「野明。ったくあの馬鹿、席外したつもりなんだよ。お前と話すことがあると思ったんだろ。気使いすぎなんだよな」
そういうと野明の元に歩いていく。
二言三言言葉を交わして 額を軽く小突いたりしている様子を見て都は大きく肩を落とした。
「勝ち目がないわね、都?」とそれまで 黙って会話に耳を傾けていた伯母が苦笑交じりに声を掛ける。
「悔しいけど 篠原君が夢中なんじゃどうしようもないわね」
頬杖をついて肩を竦め伯母に向き直る。
「あれだけ 堂々と惚気られてキッパリ断られると涙も出てこないわ」
「ご愁傷様」
「遊馬くん 律儀よね」というと伯母は可笑しそうに笑う。
きょとんとした目で「何が?」と問う。
「遊馬くんね 御祖父さんのご葬儀のときに『もう貴方が軽井沢にくること無くなっちゃうかもしれないわね』、っていったの。そうしたら 『来ますよ、いつか彼女でもできたら連れてきます、伯母さんは俺の母親代わりみたいなもんだからね』ってそういったのよ」
「・・・・そう」
都は連れだって席に戻る野明と遊馬を見ながら残っていたコーヒーを一息で飲み干した。

「野明」
遊馬が歩いてくるのを見て野明が笑顔を向ける。
「遊馬。ごめん コーヒーすぐ持っていくね」
野明の手にあるトレイに空のままのカップが乗っていることを確認し、遊馬は苦笑しながら背を押す。
「コーヒー注ぐのに何分掛けるんだ? 気の回しすぎだ、馬鹿」
いいながら 野明の手からトレイを取り上げると 3つのカップにコーヒーを注ぐ。
2つには普通に。一つには少なく。
少ない一つに砂糖と牛乳を注いでカフェオレにすると「いこうぜ」と声を掛けて席に向かう。
野明はその後をゆっくりついていった。
「ね、遊馬」背中に声を掛けると 遊馬は立ち止まって顔だけ振り返った。
「どうしてここで朝ご飯食べようって おもったの?」
「約束したんだ、伯母さんと」
「約束?」
「後で話してやるよ、とにかく座ろうぜ」
そう言って野明の傍まで戻ってくると手を引いた。

席に着くと 遊馬はコーヒーカップを自分と伯母の前に置き、カフェオレを野明に手渡した。
何もいわなくても 自分の好みを把握してさりげなく気遣ってくれることに少し嬉しくなる。
「ありがとう」というと得意そうな顔で「どういたしまして」と笑顔を見せた。
その様子を向かいの席から眺めていた都が野明に話しかけた。
「えっと 泉さん?」
突然名前を呼ばれて慌てて視線を向ける。同席している人がいるのに失礼だったかなと思う。
「はい、すみません。 滝口さん、でいいのかな。」
隣にいる伯母と同じ呼び方になるので野明が少し悩んでいると都の方から助けを出す。
「『都』でいいよ。伯母と同じじゃ呼び辛いでしょ?」
「有難うございます。あの、私も『野明』でいいですよ」
「そう? じゃ野明さん、怒らないでね。単刀直入に聞くわ、篠原君のこと好きなの?」
「え?」突然の質問に吃驚して目を瞠る。
都の瞳をじっとみて真剣に訊いてるんだと確信して、誤魔化しや半端な回答は彼女に失礼だなと判断した野明は一度目を閉じ、大きく深呼吸すると しっかりと都の瞳を見据えて答えた。
「遊馬はとても大切な人です。都さんの仰る『好き』というのが恋愛対象ですか?という質問ならそれだけに答えるのは難しいんです。遊馬とは仕事の上でもコンビを組んでいますしそういう面でもかけがえの無いパートナーだと思っています。でも もし遊馬にプライベートで他に親しい女性が出来てしまったらきっと凄く辛いだろうなと思う。遊馬は私にとって凄く『特別な人』なんですよ。上手くいえなくて ごめんなさい。これでは答えになりませんか?」
ゆっくりと 言葉を選ぶように目を逸らさず真摯に答える野明を見て都は大仰に肩を竦めて見せた。
「・・・いいえ十分です。降参」
といって肩の高さで両手をパッと広げると遊馬に視線を向ける。
「だそうですよ、篠原君?」
「ったく 余計なことするなって。そういうのは自分で・・・・」
といいながら 手で顔を覆うようにして呻くその顔が少し朱い気がして野明はくすりと笑う。
遊馬にもちゃんと伝わったかな、と思いその顔をそっと窺った。

「ごちそうさまって感じよね」
言い捨てると都は遊馬に別の話題を振る。
「ね 日帰りするわけじゃないんでしょ どこに泊まるの、あの別荘?」
話題が変わったことに安堵して遊馬はそれに乗った。
「いや、コテージ借りてる」
「え そうなの?勿体無い。自分ちの使えばいいのに」
「実家に連絡取るの 嫌なんだよ」
「相変わらずよね、今シーズンオフで部屋空いてるしここに来たらいいじゃない?ね、伯母さん?」
と伯母さんに話題を振ると彼女は困ったように笑った。
「それは遊馬くんが嫌よね?」
「え? 嫌って言うか・・・」
答えに詰まる遊馬に伯母さんが助け舟をだす。
「折角彼女と旅行にきて 保護者と小うるさい小姑みたいな女のいるところに泊まりたくないわよ、ねぇ?」
苦笑する遊馬に都は交渉の矛先を野明に移す。
「そうなの? じゃ 野明さんは?」
「え? わ、私ですか?」
急に振られて動揺する野明に遊馬が慌てた。こういうとき 押し切られやすい野明の性格をよく知っている。
「ね 野明さんも折角なら賑やかな方が楽しいよね?」
「えっと、あの・・・」いいながら遊馬に助けを求める野明を見て遊馬は強引に会話に割って入った。
「駄目。もう荷物も置いてあるし今更移動なんてする気はないの」
というと、野明に「言いくるめられるんじゃない!」と釘を刺した。
野明はホッとした顔をして「ごめん」と返事を返し、都に「すみません」と頭を下げた。

遊馬は時計を確認すると「そろそろ 行こうぜ」と野明に声を掛ける。
「どこか行くの?」
都が問うと「買い物、デートだから邪魔すんなよ」と釘を刺す。
伯母さんが可笑しそうにクスクス笑い、野明は2人の間で反応に困って複雑な表情をしていた。
「伯母さん 会計お願い」と遊馬が振り返る。
「今日はいいわよ」
「いや でも・・・」
「約束どおり報告に来てくれたんでしょ? だからお祝いね、安いものだけど?」
「やっぱり 覚えてました?」といって遊馬が嬉しそうに笑う。
伯母さんは静かに頷いて「また 来て頂戴ね。用事なんてなくていいんだから」といい、ヒラヒラと手を振った。
遊馬は 照れくさそうな顔をして「必ず」というと野明の手をとる。
野明も「ご馳走様でした」と挨拶をして遊馬に連れられて店を後にした。
店内に残った 伯母と都は暫く閉まった扉を眺めていたがやがて気を取り直したように「さて お仕事しましょうか」といって伯母が先に立ち上がった。
俯いている姪の肩をぽんと叩いて「少し休んでから降りてらっしゃい」と声を掛けて厨房に向かう。
都は「そうする」と声を掛けて二階への階段を上り、自室にあてがわれた部屋のベッドに倒れこむと「私の方が長く見て来たんだけどなぁ」と呟いて枕を抱え込んだ。
さっきまでは まるで流れなかった涙が後から後から流れてなかなか止らなかった。

to be continue.....

===============
追記

二人きりにしておく展開に困って 可愛そうな女の子登場です(^^;
でも 遊馬って基本的に冷めたヤツだと思うので自分が気を持てない相手にはこんなもんなんだろうな、と勝手に妄想(笑)
で やっぱり 2時間くらいしか経たないノロノロ展開です(^^;
さっさと買い物行きなさいよって感じですよね(←いや 悪いの私ですが・・・)

長い駄文に最後までお付き合いくださいまして有難うございます
もし よろしければご意見、ご感想などいただけますとやる気が出て参ります(^^)
それでは まだまだ完結には程遠いお話ではございますが どうぞ見捨てないで見守ってやってくださいませ。

コメント一覧

ツッジー 2009年06月26日(金)09時27分 編集・削除

おはよー(≧∀≦)

まってました!!第5弾!!!!
雷のシーンはそのまま一緒のベッドで寝るのかと思ってた(*≧m≦*)ププッ

都ちゃんには悲しい結末だったけど
遊馬は野明に夢中だからね・・・。

はっきりとそしてきっぱりと都ちゃんに気持ちを伝えた遊馬はかっこいい!!

野明も、遠まわしに遊馬の事好きだと言ってるのに
気付かないとは・・・。

まぁ、でも大切な人=好きな人ではないから・・・。

いよいよデート編だね(≧∀≦)

続きとこの後の2人の展開を待ってます(≧∀≦)

さくら 2009年06月26日(金)10時06分 編集・削除

>ツッジーさん

雷のとこそう思ってました?(笑)
そう簡単に同衾させたりしませんよ~(なんと古い言い回し!)
何しろ焦れ焦れな展開でしか進まないのがうちの軽井沢(笑)
残り2日でどこまで進むでしょう?(^^;
というか 残り二日に 第何弾までかかるのか・・・の方が余程問題かも知れないですね~
ツッジーさんのコメントに励まされて 今度こそ買い物に・・・行くはずです、そのつもりですよ(笑)

可愛そうな都ちゃんの処遇は・・・このまま放置かも・・・(だって本編に絡みそうにないし、絡むと話が止っちゃうものね~)

ツッジー 2009年06月26日(金)10時30分 編集・削除

都ちゃん編は番外か何かで書くとして・・・(えっ... Σ(゚ω゚))

あーん!!じれったいわぁーヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ♪

いったい、いつ発展するのかな??

楽しみだよぉー(≧∇≦)

そおた。 2009年06月26日(金)11時08分 編集・削除

ほおおお〜。
遊馬さん、いよいよ攻勢に打って出ましたね?
野明もだんだん自分の中にあるキモチが形になり始めたようで、ますます目が離せませんね!
続き、お待ちしてます〜。でもご無理はなさらないでね。

好きではない相手に、中途半端に優しくしないところが遊馬らしい。それが周囲の人から見れば、冷たいと思われても、その方が本当はその人の為ですよね。

このおばさんは、遊馬の人生の節目節目でいい相談相手になってくれそうな方ですね。
基本お坊ちゃまで末っ子だから、実は周囲の年上のひとに可愛がられるタイプなのではないかと思います。

それから、今更ですが先日いただいたバトンに回答してます。
私がやるとあんなです…。
でも面白かった!
良かったら、お暇な時にのぞいてみて下さい。

さくら 2009年06月26日(金)12時15分 編集・削除

>ツッジーさん
都ちゃんは 放置かな(^^;
なかなか発展しないですよね~
じれったくて御免ね~(笑)
続きは 鈍亀のペースで更新しますのでお待ちくださいね♪

さくら 2009年06月26日(金)12時27分 編集・削除

>そおた。さま
遊馬攻勢にでました(笑)
うちの遊馬は半端に優しくしないですね(^^)
というか 結構他人にはクールです。
身内にはやさしい(笑)
この場合の身内は血縁ではないですけどね、きっと。
半端に期待感を与えないというのは 一種の優しさだと思うので。
この伯母さんは困ったら来てもらおうと思います(笑)
「基本お坊ちゃまで末っ子だから、実は周囲の年上のひとに可愛がられるタイプ」は 同感です!!!
そうですよね~
しかも 母親を早くに亡くしているのでこういう人は貴重だと・・・
変に近しく無い所もいいんじゃないかと思います。
干渉されるの物凄く嫌いますものね~ 遊馬♪

ところでバトン! 後ほど拝見しますね!
有難うございました(^^)

のんびり更新も頑張ります~♪

ASAKI 2009年06月26日(金)22時25分 編集・削除

あ~お腹いっぱい。
遊馬やっぱり、皇帝じゃん~!!!!
カッコイイ~(>m<)
いいね~いいね~
この先楽しみだよ~ん!!

さくら 2009年06月26日(金)22時42分 編集・削除

>姫~♪
姫、そう?
皇帝?!(笑)
姫にカッコいいと言って貰えると嬉しいな~
姫のとこの王子遊馬 かっこよくて惚れてますから~♪
楽しみにしてくれる?? じゃ 頑張るっ!(^m^)

tera 2009年06月29日(月)03時08分 編集・削除

遊馬、基本興味ない人にはホントこんな感じでしょうねぇ。
野明の気持ち、ことばになりましたね!言葉にすると人間、自分が気づいてないことに気づかされることも多くて、この後、急展開なんてことも!!
いやいや、あと2日あるから、やはりまだまだ・・・。大丈夫、焦らされるの好きですので。お待ちしております!!
他のページもみたいけど、今日はここまで。お休みなさい・・・。

さくら 2009年06月29日(月)23時09分 編集・削除

>teraさま~

そうですよね、遊馬って基本あんまり他人に興味がなさそうというか・・・・
この後急展開というか・・・自分が凹むと物凄く妄想に夢を託すようで(笑)
いいのか?という感じで書きはじめてます(笑)
少しお時間戴きますが 頑張ってかいてみますね~
(数日後に見直して恥ずかしくなったら書き直すかも☆)

コメント投稿

投稿フォーム
名前
Eメール
URL
コメント
文字色
削除キー
公開設定