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軽井沢編15 日常

軽井沢編 15弾です

旦那の休みも挟まって思いっきり期間があきすぎてお忘れの方も多いかとは思いますが軽井沢編ですの更新です。

今日は朝から天気が悪い。
台風が近寄っています・・・
更生している時間がないのでそのままUPしますので誤字脱字は気づいたらこっそり修正しているかもしれません(笑)

ではでは 長々続いたこのお話も遂におしまいです。
よろしければもう暫くお付き合いくださいませ~(^^)

以下本文

続き
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日常
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窓の外がうっすらと明るくなり始め差し込んだ光で遊馬は目を覚ました。
腕の中に抱え込んだ野明はすやすやと眠っていて起こすのは忍びない気がして横になったままナイトテーブルに置いた時計を確認する。
時計の針は朝5時を指していてもう一度眠れるくらいの時間は十分にある。
少し考えてからそっと腕を引き抜く。
シャツを羽織って窓の外を覗けば朝靄のかかった林道が見えた。
軽くシャワーを浴びて目を覚ますと着替えを済ませて屋外に出る。
ひんやりとした空気が身を包みその場で大きく伸びをして近辺を少し散策することに決めてゆっくりと歩き始めた。

当てがあるわけではないのでとりあえず管理棟の方向に足を向ける。
すると意外に人の気配があることに気がついた。
近寄ってみると小規模な朝市の準備が始まっていて近所の農家が持ち寄った野菜や手作りの雑貨、ちょっとした軽食を調理しながら準備している最中だった。
思わず立ち止まって「へぇ・・・」と声をあげる。
「お兄さん早いね」
野菜を整理していたおじさんに声を掛けられて思わず立ち止まった。
「ええ ちょっと目が覚めちゃって」
「朝の散歩も気持ちがいいものだろう?」
「そうですね、朝市ですか?」
「そうだよ、6時ごろから皆始めるんだけどね。早いもの勝ちだしいいのがあったら見ていくといいよ」
おじさんは気さくに笑う。
時計を見ると6時まではまだ15分そこそこあったものの、チラホラと買い物をはじめる人も出始めていた。
「これは毎日?」
「週に2回。晴れていればね」
「そうですか、ありがとうございます」
礼を言うとゆっくり一週見て回る。
野菜を幾つか購入してパンが並ぶ店先に近寄ると後ろから「遊馬っ!」と呼ぶ声がしてパタパタと野明が走ってきた。
「起きたのか、よく分かったな」
笑顔を向けると野明は少し拗ねた顔をした。
「起きたらいないから吃驚しちゃった」
「悪かったよ。ちょっと散歩にでたら朝市やってた」
「そうみたいだね、でもこっちでよかった。別の方向に行かれてたら会えなったよ?」
「会えたからいいんじゃないか?」
「それは そうなんだけど・・・」
遊馬のシャツの裾を引くと「起きたらいなくて心細かったんだからね」と小さな声で訴えた。
驚いた顔をした遊馬が軽く息を吐いて野明の背中に手を添える。
「悪かったよ。取り敢えず朝飯になるもの幾つか買って戻らないか?」
並んで歩きながら2人でいくらか買い物をする。
屈託の無い笑顔で売り子と会話をする野明を見て思わず笑みが漏れた。
一通り買い物を済ますと連れ立ってコテージに帰り朝食を摂る。
食後にコーヒーを飲みながら遊馬が時間を確認した。
「あと2時間くらいでここ出るからな、荷物纏めとけよ?」
「うん」
野明は返事を返してカップの中身を一気に喉に流し込んだ。
「ごちそうさま」
挨拶を終えると寝室に荷物を纏めに向かう。
買い物をした為、来た時よりも嵩張る荷物を器用に纏めると野明は満足気に頷いた。
リビングでは既に用意の終わった遊馬がソファでTVを見ていて、野明は傍に歩み寄ると隣にぽすんと腰を下ろした。

「終わったのか?」
「なんとかね」
野明は遊馬の腕にそっと触れる。
遊馬は一瞬その手に目を留めたものの、直ぐに目線をTVに戻した。
暫く2人で黙ってTV画面を見ていたが野明の頭には今流れているニュースの内容など殆ど入って来なかった。
「ね 遊馬?明日から待機任務なんだよね」
「そうだな」
遊馬は野明に目を向けた。
「休みボケしちゃったのか、ちっとも実感が沸かないんだよね」
野明は少し困った顔をして首を傾げた。
「解らなくもないけどな。準待機中、殆ど寮にはおろか東京にもいなかった訳だし」
「そうなんだよねぇ。遊馬と四六時中一緒って言うのは今に始まったことじゃないんだけど、何だろう・・・2人きりでずっと一緒って無かったじゃない?」
「そりゃな、同じ小隊所属でコンビだしセットで動くことは多くても基本的に小隊単位で動くことが殆どだもんな。例外といったら 酒田に行ったときくらいだろ?」
澄ました顔で言う遊馬にあの日のことが蘇り野明は赤面した。
「あ・・・・あの時は御免なさい・・・」
野明は自分が勘違いして遊馬を風呂桶で引っ叩いたのを思い出し真っ赤になった。
バツが悪そうに目を泳がせる野明に遊馬はクックと笑う。
「まぁさ、独身の若い女性の反応としては正解だったんじゃないか?いきなり『おはよう』っていうより警戒心があってさ」
先日のことまで持ち出されて あまりの恥かしさにふいっと目を逸らしたまま野明が小さく抗議した。
「それだけ、あの時から比べて遊馬に対する信頼度が増しました、ってことでしょ?」
「それは光栄だけどさ、全幅の信頼を置かれちゃった狼さんとしては至極複雑だったんだからな」
「反省してるわよ」
上目遣いで顔を覗き込む野明の頭をぐいっと胸元に引き寄せる。
「まぁ結果『俺の彼女』になった訳だし今回は良しとするかな?」
引き寄せられ身体を預けるようにして目を閉じる野明に向って囁く。
「ただし、他の男の前でそんな態度見せるなよ」
「大丈夫だよ。心配性だなぁ 遊馬は。私にコナかける様な人なんてそうそう居ないんだから」
屈託無く笑う野明に遊馬は苦笑を返す。
野明の人柄の良さは付き合いのある奴なら誰もが認める。
確かに一目惚れされるとタイプでは無いかもしれないがその分好意を持った奴は性質が悪いといえなくも無い。
野明に気づかれないように裏でコソコソとどれだけの相手に牽制を掛けてきたことか・・・
その甲斐あって二課棟内、遊馬の目の届く所で野明にちょっかいをかけようという人間は激減していた。
それでも無防備な格好で棟屋内をうろつきまわる野明に邪まな視線を投げる者がいなくなったわけでは無い。
寧ろ抑圧されて地下に篭もっている分性質が悪いのかもしれなかった。
それに人の牽制も全く意に介さずにコナを掛け捲る刑事課の風杜。
遊馬にとって悩みの種は尽きることが無いのだ。
思わず深い溜息が漏れる。
「・・・お前が鈍いだけなんだよ・・・」
小声で呟くようにいうと、遊馬は回した腕に少しだけ力を込めた。

遊馬の腕の中はとても居心地がいい。
聞きなれたその声すらも耳に心地よくてその背中にそっと手を回すとゆっくりと目を閉じる。
「遊馬」
「ん?」
「離れるの、嫌になりそう」
「そうか?暫くこうしてやっててもいいけど」
「じゃ ちょっとだけ甘えさせて?」
「いいけどさ、あんまり時間無いぞ」
言いながら野明の頭を軽く撫でると気持ちよさそうに笑う。
「解ってるんだけどね、こういう時間もあと少ししか無いんだもん」
「作ればいいさ、またな」
視線を合わせてくすくすと笑うと指を絡めるようにして手を握る。
引き寄せられるように自然と唇を合わせた。
暫くそのままTVを眺めながら過ごし9時半を回った辺りで時計を確認した遊馬が野明に声を掛けた。
「そろそろ出るか」
「そうだね」
野明は少し名残惜しそうに身を起こす。
その様子に遊馬は軽く笑うと額を合わせる。
「そんな顔すんなって。どうせ明日から一週間 埋立地で一緒に居ることになってるんだし」
「そうなんだけどさ。勤務中にこれは無いじゃない?」
ぴたりと寄り添うようにして座る自分たちを示して野明が笑うと遊馬は少し考えて噴出しそうになった。
「確かにな、太田辺りがうるせーだろうしなぁ。お武さんとか南雲さんあたりにも『公私混同!』とかって指差されそうだ」
「あはは ありそうだね!でも一番コワイのって隊長じゃない? どこで見てるか解らないんだもん・・・・」
「・・・あの昼行灯なぁ・・・」
渋面を作る遊馬の首に両手を絡めて野明が笑う。
「職場では ビシッと仕事しようね」
「そりゃ 当然だな。混同して仕事が手につかなくなるようじゃ、意味がねぇからな」
「だね。遊馬 これからも指揮宜しくね」
「任せとけって。『操縦担当は指揮担当者の指示に指示に従うべし!』ちゃんと指示聞けよ?」
「もちろん!『フォワードとバックアップは一心同体』なんだしね。頼りにしてます」
ひとしきり笑うと遊馬がソファから立ち上がった。
軽く腰を伸ばすと野明を振り返る。
「ほんじゃ いくぞ」
「はーい」
遊馬に倣って身体を大きく伸ばすと纏めておいた荷物を手にとって彼の後を追う。
玄関で追いつくと遊馬が手を差し伸べた。
「荷物」
『自分で持てる』と言いかけて少し考える。
「有難う」と遊馬にボストンバッグを渡し空いた腕を遊馬に絡めた。
車まではほんの少しの距離しかないのだがそれでも野明はちょっとしたデート気分を満喫する。
戸締りを確認して車に乗り込むと管理棟に向けて車を出した。
コテージを眺める野明に遊馬が笑う。
「どうした?」
「愉しかったなぁって思って」
「そうだな。ちょっと寝不足だけどな」
そう言って遊馬が笑い野明も「そういえばそうだね」と笑った。

管理棟で鍵を返して戻ってくると遊馬は「少し寄り道して帰ろう」と提案した。
野明に異存は無かったのでコクリと頷くと遊馬は車を高速ではなく旧市街の方に向けた。
そこから更に少し民家が疎らな方に向って進むと小さなアトリエ兼店舗にたどり着く。
野明を促して車から降りると扉を開けた。
こじんまりとした部屋の机の上には所狭しと銀で出来たアクセサリーが並ぶ。
興味深げに覗く野明に遊馬が愉しげに声を掛けた。
「作って見ないか?」
「これを?」
所狭しと置いてある商品を示して問う野明に壁に貼られた手書きのPOPを示す。
手作り体験ができる旨が書かれていて所要時間も簡単なものなら3時間ほどで出来上がるという。
今から始めるなら時間の余裕は十分にあった。
野明が頷くのを確認して遊馬は奥の工房に向って声を掛ける。
すると今朝 朝市で顔を見た若い男性が扉から顔を覗かせてにっこりと笑った。
その顔に野明は「あ」と声を上げた。
遊馬が悪戯が成功した時の愉しそうな顔を見せる。
「覚えてたか?」
「数時間前のことだしね、始めに言ってくれればいいのに」
「驚く顔 見たかったからさ」
しれっと言う遊馬に野明は苦笑した。
工房の主たる男性は笑顔で「なにか作りますか?」と声を掛け野明はコクリと頷いた。

体験できるのは初心者でも比較的扱いやすい銀の含有率の高い粘土を使う方法。
簡単に言うと粘土で作りたいものの形を作って高温で焼き切り、不純物を除くという手法で小物を作る体験ができるというものだった。
オリジナル色を出すには 蝋で型をとったりと色んな工程を踏むのだか今回は決められたパターンを選択して行くことで比較的短時間で失敗無く出来るようになっていた。
2人は比較的シンプルな型の指輪を選択して作業を進める。
薄いものや細いものは作るのが難しいため 少し厚みのある幅広のリングを作ることになった。
その分表面には文様が入るし内側に多少なら文字も打刻できる。
手順どおりの作業のあと型に粘土をしっかり隙間の無いように押し込んで釜に入れる。
焼き上げと冷却の時間にお茶を飲みつつ完成を待った。
人肌程度まで温度が下がったのを確認して型から取り出すと余分な部分を鑢で削り取る。
出来あがった指輪に文字を打刻する時になって野明が遊馬に提案した。
「ね、作ったの取替えっこしない?」
「これを? いいけど。」
そういうと掌に乗った小さな金属の環っかを見遣る。
「俺のじゃ野明にはでかいだろう?」
そう言って野明の掌に自分の作ったリングを載せると野明の作ったリングが同心円状にそっくり中に納まって尚余裕がある。
「本当だ、遊馬って手大きいんだね」
嬉しそうに遊馬の掌にあいている方の手を合わせて大きさを比べる。
「男としちゃ標準だろ? 野明の手が小さいんだよ」
笑う遊馬に野明は「いいの」と言ってそっと掌から遊馬にリングを返す。
「文字入れられるんでしょ? 終わったら取替えっこね」
「解った」
そうして2人でやり方を教わり文字を自分で打刻する。
野明は少し考えて 「NtoA」という文字と『遊馬に意図が伝わるかな』と思いながら
2日前の日付を西暦で打刻した。
遊馬の方を見遣ると何やら愉しげに手際よく文字を打刻していた。
その様子が子供みたいでなんだか微笑ましい気分になった。
先に遊馬が少し遅れて野明が文字の打刻を終えると2人で互いの掌に作ったリングをそっと置いた。
打刻された文字を確認しようと野明が遊馬の作ったリングを覗き込むとそこには「AtoN」と言う文字の横に同じように2日前の日付が刻印されていた。
吃驚して遊馬を見ると やはり打刻された文字を見た遊馬が噴出すように笑った。
「なんだ、同じこと考えたのか」
野明の頭をクシャクシャと乱暴に撫でると遊馬は「まぁ そういうことだよな」といって笑った。
野明も「ロザリオでも買っとけばよかったかもね?」とクスクス笑う。
「これがその代わりだろ?こっちの方がいいよ、俺は」
「うん そうだね」
野明は掌に乗った小さなリングを大切そうに握りこむ。
その様子を見ていた工房の主は同じように笑顔を見せて「じゃ これは僕からプレゼント」と言ってきれいな細工のある少し太めのチェーンを切ってネックレス用に加工してくれた。
リングに通して首に掛けられるようにすると遊馬が野明の手からひょいとそれを取り上げる。
きょとんとする野明の首に遊馬がネックレスをかけるてやると、野明も同じようにネックレスにした指輪を遊馬にかけた。
店主はその様子をみて「お幸せに」と言って柔らかな笑顔を見せた。

工房を出て車に戻り遊馬は車をゆっくりと高速に向ける。
「夕方のラッシュにかち合う前に東京に帰るか」
そう言って時計を確認するともう午後2時を少し回っていて途中のSAで休憩と軽い食事を済ませ練馬ICにつく頃にはもう5時近くになっていた。
ここ数日で疲れていたのか野明は助手席でぐっすりと眠り込んでしまっていて、その安心しきった顔に思わず頬が緩む。
起こすのも忍びない気はしたが取り敢えず車をコンビニの駐車場に入れて野明に声を掛けた。

「野明 練馬に着いたぞ」
眠たそうに目を擦りながらうっすらと目をあけた野明は自分がいつの間にか眠っていたことに気づいて軽く頭を振る。
「あ ごめんね。運転させといて」
「いいさ 疲れてるんだから気にすんなって。それに運転してると眠くならないけど、隣で座ってるだけってのは眠くもなるさ」
野明の頭をくしゃりと撫でて遊馬は軽く笑う。
その顔をみて野明は安心したように頬を緩めた。
「ところで野明、東京に着いたんだけどこの後どうする?まっすぐ寮まで送るか、それとも夕飯食べてから帰るか」
野明は遊馬の左手を引っぱると腕時計を覗き込んだ。
時間は5時。
真っ直ぐ帰れば寮の夕飯には間に合う時間。
でも今から何かを食べに行くには少し早い。
少し考えてから遊馬の顔を覗き込んだ。
「夕飯一緒に食べたいな、でもちょっと時間が早いから・・・少しデートしない?」
「いいけど どこに寄る?そんなに時間の余裕無いぞ」
「えっと・・・」
未だ東京の地理に少しも明るくならない野明が言葉に困る。
遊馬は予想通りという顔をして「じゃ 適当に」といいつつ車を走らせた。

都心とはいえ再開発地区はきちんと計画されて整備されているため意外と公園なり緑地が整備されている。
コインパーキングに車を止めると飯田橋近くの公園に足を向けた。
ここは戦前から残る公園で一時期議員宿舎を作るために取り壊されそうになったのを地域住民と時の都知事の反発に合いその姿を残しているという都内でも緑豊かな一角だった。
石造りの噴水や水路は趣があって岩に掘り込まれた模様もキレイな公園。
しかしそこには戦前戦後を物語る色んなからくりがそのまま残されてもいて見る人が見るとそれは結構貴重なものだ。
こういう話が嫌いでない遊馬にはそれなりの知識があるが野明はそういう薀蓄とは無縁であることがその態度から知れた。
「こんなところがあるんだね」
興味深げに散策する野明の少し後ろを歩きながら遊馬は目を細める。
何にでもストレートに感情を表す野明を始めは疎ましく思ったものだったが、今はその素直さが好ましい。
いつの間にか自分の心に入り込んで少しづつ自分を変えていく野明を大切に思う。
変わっていく自分に戸惑いはするものの嫌な感じは全く受けないことに遊馬は少なからず驚きながらそれもいいかも知れないなと思った。
少し先を歩く野明が何かを見つけたらしく「遊馬ぁ!」と名前を呼びつつ大きく手招きをするのを見て「なんか見つけたのか」と返事を返しながら近づく。
公園に残る色んなからくりを見つけては目を輝かせる野明に軽く説明をしながら散策する。
時間を見計らって近くのレストランで食事を取ると野明を車に乗せて東雲に向った。

寮まであと角を一つ曲がるだけという場所まで来て遊馬はハザードランプを点灯させ一度車を止めた。
助手席に座る野明が数分前から口数が少なくなって俯き気味になっているのに気づき声を掛ける。
「どうした、もう着くぞ」
「・・・うん。」
「元気ないな、先刻までは楽しそうにしてたのに。何かしたか、俺」
困ったような顔を向ける遊馬に野明は少し申し訳ない気分になる。
「違うよ、遊馬は何もしてない。たださ・・・」
言いかけて少し躊躇する。
これはただの我侭なのだから、言った所でどうにかなるものでもないことは重々承知している。
答えの続きを促すように見つめる遊馬に野明は深呼吸すると拗ねたような顔をして見せた。
「ここで一旦 お別れだなぁって思ったの」
「荷物もあるから前までつけてやるけど?」
しれっと言い放つ遊馬を軽く睨めつけると大きく溜息をついた。
遊馬はそんな野明の様子を愉しげに見遣ると徐に頭を引き寄せて額に軽く唇を寄せた。
「悪かったよ、謝るからそんな顔するなよな」
野明は吃驚して素早く身体を離す。
寮の玄関は角の向こうだがこの辺だって寮生が歩いていないとは限らない。
焦る野明に遊馬はクスクスと笑う。
「何、知り合いにばれると困る?」
「・・・困らないけどさ。遊馬だったら。でもちょっと恥かしいかなぁ、根掘り葉掘り聞かれそうで・・」
「確かにな、それは俺も同じか」
野明と一緒にほぼ一週間旅行に行ってたなんてことがばれた時の寮の奴らの反応なんて考えるのも恐ろしい。
とはいえ相手が野明なので否定する気も敢えて隠すつもりもないのだが、バレないに越したことはない。
「どうする?車前につけるの嫌なら考えるけど」
「ううん それは平気。荷物重いし」
「そうか。で 何がそんなに気がかりなんだ?」
落ち着かない様子の野明に遊馬が再度問いかけると野明は小さな声で「ちょっと寂しくなったの」と言った。
遊馬が小首を傾げる。
「だって ずっと一緒にいたでしょ。だからその・・・1人で寮に帰るのって寂しいなって思ったの」
頬を染めて一気に捲くし立てるように言って目を逸らした野明に遊馬は一瞬きょとんとした顔をしてから声を上げて笑った。
「笑わないでってば・・・」と涙目になりながら抗議する野明を「ごめん」言いながら引き寄せると「俺も寂しい」と言ってこめかみに唇を寄せる。
「明日からは埋立地で一週間一緒だし、今晩だけだよ」
「うん」
「帰ったらメール入れてやる。寝れるようならさっさと寝ちまえ。明日から仕事だからさ」
「うん」
野明を離すと遊馬は車を女子寮の前につけた。
荷物を下ろすのを手伝ってやって「じゃ 明日」と挨拶を交わすと野明が寮に入るのを見届けて車を出す。

車を返して寮につく頃には門限ギリギリで荷物を片付けて待機任務用に荷物を纏めて軽くシャワーを浴びると もう日付が変わりそうな時刻になっていた。
ベッドにごろりと横になると時間をみて躊躇したものの約束したので野明に短いメールを入れる。
返事を期待した訳ではなかったので眠りかけていると、しばらく経って返事が届いた。
物憂げに携帯を手に取ると内容を確認する。
相手は予想通り野明だったがその中身に苦笑して遊馬は通話ボタンを押した。
呼び出し音が鳴るか鳴らないか位の速さで電話に出た野明に遊馬が笑う。
「眠れないのか?」
「ごめんね。遊馬眠いよね」
「大丈夫だ。徹夜は辛いけどな。で 眠れない原因は?」
笑みを含んだ声で問うと野明は小さな声で恥かしそうに返事を返した。
「・・・遊馬の声 聞きたくて」
野明の様子に遊馬は思わず笑みを零す。
「いいよ。なにか話すか?」
すると野明は始めよりも幾分ホッとした様子で答えた。
「もう大丈夫、声聞けたら安心して眠くなってきちゃった」
その答えに遊馬もまた気が緩む。
「了解、疲れてるんだから早く寝ろよ。じゃ おやすみ」
耳に心地よい遊馬の声に眠気がふわふわと上がってきた。
「うん おやすみ。遊馬 ありがとうね」
「いいから寝ちまえ。また明日な」
そう言って電話を切ると遊馬もまた一瞬で眠りに落ちた。
出勤までの短い時間互いにぐっすりと眠って朝を迎えた。

日が昇りニ課等に出勤すると二人で「おはよう」と挨拶を交わす。
連れ立って更衣室に向うその襟元から同じ鎖が覗く。
互いに気がついてクスリと笑い合うと遊馬は大きく伸びをした。
「さぁて気合入れて仕事すっかぁ!」
その遊馬を横目で見ながら野明も んっ!と大きく身体を伸ばす。
「やりますか!」
右手をパチンっと小気味よい音をさせてあわせると「後でね」と言って更衣室に消えていく野明を見送り 軽く腕を回すと自分も更衣室に入る。
制服に着替えて隊員室に入るとひろみちゃんがコーヒーを運んでくれた。
「サンキュ」言いながら受け取って野明に声を掛ける。
「あとで一号機のデータチェックするぞ。朝の報告終わったら電算室な」
「はーい」
始業時間まではあと少し。
一週間の待機任務が始まる。いつもと同じ日常の始まり。
それでも、と野明は制服の内側に隠されたリングにそっと触れる。
少しだけ今までと違う日常が始まった気がして妙にそわそわした感じがする。
一度だけぐっとリングを握りこむと野明は頭を仕事に切り替えて机に向き直った。
始業のベルが鳴り、隊長から今日の予定が告げられる。
朝の報告と連絡が終わると遊馬が軽く野明の肩を叩き「いくぞ」と促す。
「うん」と答えて遊馬の広い背中を追うように電算室へと向かう野明の足取りは軽やかで2人を見送った隊長は誰にもとなく「若いっていいねぇ・・・」と呟いた。
全員が微笑とも苦笑とも取れる笑顔を浮かべる中 ただ1人、太田だけが腑に落ちない顔をして辺りを見回していた。

END
=============
追記

ここまで引っぱってこんな感じの終わり方で・・・
すみません~ 先に謝ります ゴメンm(._.~)mゴメン
長かったシリーズ(?)もやっと終わって一段落。
うっかりの一言で随分引っぱってしまいましたが こんな駄文に長期間お付き合いくださった皆様に最大級の感謝とお礼を申し上げます。

一度公開して下げてしまった裏については・・・
お問い合わせいただいた件数もそこそこありまして後日個別にご連絡差し上げますね。
では 本当に有難うございました!

お時間ありましたら是非是非一言なりとご意見ご感想などを戴けますと嬉しいです(笑)

コメント一覧

ツッジー 2009年08月31日(月)14時13分 編集・削除

第15弾&完結!!

お疲れ様でした(≧∇≦)

軽井沢シリーズもついに終わっちゃったか・・・。

なんだか、寂しいなぁ・・・。

すごく素敵なお話でしたー(≧∇≦)

指輪の刻印が一緒だったという所では
ほほうと独り言を・・・(*≧m≦*)ププッ

寮近くで別れる時の野明の心情には
うんうん。わかる!!その気持ち!!
とまたまたつぶやき・・・(*⌒∇⌒*)テヘ♪

素敵なお話をありがとうございました(≧∇≦)

さくら(ツッジー様) 2009年08月31日(月)14時25分 編集・削除

>ツッジーさん

遂に終わりました~
ああ 長かった・・・・
寂しいと言ってもらえて凄く光栄です♪
本当に最初からお付き合い下って有難うございました(^^)
是非 今後ともごひいきに♪

指輪の刻印、刻んだ文字は同じでも多分籠めている思いは少し違うんだと思うんですよ。
私の中の裏設定では少し思っているニュアンスに誤差がある。
でもそれは敢えてかかなくても想像にお任せでいいかと思います(^^)

寮近くで別れるところは書いてて愉しかったのでそう言ってもらえると嬉しいです~

こちらこそ長々とお付き合い有難うございました☆

瞳子 2009年08月31日(月)15時10分 編集・削除

軽井沢編 15話完結お疲れ様です。m(__)m

指輪に同じ刻印を入れるトコなんざ、キャーって、うっかり叫びそうになりましたよ。

二人のラブラブオーラを感じる隊長以下二課のメンバー。やっぱり太田さんは気づかないか〜(笑)


素敵なお話、ありがとうございました。

(オマケ)


「あの二人、やっぱり付き合い始めたんですね〜」

そーっと電算室のドアを開けたシゲ。
同じように中を窺い、進士が眼鏡の奥をキラリと光らせ、にんまりと笑った。
パソコンに向かい、仕事しながらもイチャイチャしている二人を見て、他のメンバーが等しく頷いていた。

「し、神聖な、し、職場で……」

叫ぼうとする太田の口をひろみが塞ぎ、羽交い締めしていた。

野明と遊馬が付き合っていることは、その日の内に二課全体と、本庁のある刑事に広まったとか……


fin

こんきち 2009年08月31日(月)20時53分 編集・削除

軽井沢編完結・お疲れさまでした。(>▼<)
ドキドキ・ハラハラ・・・も今回で終わりかと思うと寂しい限りです。
最後、やっぱり太田さんは気付かなかったのね(^▼^)と笑ってしまいました。

さくら(瞳子様) 2009年09月01日(火)00時10分 編集・削除

>瞳子さま

やった! 続ききたぁ(笑)
そうそう あっという間に広まって・・・
そして風杜さんが凹みまくると☆
でもやっぱりコナ掛けにくるんでしょうか???
それとも付き合い始めたことで諦めるのか。
刑事は粘りが基本と言いますし どうなんでしょうね(笑)

にしても太田さんはやっぱりこういうキャラですよねっ☆
でもちゃんと仕事するから許して・・・くれるかな?!
無理かぁ 太田さん真面目だから(笑)

さくら(こんきち様) 2009年09月01日(火)00時14分 編集・削除

>こんきちさま

長かったお話も漸く終わりました
寂しいと言ってくださって嬉しいです(^^)
よもやこんなに長くなろうとは思って居なかったもので終わらせられて良かったです。(変な日本語ですね☆)
太田さんはやっぱりこういうキャラかなぁと思います♪
色恋に疎い方が彼らしい気がするんですよね♪

tera 2009年09月01日(火)03時12分 編集・削除

お疲れ様でした!
恋すると皆こんな感じなんだなぁ、としみじみ追体験しておりました(笑)
ううん?続くのか!?と思いきや、読み返してみたらば終わりでした!!
皆の微笑・・・は二人の雰囲気に気づいたって、ことだったのね!と理解。(移動中の携帯からだとやっぱりじっくり読めてなかった・・・><)
太田さんは気づかないですよね、それが太田さん!!(笑)

さくら(tera様) 2009年09月01日(火)07時35分 編集・削除

>teraさま

最後までお付き合い有難うございました~
恋愛の追体験などという素敵なお言葉を戴いて嬉しくて舞っております(笑)
一応これで完結という形になります~
長かったですよね(^^;
皆の微笑は取り方色々でいいかな~って思ってます♪
仰るように気づいたってことでもよし、隊長の一言に対しての反応と見てくれてもよし、ということで☆
でも 太田さんは気づかない・・ええ! それが太田さんなんですよ♪
最後まで 読んでくださって有難うございました♪
また何か書きますので是非是非遊びに来てくださいね~

あと お仕事大変そうですがご無理なさらず~!!

非公開 2022年07月22日(金)13時01分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月24日(日)11時40分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月25日(月)06時05分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月26日(火)10時45分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月27日(水)21時40分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月28日(木)12時45分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月29日(金)14時04分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月30日(土)09時58分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年07月30日(土)10時53分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年08月02日(火)07時56分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年08月03日(水)06時14分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年08月04日(木)04時47分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2022年08月09日(火)02時59分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

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