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STS☆ぜろ 〜2回目〜


 ──魔法──
 彼女達の世界にはそれがある。
 ──科学──
 彼達の世界にはそんな知識もある。
 2つの、均衡のとれそうもない大いなる知識の力は、彼女らの生活を幸せ
に…彼たちを不幸せに…刺激のある…刺激のない…そのような世界へとあわ
ただしく移り変え続けていった。


 この世界では、科学の発展した星がある。
 また、あちらの世界では魔法が存在する星がある。
 そして、ここの世界には科学と魔法、両方が存在する星がある。
 この星は地球と呼ばれていた。
 あの星も地球と呼ばれている。
 ここの星も地球と呼ばれていた。
 彼ら、彼女らが住む星、地球──そこは魔法と科学、2つが存在する星で
ある。


********************************************************************



*** LINA ***

 どごおーんっ!
 その時、突如としてあたし達の後方から…いや…外から轟音が響きわたっ
たのは──
 思わず全員が一瞬だけ、沈黙してしまった。
『うどわああああああぁぁぁーーーーっ!!!』
 外から大多数の驚きの声が轟いてくる。
「…な…なななな…な…なんなんですか?今のは!」
「…な…なんか…すごい音だったわね…今の…」
「どっかでパレードでもやってるんじゃないのか?」
「…んなわきゃないでしょ…」
 まったく…一体何が…あたしはゆっくりと外へ向かい………4人がドアか
ら出ようとすると…
 後方を何度もふりかえり──
『…………………………』
 悲鳴をあげ──
『…………………………』
 逃げ惑う人々──
『…………………………』
 きゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃた…
 キャタピラの音──
『…………………………』
 ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご……
 キャタピラでアスファルトが壊される音──
 めき、がきゃ、ごきょ、ぐしい…
 銀行の前に止めてあった車が踏みつぶされていく。
「…く…車が…」
 強盗2が呟く──
 あ…よく見たら近くにあったバンも踏み潰されてる。もしかしてこいつら
の逃走車だったりして…
『…………………………』
 そのまま、ある物体があたし達の目の前を通り過ぎていった。
『…………………………』
「…えっと…リナさん…今のって……戦車ですよね…」
「自信は無いけど…確かに戦車に見えたわ…でも…なんであんなのが…」
「センシャって…車を洗う…」
「…なあ…」
「…そいつは…洗車だってば…あんたの理解できる言葉で言えば、タンクよ
タンク!」
「…なるほど…バスケの…」
 ぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「…いてっいてっいてっいてっ…」
 ダンクじゃないっつーのっ!
「…おい…」
 ぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「…いてっいてっいてっいてっ…」
「聞けってば!!」
「何よ…達也…いきなり大声を上げて…」
 達也が走り去る戦車の方を指さし、
「……あれ?なんだと思う…」
「ん?何?」
「いや…なんか、変な笑い声をかますねーちゃんが…猛スピードでこっちに
来るんだけど」
 あん?変な笑い声?あたしは彼の指先方へ目をやり、
「ああ…なんかパトカーが走ってくるけど…なんか変なのが上に…」
「…ほっほっほっほっ…」
 確かに………そうなんだけど…
「…あ…本当です。サイレンと一緒に笑い声が…」
 よく耳を澄まし改めて聞きなおす。
「…おーほっほっほっほっ…」
 …って…おひ……こ…こにょ…声はっ!
「おーーーっほっほっほっほっほっほっ!!!!!!」
「……………うっ…」
 …こ…こ…こ…この背筋が凍りつく…異様な高笑いは…
 記憶の底にこびりついて離れない声に、あたしは声の方向へ改めて目を凝
らしてみる。
「………ま…まさか…ナー…ガ…………」
 あたしの脳裏に警察学校での同期である『状況悪化発生器』の姿が浮かぶ。
「おーほっほっほっほっほっ…神楽リナ…あなたついに銀行強盗にまで手を
出したそうね…」
 遠くからあたしの名を呼ぶ声が…いや…耳鳴りがする。
 パトカーが近づいてくる。
 …果たして……あたしは嘆息した……
 昔と変わらぬ長い黒髪に大きな胸。
 何より非常識を服に着たかのようなオーラを、ピカペカ発散するめちゃく
ちゃ怪しい生き物。
 やかましくサイレンを鳴らすパトカーの屋根に仁王立ちになって…良い子
は絶対まねしちゃダメよ…それは高笑いをカマしていた。
 あああぁぁぁぁーーーーー!やっぱりいぃぃぃぃーーーーー!!!!!!
 間違いない!!!!!!
 そうよ!あんな非常識な乗り方をするのは、絶対あいつしかいないぃぃ(泣)
「なんだリナ…おまえ彼女と知り合いなのか?」
 頭を抱えしゃがみ込むあたしをよそにのほほんとした声で説いてきたガウ
リィくん。なにも知らないって言うのはとても幸せよねぇ…ガウリィ…
「…自称、白蛇のナーガよ。一番会いたくない奴だったんだけどね…」
「…さあーぺんとのなあがって、変わった名前だな…」
「だから自称って言ったでしょ…けど…本名はとっくの昔に忘れたから教え
らんないけど…」
「…はい?…」
 警察学校時代…あたしはあいつにどれだけ迷惑をこおむったか。実弾の研
修では…意味不明の高笑いと共に誤砲してその跳弾があたしの目元をかすめ
ていったのは数知れず…交通整理の実習としてかり出された時なんぞ、高飛
車なことを言って一般人と喧嘩を起こし、グループリーダだったあたしが教
官に後でこっぴどく叱られたとか…あたしのキャッシュカードを勝手に持ち
出して買い物してくるわ…で数え上げればきりがない。
 そんなヤツの本名を憶えるだなんて、そんな恐ろしいこと出来るわけがな
いじゃない。それにあいつ自身、本名で呼ばれるのは好きじゃなかったらし
いし…
 まあ…学校を終え、それぞれ別々の部署に移ってからはあいつとは会わな
かったんだけど…それに…
「…たしか…ついこの間、ロンドンに転属させられたはずなんだけど…」
 …そう…一様、噂ではあたし同様、名刑事として有名だったのだが…あい
つのことだ…ただ単に、その場その場の流れに流されて…偶然に事件を解決
していったってところでしょけど…その彼女がロンドンに移ったというのは
まだ新しい…
「…2週間もしないうちに向こうから送り返されたそうです…」
 ぼつりとつぶやくアメリア。
「なんで!どうして?あいつが戻ってこないほうがこの日本にとっては安息
な日々を送れるって言うのに……
 いや〜…神様お願い!日本の平和を守るため、どこの国でもいいからあの
女を引きとらせてぇー!!!…………ってちょっと待ってよ…」
 はたっとあたしは気が付いた。
「…あのさあ…アメリア…あんた…あれ…知ってんの?……あっそうか…結
構有名だもんね。あれってば…変なところで…」
「…いえ…そうじゃなくって…あの…実は…あの人…その…あたしの姉さん
なんです…」
「…はい?」
「だから姉さんなんですってば…本名は雨宮静子って言うんですけど…」
 …………………………………………
 …おうい…な…なんて恐ろしい事実をさらりと言うかな…この子は…
「…ほっほっほっほっほっほ…さあ…リナ…とっとと観念して…このあたし
につかま…ぴやあああぁぁぁーーーーー!!!!!」
 …あっ…戦車の姿に驚いたパトカーが急ブレーキ…そのまま、勢いに乗じ
てナーガが落ちて…
 きゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃた…
 ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご、ごご……
「ひぃよおえええぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!!!」
 …あっ………………………………………………………………………………
 …戦車にひかれてる………………………………………………………………
 一緒に彼女が乗っていた(立っていた?)パトカーもつぶされていく。
「…見事にひかれまくってるなあ…」
 半眼状態で事実を言い放つ達也。14の少年にしては随分とまた冷静に状
況を見るやつである。
 きゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃた…
 そのまま走り去っていく戦車。
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
「…ありゃ…死んだな…完璧に…」
 ぼつりと達也。
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 ………………………………………………………………………………………
 …………よっしゃあっ!ラッキー!!!!
 思わず心の中でガッツポーズ!!
「ああーー!!…姉さん!!」
「諦めなさいアメリア。ナーガは身をていしてまであたし達を助けてくれよ
うとしたのよ。それに報いるためにも今は生き残りさっさとこの場から退散
しましょう!!さあ…行くわよ!!」
「はい!!!姉さん安らかにお眠り下さい…」
「…勝手に殺さないでくれる…」
『きゃああああああぁぁぁぁぁ!!!!!』
 ぱぱぱぱぱぱっ…
 その声に思わずモデルガンを数発、ぶっ放す。
「って…姉さん!」
「ナーガ!やっぱり生きてたの?」
「何よ、リナ…その残念そうな顔は?」
「何よりも素直で、裏表のない顔」
「リナ…あんたねぇ…おまけに、さっきあたしだと確認した後で、そのモデ
ルガン打ったでしょう?」
「…なんてどうでもいいのよ。それよりナーガ…」
「ごまかさないで…」
「ごまかしてないわ。ただ単に無視してんのよ」
「まあ…いいわ…このあたしにかかれば今の簡単によけられたし…」
 …いや…全部あたってたけど…
「って、それよりもあんた、よくあんなのに、ごりごり、ぺきぴき、踏まれ
まくったのに五体満足でいられたわねぇ」
「ふっ…そんなの…簡単よ…」
 そう言うとでっかい胸を張って…くそお…忌々しい胸だ…
「…正義を志す意志が強ければどうって事無いのよ」
 言い放つ。
 …いや…んなことで…普通は無事ですむとは思えないけど…やっぱり…意
味不明に体が丈夫なところは姉妹ともどもかい…アメリアも…首の骨折って
もぴんしゃんしてたしなあ…どうやって折ったのかは…まあ…正義の見方ごっ
こをしてただ単に失敗したんだけど…
「素晴らしいです。姉さん!そうです私たちに、正義を志す熱い血が走って
いる限り…曲がった性格の姉さんであろうと…魔王の食べ残しと呼ばれるリ
ナさんであろうとも…悪に負けるはずは無いんです」
『あんた…どさくさに紛れて何を言った…』
「行きましょう姉さん、リナさん。あの戦車を止めるんです。正義の名の下
に!!」
 ダッシュ!
 って、走って行っちゃったし…あたしはさっき逃げるって言わなかったっ
けか?
「…で…」
 あたしは深くため息をはくと、
「…ナーガ。本当のところはどうなのよ。いくらあんたでも……正義の志だ
かなんだかは、その辺にほっぽいて…無事で済むはずないでしょうに」
「そんなの、ただ単に風系の結界をはってあっただけよ」
「ふう〜ん…風の結界ねぇ…でもさあ…呪文を唱えてる暇なんて無かったと
思うんだけど…」
「おーほっほっほほほほほほ…さすがのリナも気づけなかったようね…」
「?」
「あの時は既に発動していた後だったのよ」
「えっと…つまり…」
「………だからあ…パトカーの上じゃあ…強風に飛ばされちゃうのよ………」
「………………」
 …あ…なるほど…そういうことか…
 つまりだ、こいつは自分の高笑いとその姿を見せつけるためにパトカーの
上に立つことを選んだ。
 が、猛スピードで駆け抜けるためどうしても向かい風がおそってくる。こ
いつのことだ、あきらめれば済むことなのに意地張って何度もトライしたの
だろう。
 で、結論の結果。風の結界を張って向かい風をはじくと言うのに落ち着い
た。
 その結界のおかげで戦車にひかれても無事で済んだ、と言うわけだ…
「ここまでの苦労は並大抵の物じゃなかったわ。時には普通車にひかれ、バ
イクに跳ねられ、自転車にぶつかり、何度もトラックに踏まれ…」
 …今までよく生きてな…
「…子供がこいでた三輪車にはね飛ばされた時は、全治1ヶ月のケガを負っ
たわ…」
「………………」
「どこをどうやったら三輪車にはね飛ばされることが出来るんだ?」
「…しかも全治1ヶ月って…」
「その中でも大変だったのはジャンボ機の車輪に引っかかり、そのままアメ
リカまでつれて行かれた事かしらねぇ…」
 ちっ、そのまんま戻ってこなければ良かったのに…
「なあ〜…リナ…これって、本気で人間か?」
 達也が、”これ”っというところを強調して聞いてきた。
「はっきし言って自信ない…」
「リナさん、姉さん、何やってるんですかあれどんどんと先に行っちゃいま
すよお…」
 アメリア、戻ってきたし。
「…ふう……仕方ないわね……ナーガ。あんた攻撃魔法の呪符ぐらいは持っ
てるんでしょうね?」
「ふっ…リナ…このあたしをいったい誰だと思ってるの?」
「金魚のうんち」
「………りなちゃん…ひどいぃ…」
「冗談はこの辺にして…さあ…行くわよ。この天才美人魔道士・神楽リナと
その他が相手してあげるわ!」
「ふっ…冗談だったのね…わかったわ」
「何でこいつは…その他…というところにつっこみを入れんのだ?」
 とそれぞれがそれぞれのことを言いながら、走りだそうと…
「…で、俺はどうすれば良いんだ?」
『…あっ…』
 すっかり忘れ去っていたガウリィの存在にあたしは思わず目が点になって
いた。
 まあ…寝ていなかっただけましだったのかも…

<続き 3回目へ>

 
 
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