STS☆ぜろ 〜1回目〜
──魔法──
彼女達の世界にはそれがある。
──科学──
彼達の世界にはそんな知識もある。
2つの、均衡のとれそうもない大いなる知識の力は、彼女らの生活を幸せ
に…彼たちを不幸せに…刺激のある…刺激のない…そのような世界へとあわ
ただしく移り変え続けていった。
この世界では、科学の発展した星がある。
また、あちらの世界では魔法が存在する星がある。
そして、ここの世界には科学と魔法、両方が存在する星がある。
この星は地球と呼ばれていた。
あの星も地球と呼ばれている。
ここの星も地球と呼ばれていた。
彼ら、彼女らが住む星、地球──そこは魔法と科学、2つが存在する星で
ある。
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午後──2時45分──
晴れ渡る青空。行き交う人々。
○×信用銀行〜横浜西店入口前──
その入り口前に2人の女性と1の少女………
どが、ばき、どご、めしゃ、ぐし、ごき────
──しばらくお待ちください──
………す…すみません……お願いだから……訂正させてください………
…2人の女性と1の少年が不敵な笑みで…少年はあきらめきった顔をして
いるが…たっていた。
「…さて…準備はいいわね…アメリア…」
その一人、少し大きめなサングラスをかけ直し、優しい風に流される赤み
の強い長い茶髪の女性が口を開いた。
「…はい…リナさん…」
そしてその声に返事を返す、これまた顔の大きさに似合わぬ大きなサング
ラスをかけた黒のおかっぱ髪の女性。
「達也は大丈夫?」
そして今度は反対側の、彼女たちとは反対称に小さなまん丸サングラスの
少年に、彼女は声をかけた。
「…へいへい…いつでもどうぞ…」
「なによ達也…その…どうでもいいような態度は、少しは緊張しなさいって
ば…これから何をするのかわかってるの?」
「しらん!」
「おひ…こら…」
「だってそうだろ…さあ〜って…そろそろ午後の授業かなあ〜んて思ってた
矢先、いきなり、リナには「手伝いなさい」、アメリアには「これも正義の
ためです」つー、訳のわからん理由も説明もボキャブラリーも何もない、は
あとマークのおまけを付けたセリフとともにここまで引っ張られて…どこを
どう知れって言うんだ?」
「まあ…それはそれで…その辺にほっぽいて…」
「いや…ほっぽくなよ…」
「さあ…アメリア。行くわよ」
「はい、リナさん」
「って無視するし…少しは説明しろってば…何をやるんだよこれから…」
「………………銀行強盗…」
「は?」
リナとアメリアはお互いの顔を見詰め合うと同時に頷き、1歩を踏む。
「…あ…おい…」
その後を追う、達也。
ぷしぃ〜
静かな音と共に自動ドアが開閉する。
3人が店内へ進入し同時に、長髪の女性は、
「ちわっ!銀行強盗で〜す(はーと)」
まわり全てに聞こえる大きな声で言い放つ。続けざまに、
「…その辺のお金、金目の物、金庫のお金がありましたら全部持っていきま
すので、どうぞご遠慮なくあたし達にお申し付けくださあい(はーと)」
どぐしゃあっ!
場違いなセリフをお供にしながら、きゃぴぜんした声にその場にいた物ど
もは全員一斉にひっくり返った…
*** LINA ***
懐から、1丁のマシンガンを取り出す…但し、モデルガン(BB弾が出る)
だけど…
「よし!そのまま、全員、地面にふせてなさい。立ち上がったら速攻で問答
無用に撃つわよ!!……………って……ちょっと2人とも………なにあんた
たちまでふせてるのよ…」
「…だ…だってえぇ〜…」
「…今のどう見ても銀行強盗のセリフじゃねえだろ…」
あたしの隣で床ではいつくばる後輩の雨宮俊子…通称・アメリア…とあた
したちと同じ部署の先輩の弟・田中達也があたしに小声で言い返す。
「…何言ってんのよ…こう言う時ってーのはね先制パンチで相手のやる気を
剃っておくのが一番効果的なのよ…おまけに銃を発砲せずに全員を静かにさ
せられるし…」
「…そ…それはそうですけどお…だいたい…何であたしが銀行強盗をしなけ
ればならないんですか?あたしは正義の味方なのにいぃ…」
「…くじ引きで負けたんだからしょうがないでしょうが…今更、ぐじぐじ文
句言わないの…あたしだっていやなんだから…」
そしてあたしは思わず盛大なため息をはく。
「え?…リナでもいやなのか?」
「…ちょっと達也…何よ…その…でも…っていうのは…しかもかなり強調し
なかったそこのところだけ…」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ…何のことかの〜…」
お茶を飲みながら年寄り口調でしらっと、とぼける彼。
…どっからだしたんだ…そのお茶は…
あたしの名はリナ。神楽リナ。横浜西署に勤務する敏腕美人刑事である。
そして、あたしと一緒にいるこのアメリアは同じ部署の新人刑事。ちなみ
に彼女の父親は横浜港署の署長…あたしたちが勤務する西署ではない…だっ
たりするのだが……顔が全然似てないのよねぇ…
「…それに…”そうですね…悪の怖さのなんたるかをしっかり教えて差し上
げるのもまた正義の味方のつとめですよね”とか何とか言って、この数日間
その辺で燃えまくっていたのはどこのどいつよ…」
「…いや…それは…そのお…」
…まあ…それ以前にうちの署長に、口八丁手八丁でうまくアメリアが乗せ
られてしまったというのにかなりの原因があるとは思うが…あのゼロスにか
かるとねぇ…
本日はここ○×信用銀行〜横浜西店で、銀行強盗を想定した訓練日である。
でもって…その犯人役をあたしとアメリアが行なう羽目になって…
…ちくしょお…あん時、隣の方を選んでおけば!
っとまあ、選ばれた当時はその辺でどかどか暴れ回ったりもしたのだが…
どうも、署長のゼロスが言うには、
『僕としては今回は以前から行っていた訓練とちょっと趣向を変えてみたい
のですが…みなさんどうでしょう。こう言っては何ですが…最近の訓練はど
この場所でもありきたりなもので…このようなカリキュラムで大丈夫なのか?
本当の銀行強盗が現れた時、ちゃんと対処出来るのか?疑問があるんですよ
ねえ。
そこで、今回は趣向を変えて本格的な銀行強盗をしてもらおうと思ってる
んです。
つまり、銀行強盗役…神楽刑事と雨宮刑事ですが…お二人方には完璧な犯
行を行ってもらいます。もちろん、あなた方を捕まえる警察側にはその計画
をいっさい教えません』
「…じゃあ…刑事でも察官でもない、オレは何なんだよ…」
達也が言う。
「おもしろそうだったから(はあと)」
「……おい……こら……」
そして、こいつ…田中達也は若干14歳の中学生。先にも述べたがあたし
と同じ部署の先輩の弟である……まあ…彼女とは戸籍上の姉弟だと言う事ら
しいけど…
家は、警察署のほんの目と鼻の先にある、”正心流”の拳法道場を開いて
おり、達也はその道場での門下生でもある。
少女?っといって言いほどの美少年で…女の子と間違うと暴れるので注意
されたし…
じゃこ、じゃか!
帽子やサングラスで素顔を隠した4人の男たちが、あたしたちの周りを取
り囲んだ。
拳銃とライフルのおまけつきで…………って…お…おい…
「なんなんだ?お前らは…」
って…え?あの…
どごーおぉーーん
その男たちの一人が天井へと拳銃を発砲した。
『……………え?』
あたし、アメリア、達也の三人は疑問の声を口にしてその場に固まってし
まった。
…まさか…それって…本物?
…え?…
もしかして本当の銀行強盗?
周囲を見渡し──と──
ぴきっ
瞬間、あたしの眉はひきついた。
そいつがのんびりとこちらへと歩いてくる。店内の奥から…それが口を開
いた…のほほ〜んとしたその声で…
「よおっ!リナたちじゃないかあ…何やってるんだあ?こんなところで…」
ぱぱぱぱぱぱっ…
セリフを吐いた同時にその人物に、あたしは問答無用でモデルガンをぶっ
放していた──
本物の銀行強盗の存在さえそこにほっぽり出して──
「…い…っいってえよお…リナあ…いきなりなにするんだよお…」
床に座り頭をぽりぽりかきながらあたしの相棒、ガウリィ=ガブリエフは
ブウたれる。
──5ヶ月ほど前──
元々はニューヨークシティの刑事だったのだが、突然の左遷としてうちの
署に移った彼は、あたしとコンビを組むことになった。
組むことになった理由は、刑事課の中であたしが一番英語が堪能だったか
ら。ガウリィも多少は日本語をしゃべれるようだったけど…
外国人特有の金色の長髪、見事にまで整った容姿。ただ…見てくれは申し
分ないがその中身である知能はクラゲ並。
まあ…それでも…刑事としての知識はしっかりしてるし、銃の腕前にその
体力、鋭いカンは他の者達を圧倒しており、あたしとしてはなかなか便利な
アイテムとして重宝はしている。
「…それはこっちのセリフでしょうが…だいたいガウリィ、あんたなんでこ
んな所にいるのよ!」
ちなみに今の会話は英語である。
「え?何って…いや…ちょっと懐が寂しかったんでお金をおろしに…」
「んなこと聞いてんじゃない!」
「じゃあ…なんだよお…」
「今日は銀行強盗を想定した訓練の日でしょうが。それを何?署で待機して
なきゃならないあんたが、何でこんな所にいるのよっ!!」
「え?…って……あれ…そういや…訓練の日って今日だったっけ?」
ぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「こんのくらげっ!んなことぐらいちゃんと覚えとけぇーーー!!」
「うわあー!こらそれはやめろって…結構いたいんだぞ!それ!」
ぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「…いてっいてっいてっいてっ…」
「ふう〜む…なかなか、ほほえましい光景ですのお…アメリア殿…」
「…ほ…ほほえましい光景ですか…あれって…」
ぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「…いてっいてっいてっいてっ…やめろって…こら…リナ…」
BB弾から逃げまどうガウリイ。
『…………………………おい…』
4人の男がつぶやいた。
そして、
「だああああぁぁぁー!!!!!手前らおとなしくしやがらないと!!!!」
「やかましい!!!!!!!」
どぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
『ぎゃああああぁぁぁぁ』
「モデルガンで本物とやり合ってるし」
「…まあ…リナさんですし…」
どごーおぉーーん!
再び、強盗段の拳銃が火を噴いた。
『ひぃ』
あたしたち以外のすでに人質になっていた、一般市民たちが小さな悲鳴を
上げる。
「いい加減にしないと撃ち殺…」
「だからっ!やかましいっ!!炎の矢っ!!!」
ごごぉっ!
一人の男を炎が包み込みその場に静寂が訪れた。
『…………………………』
他の銀行強盗団三人はその光景に無言になる。
「つーわけでこのクラゲ…少しは反省しろおおぉぉぉ!!!!!」
どぱぱぱぱぱぱぱぱっ…
「…いてっいてっいてっいてっ…だから…やめろって…」
そしてしばらく──あたしとガウリィの追いかけっこは続く。
<続き 2回目へ>