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【UES】スレイヤーズSTS 〜3回目〜

※最初に
 本作品を読む前に【UEA】出張・あんだ〜ば〜EXの [かお様へ part.4] を読むとよりいっそう本編を楽しむことができると思います。
   →[かお様へ part.4]へ


**** TATUYA ****

 ゆらゆらゆらゆら…
「ふう〜……」
 オレは一つのカウンター席に腰掛かけ、ため息をついた。
 ここは一つの飯屋。
 少し前、この店は大混乱に陥っていた。
 ゆらゆらゆらゆら…
 唸る人──
 踊る人──
 転がる人──
 泡を吹く人──
 溶ける人──
 飛ぶ人──
 多種多様──
 ゆらゆらゆらゆら…
 その大元の原因をオレはやっととっ捕まえここに戻ってきたところである。
『麗和浄(ディクリアリィ)』
 2人の男女のカップルの声が重なる。
 2人が唱えたこの呪文は、あらゆる毒を浄化することができる…治癒と並んで、僧侶たちの間では
かなりポピュラーな術らしい。
 ゆらゆらゆらゆら…
 まあ、どんな毒も浄化できるからといって…今回のも浄化できたというわけではないが…こればか
りはしょうがない…
 何せ、この世界とは異質の魔法薬の影響なのだから…彼たちの魔法が利かないのは仕方が無いので
ある…
 で…オレがやったことといえば…その異質の波長をこちらの波長に合わせてやること………その作
業自体は簡単だが…いかんせん…その数が…3桁…以上…
 ゆらゆらゆらゆら…
 とりあえずその人数分オレが呪符を作り、彼らたちがそれを使って麗和浄を唱える…それの繰り返
しである。
 そうそう…呪符っていうのは、オレの世界に存在する魔法を発動させるためのアイテムである。
 何気なく魔法と言ってしまったが、この世界では別に珍しいことではないし、オレの世界でもちゃ
んと魔法は存在する。
 ただ、力を借りるその物が互いに違うし、発動方法だって違ってたりするので、別物と考えてもらっ
たほうがいいかな。
 こちらの世界では、大きく分けて3つ。
 火系、水系、地系、風系の4大元素と精神系の自然の力をかりるという精霊魔法──
 巫女や僧侶が使い聖なる力を元に治療・回復系の白魔術──
 高位の魔族などから力を借りる、主に攻撃系である黒魔法──
 それに対して、オレの世界の方は大きく分けると、光系・闇系・火系・水系・風雷系・大地系の6
つ。
 と言っても、こっちの世界でいう、聖なる物(言うなりゃ神様か?)や魔族なんてものはオレの世
界では存在していないことになっているので、ぶっちゃけ精霊から力をかりる魔法しかない…
 発動方法に関しても…
 こっちの世界は──魔道士──と呼ばれる呪文を使った魔法。
 オレの世界は──魔呪符士──と呼ばれる呪符と呪文を組み合わせた魔法。
 …と違っていたりする。
 いわば、呪を見せて呼ぶ(呪符)と呪を聞かせて呼ぶ(呪文)違いってところだ。
 では、話を戻そう。
 とりあえず、今回の騒動のための呪符を一足お先に作り終えたオレは、事件の諸悪をとっ捕まえに
行き、たった今帰ってきたところである。
 そして安堵というか…まあ…このカウンターで一息ついたわけだが…
 オレが出来ることはもう無いしな。
 ゆらゆらゆらゆら…
「麗和浄」
 薄汚れた白のフードをまとった男から魔道の光が発動し、それに呼応して右手に握られている呪符
が緑の光を発光する。
 確か…術を繰り返すもう1人の女性からは、ゼルガディスさんと呼ばれていたが…
 ゆらゆらゆらゆら…
「麗和浄」
 そしてもう一人──
 白を基準とした服とマント。ところどころにピンクのラインが入っている女性が魔道を発動させる。
 確か、アメリアさんとかって名乗ってたっけ?
 …最初…病人なんて無視しまくってテーブルの上にのり、燃えまくりながら「これはきっと悪の仕
業に違いありません!」とか何とか言ってた…
 ゆらゆらゆらゆら…
『ふう〜』
 全ての人数をこなしたか…二人が額を拭いながら大きなため息を吐いた。
「お二人さん、お疲れ様…ほいっ」
 店の奥から勝手に取り出した水を二人に差し出す。
「あ…すみません……え〜と…そういえば…お名前は?」
「ななしの権兵衛くんだ(はあと)」
「…………………」
 沈黙するゼルガディス。
 ゆらゆらゆらゆら…
「そうですか。ななしの権兵衛さんですか。変わったお名前ですね(はあと)」
『え?』
 にこにこ…
「あの…アメリアさん…」
「何でしょう…ななしの権兵衛さん!」
「………………」
 にこにこ…
 ゆらゆらゆらゆら…
「…えっと…」
「はい…ななしさん!」
「…ごめんなさい…本当は達也といいますうぅ(泣)」
「ええーーーー!!ななしの権兵衛さんじゃないんですかーーーー!!」
「本気で信じたんかい!」
 そして、ぼつりと、
「…そういうやつだ…アメリアは…」
 ゼルガディスが呟いた。
 ゆらゆらゆらゆら…
「それにしても…助かりました…あなたがいなければこの場はもっとひどい状態になってましたし…」
 アメリアがこちらに微笑む。
 ほとんどの者たちの治療のため、魔道力を酷使していたため、疲れていたのだろう、その言葉には
力がない…
「突然だったからな…にぎやかだった店内で…人が突然苦しみだすんだから……ところで達也…お前
さんは、今の解除方法を何故しっていたのだ?」
「…いやまあ…以前にもこの事件に遭遇したことがあったから…その解除方法をしってたわけで…」
「ふむ…」
 …あいつの料理の解除方法をな…
 ゆらゆらゆらゆら…
「そうなんですか?でも…いつ誰がその魔法薬をばら撒いたんでしょう?この店の料理にでも仕込ま
れたんでしょうか?」
「アメリア。それは違うぞ。もしそうなら、外の者たちまでは被害が及ばないはずだ。それに何より
俺たちもここで食事をしていたんだからな」
「…あ…そうでしたね…」
 ゆらゆらゆらゆら…
 ふっ………あいつが、1時間前に配ってたクッキーが、原因だとは気付かないだろうな…いくらな
んでも…
 それ以前に、あいつの料理がついに…時間差攻撃までするとは…考えも突かなかったぞ…
 ………う〜む…あいつの料理…だんだんとバージョンアップしてるよーな?
 …味もまともになってるし…
 ゆらゆらゆらゆら…
「魔法薬を仕掛けられた方法はわからない…突然、床ではなく天井を歩くようになった人…溶け出す
人…」
「そういえば…腕に鳥の羽が生える人もいましたね…そのまま、どっかに飛んで行っちゃいましたけ
ど…どうします?」
「んなのほっとけ…」
「…いや…達也さん…そうもいかないのでは…」
 ゆらゆらゆらゆら…
「……いや…それよりもだアメリア…それ以前にこっちの方の質問をしたほうがいいんじゃないか?」
 そういってゼルガディスはある方向を指差した。
 ゆらゆらゆらゆら…
「え?ゼルガディスさんも見えるんですか?それ?なんか達也さん。全然気にしてないようでしたの
で、あたしはてっきり幻覚かと思って見て見ぬふりをしていたんですが…」
「いや…はっきりと見えてるが…」
「ん?それ?それって何のことだ?オレにはぜーんぜん!見えないが?」
『………………………………』
「…ぶら〜ん♪ぶら〜ん♪」
 天井からぶら下がって左右にゆれる幻。
『………………………………あの…』
「こんにちわあ♪あたし舞と言いますう〜♪」
「あ〜いかんいかん…なんか変な幻聴まで聞こえる…」
『………………………………いや…幻聴じゃないと思うぞ(思いますけど)…これは…』
 2人が指差すその先には、ロープでぐるぐる巻きにされて宙吊りの舞の姿であった──




**** LINA ****


「しくしくしくしく…」
 達也に置いてきぼりにされただろう、恵美が泣いている。
 大きな街とは裏腹にやけに静かで…人っ子一人の声さえなく、その彼女、恵美の鳴き声だけがこの
場に響き渡っていた。
 いや…よく考えるとまだそれほど遅くない時間であるはずなのに、何故か静か過ぎる。
「…リナ…」
 ふとしたガウリィの一言。
「どしたの?ガウリィ?」
 それと同時にガウリィが腰の剣を鞘から抜き放つ。
「……何?…敵?」
 リナの問いに、彼は一つ首を縦に振り、
「あぁ…多分な…」
 そう答え彼は身構えた。
 ………………無言、静寂…
『………………』
「………………くしゅん!………」
 ………………クシャミがよぎる。ガウリィが見つめる場所とは別方向から。
 慌ててあたしたちはそちらに身構える。
 ……え?
 ……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
…………えっと…………
 そこには…人?がいた…
「…あの…」
「しぃーです。しぃー」
 それは口元に指を一本立ててそう言う。
『………………(汗)』
 ……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
 …再び…無言と静寂…
「…あ…今のくしゃみはは聞かなかったことにしてください…」
 ………………訂正の声がよぎる。
『…おひ…』
『………………』
 ………………三度…無言、静寂…いや…あの…
『………………』
 がさ…
 それが少し体を動かす。
 木の葉が揺れる。
『………………』
「…な…なあ…リナ…木から顔が生えてる生き物っているのか?」
「いないわよ…」
「…いや…でもよ…木から顔が生えてるし…」
 ……………………いや…まあ…そう見えなくはないんだけど……………………………………………
 ……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………………………
 あたしとガウリィが見つめるその先には、一人(一本)の女性。
 ただ、その姿が…
 偽者なのか本物なのか見た目ではわからないが、それほど大きくもないが小さくもない一本の樹木。
 その真ん中あたりに大きな穴があり、その穴から人の顔だけが生えていた。
 完結に言ってしまえば、『顔だけを出した木の着ぐるみを着ている』それだけ。
 顔だけを見ればかわいらしい女の子と印象を受ける。なかなかの…いや…かなりの美少女。
 …しかし…
 「あたしは何処かにゃー?」って言っているかのような、真面目な顔をして木の被り物でその場に
佇んでいるのはある意味不気味このうえない。
「…まほろさん…何やってるんですか…」
 口を開いたのは先ほどまで泣いていたはずの恵美。
「…だから…しぃーですよ…恵美ちゃん…しぃー」
 それに対し声を押し殺して返答する…木?…えっと…彼女?…う〜んと…まほろだっけ?
「知り合い?」
「…あ〜…えっと…はい…」
「…変わった方ですね…」
 珍しいくらいに、ぽか〜んと口をあけ…無言になっていたゼロスもやっとこさで口を開いた。
「…えっと…まほろさんって言うんですけど…」
「恵美ちゃん…だから…しぃーですよ…変装中なんですから…」
「…まほろさん…それ…ばればれだと思うんですけど…」
「…ばればれって…こ…この完璧な変装がですか…」
 完璧かよおい…
「うん…」
「そうなんですか…わたくしもまだまだ修行が足りないということなんですね…」
 木が項垂れる。
「…それ以前の問題…木の被り物はやっぱりだめなんじゃないかなあ〜って…というより仮装では…」
「わかりました。恵美ちゃん気づかせてくださりありがとうございます」
 すると彼女、まほろは一瞬のうちに元気を取り戻し、
「では今度はこの壁の……」
「…まほろさん…もしかして…全然、わかってない?」
 その時、急に視界が急変した──


「やはり来ましたか…」
 最初に声を出したのは、まほろ。しかもいつの間にか被り物脱ぎ捨てている。
 そこは岩肌だけが埋め尽くす、だだっ広い荒野。
 草木も何もない。
『………………………』
 何が合図だったのだろう?
「なに?なに?なに?なに?」
 最初に騒ぎ始めたのは、恵美だった。
「結界?」
「いいえ…これは違いますね…」
 自分自身に説いたあたしのセリフにゼロスが反論する。
「多分、空間転位させられたのでしょう…しかも、この僕に気付かさせずにです…」
「転位ねぇ…んじゃ…ここはどの辺何だ?」
 これはガウリィ。
「僕たちがいた街からはそこそこ離れていますね…言い換えれば、結構暴れても…他の人には気付く
ことのない場所……」
 周りを見渡していたゼロスがある1っ箇所に目が止まり、
「…というべきでしょうか…」
 ニコ目から除かれる瞳。
 全員の目が一つに集中する。
 そこには一人の人間──
 フードのついた上着にホットパンツ。
 フードを目深に被っているため顔と表情は解らない。
 人間ではあるが……が…このいやな感じはいったい?
「誰?」
「私の名はシノブ…あなたがリナ=インバースさんね…」
 その人物の口から紡ぎだされた声は女性だった。
「…そう……だけど…」
 あたしが、警戒しつつそう答える瞬間。
『!!』
 彼女が動いた。
 思わず全員が身構える。
 彼女はかぶっていたフードを脱ぎ、あたしたちへ深々とお辞儀をしてくる。
 あたしたちに動揺が走る。
「迎えにあがりましたわ」
「迎え?」
「はい…」
 彼女がそう答え、笑顔を投げてくる。
 だが、その表情は何かがおかしい…あえて言うなら…ゼロスのような…
 あれ?
 何故かあたしは何かしらの概視感(デジャヴ)を感じる。
 ?
 何だろう?気のせいだろうか…
「あるお方の命により、わたしが迎えにあがったしだいに…」
「あるお方?」
「はい…あなた様にとても会いたがっておられます」
「なにいぃー!」
「えええぇー!」
 彼女の言葉に、同時に声を上げるガウリィとゼロス。
「そのお方、気は正気ですか?!!言っておきます。それだけは止めたほうがいいです。リナさんが
いくとこと絶対トラブルが生じると思いますよ。僕は」
 …おい…ゼロス…
「それでもあのお方の命令です。いやだといっても、無理についてきてもらいます…」
「正気なのかあんた!」
 ガウリィが叫ぶ。
「正気ですわ。あら?…もしかして怒ってます?」
「当たり前だ!」
 ガウリィが怒ってる?
 …と…いうか…
「…もしそんなことをするとしたら…」
 ……………………………………………………………………………………………………………………
「…そんなことをしたら…」
 ……………………………………………………………………………………………………………………
「…リナが暴れて、街中が火の海になっちまうじゃないかー!」
 さっきとまるっきり同じセリフかいっ!!!!!
「は?」
 シノブと名乗った女性は間の抜けた声で返答し、
「まさか…僕と同じで無傷でという条件まで入ってるんじゃないでしょうね…それは…不可能への挑
戦ですよ」
 ガウリィに続けて今度はゼロス。
「は…はあ…」
 その言葉に、困ったような困っていないような顔のシノブに、
「うんうん…確かに…」
 しみじみのガウリィ。
「僕としては止めておいた方が賢明だと思いますよ。僕も滅ぼされかけましたし」
「あの…しかし…ご命令ですから…」
「僕は止めましたよ…その後は知りませんからね…」
「俺はまだ…我慢強いからいいが…」
 ……………………………………………………………………………………………………………………
………ふ…ふっふっふっふっふ…
「あの〜」
「ん?…どうしたのまほろさん?」
 ぼーっとガウリィたちとの会話を聞いてた恵美がまほろに返事をし、
「え〜と…なんか…リナさん…呪文唱えてるんですけど…」
『へ?』
 おもむろに全員がこちらに注目する。
「…偉大なる汝の名に…」
「うどわあああぁぁぁーーーー!リナ!!それ竜破斬じゃないか!!やめてくれーーーー!!!」
「おやおや…」


 ぷすぷすぷすぷす。
「んで…そのお方ってーのは何処のお方なのよ…」
 ガウリィの賢明な説得力により、ちょっとしたお茶目なお仕置き程度で終わらせたあたしは、シノ
ブへと質問を投げる。
「それは申し上げられません」
 煤ごみ2号をよそに、いつでも戦闘態勢でいられるよう注意を払いながら。
「それじゃあ…話になんないわね…その人はあたしに合いたい。だから、迎えをよこした。そこまで
はいいわ。
 でも、その人物は何処の人なのか?誰なのかさえ教えられない…そんなんじゃ…温厚なあたしでも
珍しく怒っちゃうわよ…」
「…温厚って…」
「…珍しくって…」
 うるさい外野!
「さっき、怒りながら呪文唱えてませんでした?竜破斬を?」
「気のせい」
「その後、炎の矢を食らってるんだが…俺…」
 煤ごみ2号が人語を解した。
「それは、乙女のいたずら心?」
「どこが?」
「…なるほど…なるほど…」
 あたしたちの会話に聞き耳を立てているまほろが何かせっせとメモを取っている。
「…こういう状況では乙女のいたずら心が正しい選択と…」
 信じるのかおい…
「リナ=インバースさん…つまり、私と来ていただけないと…」
「…そうよ……まあ…交渉決裂ってところかしら…」
「…そうですか…では…」
 彼女から生まれるすさまじいほどの殺気。
「では?」
「無理にでもついて来ていただきます!!!」
 殺気が一気に膨れだし、ガウリィは剣を構え、
 ところがどっこい──
「──竜破斬」
 開口一番に口火を切ったのはあたしの呪文だった。
 いきなりの大技である。
 そして光の帯が彼女を捉えた瞬間──
 空間がきしんだ悲鳴を上げると同時に
 ヴオォーン!
 爆発と大音響、そして衝撃波と熱風があたしたちを薙ぐ──
 煙と粉塵が辺りを覆い尽くす。
「…す…すごいです…」
「…ふ…ふえ〜…これって…ファーリングに匹敵するかも…」
 ファーリング?
 驚くまほろに、聞きなれぬ言葉を口にした恵美。
 煙があたしたちの視界を少しばかりさえぎる。
「…いきなりだったな…リナ…」
 目を点にし、苦い表情で煤ごみ2号から新化したガウリィが剣を収め言ってくる。
「まあね…ちょっと嫌な予感がしたから…今回は…」
「まあ…確かに俺も嫌な予…」
 きゅうんっ!
「…感…うがっ!」
 彼の右肩を一つの光りが貫いていった。
 戦いは終わった──
 ──いや、はずだった。
 おもむろにあたしの方向へ、倒れ掛かるガウリィ。
「ガウリィ!」
「…くう…は…」
 右肩の痛みをこらえ立ち上がろうとする彼。
 そしてすぐに光りが飛んできたほうへとにらみつける。
 左手ですぐに鞘から剣を抜き構える。
 強烈な爆発により、舞い上がりつづけていた煙が、徐々にではあるが晴れていく。
 ──まさか──でも──
 全員が目を見張る。 ゆっくり薄れ出す煙の中で佇む人影一つ。
 竜破斬をくらって生きてた!
 まだ彼女の全体の姿は見えない。黒色の腰まで伸びる髪。
 格好は格闘家みたいな人たちが着ているそんな格好。
 黒く艶やかな長髪に見事なくらい整った顔立ち。
 身長も女性にしては高いほうか………?
「…………うそ…」
「…………おや?」
 恵美は驚き、ゼロスが不思議そうな表情をする。
 何だろう?
「…今のが竜破斬ですか…期待はずれね…」
 …じょ…冗談ではない!
 中級の魔族ならわかるが、こんな奴、程度に竜破斬が聞かないなんて!
 これじゃあ…シャブラニグドゥの威厳なんてありゃしないじゃない!
 魔王のこんじょーなしいぃぃーーーーーっ!!!
 ほんとに、なんなのよあいつ──っ!
 彼女から突然、膨れ上がる、巨大な瘴気。
「この瘴気は魔族っ!!」
「いや…こいつはちょっと違うぞ…」
「ガウリィ?」
「ほら、リナ…なんて言ったっけ?あれ?魔族と人間がくっついたやつ?」
「へえ…よくわかりましたね…」
 その言葉に意外な感じで感嘆を上げ……
「魔族と人間がって…それ…もしかして?人魔?」
「そうそう♪その秋刀魚!」
 ずざざざざーーーーーーっ!
 て…うつ伏せで地面を滑るシノブ……哀れ…
「…達也さんみたいな方ですね…」
 彼女の姿を見てつぶやくまほろ。
「ガウリィ。秋刀魚はないでしょうが…秋刀魚は…」
「えーー!俺は今、人魔って言ったぞ!」
『言えてない!』
 全員の言葉がハモった──
「はっはっはっはっは…さすがですねぇ♪ガウリィさん♪」
「って!ゼロス!!何がさすがよ!!それより、あんたあいつの正体気付いてたんでしょ?何で教え
てくんないの!」
「そうは言われましてもリナさん──」
「言う、義理はないですし?って言うんじゃないでしょうねぇ…」
「いいえ──僕にも解らなかったんですよ」
 え?解らなかったって…え?え?え?
「信じられます?この僕がですよ…」
「……………………おい…」
 …確かに………信じられないことではある…彼は腐っても魔族…
 …生ゴミは腐るからとはいえ…ゼロスは高位魔族…
 飛んでくる赤い光球。
 やば…
「みんなよけて!」
 あたしの掛け声に、全員がその場を離れ──なに?!
『恵美(ちゃん)!!』
「え?」
 全員じゃない。
 恵美だけが逃げ遅れた。
 かああぁぁーーーっ!!
 光が彼女を包む──
 激しく煙が巻き上がる。
 悲鳴もあげる暇はなかっただろう。
「まず…一人……どうします?まだ続けますか?リナ=インバースさん?このまま続けると更に死人
が出ますが?」
 こいつ!
「どなたが、亡くなったのですか?」
 その声は──煙の先──
 煙が晴れる。
 姿を見せる、少しの誤差もない先ほどの場所で恵美。彼女の前で光の壁を作り出しているまほろが。
 ふう〜…まほろの結界か…
「恵美ちゃんを勝手に殺さないでください…」
「…あら?つまらないわね…」
 まほろの言葉にシノブがそうつぶやく。
「あ…あの…まほろさんありがとうございます…」
「いえ…お怪我はなさそうで、よかったです…さて…」
 お礼を言う恵美の言葉に優しい笑顔のまほろは、シノブへ顔を向けると鋭いまなざしを向け、
「シノブさん。あなたにお聞きします。なぜ?リナさんなんですか?」
 そう言い放った──



**** ZELUGADHISU **** 


『 突然、あたしは左腕を闇からあらわれた手にとらえられた。とてつもなく冷たい手──
  ええーい。自由な右手で慌てて剣を鞘からぬき、振る。
  ざあうん…闇から生まれる腕を難無く切り裂さ──くが腕はすごい速さで再びくっ付いていく。
 「…こ、この…きゃんっ!」
 もう一度、切ろうとした瞬間、突然の電撃を浴びせられ──意識が一瞬途切れかかる。
 力が抜ける。
 そして足がその場で崩れへたりこんだ。だがやつはあたしの腕をまだ放そうとしない。
 ドクンっ
 心臓の鼓動が速くなる。
 それとも…その青い瞳で…その笑顔で…そしていつまでも…いつまでも、その横であたしを支えて
くれる、守ってくれる夢…
 …恋しちゃったのかな?こんなのに…
 そのことに驚きはない…何となく気付いていたから…
 『女の子らしく、恋だってしてみたいし…』
 魔王と戦う前に、ある2人の前で拳を握りしめながら言った言葉。
 脳天気でなかなかのハンサムで…
 クラゲで剣の腕は超一流で…
 どんなときでもあたしを守ってくれて…
 時々、何となく…カンかな?…であたしが思っていることに気付いちゃうし…
 でも、気付かない時もあるし…
 あたしのために怒ってくれて…
 叱ってくれたこともあった…
 初めてあった時は理想の男性像とはかけ離れていたけれど…女の子らしく…あはは…何となくかなっ
てるのかな?
 静かな風が吹き、あたしの髪が流れ、ガウリィの髪と重なり2色の妖精が舞う。
 あたしは自然と目を閉じた。
 唇と唇が重なる。
 そして──』

「………………」
「ねぇ(はあと)ゼルがディスさん。とっても!!素敵なお話でしょ」
 太陽のようにまぶしい、屈託のない笑顔と一緒に、
「とっても」と言う所に力一杯力説する彼女に同意を求められ、俺は思わず返答に困ってしまった。
 …いや…それ以前に空に突き立てるその握り拳はなんなんだ?
「…アメリア…おまえさん…この話を真に受けてるんじゃないだろうな…」
 アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
 それが彼女の正式な名。
 少し大人の階段を上り始めたのだろう。大きな瞳は全然変わっていないが、以前の童顔だった顔が
やや細身がかかり始めている。
 身長もそこはかとなく伸びただろうか…
 以前はおかっぱ頭だったのだが、どういう心境だったのか…あの事件以降、彼女は髪を伸ばしてい
たようだ。
 ここセイルーンの元第一王位継承者、
 そしてこのたび国王に即位することになっているフィリオネル=エル=ディ=セイルーンの二番目
の娘である。
「もちろんですとも!!」
 どおんっ!
 そんな轟音のような音を立てながら、椅子の上に立ち片足でテーブルを踏むアメリア。
 その動作に片下まで伸びた光沢のある黒髪が激しくゆれた。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

 しばし──

「今の…かなり痛かったんだろ?…アメリア?」
「…はい…そのとうりです…」
 ここはセイルーンから北西へ10キロ離れた場所の宿屋にいた。
 よく見かけるような店で、1階では飯屋も経営している。
 俺たちはセイルーンへと向かっている。
 理由は至極簡単。
 ある占い師に予言され、その言葉に従って行動にでただけだ。
 まあ、占いなど信じちゃいなかったが、
 今では何も情報を持っていなかった俺はたまにはそんな運命に付き合うのも一興かと思い立ったわ
けだな。
 昔の俺ならそんなこともしなかっただろうが…
 その占いを持ってきたのがここにいるアメリアだった。
 占いなんぞと最初は思ったりもしたが…
 …ふっ…俺のためにそのことを伝えに来てくれえたアメリアの姿を見ると、悪い気はしないな…
 アメリアと合流した俺たちが、
 最初に向かった場所はセイルーンに程近い過去の伝説にもある有名な者たちが数多く生まれている
国・ゼフィーリア。
 確かあいつがここの生まれだったと聞いたが…
「ここである飯屋にいるある女性に合えとのことだが…」
「そこでウェイトレスのアルバイトをなさっているそうです!」
「………………」
「どうかしましたか?ゼルガディスさん?」
「アメリア…なんなんだ…そのウェイトレスのアルバイトって…」
「え?何かいけません?」
「何故?ウェイトレスに合わなきゃならんのだ…」
「でも占い師さんが彼女に合いなさいと予言してくださったんですよ!それを信じで突き進むのも正
義の印!!」
 思わん、思わん…
「あたしたち。正義の4人組が再び結集するまで正義を貫き通すのです!!」
「………………」
 どっかその明後日方向にでも向かって、燃えまくるアメリア。
「………さて……バカやってないでとっとといくぞ…」
「ああーー!待ってくださいよ!ゼルガディスさーん!!!」
 そして俺たちは占い師が言っていた彼女に合うことになる。
 まるで何もかも分かっているかのようなそんな目をした赤い瞳を持つ…そいつは唐突にこう言い放っ
た。
「ここ最近、数多くの大きな光と闇がセイルーンへと向かってるわ」
「正義と悪ですね!」
「そんなの俺には関係ない…」
「何を言ってるんですか、一緒に旅をしていたころの、あたしたちの熱く燃える正義の心を忘れたん
ですか!!」
 燃えるアメリア。
「…そんなものは最初っから持ち合わせていない…」
「あううぅぅぅぅ…(泣)」
「それよりも俺が聞きたいのはこの体を元に戻す方法だ…」
「この世界にはそんな方法、存在しないわ」
「……………そうか…邪魔したな…」
「…まだ…話は終わってないわよ…」
「…あんたには…だ…俺にとっては話は終わっている…」
「ゼルガディスさん。話ぐらいは聞いていっても…」
「邪魔したな…」
「…待ちなさい…ゼルガディス=グレイワーグ」
「?!…………何者だきさま…」
「いいから座りなさいって?」
「………………なぜ俺の名を知ってる…」
「そんなの誰だって知ってるわ…ね…アメリアさん」
「何?」
「あの…もしかしてあの小説ですか?」
「ま、あたしはそれ以上によく知ってるけどね…あの子の手紙のおかげで…」
『………………???』
「話を続けるわよ…確かにあなたのその姿を元に戻す方法はこの世界にはないわ…けど…それはここ
の世界だけのことかもしれない…」
「どういうことです?」
「………なるほど…異界ならあるかもしれない…か…そいつは考えてもいなかったな…」
「ここ最近、数多くの大きな光と闇がセイルーンへと向かってるわ」
「…ああ…先ほど言っていたことか…その光と闇と言うのは神族と魔族のことだろ?」
「やはり、正義と悪ですね!」
「正義を燃やしているところ悪いが…アメリア…テーブルから降りろ…」
「…ま…この際、彼女は無視して…」
「いいのか…無視して…」
「…光と闇が集うことにより…再び災いが始まるわ…」
「…ほう…それで…その災いを止められるのがこの俺だと言うんじゃないだろうな…」
「その一人よ」
「じゃあ…あたしは?」
「アメリアさんもその一人よ」
「ますます、燃えてきました!」
「…はっ!…ばかばかしい…」
「あなたならそう言うと思ったわ…まあどっちにしてもあなたがその災いにかかわっておいた方が、
今後のためにいいと思うけど…」
「何故だ?」
「光と闇の中に異界から来た者たちがいるから…しかも異界から異界へと簡単に行き来できるらしい
わ…」
「…ほおう…異界を………つまり…そいつから異界へと行く方法を教えてもらう訳だな?」
「まあね…」
「…ふむ…面白そうだ…やってみるのも悪くない…」
「やっと解ってくれたんですね!ゼルガディスさん!さあ、あたしたち2人力をあわせ…」
「…その話から離れてくれ…アメリア…」
「今回の事件はあれの続きみたいなものだから…あなたがたちが、かかわる理由にもなるしね…もち
ろんあの子も…」
「…あれの続き?」
「え?あの子?」
「…いいえこっちの話よ……そうそう…もしセイルーンへ行く気になったのなら…伝言を頼めるかし
ら?
 その子もセイルーンに向かっているはずだから…」
「伝言か?だが、あのセイルーンで一人の人間を見つけるのは…」
「大丈夫、大丈夫…あの子が行く所…常に騒動ありってね?」
「誰かさんみたいなやつだな…」
「まあ…それでも駄目なら伝えなくてもいいわ」
「…あ…ああ…それでかまわないのなら…で…そいつになんと伝える?」
「──全部終わったらとっとと帰って来い──姉より」
「……お…おもいっきしアバウトな伝言だな(汗)…で…その相手は?」
「それはね──」

 その名前を聞いた時ははっきりいって驚いた。
 彼女があいつの姉だったとは…あまり似てないが…
 そういえば、あの時の手紙もまたアバウトな手紙だったな…
 あいつがこの伝言を聞いたらさぞかし取り乱すだろう。
 あのときの手紙のように。
 その姿を思い出し、再び口元がゆるんだ。
「…ああ…なんて素敵なんでしょう…」
 そんなアメリアのセリフに俺は現実に引き戻された。
 先ほど、アメリアが俺に見せていたのはセイルーンで売り出されている『ドラゴンマガジン』で出
版されていたある本。
 あいつがこんなものを書くとは思えんが…
 そこの出版社では俺たち…
 リナ、ガウリィ、アメリア、そして俺…とダークスターとの戦いや、ガーブやフィブリゾの時の戦
いを小説として、連載している。
 それが今回の火種でもあり、原因でもある。
 そして先ほど読んだのは、なんと…リナが眠っているガウリィにキスをするという内容。
 まあ…あのリナにこれだけの積極性があれば、今ごろはもっと言い方向へと向かっているんだろう
が…
 …あの二人に限ってはあまり期待しないほうが得策だろう…
 いつものようにガウリィがボケて、リナがそれに突っ込む…
 …そう考えたら少し笑えた。
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 ………………………………かたんっ…
 そんなおり、彼は静かに立ち上がった──




**** TATUYA ****

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 ………………………………………………………………………………………!?
 ………………………………かたんっ…
 オレは立ち上がった。
「ん?どうした?達也?」
 その行動に、オレが差し出した水に口を付けようとしていた手をふと止めたゼルガディスさんが問
いかける。
「…あ…ああ…ちょっとな…」
「?」
 ここから2キロ…か…まずいな…どんなに早く走っても間に合いそうにねぇ。
 …仕方ねぇ…あれを使うか…あ…でも…これだけの障害物があると…
 そうか…まずは上空に上がれば…
「わりい…お二人さん…オレ、ちょっと用事を思い出した…」
「え?用事?」
 アメリアさんの質問には答えずすたすたと外にでる。
 同時に懐から一枚の札を…いや…他人から見ればトランプにでも見えただろう…取り出しそれを眼
前に構える。
 そして一呼吸置き、指先…に挟んだ呪符に…力を集中させる。
「玄桜(げんおう)に結え告ぐ鼓動を捕らえし風よ──」
 呪符が緑色の光をまとい始める。
「果て無き空を行く者よ──」
 周囲を風が舞いはじめる。
「我を運びて…」
「ちょっと待ってください!」
 どごすっ
 思わず、呪文の詠唱を取りやめる。
「…………………………」
「…大丈夫か…達也…」
「…な…なんとか……っていきなり何をするんですか!アメリアさん!」
「達也さんを止めるためです!」
「止めるためって…そのために天井に上ってとび蹴りを食らわせたのかい!あんたは!」
「その通りです!!」
 …その通りって…断言してるし…
「ちなみに何のために?」
「それは…正義に燃えるこの熱い血潮が叫ぶからです!」
 …あの…
「達也さん。今、あなたが向かおうとしていたその場所!明らかにそこにはあなたの敵が居ますね!」
 ぎくっ…
「…な…何をいきなり…大体…何でそんなことを…」
「正義の勘です!」
「………………………………はい?」
「あたしの中に流れる血が、正義の勘で導き出しました。そうあなたが今行こうとした場所。そこに
は悪が居ます」
 何故か夕日に向かってポーズをとるアメリアさん。
「…いや…えっと…でも…何で止めたのかなあ〜なんて…」
「もちろんあたしも行くからに決まっているじゃないですか!」
「でも…迷惑に…」
「今様…迷惑もかかしもありません…正義のために戦う。そんな達也さんのために一緒に戦うのは正
義の印!」
「…めちゃくちゃ…厄介な相手なんだが…」
「絶対、大丈夫です!私たちが勝ちます!」
「その根拠はなんなんだ…」
「正義は必ず勝つからです!」
 …そりは根拠じゃないぞ…
「…………えっと…」
「正義は必ず勝ちます!」
「……あ…うん…じゃあ…後で来てくれよ…オレは先に行って…」
 再び呪符を構え…
「駄目です!」
 どすっ
「…うげっ………………………」
「…大丈夫か…達也…」
「…し…心配するんなら先に彼女を止めてくだしゃいよおぉ(泣)」
 今。ボクシングで言う反則のレバーに突き刺さったぞ…彼女のコブシが…しかもそれに魔力がこもっ
てたような…
「…うむ…そうか…そういう方法もあったか…」
 …あったか…じゃないって…
「…で…今度は何で止めたわけ?」
「危険な場所に1人で先に行かせるのは断じて正義じゃないからです!」
「とび蹴りや殴ったりするのは正義なのか?」
「とにかく危険ですから私たちも達也さんと一緒に行くのが一番いいんです!」
「…人の話を聞けよ…」
「よろしいですね!それが駄目だと仰るのでしたら…」
「…いや…だから…話を…って…」
「…うんしょ…うんしょ…」
「だああああぁぁぁーー!解った!解った!解ったから!屋根に登るな!!降りてくれぇーー!!」
「説得に応じてくれてうれしいです!」
 …説得かあ…どっちかっつーと…脅しのような気がするん…だ…が…………………………………
「…その前に……そこの影に隠れてるやつ、ちょっと出て来い…」
『…え?』
 オレが顔を向けたその先は一本の街灯──の影──
<ほう……何故わかった…>
 影から声が語りかけてくる。
「いいからとっとと出て来い。こちとら時間が惜しいんだ…」
<ふっふっふっふっ…>
「出てこないつーんなら…」
 右手に魔力光。
 んでもって…
 どぐがああぁぁ!!!
 背後が爆発っ!
 同時に街灯の影からも爆発が起こる。 
「痛い目にあうぞ…」
「…な…な…な…何ですうぅ…いまのお…」
「何故、背後の爆発と同時にあそこが爆発するんだ?」
「なあ〜に、簡単なことさ…あのやろう。影と影の空間をつなげてオレたちの背後を取り、一気に襲
うつもりだったらしくてな。だから背後だけに攻撃を仕掛ければ、威力は空間を渡り街灯に居たほう
にも影響を与えたって訳だ……と…さて、もう一度言うぞ…とっとと出てきな…」
「…くっくっくっくっく…」
 笑い声とともに、
 ずずずずずっ…
 影が激しく揺れだす。そして地面から離れ浮かび上がったかと思えば、徐々に何かの形に整い始め
た。
『なんだ…』
 そして、影は色彩を帯び、人から見れば異形と見れる…
「…犬か…」
「誰が犬だあぁ!!!!!」
 レッサー・デーモン。
 亜魔族であり、それほど上位のものではない。しかし、その強さは、一般人にとっては脅威であり。
かなりの力量を持つ戦士・魔道士でないと、返り討ちにあうのが常だからである。
「…な…何ですか?あれ?レッサーデーモン…ですよね?」
 アメリアさんが疑問の声を投げかけた。
 彼女が驚くのも無理はないのかも知れない。
 そいつは確かにデーモンのように見えたかもしれないが、違うものにも見える。
 特に異すべきはその背に昆虫のような羽根が生えていること。
 しかし…もっともあげなければならないのは…
「ほ〜れ…ほれほれ…ぽち…骨だぞ骨だぞ…」
「だから俺は犬じゃねぇ!!!」
『…達也(さん)…』
「そういってもなあ…オレんとこでは割かしポピュラーな生き物だし、学校でも数匹飼ってるし……
第一…レッサー・デーモンって雑食性のイヌ科…って聞いてるんだが…」
「んなわけあるかあああああぁぁ!!!!!!!」
「どこの世の中にレッサーデーモンを飼うやつがいるんだ…」
「ん〜そういっても学校で飼ってるのは事実だし…」
「調子に乗ってんじゃねぇ!!!!」
 瞬間。
 デーモンの羽が震えた。
「ちれっ!!」
 ゼルガディスさんの合図に全員躊躇もせず、その場からそれぞれ飛びのく。
 ざざあんっ!
 地面が斬り裂かれる。先ほどまでオレ達がいた道に。
「火炎球っ!」
 すかさず、攻撃を開始したのはゼルガディスさんだった。
 爆発と同時に火炎がやつを包み込む。
 あれ?
 しかし、燃える炎は突然、何かに吸い込まれるかのように消えて行き、デーモンは何事もなかった
かのようにその場に佇んでいた。
『なにっ(えっ)!?』
 3人が驚きの声を上げる。
「犬が人の言葉をしゃべってる♪」
「違あああああうううううぅぅぅ!!!!!」
 再び羽が唸り震え、オレに向かって地面が裂かれていく。
「地楯(ダグダグ)」
 オレの<力ある言葉>と同時に4メートル先の地面が膨れ上がり、犬の攻撃を受け止め、
「地弾(ダグフォン)」
 更なる言葉でその楯は砲弾と変わり雨あられとなりやつを襲う。
「がああっ」
 犬が吼え。その周りを薄い光を帯びた膜が覆うと、全ての弾がはじかれる……………………
「青魔烈弾波(ブラム・ブレイザー)…行きます!」
 アメリアさんの言葉で青い光の衝撃波が犬に向かって襲い掛かる。
 しかし──
 光はやつに突き刺さる同時に消え去った。
「くっくっくっくっく…無駄だ…」
 犬はぺろりと下で自分のでかい口をなめると続きを言い放つ。
「このムラン。貴様らで言うザナッファーと同じ魔法壁を持っているのだ…」
『なにいぃっ(ええぇっ)!!』
 3人が驚く。
 その姿ににやりとムランは…
「ムランだと!犬じゃなかったのかっ!お前さんっ!!」
「驚いたのはそっちかああぁぁ!!!!」
 瞬間、オレの足元で嫌な感覚を感じる。すぐさま飛びのいた。
 そしてその場から立ち上がる光の柱。
 光がやむとそこにはぽっかりと地面に穴が開いていた。
 うわあ〜底が見えねぇ。
「…よく、今のを交わしたじゃないか…しかし今…」
「これって…いわゆる落とし穴?」
「んなわけあるかあぁ!!!!」
 再び光の柱が立ち上がる。
 しかし、ほんの少しの動きでオレは交わしていた。
 さらに…さらに…さらに…
「〜♪」
「…こ…こ…こ…この…よけるな!この…」
 何回ぐらいかわしただろうか…鼻歌交じりで楽々よけるオレに、無茶な注文を付けてくる犬♪
「ところで…わんわん♪」
「だあああぁぁ!!!何回言えば…」
「…あっちの方、ほっといていいのかなあ?」
「へ?」
『…今ここに……崩霊裂!』
 ゼルガディスさんとアメリアさん2人の見事なハーモニーが生み出されると、青い火柱がやつの体
を包み込む。
「やりましたね!」
「…いや…そいつはわからん…あいつの言うとおりザナッファーと同じであるのなら…」
 火柱はふっつりと消え去る。
「くっくっくっくっく…無駄だと言っておいたはず…」
「火炎球っ」
 放つオレの魔法が再び襲う。
「…だ…って…どわああっ!!!」
 轟音を上げ、周りが視界を覆う。
 よいしょっと…
「ええ〜ん(泣)どうしましょうゼルガディスさん〜(泣)崩霊裂も利かないのでしたらもう…(泣)」
「ちぃっ…」
 その崩霊裂という物自体もきかなかったあいつの姿にアメリアさんは叫び、ゼルガディスさんが舌
を打つ。
「さあ…そろそろ…」
 火炎球が巻き起こした煙は晴れていき…
「終わりにしようじゃ…」
 ごっ!
 空から降ってきた一つの岩に頭を打ちそいつは沈黙──
「おおう…適当に投げたんだがうまく当たったなあ…」
『へ?』
「…こ…このガキぃ…本気で殺してやる…」
 オレのセリフに涙をためながら捨て台詞を吐き出すが、
「…ほんと…なかなかの魔法壁だな…だけど…今のを何で痛がったんだろうねぇ…」
「…ぎく…」
 オレのセリフでもろに同様を見せた。
「…え?どういうことですか達也さん?」
「ほら…火炎球とかは直撃を受ける前に爆発してただろ…」
『?』
「それって直撃を食らう前に爆発させてたんじゃないかなあって…ね…」
「…ぎくぎく…」
「…うん…後、オレの地弾の攻撃も結界で防いでたしさ…」
「…ぎくぎくぎくぎく…」
『……………あ…』
「…つまり…」
 オレの説明を受けるとゼルガディスさんはすらりと自分の剣を抜き放つと、
「…物理攻撃にはものすごく弱いということか…」
「ぴんぽーん♪」
「ああ!ばれたああああぁぁ!!!!!」
 この後、犬の悲鳴があたりに響き渡ったのは言うまでもない──

『空断壁(エア・ヴァルム)』
 犬の丸焼きはおいしいのか?まずいのか?そんな疑問を横目に、ぷすぷす…と焦げた…いい匂いを
巻き散らす…犬の丸焼き風ぼこぼこアエになったムラン
 その横で重なる2人の声。
 2人の周りを透明な膜が張りちょうどいいボールの形に整った。
 風の結界…か…辞めた方がいいと思うんだが…
「もういっぺん聞くが、ほんとにいいのか?」
「ああ…」
「くどいですよ達也さん!そんなことではいい大人にはなれません!!」
「こんなんでなれるなら…絶対なりたくないな…オレは…」
「…気持ちはわかる…」
「いいか…お2人さん?…もう一度言うが、この魔法はとんでもない反動が来るんだからな…」
「そのくらい解ってます!!」
「やってくれ…」
 2人の表情は至極まじめだった──
 しかたねぇか……
「やるぞ…」
 2人は静かにうなずく。
 呪符に力を集中させる。
「玄桜(げんおう)に結え告ぐ鼓動を捕らえし風よ──
 果て無き空を行く者よ──
 我を運びて風と成し、飛び行く風を音と成し──
 いざ飛びたてん──」
 呪符が緑色の光りに包まれる。
 2人が張った結界が揺れる。
「風桜瞬音(リアム・フォーム)」
 そしてオレたちは音速航行呪文により、さらなる場所へと移行した。
 2人の悲鳴だけをその場に残して──





 
 
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