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【UES】スレイヤーズSTS 〜2回目〜


**** LINA ****

「ええ…実はですね…」
『お待ちなさい!!』
 と言いかけたゼロスの言葉を遮るかのように朗々と響く──
 ………やっぱし出たな………鉄筋コンクリート娘……
「悪があるとこ正義あり!正義があるから世は平和!」
 上を見上げれば、人、3人。眩しく輝く太陽を背に、屋根の上で何ごとか、きゃいきゃいと…その
1人が…叫んでいる。その顔は影がかかって見えないが……あれ?
「…世にある…え〜と…悪を滅するため……ため……えっと……あれ…舞ちゃん…お次は何でしたっ
け?…」
 最初に叫んでいた者ではない者が言った。
「心の闇を懲らすためよ!」
 その問いにはっきり言い放つ彼女の手には何かしらの本。
「…なあ…あれってアメリア…じゃないよなあ…」
「おもいっきし違うわ」
 声も違うし…第一あんな娘が3人もいるとこの世は地獄よ。
「…そして…天に代わってあたひの裁きを受けなさい!」
 ぽひっ!
 最後のきめ台詞を決めた彼女が本を投げ捨てる。
 それがあたしの足下に落ちてくる………その本にはアメリア名言集と表紙には書かれていた…
『………………』
『とおうっ!』
 掛け声一発、3人のうち2人が屋根から飛び降りる。
 その時、あたしは呆れながらこりこりと頭をかき…屋根から飛び降りた彼女たちが空中の3分の1
で1回転し、後は着地へ──そこをすかさず。
「炎の矢」
「火炎球」
 ぎゅおおーん!じゅぐおぉおがびごしゃ!
 どごがぎゃあぁん!
『ぷぴぎぃやあーー!』
 あたしともう一人が放った攻撃魔法を食らい、その人物らは悲鳴を上げ、
 ぺちっ…
 地面と同化──
「…お、おい。リナ。今のはちょっとひどくないか」
 青ざめて言うガウリィ…ちょっとなのか…
「だあってぇ〜こういうシュチエーションに1回だけでも茶々入れてみたかったんだもん…アメリア
じゃあ絶対抗議がかえって来るし…」
「アメリアじゃなくても抗議されるって…」
 そうかなあ?こないと思うけど?
「さすがリナさんですね、容赦がありません」
「…なによ、そのさすがってーのは…」
 あたしはぎろりとゼロスをみすえる。
「…あ…いや…えっと…あの…………それは秘密です(汗)」
「…あれ?そういえばあと1人は…」
「びえええぇぇぇ!!!!高いよ!怖いよ!ひもじいよ!誰か助けて!プリーズ!たっちゃーーーー
ーん!!!!」
 と、屋根に張り付いてピーピー泣いてる変なやつ。
 って…怖いんなら…最初っから上るな……それにひもじいって、何?
「ぴーぴーぴーぴー(泣)」
 …ま…ほっとこう…
「…それに…言っておくけど、あたしは炎の矢しか使ってないわよ…」
「いや…それでも十分ひどいと思うが…」
「えぇーん。いたいーよおおー」
 うわっ!
 …も…もう復活してる…こういうやつって全員、体が丈夫なの?
 もう一人は…
「…ぐぅぐぅぐぅ…」
 寝てるし…
「…よし…ここでもう一度、火の矢でとどめを…」
「…悪人かお前は…」
 ガウリィが突っ込む。
「…お気に入りの洋服がすすだらけ〜」
 なかなか珍しい服…今のをくらってすすだらけ?…普通はボロボロになるだろ…を眺めながら1人
明後日の方をむく彼女。
 年の頃は15、6ぐらいか…あたしと似たような癖を持つ茶毛のショート。なかなかの…いや…か
なりの美少女である。
 …胸は…あ♪?…ほとんどないのは素敵ね♪
 よし。気分がいいから、このぐらいで許してあげよう♪
「…ほお…そうかほうか…まだそんだけの余裕があるなら、もう数発くらっても大丈夫だよなあ…舞…」
 奥の方から一つの男の声が彼女にかけられた。
「…どきしーん…」
 何じゃ、その「どきしーん」ってーのは…
 男…いや…建物の影から一人の少年が現れいでる。
 年の頃は…って言うか…彼女と同じ顔に同じ髪型(髪の色は黒)…結構細身の体格だが…くりそつ
な彼女よりかは背があり、要所要所が鍛えられている節もある。なにより弱々しい雰囲気は感じられ
ない。
 女の子?と疑問に思える程の美少年だったりする…がその鋭い目つきが彼女を睨んでいたりする。
 薄い青色の丈夫そうな布でできたズボンに真っ黒なアンダーシャツ。そしてシャツの上にボタンが
ごじゃごじゃとくっつく、ズボンと同じ布の服を羽織っている。こちらもまた彼女と同じく珍しい服
と言えよう。
  そして……
「………あ…あははははは…た、たっくんじゃない…偶然ねぇ、こんなとこで出会えるなんて……」
「言う事はそれだけか…舞?」
「え?あたしってなんかした?」
「…ふふふふ…あんだけのクッキーをばら撒き、街中をパニックにしておきながら…言うことはそれ
だけか?おい…」
「あ♪もしかして感謝状でももらえるの?」
 ぴきっ
 あ…なんか彼のこめかみにうっすらと…
「…………………………………………そんなに欲しいか?感謝状?」
「うん♪」
「…んじゃ…そういう事で…オレからの感謝状…」
 そういって少年が懐に手を伸ばす。
「わくわくドキドキ…」
「…ぐぅぐぅ…………おろかな…」
 うや?
 取り出したのは一枚の紙…いや…カード?
「愛と尊敬と敬意を表す…」
「…あり…そりって…もしや…呪符…」
 カードが赤い光を帯びはじめ、
「火炎球!!!」
「…きゃー!!それって感謝状なんかじゃなーーーーい!!!!!!!!」
 ぶどおぉぉぉーん!
 少年の笑顔で放った一撃は、彼女を中心に紅蓮の炎と化した。


「…あんた誰…何もんなの…しかも容赦のないその攻撃魔法…」
「リナさんも似たようなことを、よくなさっていると思うのですが、僕は…」
「あたしは悪人にしかやらないからいいの!」
「…そうかあ…」
 ガウリィが首を傾げる。
 少年が作り上げた、人火事も収まりつつあるところで、かすれたような声であたしは彼に問いかけ
ていた。
「…なんで…あたしまで…」
 そういや…なんか、もう一匹も巻き込まれてた様な気もするが…気のせい気のせい…
「ああ〜…いい〜って、いい〜って。こいつ、体が丈夫だし。このぐらいやんないと反省もせず、す
ぐにしょーこりもなく同じことをやらかすからな。まあ…それでも懲りずに、二日ほどで再び同じこ
と繰り返すんだが…」
「つまり…ガウリィみたいな人って、所かしら?よかったわねぇ…ガウリィ。お仲間さんができて…」
「…おい…リナ…どういう意味だ…それは…」
「極上のお褒め言葉。クラゲバージョン(ハート)」
「…おい…」
「脳みそヨーグルトバージョンでも可ね(ハート×2)」
「………………」
 と話がまとまったところで、
「で…もう一度聞くけどあんた何者なの?」
 あたしはその彼を警戒していた。
 その理由は、極微量だったが、彼からは障気を感じていたから…
 ただ、魔族にしてはものすごく低級の部類に当たる障気ではあるけど…そういう低級魔族程度なら
あたしにとってたいしたことはない
 …が、低級魔族はここ聖王都セイルーンの結界に阻まれて入れるはずはないのだから、多分こいつ
は中級、またはそれ以上の魔族なのだろう…
「え?何者って…」
 少年はあたしのセリフに言葉を濁し、人差し指でほっぺた辺りなんぞをぽりぽりかいたりする。
「……あ…そうだ…」
 そう言いながら、ほっぺたをかいていた指を彼は前へ向け…
「それは秘密です…なんて言ってはいけませんよ。それは僕の十八番なんですから」
 …るが、胸をはるゼロスが彼のセリフをさえぎるとともに、
「……えっと……」
 おったてた人差し指をくるくる回し、腕組みして再び何かを考える。
 …こいつ、本気でそうやって誤魔化そうとしたな…
「…う〜んと…あ…そうだ…オレは…」
「ぴーぴーぴーぴーぴーぴー…怖い!高い!助けてて!たっちゃん!!!!!!」
『…………………………』
 あ…まだ…いたんだっけ…あの子…屋根の上に…
「ぴーぴーぴーぴー」
「だあああぁぁぁぁぁ!!!!恵美!!!ぴーぴーぴーぴー!やかましいぞ!」
「え〜ん!あたし高いところだめなんですうぅぅ(泣)」
「怖いんだったら最初っから上るなあぁ!!」
 そのとおり。
「だってええええぇぇぇぇ!!!!!!!早く助けてくださああぁぁぁぁいいいぃぃ!!!!!」
「…つーか…お前さん、空間転移の呪符持ってただろう…それで降りてくりゃあいいだろが…」
「ぴーぴーぴーぴー……ぴぃ…ぴ?…………まもなく午後5時のお知らせを開始します。ぴっぴっぴっ
ぴんっ!」
『…おい…』
「あははは…そっかあぁぁ、なるほどそんな手があったんですよね♪」
 先ほどまで屋根にべったり張り付いていた彼女は、突如すくっと立ち上がり…って高いのだめだっ
たんじゃ…懐からたっちゃんと呼ばれていた彼が取り出した物と似たカードを取り出した。
 そして、ここからは聞こえないが何か呪文のような物を唱え始めると彼女の足元に複雑な光の魔方
陣が出現し、
 しゅいんっ
 消える。
「あ〜怖かった♪」
『うどあっ』
 瞬間、あたしたちの前に忽然と現れる彼女。
「…はあ…お前さん…よくそんなんでトラコンの試験が受かったな…」
「トラコンでも怖いものは怖いです」
 どたばたどたばた…
『踊るな…』
 恵美と呼ばれた彼女。青がほんのり混ざったような腰まである黒の長髪に、透き通った白い肌。彼
やススごみに負けぬその美少女としての容姿。
 そして…ちっ…年の割には胸がありやがる(殺意)
「…と…まあ…今のではっきりしたわね…空間を渡れるんだから…あんたたち…魔族ね…しかも中級
の…」
『はい?何だ(何です)?魔族?はい?』
 2人の声が見事にハモル。
「ごまかすんじゃないの」
「…あの〜お〜…それって…」
 恵美と呼ばれた少女は、手を上げいぶしかげな表情をし、
「…お母さんとかお父さんとか、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかの…」
「それは家族!こいつみたいな解りづらいボケをかますなあ!」
 あたしはガウリィを指さして笑…じゃなかった…叫ぶ。
「なにいぃぃ!!!んなボケをするやつが、この世の中にいたのか!恵美……お袋、雪菜、以外にも!
!!!」
「いや〜それほどでも…」
 …ほめてないって…ガウリィ…
「え?ボケる???????」
 今の彼のセリフで、人差し指を頬にあて首をかしげる恵美。
 女のあたしから見てもそのしぐさはとても可愛く思う……って…冗談で言ってたわけじゃないの?あ
んた?
「…んなことより…魔族なんでしょ…あんた…達也って呼ばれてたっけ?精巧に隠してんのかわざと出
してるのか知んないけど、ほんの少しだけ障気を感じるわよ」
「…ん?障気?」
 ぽんっ
 恵美が手を打つ。
「…あ…それって…」
「ここでまたアホなボケかましたらガウリィ、投げ飛ばすわよ…」
 あたしは恵美の次の言葉をさえぎり、拳を握りしめて言い放つ。もう一方の手ではガウリィの襟首を
つかみ…
「一様、障子とか将棋はボケの部類に入るから口を慎むように…」
「…はう゛…将棋じゃなかったんですかあ〜」
『…………………………………』
「…しくしくしくしく…」
「…何?この子?天然?もしかして?」
「…それ以上のな…」
『…………………………………』
「…変な子…」
「否定はしない…つーか…うちのお袋や妹よりかは、まだ普通に近いほうだと思うが…」
 …普通って…近いって…
「…ところで…リナ…」
 ガウリィが会話に割ってはいる。
「なに?」
「なんで俺が投げられなきゃならないんだあ〜」
「ん?ああ…だって♪この辺、手頃な石がないじゃない♪」
「俺は石並み?」
「うん」
 あたしはくっきり、はっきり、どっしりとガウリィに頷いてやった。
「…しくしく…」
 その場に立ちつくして涙々のガウリィ…すねるなよ…
 まっ、冗談はこの辺にしてっと…
「さあ、きりきり白状してもらいましょうか魔族さん」
「あのお〜リナさん…」
 ゼロスが申し訳なさそうな感じであたしに話してくる。
「何よ!いいところを邪魔しないでよ」
 あたしが向けたその美貌に、一瞬くらっと来たか…別名・怒気のはらんだ顔…ゼロスは1歩後退し、
「…あ…いや…その…ですね…中級以上の魔族のかた達であれば、僕、ほとんど存じているんですが…」
 …だから何よ…
「…この人、僕の存じ上げてるかたの中にはいらっしゃらないんですが…」
 …え゛……
 しばらくの沈黙──
「ずずずずずううぅぅー」
 その間に、ほのぼのとお茶をすするガウリィ。
「ずずずず…結構なお手前で…」
 ガウリィに向かってお辞儀をする…確か舞だっけ?
 やっぱしこの子、早くも復活してるし…このぶんじゃあ、ナーガとためはれるかも…
 正座でお互い向き合って座るガウリィと舞の間に茶釜がチンチンと音を出している。
「…おい…ちょっとまて…舞…どっから出してきたんだ…その茶釜…」
「ふっ…あたしの文字に不可能と言う文字はないのよ」
「頼むから。不可能な事ぐらい作ってくれえ」
「面白いから、いや♪」
「ただ単にあたしが出しただけです」
 まだ、煤ごみがいて、それが二人の会話に割り込む。
「…そう…だったら低級魔族ね。そう決めた。あたしが決めた。今決めた!」
 青春カンバック!
 あたしの指さす方向には、太陽が赤々と燃えながら沈みかける姿は……見えなかった…くそ…沈む方
向は逆だったか…



**** TATUYA ****

 ぷすぷすぷすぷす。
 と煤ごみバージョン、アインからそんな小さな音をバックミュージックを背に、
「そう…だったら低級魔族ね。そう決めた。あたしが決めた。今決めた!」
 そう言い放つリナと呼ばれた彼女はどっか訳のわからん方へ指を差していた。

 …………しばし……………

 くるり──
「…と言うわけだからあんた今から低級魔族に決定。さあ、白状した方が身のためよ」
 指をすっと、オレに向け直し言い切った。
「…いや…決定って…いきなしそう言われても…」
「ふっ…どう、のらりくらりとゼロスのように誤魔化そうとしても、あんたから発しているその障気が
何よりの証拠」
「さあ!いざ、尋常に勝負!さあ!さあ!さあ!さあ!!!」
 腕まくりしながら恵美が言い放つ。
 …恵美…『瘴気』と『勝負』じゃぜんぜん違うぞ…
「…僕ってのらりくらり…してます?」
「絶対してる!」
 おかっぱ兄ちゃんの質問にきっぱり言い放つリナ。
 …う〜む…発してるねぇ……
 ん?…って…ちょっとまてよ……もしかしたら…ごそごそごそごそ…Gジャンのポケットを探り、一
つのカプセルをオレは取り出す。
 大きさはピンポン球程度。
 そん中には人間ともおぼつかない変なちっちえ爺ちゃんが入っている。腕を6本も持つ人間なんてい
やしないだろう?
「もしかして障気ってーのはこいつから出てる気じゃねえのか?」
「…あん…これ?…って……あっホントだこれから感じる…」
 と言いながらリナはいぶかしげな表情。
「…確かに…低級ですね…」
 と……えっと…誰だったかな…おかっぱ頭の兄ちゃんはオレの手元をニコニコしながら見て言う。
 それにしても、常ににこにこ顔でいて疲れないんだろうか…この兄ちゃん…
「へえ〜魔族ってこんな小さいのもいるんだ」
 と興味津々のガウリィ。
「いや…元々は普通の大きさだったんだけど…」
「…元々?…」
 リナがオレの言葉に、ありありと疑問を持つような顔を作る。
 まあ…それが普通の反応だろう…実は、オレの手のひらにあるこのカプセル。
 会社のほうからトラ・コンである社員全てに支給されているアイテムで、簡単に言うと捕獲器みたい
なもんである。
 なんでも捕獲する物体を一度、電子情報として分解し、その情報を圧縮してそのままカプセル内に具
現化させるらしい…そういや、なんかのマンガに似たようなもんがあったような…ほいほいカプセル…
…いや…ポイ捨てカプセルだったかな?
 まあ…とにかく…ちょうどこっちの世界へとやってきた時に、いきなり訳のわからぬ御託を並べて襲っ
てきたやつがいたので…ちょぴーとばかし、ぶん殴り、蹴り飛ばし、軽くぽこぽこにして…このカプセ
ルで捕らえたんだが…どうやら、彼女らが言う魔族というヤツだったらしい。
「…もしかして、それってそん中に取り込む物を小さくしてしまう魔法アイテムとかなにかなんじゃあ…」
「…ん〜…まあ…そう言うようなもんかもしれないな…」
 …魔法じゃなくて、科学だけど…
「…へえ…」
 リナが、物珍しそうに指でカプセルをつんつんと突っつく。
「僕も始めて知りまたね。こういう物があったと言うことを…」
「なんだ…ゼロスも知らなかったんだ…」
 …おかっぱ兄ちゃんがゼロスか…
「…あ…でもさ…その取り込まれたのが、内側から攻撃魔法とかを使って、出ようとかしたりしないの?」
「…へぇ〜…」
 この姉ちゃん…案外鋭いんだな…うちの開発部でも、捕獲器を作り出してから一週間してやっとその
ことに気付いて、慌てて改良を加えたっていう実例があったのに…それとも…向こうとこっちとでは感
性の違いでもあるのかな?
「………………」
「…な、何よ…人の顔をじっと見つめて…」
「…あ…いや…別に…」
 お互いが赤くなりながらそっぽを向く。
「…で、どうなのよ。その辺のとこは…そうじゃなきゃ使えないじゃない…」
「…あ…その心配はないですよ…」
 リナのセリフを遮って口を挟んだのは恵美だった……なんか微妙に機嫌が悪そうに見えるが…
「ん?恵美」
 そして突然、オレの腕を捕まえ抱き、
「…心配ない?…それってどうして?」
「結界を利用していると説明した方が、わかりやすいと思いますが…えっと…リナさんでしたよね?」
「そうよ…」
「たっちゃんはあたしのです」
「はい?」
「冗談は…この辺にして…」
 …いや…恵美…今の…目がマジだったぞ…
「結界を造りだした時、中と外とは違う状態になることは御存知ですか?」
「それって……………中と外では全く異質な物体として存在するとか…時間経過の違いとか…そういう
こと?」
「はい」
 リナの言葉に満足したのか、先ほどの機嫌の悪かった顔とは打って変わってにっこりと恵美が微笑む。
 ………………………………………………………………………………………………
「…達也…恵美ちゃんに見とれてる…」
「やかましいぞ!アイン!火炎球!!!」
 きゅどごーーーん!!!!!
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー…………………………………」
 おーーぉ!飛んでった飛んでった♪
「…で、その捕獲器はリナさんが2つ目に仰った『時間経過の違い』を利用しています…ここまでで何
か気付きません?」
「…ん?気付きません…って言われても…待って………いや…でも………」
 数分間、結界の中いても、外では時間が全然経ってないってことがある…ま…どういう経緯でそんな
風になるのかは複雑なんで説明は省くが…このカプセルはそれを利用していると言うことだ…
「…ねぇ…どうやって時間の流れを止めるのよ…」
 好奇心か恵美に疑問の念を問う。
「…………………………………………それは…」
 にこにこ笑顔の恵美は人差し指をたて、
「たっちゃんどうやってるの?」
『…って…おい…こら…』
「…残念だけど…それは企業秘密!」
 と舞が割りはいりそう答えた…トラコンでもない舞が答えをしってるとも思えないが…
「けち…」
 リナがぷうっとほほを膨らます。
「…っと言うことは解ってくれたようですね。リナさんが考えたとおり…結界の反作用…結界内では時
間が止まるようになっているのです」
 真顔で説明する恵美の表情は、知理的な雰囲気を周りの者たちに感じさせるが…
「ずずずずずずううぅぅ……ほうっ…」
 …座布団を敷いて正座しながらお茶を飲む姿は…なんとも異様な光景である…
「…う〜ん…ホントにそんなことが出来るのかなあ…」
 リナは顎に手をおきながら首をかしげ…
「…って……おおー!それよそれ!!」
 …る、前にめっちゃ明るい声を出しながらカプセルをびしっと指さす。
「…な…なんだ…いきなり…」
「あんた、たしか…達也って言ったっけ?」
「んにゃ…違う…」
「…………………………いや…確か…飛んでったのが達也って呼んでたわよね…」
「ぜんぜん違う!」
「達也よね♪」
「絶対違う!」
『…………………………………………………』
 しばしの、沈黙。
「………うふふふふふふふ…あんたは達也よね(怒)♪」
「ああ!!!はい!そうです!わたくし!達也といいます!!だから!そんな!右手に魔力弾をかざし
て不敵な笑みをしてこないでください!!」
「よろしい…」
 不意に彼女の手の光が消える。
 …だああぁぁぁ…殺されるかと思った…まじで…
 今の殺気は尋常じゃなかったぞ。まるでうちのねーちゃんズ並じゃんか。
「で…達也!」
「…は…はい!」
 がしいぃっ
「…お願いがあるの…」
 リナが、オレの手をつかみ、少し潤みのかかったその綺麗な赤い瞳でオレを見つめてくる。
 …う…いや…いくらオレでも…そんな風に美人に見つめられると…目のやり場に困るんですけど…
 こういっちゃ何だが。オレは美人系統には結構、縁が多かったりする。
 性格とかは別として、お袋や姉、妹に幼馴染。相棒にねーちゃんの親友…などなど…
 ぱっと数えてもただならぬ多さ。
 …というか…うちの美人軍団は…見た目より、強烈な個性があまりにもぶっ飛びすぎて、見た目で
だまされないという、一種のワクチンが出来上がってるのかもしれないが…
 そんな家庭環境に生まれたためリナのような美人を見ても…ふう〜ん…程度の感動でしかない。
 まあそれでも…やはり…男としては、今のリナのような、あんな目で見つめられると少しはたじろ
いで…
「…リナ…何か良からぬ…」
「爆裂陣っ」
 どぐごわああーんっ!!
 全てのセリフを言い終える前にリナの魔法で吹き飛ぶガウリィ。
「…おいおい…」
 こいつもうちのもんと同じ同類か?
「…大丈夫よ…あれをその辺に吹き飛ばしたって、どこからも文句は出ないから!」
 …いや…普通は本人から文句が出ると思うが…って…あれ?ガウリィのヤツ平然として戻ってきた
ぞ…なんて頑丈な…あいつはアンドロイドか?それともサイボーグか?
「…それよりも……達也…」
 優しく静かな声で再びオレの名を呼ぶ彼女。
「…な…何?…」
 再び目も潤み出す。
 ……え〜と……
『…………………………………………………』
 ──沈黙──
「それちょうだい(ハート)」
 どうしゃあっ!
 きゃぴきゃぴぜんとしたその声と、彼女のセリフにオレはその場でずるこけた──




**** LINA ****

 ──沈黙が続く。
「それちょうだい(ハート)」
 どうしゃあっ!
 あたしの誠意ある『ぷりちぃーお願い』モードに、なぜか彼はまともにこけていた…失礼なやつ…
 ころころころころ…
 …おっ…カプセルがあたしの足下に。
「らっきぃ(ハート)ひいろった!もうこれはあたしのもん!超らっきい!!」
 ぴょこぴょこ、ぴょんぴょん、Vサインをしながら跳飛ぶあたし。
「…おい…おい…」
「なによガウリィ。世の中にはその辺に落ちていた物は拾った人のもんになるっていう法律が、びっち
り、ちゃっかり、しっかりと、あるじゃない♪」
「…あったか?そんなの…」
「ガウリィは忘れているだけ」
 はっきり言い放つ。これでガウリィの方は丸め込んだ。
「んなもんあるかあああぁぁぁぁ!!!!」
 あっ達也が復活した。
「ずずずずず…たっちゃん、いいじゃない…カプセルの1個や2個ぐらい」
 と恵美…あんたまだお茶のんでんの…
「だいたい、あのカプセル。そんなに高くないってさっき使った時に言ってたじゃない」
「…いや…まあ…そうだけど…」
 おっいいぞ恵美。もう少しだ。達也を丸め込め!
 フレー!フレー!恵美!
 ガンバレ!ガンバレ!恵美!
 わあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
「扇子をもって何やっとんだ?あんたは?」
「いやあ〜暑くて暑くて♪」
「それに…拾わたならしょうがないよ…リナさんの言うその法律に従わなくっちゃ…」
 …あっ…いや…彼女ってば…あたしの言うでたらめ法律に素直にしたがってるんだけど。ガウリィ
じゃないんだから…そう簡単に納得しなくても…まあ、その方がこっちには都合がいいけど…
「わたしたちはこちらの住人じゃないし、リナさんの方がここの法律をよく御存知でしょうし…」
「……………………ふむ……………なるほど…………あげるのはともかく…落としたという理由なら
誤魔化せる…ってわけか…」
「うん♪」
 恵美が達也に笑顔でうなずく。
「…しょうがねぇか…」
 ため息の彼。
「…もってってよし…」
 よっしゃあ!商談成立!!
 そこらでガッツポーズ。
 …でも…こちらの住人って…どこの場所でも法律っておんなじようなもんだと思うけど?
「それはそれはありがとうございます」
 そう言いながらひょいとあたしの手からカプセルを奪ったのは、ゼロス──
「ちょ、ちょっとゼロス。勝手に人のもん持ってくな!」
 いつの間にかあたしからゼロスは距離を開けていた。その彼にあたしは叫ぶ。
「あんたもある意味では勝手に持っていったようなもんだけど…」
 とジト目で言い放つ達也。
 無視───
「ゼ〜ロ〜ス〜……一体どういうつもりよお〜」
「いや〜はっはっはっは…僕もこれ、欲しくなっちゃいましたもんで…つい…」
「だからって人のもん持ってくのは悪人よ」
 びっとゼロスを指さす。
「…リナ…おまえが言うなよ…」
 ていっ!
 ガウリィに蹴り一発。とりあえず彼は沈黙する。
「…と、とにかく…だいたいあんたがそれを欲しがるってことはまた何かあるんでしょ。例えばその魔
族を捕まえてこいとか言われていたとか…」
「それは…」
「秘密です…なんて言ったら崩霊裂ぶち込むわよ…」
 ゼロスの十八番の前にあたしが静かに言い放つ。
「…リ…リナ…さん…」
 つき立てた人差し指はその場で凍り付き、にこ目のまま頬に汗が流れ、
「…崩霊裂って…いつの間に…覚えたんですか…」
「ついこの間よ。なんなら見せてあげよっか?あたしのアレンジ版で♪」
 口調は軽いがあたしの目は笑っていない。
「…い…いえ…いいです…結構です…ちゃんとお話しします!」
 よろしい…
「いや〜、実はですね。ある人に、あることを頼まれちゃいまして…」
 そんなゼロスの一言に、あたしは下を見ながら頭をかき、
「やっぱし仕事絡みなのかい…」
「ええ…それが中間管理職の辛いところですね…それでですが…実は頼まれた事って言うのが、リナ=
インバースの…つまり、リナさんの捕獲だったりするんですよこれが…」
 ぴしっ!
「…い〜や…ほんとまいっちゃいました僕…はっはっはっはっはっは…」

 ぎぎぃっ、と下を向いていたあたしはゼロスへとむき直した。
「…をい…ゼロス…あんた…今なんて…」
「…リ…リナの捕獲だって…言ってたぞ…」
 ゼロスではなくガウリィがつぶやいてあたしの問いを返した。
「…ええ…そうですよ…」
 あくまでも笑顔のゼロス。
「誰よそんなことを頼んできたのは!」
 ゼロスは指を口元に当て、
「それはもちろん秘密です(ハート)」
 …やっぱし…
「…おい!正気なのかゼロス!」
 ガウリィが叫ぶ。
「おや?ガウリィさん…もしかして怒ってます?」
「当たり前だ!」
 ガウリィが怒ってる?いつもとの穏やかな笑顔とは違って真剣になったその表情。
 …あっ…やだ…そんなガウリィの顔を見てたら、心臓がドキドキしてきちゃったじゃない…


「…あ…リナさん…顔が赤いです…」
「そりゃあ…あんな風に彼氏が自分を守る姿を見れば赤くもなるだろう…」
 ぼっぼっぼっぼっぼふっ!
 …な…な…な…か…彼氏だああ!!!!
 …って…いうか…ま…まあ…夫ではあるんだけど…
「え?そうなんですか?」
「ああぁ…男女のパートナーで恋愛沙汰になるのは物語の定番だろ」
「あ!そうですね………………って…あれ?そうでしたら…………えっと…ぶつぶつ…」
「ん?」
 と…達也の意見にうなずいたとたん、恵美はなにやら考えはじめる。
「…もしそんなことをするとしたら…」
 こちらはこちらで話は続く。
 …どきどきどきどき…更に鼓動が早くなっていくのが解る。
「…そんなことをしたら…」
 ……ガウリィ……
「…リナが暴れて、街中が火の海になっちまうじゃないかー!」
 こけけっ!!
「あっガウリィさんもそう思います…僕なんかその人に…もしかしたら街なんかが消滅すると思います
よって…説明しておいたんですけど…」
「おお〜なるほど。それは言えてる」
 その2人の会話を横目にジト目で達也が、
「あんた今までどういう人生おくってきたんだ?」
「聞かないで!お願い…」
「それにですね…無傷でという条件まで入ってるんですよ…本当に不可能への挑戦ですよね…これって…」
「ゼロス。おまえも苦労してるんだな」
「ガウリィさんでもわかってくれるんですね」
「うんうん…わかるわかる…」
 困ったような困っていないような顔のゼロスに、しみじみのガウリィ。
「あ〜ん〜た〜ら〜あ〜」
「わあああ〜、リ、リナ。何そんなに怒ってんだ」
「あのねぇ、ガウリィ。そんなの怒るの当たり前でしょう…って…………あっそうか…それでカプセル
なのね、ゼロス!」
「へっ?なんでそれでなんだ?」
 相変わらず理解してないガウリィ。
「ぴんぽお〜ん。当たりです。さすがはリナさん」
 そんなもん当たっても嬉しくないやい…
「と、言うわけで…」
 そして突如、殺気ともとれるあの魔族独特の障気がゼロスからあふれ出し、いつもの笑顔で、
「さあ、リナさん。大人しく捕まってもらいましょうか」
 芝居かかったようなセリフを吐き出す。
「冗談。あたしが、はいそうですかって一つ返事で大人しくすると思ってんの」
「思ってませんよ。だから僕、これが欲しくなっちゃったんじゃありませんか」
 カプセルをあたしに見せびらかす。
「…くっ…」
「おおっと、その前に…」
 すらっ!
 ガウリィが剣を鞘から抜き放つと、そのままその剣を肩に乗っけて、あたしの横で立ち構える。
「俺を倒してからにするんだな。何度も言ってるが俺はこいつの保護………あ〜あ〜と間違い…俺はリ
ナの夫だからな!」
「…ガウリィ…」
 こういう時のガウリィって頼もしく見える…けど…今ガウリィが持つその剣ではゼロスを倒せるかど
うかはまた別…切り倒せる倒せない以前に、ゼロスに当てることが出来るかどうかが問題である。腐っ
てもゼロスは高位魔族なのだから。
「…うわああぁー…よくまあ恥ずかしげもなく、んなセリフを言えるもんだな…」
「…格好いい…リナさんがうらやましいです…もし……(小声)」
「は?なんか言ったか?恵美?」
 うっさい、外野!
「…もし、たっちゃんが、ガウリィさんのようなセリフを言ってくれたら、あたしなんてもう…きっと
うっとりと…」
「…お〜い…」
 目をきらきらさせ、両手を神様に祈るような形で組むと、あらぬ方向で突然赤くなる恵美。
「…たっちゃん……恵美…オレは命に代えてもお前を守るからな…そしてたっちゃんはあたしをぎゅっ
と強く抱きしめ…」
「…おお〜い…聞いとるか?恵美?」
「きゃあ〜♪やだやだ♪たっちゃんったら♪こんなところでぇ♪いけないよお♪」
 ばしばしと突然達也の肩をたたく恵美。
 …いや…だからうるさいって…
「もしも〜し…恵美さ〜ん?」
 ばしばしばしばし…
「お〜い…めぐりん?」
「きゃあ(ハート)」
「………またなのかよ……」
 また?
「誰かに見られでもしたらあ〜♪きゃっ♪」
 ──恵美──妄想暴走中──


 身構えるあたしたち。
「安心して下さいガウリィさん。リナさんが寂しくないようにあなたも取り込んであげますから…」
「…なっ……」あたし。
「…………」にこにこゼロス。
「……でも取り込むって?……」?のガウリィ…あんたなあぁぁぁ…
「きゃあっ♪きゃあっ♪きゃあっ♪きゃあっ♪」
 ばしっ、ばしっ、ばしっ、ばしっ、
「…いや…恵美…さっきから痛いんだけど…」
 …こいつら…本当にうるさい…
 だいたいねぇ…あんたらが持ってきたこのカプセルのせいであたしは………ん…………あれ?
 ………そういえば?
「…………」相変わらずにこにこゼロス。
「…………」剣を構えるガウリィ。
「…………」ぶつぶつとあたし。
「…………」ゼロスそのまま。少しほほの辺りに汗が流れる。
「…………」ガウリィもそのまま。
「……なるほど……」あたし。
「…………」ゼロス動かず。なんか汗が多くなったぞ。
「…………」ガウリィも動かず……あ…鼻提灯…
 ごすっ
「目。覚めたガウリィ?」あたし。
「…お…おう…」たんこぶガウリィ♪
「…とろこで……ゼロス…」あたし。
「…さあ…お二人方、さっそくこの中に入っていただきま…」
「どうやって♪」
 ゼロスのセリフを遮ってあたしは一言つぶやいた。
「…………」腰に手をおくあたし。
「…………」固まるゼロス。
「…………」ガウリィ…何も考えてない。
「…ああー!気付かれたあ!!」
 ばかめ、あのカプセルの使い方も聞かずに盗むから…
 ダッシュ!達也へ駆け寄るゼロス。そして──
「達也さん!今からでも遅くはありません。これの使い方を教えて下さい」
 ──泣きつく…おまい…魔族だろ…情けないぞ…
 あたしがつかつかとゼロスへと歩み寄り、
「お願いです。達也さん(泣)」
「いいぜ」
 なにいいいいぃぃぃー!
 ちょ、ちょっと待て!あんたは悪人に力をかすんかい!!
「教えてやってもいいけど…」
「お礼はします!」
 そんな暇与えるわけ…
「…いや…そうじゃなくて…使い方を知ってもそれは使いもんにならんぞ」
『………は………?』
 あたしもゼロスも、かなり間の抜けた声を出し、その場で固まる。
 …使い物にならないって…一体?…
「それ使い捨てなんだ…ようするに、そいつ自体には、収納する物を小さくするエネルギーと、結界を
張るエネルギー、そしてそれを維持するだけのエネルギーが1回分づつしか持ってねえ…だいたいこん
な小さいもんに…ほこほこほこほこ…何回も使える程、エネルギーを蓄えられるわけないだろうが…」
 …あ…確かに…
「じゃ…じゃあ…その力の蓄え方を…」
「ちなみに1度、中に収納しっぱなしにしてれば別の物を収納することは出来ないぞ」
「で、では…まず、取り出し方を…」
「ああ…そんならそのカプセルを壊せ」
「…それでは意味がないじゃないですか!!」
「そんなとこまで面倒見る気ないぞ…オレは…」
「……………………………」
 完全な沈黙のゼロス。
 …なるほど…それでこいつあたしが欲しいって言ってもすぐおれたのね…まっ…それは後で問いつめ
るとして…
 …ま…ず…は…っと…
 ぽんっ!
「…ゼ〜ロ〜ス〜ちゃん(ハート)」
「は、はひっ」
 肩に手をおきながら呼ぶあたしの声に、ゼロスは引きつりながら振り向き──瞬間、
 みしっ!
 あたしの右拳は見事にこいつの顔をとらえてた。


 地面にはいつくばっているゼロスの背にあたしは馬乗りになっている。
 ──さあ〜て…どうしてくれようか…
「リナさん、許して下さい。今のは単なる冗談なんです!」
「うそつけ…」
「…ほ…ほら…僕って…お茶目でプリティがもっとーの魔族ですし…」
 …ふむ…
 ごそっ
 懐からある宝石を出す。
「あの…リナさん…それはいったい何なんでしょうか?」
「つい最近、完成させたばかりの魔力をためることのできるアイテム♪」
「え?」
「これのおかげでタリスマンがなくても発動できる呪文があるのよ」
「え?」
『…目が笑ってない…』
「──悪夢の王の一片よ──」
「そ、それは…まさか…リナさん…でも…タリスマンがないとそれは…」
 ふっふっふっふ…さっき言ったでしょ…この宝石が魔力をためれるって♪
「何の呪文だろ?」
「さあ…でも…少し楽しみなような…」
 と達也&恵美。結構無責任なヤツ…ゼロスも可哀相に…よよよよよ…
 …………………………って…あれ?恵美?いつの間に素に戻ったの?
 呪文の最中、あたしの手にある宝石は赤く光り輝いている。
「──凍える王の一片──」
 手に闇の光が収束し始める。
「わあー神滅斬がしっかり発動しかかってるうぅ!きゃーやめて。それを受けたらいくら僕でも滅んじゃ
いますう〜!!!」
 もとより承知のこと。
「わあああ!…あっ…そうだ…ガウリィさん!お願いです!リナさんを止めて下さい!」
 ガウリィに助けを求めるとは…魔族として嘆かわしいぞゼロス…
「と言われても……俺がリナを止められると思うか?」
「ああぁぁぁぁぁー!そういえばああぁぁぁ!!!」
「さらばだゼロス………………化けるなよ…」
 ガウリィが両手をあわせこっちを向いて拝む。
「南無っ…」
「…知り合ってすぐになくなってしまうとは…おしいことだ…」
 達也と恵美もガウリィのまねをする。
「きゃーやめて下さいリナさん!お願いです!ぷりぃーずううううぅぅぅ!!!」
 だあーめ(ハート)
 後は『力ある言葉』を唱えるだけ。
「ラブナ──」
「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「──ブレ…あ…あん?」
 あたしは達也が叫ぶ一言で思わず呪文を中断してしまった。
 なになになに、なんなのいきなり…
「…た…助かった…」
 ぽつりとほんとに小さい声でゼロス。
「どうしたの?たっちゃん?」
「どうも…静かだと思ったら…舞のやつ逃げやがった!!!」
『はい?』
「…あ…そういえば舞ちゃんがいない…」
 …う〜ん…言われてみると…どこにも…
「くそっ…あのやろう…ついに時間差トリックまで身に着けやがった…」
 …時間差…トリックって言うのそれって…
「ええい!ここまで来て逃がしてなるものか!それにこれ以上被害者を増やすわけにも…すぐに見つけ
ちゃる!!」
 どだだだだだだだ…
 そういって彼は走り去って言った──
『…………………………………………』
 沈黙──
「あ!たっちゃーーーん!!あたしをおいて行かないでーーーー!!!!!」
 と、叫びながら恵美は走り出そうと…
 べちっ
「いちゃい…」
 …して…転んでいた…
 …ほ…本気でわかんないわ…この子達って…

<続き 3回目へ>

 
 
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